丸い窓が、ブロック玩具のように並んだ「中銀カプセルタワービル」。ひとつひとつの部屋がカプセルになっていて、その数は140個。20〜25年ごとに新しいカプセルに交換して、建物を“新陳代謝”していく発想だ。建築家は、黒川紀章さん。日本初のカプセルホテルの設計も手がけている。

しかし残念ながら、1972年に竣工されてから47年間、一度もカプセルは交換されることなく老朽化が進んでしまった。もしかしたら取り壊しが近いかもしれない……。そのため、2014年に任意団体『中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト』が立ち上がった。

解体か、存続か……

瀬戸際にありながら、入居の“順番待ち”をしている人もいるほど人気だ。賃料は7〜8万円だが、売買は直近1カプセル1,000万円ほどで取引されることもあるという。キャンセル待ちの入居希望者も多い。いったいどんなビルなのだろう。ビルのなかを見学させてもらい、プロジェクト代表の前田達之さんにお話を伺った。

宇宙船のなかみたい!遊び心あふれるカプセルルーム

宇宙船のなかみたい!遊び心あふれるカプセルルーム

前田 このビルはそもそも“分譲型のビジネスホテル”のような感じなんです。キッチンも洗濯機置き場もなくて、サービスはコンシェルジュやルームキーパーの方がおこなっていました。部屋の色合いは4色(白、ブルー、オレンジ、ブラック)から選べました。部屋はおよそ4.5畳で、ユニットバス付き。ワンルームマンションと考えるととても狭いですけれど、空間をうまく活用しているのがまた面白いんです。たとえば、壁にそなえつけらえている木製の棚は、奥行きはないけれど荷物はたくさん入ります。

カプセル内の棚
▲棚を引き出すとテーブルになる。

これはヨットのキャビンを作っている会社に発注しました。備え付けのレトロなラジオや、丸型をデザインしたトイレなど、細かいところに遊び心を感じます。宇宙船みたいな感じもしますよね。

カプセル内のユニットバス
▲ユニットバス。狭いが、形が可愛いのであまり窮屈さを感じない。

――入居者がリノベーションすることは可能なんですか?

前田 購入したら好きにしてかまわないですよ。もともとわたしが2010年に購入した最初のカプセルは、かなり内装が荒れていました。エアコンはなくて、真夏はサウナ状態!室外機を置く場所もないので、1部屋につき工事費20万円ほどをかけてリノベーションし、使用できる状態にしてきました。

あとはみなさんそれぞれ自由に改装しています。本当は駄目なのですが窓をつくり変えたり、インテリアに凝っててお洒落な事務所にしたり、和室にしたり……みなさん個性的ですよ。この四角いスペースをキャンバスように感じているのかな。部屋の大きさも丸窓もすべて共通しているので、「同じ空間を自分なりにデザインする」ことでオリジナリティが出しやすいんでしょうね。自己表現のひとつにもなっています。

というのも、入居者はデザイナーや映像関連に関わるクリエイターの方が多いです。みなさんこのビルに住もうと思うくらいだから、個性的で面白い方ばかり。定期的に飲み会をしていて、多い時には10人くらいがこの4.5畳の部屋に集まるんですよ(笑)みんなが長屋のように距離が近いので、交流するのが楽しいですね。

――海外からの人気も高いですね

前田 海外のほうがこの建物を好きな方が多いかもしれませんね。たぶん黒川さんの考えた「カプセルを取り替えて使う」という「メタボリズム(新陳代謝)」(当時60年代に日本で起こった建築運動)の思想がわかりやすく見える形であることで、海外から「すごいね」という評価があるんだなと感じています。残念ながら、カプセルの交換は実現しませんでしたが……。
それでも、今、サステナブル(持続可能)という考えがとても注目されていますし、50年経って時代がぐるっとまわって改めて注目されているのかもしれないですね。それが日本から発信されて世界で評価されているということには、夢があるのかな。

「建築」だけでなく、レトロ好きや、廃墟マニアや、ミニマリズムなどのライフスタイルに興味がある方も集まっています。そんな住人同士が交流したり、リノベーションをして、カプセルの中がどんどん新陳代謝していることは黒川さんも喜んでいるんじゃないかな、という言葉をいただいたこともありましたね。

子どもの頃に憧れ、大人になって“衝動買い”した

中銀カプセルタワービル外観

――前田さんは、このビルのどんなところに惹かれたんですか?

前田 さかのぼると、建物を知ったのは小学生の頃です。たまたま車で通った時に「なんだろう、このブロックみたいな建物!?」とずっと頭の中に引っかかっていました。それが大人になって近くに勤めることになって「あの時見た建物だ!」と興奮です!いつかいつか、その中に入りたいなと思って数十年……やっと2010年に購入して夢がかないました。

実は当時、ビルの取り壊しが決定していたので中を見るのは諦めていたんです。でも近くの電柱に“売りカプセル”の看板があったので「これは!」と思って電話をしての衝動買いでした。

実際に中に入ると、ミニマムな空間やこの丸窓が、やっぱり好きで。しかも集まってくる方達がものすごく個性的でクリエイティブな方が多くて、そういう方を惹き付ける建物だということにさらに興味が膨らみました。

カプセルタワービルの特徴的な丸窓

――特徴的な建物はいろんなところにありますけど、建物好きというわけでは?

前田 そうではないんですよ。でも軍艦島(長崎)や沢田マンション(高知)には行ってみたいですね。香港の重慶大厦(チョンキンマンション)とか、もう無くなってしまったけど九龍城も興味があります。それでもやっぱり中銀カプセルビルに惹かれるのは、子どもの頃に見た「あれはなんだろう!」という印象が強いからかもしれませんね。

――保存プロジェクトを始めたきっかけは?

前田 みんなそれぞれに保存活動をしていたんですけど、名称がないとなかなか広まらないかもねという話になって『再生プロジェクト』と名付けたのが、2014年。実際に所有権を持って守っていこう、というプロジェクトなので、自分たちで保有するカプセルを増やして、リノベーションをしてきました。

今、わたしがオーナーとして持っているカプセルは15あって、自己使用はもちろん、賃貸、見学、物置、ミーティングルームなどに使っています。建物って、人が使わないとどんどん老衰化していくんですよ。だから、使ってもらいたい。マンスリーカプセルみたいに1ヶ月寝泊まりするのもいいし、いろんな方法でこのビルが活かされるといいですね。使ってもらうと、ファンになる方も多いと思いますよ。

――けれども今、ビル解体か、存続かという状況だそうですが、どうなりそうでしょう?

前田 五分五分ですね。保存することを前提にビルを丸ごと購入する企業がいないと、解体するしかなくなってしまいます。今、ちょうど交渉中です。もし保存できたとしても、今とは形が変わるかもしれません。来年見学に行こうかな、と思ったらもう建物がない可能性もありますし、あっても立入禁止かもしれない。なんとか、残したいんですけどね。

どうなる、中銀カプセルタワービル

ビルに惹かれた人たちが、ビルを守ろうとしている。前田さんは「使ってもらうと、ファンになる方も多い」と言ったが、たしかに実際に行ってみると愛着がわいてくる。
狭くて、暑くて、不便で、室内で人とすれ違うのも避けなければいけない。けれどもそこは秘密基地のようで、いるだけでワクワクする。不便さがよけいに好奇心をかりたてる。

ビルから出ると、道路の向かいからはビルを撮影している人たちがちらほらいた。そうか、こういうふうに愛され、ここまで続いてきたんだな、このビルは、と思える光景。夏のうちにはどうなるのかわかる。

見学会などもあるので、興味のある方は訪れてみるとどうだろう。

インタビュー・テキスト:河野 桃子/企画・撮影:ヒロヤス・カイ/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

中銀カプセルタワービルについて

  • 住所:東京都中央区銀座8-16-10
  • アクセス:新橋駅から徒歩約10分

見学ツアーについて

週末に開催。お申し込みはメールにて。
主催:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト

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