新型コロナウイルスの流行により外出自粛が叫ばれる中、人々が集うコンサートや演劇、コミケなど、リアルな表現の場が失われています。エンターテインメントや表現に関わる仕事は今、どのような岐路にあるのでしょうか?

今回お話を伺ったのは「表現の自由を守る会」会長であり、参議院議員も務める山田太郎さん。
日本のオタク文化の守護と、表現の自由の保護に取り組まれている山田さんに、パンデミックによる表現の自由への影響、2020年代の表現の自由の争点について語っていただきました。

山田 太郎(やまだ・たろう)


「表現の自由を守る会」会長。自身もオタクであり、マンガ・アニメ・ゲームなどのオタク文化の守護と表現の自由の保護に取り組む。参議院議員でもあり、憲法21条(表現の自由と通信の秘密)や児童養護などに関わる政策を掲げる。近著に『表現の自由の守り方』等。また、実業家、教育者としても活動している。
また昨今の世界的な新型コロナウイルス感染症の影響から「新型コロナ 政府対策まとめ」サイトを開設。クリエイターやフリーランス支援のため、情報提供を行っている。
https://corona-matome.net/

表現の自由は、コンテンツから社会秩序の問題へ

――山田さんは現在、議員として、また「表現の自由を守る会」会長というお立場から表現の自由の保護に取り組まれています。国内外の表現規制の現状について教えていただけますか?

一口に表現規制といっても、その内容は多岐に渡っています。現在、国内外で取り上げられる表現規制の争点は、大きく3つの軸に分かれているのではないでしょうか。

(1)「コンテンツの表現の自由」
(2)「自主規制の問題」
(3)「通信の自由」

まず、(1)「コンテンツの表現の自由」についてですが、日本ではかつて、「エロ・グロ・暴力」を扱ったマンガ・アニメ・ゲームに対して非常にセンシティブな時期がありました。

しかし現在、こうした「エロ・グロ・暴力」を扱ったコンテンツは、非常に寛容に受け止められるようになり、世界中から好意的に捉えられています。周知の通り、政府も「クールジャパン戦略」と銘打って、マンガ・アニメ・ゲームなどのオタク文化を海外展開やインバウンドに利用していますよね。これは、表現の自由のために声を上げ続けた人々の努力の結果です。

海外でも、近年はコンテンツの表現に関して非常に少しずつ寛容になっています。これは、長年コンテンツの規制を主張してきた国連のメンバーが、世代交代した影響も大きいでしょう。しかしまだ、予断を許さない状況です。

――(2)「自主規制の問題」にはどのような背景があるのでしょうか?

僕たちの生活の一部となっているインターネットの巨大プラットフォーム、『GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの、ITプラットフォーマー4社のことを指す)』が関係しています。

GAFAには、それぞれ独自の自主規制の基準があります。たとえばアマゾンならば、東京都で未成年への販売を禁止された本(不健全図書、成人への販売可)が売られていません。

――厳しいですね。

でもこれは法律ではなくあくまで自主規制なんです。こうした厳しい自主規制の背景にあるのが「クレーマー対策」。昨今は企業のコンプライアンス意識も高まり、なるべくクレームが来ないようにとITプラットフォームの自主規制は毎年強化されています。これは、インターネットを利用し表現活動をする人々の表現の自由に関わってきますよね。

GAFAをはじめとするITプラットフォームの自主規制は、表現の自由という視点において、日本国内はもちろん、世界的な問題となっています。

――「表現の自由を守る会」としては、自主規制問題に対してどのような取り組みをされているのでしょうか?

先ほどもお話ししたように、自主規制というのは民間同士の取り決めなので、法律の出る幕ではないと僕は考えています。そういう意味では、民間団体である「表現の自由を守る会」の出番ですよね。団体の講演やブログで自主規制問題を取り上げ、声を上げていくことを大切にしています。

――(3)「通信の自由」については、今もっとも危機的な状況にあると伺っていますが。

もともと諸外国では近年、フェイクニュースの対策として通信規制の動きが活発でした。特に中国はその動きが顕著で、インターネットのシステムそのものを監視することで、すべての情報をコントロールしています。また、イギリスやドイツをはじめとするヨーロッパ諸国でも、テロとの戦いという文脈から、事実上のブロッキングが進んでいます。

こうした動きを加速させているのが新型コロナウイルスによるパンデミックで、日本でも、これまで度々、フェイクニュースの取り締まりやブロッキングの必要性は議論されてきましたが、現在までは反対の動きが大きかった。

ところが今、パンデミックの状況下で、フェイクニュースを取り締まろうという議論が再び巻き起こっています。フェイクニュースを阻止するために、通信規制やブロッキングが行われることは、通信の秘密が奪われること、すなわち表現の自由の危機になる恐れがある。国内は今、非常に緊張感がある状態ですね。

(1)~(3)についてお話ししてきたように、近年、表現の自由の論点はコンテンツの中身から権利や社会秩序の問題に移っています。より慎重に議論しなくてはいけない、難しい局面に突入したのではないでしょうか。

インタビューを受ける山田太郎氏

“不安”によって規制に動いた時が、表現の自由が失われる時

――コロナショックと通信規制について、もう少し詳しく教えていただけますか?

僕が懸念しているのは、パンデミックの混乱のうちに世論が規制に向かってしまうことなんです。

日本は本来、表現についてはリベラルな考え方が支持されてきました。そのため表現の規制は諸外国に比べて緩やかで、時代や文化に合わせて変化しています。「わいせつ」の捉え方を例にあげても、『全裸監督』で描かれている時代と今とではまったく違っていますよね。

ところが、今はパンデミックという状況下。不安の中にいる人々は、通常なら冷静な判断ができるはずが、フェイクニュースを受け入れやすくなっています。そして、いったんパニックになると、世論は「フェイクニュースを取り締まるべきだ」という方向にまとまりやすい。

人々が不安によって通信の規制に動いたときが、表現の自由が失われる瞬間だと僕は感じています。

娯楽や文化は、国難時に規制を受けてきた歴史がある

――コロナが収束した後、表現の自由にはどのような影響が起きるとお考えですか?

コロナ収束後ーポスト・コロナーの世界は、今まさに2つの道に別れています。このコロナショックをうまく乗り越えられれば「めでたしめでたし」で済むのですが、問題なのはうまく乗り越えられなかったとき。僕はそのときに表現の自由の危機が訪れると考えています。

たとえば、コロナショックにより日本が経済的に不自由になった場合。政府が国民の生活に必要なお金を出していくという、ある種社会主義的な世の中になる可能性があります。そうなれば当然、お金の使い方が統制され、娯楽や文化に当たるエンターテインメントや表現の分野は規制されるかもしれない。事実、娯楽や文化は戦争時にも真っ先に規制されてきました。

――しかし、現状では、文化活動はいずれ復旧すると考えている人が多いのではないでしょうか。

演劇やコンサートなど、コロナの流行によって最初に打撃を受けた表現の分野は今、世界的にも同情が集まっていますよね。しかし、この状況が長期化し、みんなが打撃を受け始めたら、「食べていく方が大切。娯楽・文化なんて言っていられない」という声は必ずあがる。いったんそうなると、表現を支えている部分はすごく脆いと思うんです。

「三密文化」は終わりを告げる?文化の変容を意識する時

――コロナによる自粛が終わった後、人々の価値観は180度変わっているかと思います。コロナ後の世の中で、文化はどのように生き残って行くとお考えですか?

僕は、表現の自由の背景にある文化とは、「人と接するもの」だと思うんです。たとえばコミケでの紙文化や、小劇場で行われる演劇などがそうですよね。しかし、これらの昔ながらの表現の手段がなんらかの方法でデジタルに移行していくかも知れません。

だいたい、日本人は本来「三密」が好きなんですよ。小劇場で見る演劇に代表されるように、狭い場所にひしめき合って楽しむのが、日本人の文化のスタイルなんです。仮にコロナが収束したとしても、今後この「三密文化」を続けていくことは難しくなる。

今のパンデミックという状況に限らず、文化というのは保護しなければ途切れてしまう脆いものです。これまでの「三密文化」を支えていた人たちが、今後も細々と支えていくのか。それとも「過去の文化」とピリオドを打つのか。今はその局面に来ているのでしょう。

無関心でいれば、「社会秩序」の名目で規制が進む

――最後に、2020年以降の表現の自由の争点について教えてください。

ひとつは、香川県が発端となった「ゲーム規制」問題。

今、スマホを含め、ネットやデジタルが子供たちに与える影響は強烈だと言われています。
本来ならば、「ゲームがいけない」ということではなく、その手段となるネットやデジタルとの付き合い方を含めた議論が必要。安易に規制することで、本質を議論する場が奪われてしまうのではないかと懸念しています。

ふたつ目は、「海賊版と著作権」の問題です。僕は、海賊版著作権が今後どんどん強化されていく可能性があると思っています。ネット利用者を過度に萎縮させないためには、「ここまでが良くてここからはいけない」という線引きのバランスが重要になります。慎重な議論が必要になるでしょう。

最後はやはり、「ネットの匿名性」については大きな議題になっていくでしょう。近年、『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』というドラマが流行しましたよね。ドラマのストーリーのように、ネットの誹謗中傷によって命を落とす人が出てきてしまえば、匿名であることの自由や、情報発信の自由をどうすべきかが議論になっていくでしょう。

いずれの問題も、放っておけば「社会秩序を守る」という名目で規制が進みます。繰り返しになりますが、状況に飲まれずに冷静に議論していく必要がありますね。

インタビュー・テキスト:原田さつき/企画:田中祥子・ヒロヤス・カイ/編集:CREATIVE VILLAGE編集部