有機野菜やミールキットなど、安心安全でおいしい食材を宅配するネットスーパー「Oisix」を運営しているオイシックス・ラ・大地株式会社にて、UI/UXデザイナーとして活躍されている福山遊果さん。そして、デジタルソリューションを提供しているTigerspike(タイガースパイク)株式会社にて、大手グローバルクライアントを中心とした数多くのプロジェクトを手がけているUXデザイナーの川合俊輔さん。お二人に、UI/UXデザインの課題や成功のための秘訣、今後の可能性などについて語っていただきました。


福山 遊果(ふくやま・ゆうか) 
オイシックス・ラ・大地株式会社
多摩美術大学情報デザイン学科を卒業し、ソフトウェア会社でのUI/UXデザイナーを経て、2012年よりオイシックス・ラ・大地株式会社に勤務。現在は、WebやアプリサービスのUI/UXデザインを担当。2歳の女の子のママで、子育てと仕事を両立中。


川合 俊輔(かわい・しゅんすけ)
Tigerspike株式会社
大学で人間工学や品質評価を学んだあと、UXデザインに興味を持ち、IT系の事業会社にてB2B、B2Cのモバイルアプリやソフトウェアなどのサービス開発を経験。より高い専門性とグローバルな環境を求めて、2017年にTigerspike東京オフィスにジョイン。大手企業を相手にしたUX戦略およびデザインのコンサルティングに従事し、徹底したユーザーリサーチをもとに、プロダクトのあるべき姿を示すことに取り組んでいる。


UI/UXデザイナーとしての仕事内容は?

――お二人の仕事内容について、教えていただけますか?

福山 今はOisix EC事業部のCX室に在籍しているのですが、この部署のミッションは、「誰もがより良い食生活を楽しめる、感動スーパーを作る」ということ。私は、新しいショッピングの仕方などを実現していくチームにUIデザイナーとして参加していて、チームのみんなで考えた施策を物語にしていくところや画面設計などを担当しています。

川合 Tigerspikeでは、金融機関や保険会社、自動車メーカーなど、日本を代表する大手・グローバル企業の様々なステークホルダーと一緒に仕事をしています。UXデザイナーである私の仕事は、これらの企業の方々とチームを形成してユーザー体験を作り上げていくことです。具体的には、ユーザーリサーチの実施から、その結果を踏まえどんな体験を高めるのか、どこにフォーカスすべきなのかといった機会領域の提案・策定、それを実現するためのアイデアや具体的な方法、提供の仕方を考え落とし込むところまで、ステークホルダーと一緒に取り組んでいます。

ユーザーを理解して良い体験を積み重ねることが大事

――ロイヤリティを高めるために、デザイナーができることは何でしょう?

福山 Oisixの場合、ユーザーヒアリングやカスタマージャーニーを通じてマイナスになっている箇所や、よりユーザーに喜ばれそうなポイント、あるいは逆に、誰も期待していなかった場所などを見つけロイヤリティを高めるポイントを探します。
施策を考えていると打ち手が点になってしまうことが多いので、そこをストーリーにつなげて、最終的にユーザーがどう感じるかをモックなどの成果物にするところをデザイナーが担当しています。あとは、“キレイ”をきちんと伝えることです。Oisixの場合は、食材の「美味しい」が伝わることが第一ですから。

川合 確かにそうですね。ちなみに食品を扱う「Oisix」ならではの、ロイヤリティを高めるコツとかあるのですか?

福山 写真は非常に重要なので、社内に撮影スタジオがあり、そこで料理の撮影もしています。例えば、生で食べられる「かぼっコリー」という小さなカボチャがありますが、ただキレイに撮影しただけでは、その良さはなかなか伝わらないですよね。そこで、食べ方の提案をしたり、食卓の風景みたいなものをユーザーに想像させてあげることを大切にしています。

川合 なるほど。我々の場合は、ユーザーを理解するということを一番大切にしていますね。ロイヤリティを高めるために、ユーザーのインサイトや潜在的なニーズの理解から始めて、それに基づいてクライアントと一緒に進めていくということを意識しています。というのも、ユーザーのことを知らないと周囲の意見や自分の思い込みなど属人的なものに左右されがちなんですよね。

福山 そうそう、よくわかります。

川合 定点的に良い体験は作ることができるかもしれませんが、ロイヤリティを高めることが目標であるのなら、例えば、店舗を見つけて商品を選んで購入するまで、さらに言えば、再度来店してリピート利用するところまでを含んだ一連の流れにおいて「嬉しい」「良かった」という良い体験を積み重ねていくことが重要だと思います。だからこそ、ユーザーの理解から良い体験を考えることが大事だと思っています。

福山 良い体験を積み重ねるということですね?

川合 そうですね。先ほど、マイナス部分を見つけて改善するみたいなお話がありましたが、どこにマイナスがあり、良い体験を提供する機会があるのかということを、まずは把握しないと。単に「ユーザーがきっと喜んでくれるから」というのでは、作り手の思い込みや、企業主体のものになってしまいますよね。ユーザーをきちんと理解した上で、「こういうことをしてもらえると嬉しいよね」という体験を積み重ねることが、UI/UXデザイナーには求められていると考えているので、しっかりユーザーリサーチをしています。

ちなみに福山さんのところでは、ユーザーにとって良い体験を向上し続けるためにしていることはありますか?

福山 「Oisix」はサブスクリプションサービスなので、最初の入り口はなるべく簡単に体験できるようにして、おいしい、楽しいと感じてもらえるようにしています。ただその後、お買い物を10回続けると、慣れが生じて感動はなくなってしまいます。
その中でユーザーの食生活が「Oisix」でどう変化をしているかを見ながら体験を設計しています。
またユーザー像も多様で、今は会員全体の約半数が時短調理を望む子育て中のママたちです。一方で、年配のユーザーも増えてきているため、もう少し野菜メインでいこうとか、ユーザーに合わせて毎回、違う商品やサービスを提供し続けています。

川合 でも、誰に向けてというのがきちんと定義されているから、いいですね。

福山 そこは事業として、毎回決めていますね。私が今担当しているショッピングの案件では、「忙しいけどちゃんと料理を作りたいママ」をターゲットとして定義しています。
忙しい日、簡単に献立が決まり簡単に家族が喜ぶ献立を作れるかを考えて行く中で新サービスや商品が生まれているため、ユーザーにとっては新しい体験が続いていくという感じです。そうしたやり方で、マンネリ化しない食体験を提供することを目指していますね。

チームの熱量を上げていくことが成功には不可欠

――お二人がこれまで仕事をしてきて、「成功した」と思う事例はありますか?

福山 一つは、数年前にクリスマス特集でケーキやチキンを販売していたのですが、PVがなかなか目標数値に達しなかったことがありました。その解決策についてみんなでアイデアを出し合っている時に、サンタさんがピョッと画面に飛び出て「クリスマスケーキ、おいしいよ」と訴求したら、つい可愛くてクリックしてしまうのではないかと思い実践してみたら、反応がすごく良くプラス4000PV上がり、売り上げ共に目標を達成したことがありました。小さな施策ですが多くのユーザーの買い物行動を変えられたのは、自分としては面白かったですね。

もう一つは最近の施策で商品の詳細ページの改善です。ユーザーインタビューから商品の価値が全然伝わっていないことがわかりました。
そこで商品の価値が簡単に伝わるようにビジュアルメインで生産者の思いや調理の仕方、食べ方を一目でわかりやすく伝えるUIを、チームのメンバーと作りました。このページは内部のシステムやオペレーションが複雑でなかなか改善に踏み込めなかったのですが、チームメンバーのモチベーションが高く動けたことがとても良かったです。お客様からも「商品を買った後、調理の仕方がすぐ分かって嬉しい」など嬉しい声をいただいています。

川合 僕の場合は抽象的な話になってしまうのですが、クライアントチームの中には新人の方もいればマネージャーレベルの方や、営業、エンジニアなど立場や役割が違うさまざまな方がいて、プロジェクトスタート時の熱量はあまり高くなかったりします。でも、何度もワークショップを開催したり、トライ&エラーを繰り返していくうちに徐々に熱量が上がってきて、「このサービスをもっと良くしていこう」とか「これを絶対実現させたいから、予算を取りにいく」と、チームのみんなが思ってくれるレベルまで持っていけた時は、ものすごく嬉しいです。自分にとっては「成功した」と感じられる瞬間ですね。なぜなら、そのサービスや体験を育てていくのはクライアントのチームの方々。最終的に我々はいなくなるので、作って終わりではなく、引き継ぐところまで考えて、いかに熱量を上げられるかというところを常に意識しています。だからこそ、それを実現できた時は、自分の価値をクライアントに提供できたと、心から思えるんです。

福山 熱量が上がっていくきっかけって、何かあるのですか?

川合 互いに頼りきらないということですかね。あとは、フラットな関係づくり。意思決定は上席の方がしますが、議論したり、アイデアを出す時は、なるべくフラットな状態にすることを心がけていますね。例えば、ワークショップでは小さい頃のあだ名を名札に書いて付けてもらったり、お菓子を用意することも。「へ~、子ども時代、そんな風に呼ばれていたの」というところからコミュニケーションが始まり、心を開きやすくなりますから。常にみんなのパフォーマンスを最大限高めてもらえるような環境づくりを意識していますね。

福山 なるほど。確かに、チームで現状や目的を共有する雰囲気づくりがきちんとできていなかったため、スムーズに仕事が進まなかったことがありました。
会社のメンバーだと互いに理解しているような気になって甘えてしまうけれど、そうした雰囲気づくりはインハウスでも実践しないといけないですね。

潜在ユーザー、デジタルとリアルの足し算や掛け算が今後のキーワード

――UI/UXデザインの今後の可能性についてどのように思われますか? また、チャレンジしていきたいことはありますか?

福山 一つの体験だけでは終わらなくなっていくと思いますね。同僚が花のデリバリーサービスを利用しているのですが、「最初はものすごく感動したけれど、毎月届くと、感動が薄れてくる」と言っていたのですが、「Oisix」も同じ状況かもしれません。これからは、どのようにサービスとプロダクト、ユーザーの関係性を作っていくかというところが、非常に重要になっていくのではないでしょうか。ユーザーが受け身になりすぎると、単なる作業になってしまいますから。むしろユーザーが主体となれるように、いつも感動したり、楽しいことがある状況をデザイナーが作っていかないと。そんな気持ち良さとか、関係づくりみたいなところを、今後、できたらいいなと思っています。

川合 具体的にはどんなことですか?

福山 娘が最近ドールハウスを購入したのですが、お人形に名前をつけたら一気に親近感が出て物語が進み始めより楽しく遊び始めるという出来事がありました。
例えばユーザーが音楽のプレイリストのようにテーマごとのおいしいものリストを作成できたり、それを公開できてユーザー同士のコミュニティができたりなどサービスとより関係を作っていけるようになると「Oisix」を選ぶ理由や使い心地の良さになるのではないかと思っています。

川合 面白そうですね。私の場合は二つあります。デジタルにはユーザーと様々なコンテキストで接点を持ちやすいというメリットがあります。しかしながらデジタル上の接点だけではUXを高めるためには限界があると考えており、実際の店舗などオフラインも含めた総合的な体験をデザインするような仕事。より大きな価値をユーザーに提供するためには、デジタルとリアルを足し算したり、掛け合わせることが今後は不可欠になっていくと感じています。

福山 店舗にある商品が接点の一つとなってデジタルにつながったり、その逆もあるということですか?

川合 その通りです。そこを考えないと、ツールを単に作るだけになってしまいますから。
二つ目は、UXはあくまでユーザー視点、つまり利用者がメインとなりますが、利用する前の人とか、今は利用していない人々にも良い体験を提供することも考えていく必要があると思っています。「Oisix」を例に挙げて説明すると、複数のサービスを含めた、企業や顧客との関係性みたいなところの設計も重要になっていくのではないでしょうか。すると、サービスのロイヤリティはもちろん、企業のロイヤリティも高まり、新しいサービスにも興味を持ってくれる、サービスを育ててくれるという関係性を顧客と築いていくことができますよね。

これからの時代は、このように企業ロイヤリティを高めるところにも寄与していかなくてはならないし、デジタルの枠を超えて、企業ブランディングに寄っていくこともあるかもしれませんね。実際、その商品を利用していなくても、ロイヤリティを高めていく方法はあるはずですから、潜在的な利用者の観点も考えながら仕事をしていきたいですね。プロダクトを作っていくと、どうしてもユーザー視点が狭まっていく傾向があるので。

福山 私もユーザー像を利用者だけと決めてしまうと、狭い範囲でのサービスになってしまう気がしています。InstagramなどSNSを通して利用者以外の方もOisixやOisixを使っているお客さまを見ているので、そういう方々がどうOisixにロイヤリティを感じてくれるかは考えなければいけませんね。

川合 ユーザー像もそうですが、UXデザイナーが行う設計手法に関しても固定してしまうと見えなくなる部分ってあるな、と思います。私は芝浦工業大学の非常勤講師として、ユーザー体験を通して価値を創出する演習授業をしているのですが、最終的に「昼食」「通学」など体験のテーマだけを決めて、価値を提供する方法は問わず生徒にすべて任せます。すると、建築模型とか空間的な提案が出てくるなど、学生のほうが自分より柔軟性があるんですよね。 “How”の部分に執着してしまうと、本当に提供したい体験が実現できないことがあると、日々気づかされています。

福山 「Oisix」では水野学さんにアートディレクターとして参加していただいているのですが、同じようなことをおっしゃっていました。「仕事の目的は何か、ユーザーは何を求めているのかをちゃんと見て、その答えが紙やデジタルでなくてもいい。もしかしたら、やらなくてもいいということもある」と。会社にいると、パソコンやスマートフォンで何かしなくてはならないと固執して考えてしまいがちです。
デザイナーとして UXで価値を創出するために、“How”の部分をもっと柔軟に考えて、幅広い視点で色々な施策にチャレンジしていきたいです。

――本日はありがとうございました。

インタビュー・テキスト:吉田 薫/撮影:SYN.PRODUCT/企画・編集:市村 武彦(CREATIVE VILLAGE編集部)

会社プロフィール

オイシックス・ラ・大地はこれからも私達はよい食を作る全国の生産者とご家庭の食卓を繋ぎ、より多くの人が幸せな毎日を送れる食の未来をつくります。

https://www.oisixradaichi.co.jp/


Tigerspikeは、デジタル・トランスフォーメーションにおけるグローバル・リーダーカンパニーです。
アップル社と正式なモビリティ・パートナー契約を結ぶ数少ない開発事業者であり、かつ世界でまだ数十社しかないGoogle社の公認開発パートナーです。
イノベーションを誘発させるための洗練されたUX設計アプローチと、モバイル分野における先進的な開発力を用いて、ターゲットユーザーに最適化されたデジタル・プロダクトを、世界11拠点で開発しています。主なクライアントは、Shell/7eleven/Emirates Airline/American Express他、世界の主たる銀行、国連、各国政府などで、日本でもメガバンク、航空会社、自動車メーカーなど、日本を代表する企業のデジタルイノベーション・デジタルストラテジーのサポートを行なっています。

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