ワークスタイルの多様化が進む現代においては、リモートワーク、フレックス制などの働き方を導入する企業が増えてきています。そして、日本政府が掲げる女性の社会進出において鍵を握る可能性がある働き方が「時短勤務制度」です。雇用形態は正社員ながら、フルタイム勤務より労働時間を短くできる制度であり、すでに多くの企業で採用されています。

便利な一方で懸念は基本給の点ではないでしょうか。制度活用を検討中の方も、給与においてはフルタイムとどのくらい差があるのかは気になるはずです。時短勤務を利用する際の注意点を知ったうえで、賢く時短勤務制度を活用しましょう。

時短勤務とは?

時短勤務とは所定労働時間を原則として6時間とする制度です。改正育児・介護休業法では「短時間勤務制度」として規定されています。一般的な会社では、8時間勤務することが労働契約の内容であることが大半です。しかし、育児をしている人の中には8時間勤務することが難しい方も少なくありません。そうした人たちでも働きやすい環境を用意するため、時短勤務が制定された経緯があります。

原則として3歳までの子どもの育児や親の介護が必要な時に、労働者が会社に制度活用の申請が可能です。企業によって制度が多少異なることもありますが、時短勤務制度を設けない場合にはフレックスタイム制や始業・就業時間の調整など何らかの代替措置を講じることが求められます。

フレックスタイム制との違いとは?

短時間勤務制度の代替措置として、採用している企業が多いの制度として「フレックスタイム制度」が挙げられます。フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度です。
(参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説& 導入の手引き- 厚生労働省

たとえば、1ヵ月の総労働時間が160時間と定められている場合、10時間働く日や5時間しか働かない日があっても、清算期間(1ヵ月)で160時間分働くように調整すれば問題がありません。そのため、ワークライフバランスがとりやすい点が特徴です。ただし、フレックスタイム制の細かなルールは、導入する企業が就業規則に記載して定めるため、始業・終業時刻や一日の労働時間を完全に自由に決められない場合もあります。

よく用いられるのは「コアタイム」を定める制度です。たとえば、就業規則で「始業時刻は午前6時から午前10時まで、終業時刻は午後3時から午後7時までの間とする」と定めることで、制度を利用する従業員でも午前10時から午後3時までの間は必ず勤務中となります。この時間が「コアタイム」です。コアタイムを設定することで、企業は従業員に自由な働き方を認めつつも、職場内での連携を保ちやすくしています。

フレックスタイム制と時短勤務の最大の違いは、1日の労働時間が固定されているかどうかです。企業がどちらの制度も導入している場合は、併用できるケースもあるでしょう。自身や家族の状況に合わせて制度を活用できるよう内容をしっかり確認することが大切です。

3人に1人が時短勤務を羨ましい(良かった)と回答

会社の勤務体系による満足度
出典:女性のための転職サイト『女の転職type』の【データで知る「女性と仕事」】の第27回の調査「ワーママってどう?」

世間における時短勤務における考えは、実際のところどうなのでしょうか。正社員で長く働きたい女性のための転職サイト『女の転職type』では【データで知る「女性と仕事」】の第27回の調査(ワーママってどう?)を実施。ワーキングマザー(ワーママ)とそうでない方に、それぞれワーママでよかった(羨ましい)と思うことを回答してもらういました。

1位はいずれも「時短勤務」。実に全体の3人に1人以上が回答しています。その他にも時間に追われるとの回答が多く、育児や介護との両立を踏まえて時短勤務の選択肢を有効活用している、もしくはしたいと考えている方が多いことが伺えます。

すぐ分かる!時短勤務の給料計算方法

勤務時間が短くした場合の最大の焦点は「給料はどうなるのか」でしょう。結論から言うと、「フルタイム勤務の4分の3になり、25%減額」が基本路線となります。

時短勤務による給与減額率は約25%が妥当

時短勤務制度を設けるのが会社の義務であるのに対して、短縮された分の給与を支払う義務はなく、減給になるかどうかの決定権は会社側にあります。ほとんどの会社が短縮された労働時間に応じて減給する傾向にあります。たとえば、所定労働時間が8時間の会社で6時間の時短勤務にシフトすると、労働時間は所定労働時間の4分の3になるので基本給も4分の3になるのが一般的です。つまり、時短勤務による給与減額率は約25%だと想定しておきましょう。
時短勤務の基本給

一方、フレックス制や裁量労働制を採用している会社では、他の社員と同じ仕事量をこなせば、労働時間が短くても給与が減額されないケースもあります。また、仕事の成果に対して報酬が支払われる歩合制でも、労働時間ではなく仕事の出来高に応じて基本給が決まります。そのため、時短勤務制度を利用しても給与が変わらないことがあります。

時短勤務の給料計算方法

時短勤務の給料計算方法については、具体的な条件を想定して計算してみると分かりやすいでしょう。たとえば、Aさんのフルタイムでの労働条件を下記で想定したとしましょう。

【Aさんのフルタイムでの労働条件】

【基本給】30万円
【通常の所定労働時間】1日8時間
【時短勤務時の所定労働時間】1日6時間
【月の出勤日数】20日
【通常の月の所定労働時間】 8時間×20日=160時間
【時短勤務時の月の所定労働時間】 6時間×20日=120時間

上記をもとに「基本給×時短勤務の所定労働時間÷通常の所定労働時間=時短勤務時の月給」の計算式に当てはめます。

【Aさんの時短勤務での月給】

30万円(基本給)×120時間(実労働時間)÷160時間(所定労働時間)=22.5万円

残業代の支払い条件などには注意が必要

時短勤務の場合でも、労働者側から所定外労働の免除を申し出なければ残業をすることもあります。免除を申し出ない場合の残業代について、改正育児・介護休業法が特別な扱いを規定していないので、時短勤務をしている人にも他の人と同様に労働基準法が適用されます。つまり、1日8時間以内、1週間で40時間以内と定められている法定労働時間を超えて勤務すると、割増賃金が支払われることになります。
時短勤務の残業事情

一方で注意すべきは、時短勤務の方が8時間勤務したとしても、通常の給料が支払われるだけで割増賃金は支払われないことです。8時間の法定労働時間を超えて勤務した時のみ割増賃金が支払われるの点には十分に注意してください。

日々の業務が多くて残業を常にする場合、時短勤務制度を利用する意味がないので所定外労働の免除を申し出たほうが良いでしょう。

時短勤務をしているときの賞与はどうなるのか

賞与

基本給と同様に考えると賞与も下がるように思えますが、実際のところはどうなのでしょうか。賞与に関しては会社ごとの規定がかなり異なるので、一概には言えない面が多いですが、給与と同様に減額になるケースが多いと言えます。

時短勤務による影響

一般的に賞与の査定にあたって勤務状況も考慮されるので、査定期間中時短勤務を利用していれば、基本給の減額に応じて賞与も減額されるケースが多いでしょう。

また、賞与の査定期間中育児休暇として休んでいれば、その後、時短勤務で復帰しても賞与をもらえる可能性は低くなることもあります。育児休暇の取得は労働者の権利なのですが、賞与の支給は企業ごとに自由に決められます。査定期間中にまったく働いていない人に賞与を支給しないとしても、不当ではないので注意が必要です。
育休などによる賞与査定への影響

企業によってフルタイムで働く人と変わらない金額の賞与が支給されたり、まったく支給されなかったりと規定の違いによるところが大きいので、就業規則をきちんと確認することが大切です。

時短勤務中に妊娠したらどうなる?出産手当・育休手当の計算方法

1人目の子育て中に2人目を妊娠・出産することは珍しくありません。出産・育児のために会社を休めば出産手当、育休手当が支給されます。それぞれの支給額の計算方法は以下の通りです。

出産手当

出産手当は「支給開始日の以前12カ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30×3分の2」で割り出された額が支給されます。

育休手当

育休手当は、育休に入る前の給料の67%が支給されます。(育休手当開始から180日まで。180日以降は給料の50%で計算)

このように直近の基本給が算定の基礎になっているので、時短勤務によって給料が減っている期間に手当の申請をすると、フルタイムで働いていたときにもらえる手当よりも減額されます。

そのため、時期によっては1人目の育休手当よりも2人目の育休手当のほうが減ってしまう恐れがあるのです。2人目の出産・育児であれば慣れがある分、1人目よりも会社を休む日数が少なく済むかもしれませんが、お財布事情をしっかり把握しておきましょう。

時短勤務をする上での給料・お金に関する注意点

基本給や賞与以外にも、お金に関して注意しておきたいポイントがいくつかあるので紹介します。育児や介護で必要になるお金は多いでしょうから、しっかりと理解しておきたいところです。

年金額が減る可能性がある

給料が減ると、社会保険料の等級・金額も減ってしまい、ひいては将来もらえる年金の金額も下がります。ただし、3歳以下の育児を理由にした時短勤務であれば、一定の条件のもと「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例」を会社経由で提出することで、子どもが3歳になるまでの間等級を下げずに済みます。この場合、子どもが生まれる前の標準月額報酬の維持が可能です。なお、介護を理由にした時短勤務はこの特例を使えません。

就業規則をよく確認する必要がある

時短勤務制度は法律に基づき定められたものですが、企業によっては代替措置を講じているなど独自のルールを設けているケースがあります。企業の方針を知るには就業規則を見ればよいので、時短勤務を申請する前に必ず確認しましょう。具体的には勤務時間や給料の算出方法、手当や賞与はどうなるのかを確認して、就業規則に疑問がある場合には人事部と直接相談してください。

ワークライフバランスを踏まえた選択が重要に

Time is money

【時短勤務 給与 フルタイム 違いのまとめ】

  • 家庭との両立において時短勤務のニーズは多い
  • 時短勤務は労働時間に応じて給与も減額になる
  • 短勤務は家庭環境によっては効率的な働き方

時短勤務になることで、フルタイム時よりも25%ほど給与は減額になるのが一般的です。労働時間における給与なので、働いた分における給与の比率は変わりません。正社員として雇用されつつ、育児や介護などの家庭に割ける時間が増えることが大きなメリットと言えます。さらに雇用形態もそのままであれば、収入面もある程度担保しつつ、家庭との時間に時間を使えます。そのため、時短勤務は給与の減額の部分さえきちんと理解すれば、非常に有効活用できる制度だと言えるでしょう。

ワークライフバランスを踏まえたうえで、特に働く女性(ワーママ)から支持を得ている制度であり、家庭環境を踏まえた働き方の選択肢の1つとして検討することをおすすめします。

下記では、実際に時短勤務を利用したママさんの体験をインタビューしています。

合わせて読みたい