まことしやかに囁かれる福岡ブラックホール説。転勤で福岡にやってきたサラリーマンが、あまりの住みやすさに福岡を離れたくなくなり、次の転勤を拒否してそのまま定住してしまうことから名づけられたと言われています。

実際、福岡は地元愛が強い地域として知られており、平成30年度市政に関する意識調査では市民100人中98人が「福岡市のことが好き」と回答しているのです。
なぜそこまで福岡市が人を引き付けるのか? 福岡市の魅力はどこにあるのかを、今回福岡市役所で企業誘致を担当している中村大志さんにお伺いしてきました。

中村大志(なかむら・たいし)
福岡市 経済観光文化局 創業・立地推進部 企業誘致係長
福岡市に進出予定の企業や検討中の企業に対する情報提供、および立地交付金制度の紹介やオフィス物件探しサポートなどを行っている。
目星をつけた企業へ自ら電話しアポイントを取り付けるなどその働きは民間企業の営業マン顔負け。公務員らしからぬ公務員として全国各地を飛び回っている。

さまざまなデータから見る福岡市の評価

――市民アンケートをはじめ多くのデータが「福岡市は魅力的な街」であると評しています。中村さんは福岡のどこが魅力だと感じていらっしゃいますか?

「コンパクトシティ」という一言に尽きると思います。適度な距離感の中に主要な交通施設や商業施設が集まり、都心部の回遊性にも優れています。
コンパクトシティ
また、国内でもトップレベルの空港アクセスの良さが都市の魅力に大きく貢献しているのではないでしょうか。
例えば東京の企業様が福岡に拠点を構える場合、出張などで相互の行き来が多くなると思います。福岡は東京への便も多く、何よりも空港が近いため距離を感じさせずに仕事をすることができますからね。
あとは美味しいお店が多いということ、若い女性が多いということ、方言がかわいいということ、家賃が安いということなどなど、挙げればきりがないです(笑)

――人口減少時代において、福岡市は全国でも数少ない人口増加都市なんですよね?

出典:日本の地域別将来人口推計(国立社会保障・人口問題研究所)、福岡市は福岡市独自による推計

そうなんです。実は福岡市の人口は2035年まで増加し続けるという予測があります。政令市の中でもこれだけの増加が見込めるのは福岡市と川崎市くらいしかありません。福岡市は政令市の中では人口増加率No1であり、しかも若年層を中心とした人口転入が目立って多いため、若く勢いのある街というイメージが形成されているんです。

福岡にオフィスを作りたくても作れない!? 驚異の空室率1%台

――次に、福岡へ進出する企業目線でお話をお伺いしたいのですが、そもそも福岡はオフィスの空きが少ないのだとか?

福岡エリアのオフィスビル空室率は2019年3月時点で1.2%というデータがあります。空港が近いためそもそも高層ビルを建てることが出来ないという制約に加え、IT系を中心とした企業様の進出や市内企業様の規模拡張ニーズ等によりオフィス不足が続いている状況です。それに伴い、地価やオフィス賃料も上昇しています。また、オフィス以外にも観光客の増加に対し、ホテルが不足しているとも言われています。いわゆる「成長痛」が福岡を襲っているという感じですね。
天神ビッグバン(後述)や博多コネクティッドなど都市部の再開発が進んでおり今後大型のオフィスビルやホテルが続々誕生する予定ですが、それまでは当分この状況が続くと思われます。

――福岡に進出してくる企業はどのような業種・業態が多いのですか?

圧倒的にクリエイティブ関連の企業様が多いです。平成30年度の「本社機能・成長分野の企業立地実績(福岡市)」によると、立地企業数57社のうち38社がクリエイティブ関連産業です。
この傾向は長い間続いており、常にクリエイティブ関連産業がトップなんです。
もともと福岡市は第3次産業が盛んな街です。市内総生産における第3次産業構成比は91%という他に類を見ない特徴があります。そのため、クリエイティブ関連産業が進出しやすい土壌があるのではないでしょうか。

豊富なクリエイティブ人材が企業を呼び込む

――多くのクリエイティブ関連産業が進出してくると、それだけクリエイティブ人材のニーズも増えますよね?

まさにその通りで、福岡市はクリエイティブ人材が豊富な街としても知られています。その豊富なクリエイティブ人材を求めて多くの企業様が進出してきているんです。福岡には九州大学をはじめとして多くの大学や専門学校があり、IT系を中心として多くのクリエイティブ人材を育てる環境があります。これらの育成機関を合計すると毎年7千人を超えるクリエイティブ人材が生まれているということになり、近年はその中からスタートアップとして活躍する人材が増えてきてますし、企業様にとっても適材適所で人材採用できるというメリットがあるんです。

――福岡市はクリエイティブ人材を育成するための取り組みも行っているとか?

今年に入り、エンジニアフレンドリーシティ福岡と題して「エンジニアが集まる、活躍する、成長する街」をキーコンセプトとした活動を行っています。具体的には、赤煉瓦文化館を改装した「エンジニアカフェ」をオープンし、イベントの開催やコンサルティングなど、これからの社会を支えるエンジニアを官民一体でサポートしています。
また、県外からの人材獲得支援の活動なども行っています。

――人材獲得支援活動についてもう少し詳しく教えてください

首都圏などで活躍しているクリエイティブ人材の福岡市内企業へのUターンやIターン転職活動を応援するプロジェクト「福岡クリエイティブキャンプ」です。福岡市内で働くための求人情報をはじめ、生活環境や福岡で働くメリットなどの情報発信を行っています。
東京でバリバリ働いている即戦力の人材を福岡に呼ぶことで、企業側にも働く側にもメリットがあります。「福岡クリエイティブキャンプ」は2014年から開始してこれまでに80名近いクリエイティブ人材がU・Iターンしてきたという実績があります。

天神が大きく変わる! 天神ビッグバンの概要とは?

――先程オフィス不足のところで話に出た「天神ビッグバン」とは何ですか?

国家戦略特区を活用して規制緩和により民間投資を呼び込み、天神エリアの再開発を行う一大プロジェクトです。

具体的には、これまで67メートルであった高さ制限を115メートルにするなどの規制緩和を行うことで、老朽化したビルの建替えを誘導し、2024年までに30棟のビルの建替えを目指しています。天神ビッグバンによる経済波及効果は毎年8500億円とも言われており、福岡市が今後もさらに大きく成長するために必要不可欠なプロジェクトと位置付けています。既に天神ビジネスセンターや旧大名小学校跡地、福ビル街区などの再開発が着工しており、2021年以降新しい天神の顔が次々と誕生していくことになるでしょう。

まだ公開されていない情報もありますが、それも含めると天神地区がほんとに大きく変わることがイメージできます。私自身も、福岡市の職員という立場ではありますが、天神ビッグバンに関する話を聞くだけでわくわくしちゃうほどです。

――福岡に進出したくてもオフィスが無くて進出できなかった企業にとっては朗報ですね

そうですね。もちろんオフィススペースの確保という点もありますが、「天神ビッグバンにより誕生したスペースに入居」という宣伝効果や付加価値も見込めます。企業様にとっては営業的にも人材確保的にもメリットがあるのではないかと考えています。

住んでわかる福岡市の魅力と外から見た福岡市の魅力

――福岡が可能性にあふれた魅力あふれる都市だということが十分わかりましたが、まだこの場で話に出ていない魅力もありますよね

いっぱいありすぎて何から話していいのかわからないのですが(笑)
まず、福岡に住んでいて感じるのは、多くの人がワークライフバランスを実現しているということです。職住近接当たり前、通勤のストレスも少なく、休日は車で30分も走れば青い海が広がります。

アジアに近いというのも大きな魅力です。東京と上海が同じくらいの距離ですし、釜山は日帰りコースです。これはビジネスにおいても大きなメリットではないでしょうか。
あとは、祭り好きであるということ。博多祇園山笠や博多どんたく、放生会など街を挙げて楽しむ祭りが盛んです。福岡に限らず郷土愛が強い地域には必ず大きな祭りがあると思いますが、まあ福岡の人はほんとに祭りが大好きですね。
そして街のコミュニティの懐が深いということもあるでしょう。よそ者を受け入れる気質があります。もともと異文化に寛容な土地だったからでしょうか、旅行者や移住者をもてなして福岡のファンにするということに長けているように感じます。

他の地域から見ても福岡は魅力的に見えているようです。
東京の人と話すと、いろいろな場面で「福岡」というワードを見かけることが随分と増えたと言っています。人の話題であったり経済の話題であったりと内容はさまざまですが、メディアなどで福岡の特集が組まれることが増えているとおっしゃっています。
また、地方の経済圏でみると、福岡経済圏と他都市の経済圏では人口規模が全く違います。福岡は九州経済圏1470万人の中心です。北海道圏や東北圏よりもはるかに大きいため、規模のメリットが生かせます。

――ありがとうございます! 最後にこの記事を見た方へのメッセージをお願いします

福岡市はものすごいポテンシャルのある街だと思います。なので、何かの分野で勝負したい、自分の可能性を試してみたいという人は福岡を「自分を試し成長させる場」として活用してほしいと思っています。

進出を考えている企業様にとっても、福岡を実証実験のフィールドとして活用する事例が増えています。既に昨年から電動キックボードやアイカサ、メルチャリといった新しいサービスが福岡市を実証実験の場として活用しています。
今後、働く側も企業様側も、福岡を発信地とした新しいビジネスがどんどん花開いていく、そんな可能性に満ち溢れた都市にしていきたいと考えています。

福岡市の紹介


充実した都市機能と豊かな自然がコンパクトに集約された福岡市は、都心部から半径2.5km圏内に、九州一の繁華街や歴史ある神社・仏閣、コンベンションゾーンなどが混在するコントラストのある風景が魅力です。
古来、アジアとの交流をエンジンに発展してきた歴史のもと、現在は、国の「グローバル創業・雇用創出特区」指定、官民協働型スタートアップ施設『Fukuoka Growth Next』の開設などのスタートアップ支援、重要文化財「赤煉瓦文化館」を改装した「エンジニアカフェ」を核としたエンジニア人材の集約にも力を入れており、新しい力が集まってきています。

インタビュー・テキスト:桂 浩一(hk-challenge)/撮影:Ken Hidaka