10〜30代を中心に視聴者数が上り調子のAbemaTV。その舞台裏とは!?テレビとの違い、制作舞台裏、未来像について、映像制作に興味のある学生や就活生向けにわかりやすく語っていただくセミナーを2018年10月21日(日)に開催しました。
講師はAbemaTV編成制作本部制作局長・谷口達彦さん。現在のトレンドを創りだしているAbemaTVの企画・制作に込める「熱」を肌で感じられる時間となりました。

AbemaTVとは

10月21日(日)「AbemaTV 制作セミナー」がクリーク・アンド・リバー社にて開催されました。AbemaTVとは約20のチャンネルを24時間無料で見られるインターネットテレビ局です。

企画が立ち上がったのは3年半前。テレビ業界に外資のサブスクリプションサービスが入ってくるという話もあり、「テレビ局はどうすればメディア変化に対応できるか、に対して、テレビ局側の立場に立って、インターネット上にテレビのクオリティを反映できれば、と考えて企画が立ち上がった」そうです。インターネットでは自ら情報やコンテンツをとりにいくサービスも多いですが、信頼性の高いコンテンツを常に提供しているメディアを作れば定期的に見にきてもらえるのでは、という仮説をもとに、24時間編集&配信している世界でもあまりない動画サービスを作ることになりました。

手がけたのは、インターネット広告事業をはじめインターネットメディアも多く手掛ける株式会社サイバーエージェント。「50年に一度のマスメディアを作るチャンスがきた」と取り組み始め、開局まで1年半ほどサービスのアプリケーション開発に時間を費やし、開局直前からコテンツを揃え、2016年春に開局しました。

谷口さんは「使いやすいUI、UXなど、ユーザー体験がしっかりしてないとサービスを二度と見にきてもらえない。それを実現できるのがサイバーエージェント」と言う。インターネットサービスのノウハウと資本があるからこその強みでしょう。

現在、AbemaTVには約20のチャンネルがあります。たとえばAbemaNEWSチャンネルでは、24時間ニュースを届けています。テレビ朝日の報道局が中心となり、全国の豊富な取材ネットワークによって地上波クオリティのニュースをネット上でクリエイティブに表現できるのです。災害が起こった時は、安否確認や状況把握のツールとして利用できる可能性があります。

インターネット番組ならではの『トンガリスト会議』

谷口さんが担当しているのは、AbemaTVのオリジナル番組。ドラマや、ドキュメンタリー、恋愛リアリティーショーなど様々ですが、どれもネットメディアならではという番組作りにこだわっています。

毎週、『トンガリスト会議』というサイバーエージェント社長でAbemaTVの総合プロデューサーも務める藤田晋氏をはじめ、制作プロデューサーが参加し、番組企画の議論とジャッジをする会議が開催されます。 “トンガリスト”とは、文字通り“トンガった”企画を提案する人のこと。しかし大事なのは、“トンガった”というのはただ奇抜であるという意味ではなく、“特定の誰かにとってどうしても見たいもの、話題にしたくなるようなエッジの効いた”企画ということです。

「僕たちは、テレビでは放送できないお色気番組や危険な番組を手がけてたいわけではありません。(若者にとって)強烈に見たいものを作ろう、というテレビと同じ発想です。ただ、電源を入れればすぐに見てもらえるテレビと違い、AbemaTVはアプリをダウンロードしてもらい、自発的に見にきてもらわなければなりません。「AbemaTVは劇場だ」とよく言うのですが、小屋で人知れず素晴らしい公演をしていても誰にも気づかれない。せっかくいいものを作っていても見られなければ仕方ない。だから、番組を企画する時は「話題」から企画し、SNSで論争が沸き起こるように企画を考えたりと、あらゆる手法で見にきてもらえるような仕掛けを考えます。“番組を見てみたら面白い”ことは当たり前なので、“見に来るきっかけが考えられているか”という点を企画をジャッジする際に大事にしています。」

「インターネットメディアのクリエイターには、世の中に対してどういう仕掛けで流行らせていくかという要素が求められていると思います。クリエイティブを軽んじているわけではないですが、極端に言うとテレビが『コンテンツ:宣伝=9:1」だとするなら、AbemaTVは『コンテンツ:宣伝=5:5」でどちらも重要です。」

インターネットメディアで“熱狂”を生むポイント

続いて、谷口さんはAbemaTVのオリジナル番組で“熱狂”を生みやすいポイントを紹介しました。

  • 禁断感
  • リスクテイクできているか
  • リアルタイムで答え合わせしたくなる番組
  • 若者のコミュニティやインターネットの中で起きている現象や潮流

「たとえば『亀田興毅に勝ったら1000万円』『朝青龍を押し出したら1000万円』などは「禁断感」と「リスクテイク」に当たります。出演者は負けたらシャレにならない。制作側も賞金を1000万円以上出費する可能性をリスクとして背負って番組制作をしており、出演者のひりつきなど、みなさんが見たいものに繋がっているかを考えながら企画しました。」

現在、ダウンロード数3400万、ウィークリーアクティブユーザーは650万人と、「マスメディアとしてはまだ規模が小さい」と谷口さん。「僕らはチャンネル枠の増減も自由度が高く、インターネット動画市場はまだ何が正解かわかりません。『これは見たい』と視聴者の方に思っていただけるような話題性のある企画であれば、どんどん挑戦しようという姿勢です」と意欲的にAbemaTVの成長に取り組んでいます。

谷口さん自身も「常に挑戦しています」と楽しそうです。入社当時は社長室の新規事業戦略室勤務で、社長の運転手などもしながら社長の新規事業案を形にしていた谷口さん。その後「Ameba」の宣伝担当や株式会社アメスタを設立、代表取締役社長を務めた後、AbemaTVに配属になりました。

「今後、人生のほぼ大半を費やすことになる『仕事』は楽しい。今日はみなさんにそれだけは持って帰ってもらえたらと思っています。AbemaTVは世の中を大きく動かすと信じている。仕事を通して“熱狂”しています!」

他のマスメディアとの違い

テレビと比較されることの多いAbemaTVですが、「番組の作り方はそれほど変わりませんが、番組の視聴ターゲットが違うことが大きい」と谷口さん。テレビは限られた編成枠の中で番組を放送しており、マス向けに番組をつくっていますが、インターネットテレビ局では数多くのチャンネルから視聴者が見たい番組を選択できます。また、若者のテレビ離れもあり40代以上をターゲットにした番組も多いですが、AbemaTVは10〜30代がメインの視聴者です。そのため、ピンポイントのターゲットを意識した番組を作ることも可能だという強みがあります。

また、2018年4月に放送したオリジナルドラマ『会社は学校じゃねぇんだよ』を例にインターネットテレビ局ならではの企画の考え方を紹介しました。「ネットではリアリティーのあるワクワクする企画性が求められていると思います。『会社は学校じゃねぇんだよ』でも、日本のテレビドラマで描かれていたベンチャー企業の社長というのは、起業してすぐに大儲けしたようなわかりやすい話になりがちですが、本当のネットベンチャーの社長というのは、全然そんなことはなく、会社に寝泊まりしながらなかなか給料が上がらない起業家も多くいて。そういう若者のリアルを描いたドラマの方がAbemaTVに向いていると考えています。」

とはいえ、企画をブラッシュアップしていく過程で中庸なものにならないように、いくつかのチェック項目を設けて企画がブレていないかを確認していきます。「トンガリストは一発で決まるけれど、成立させていく過程で“関所”という企画のブラッシュアップ会議を経て番組が出来上がります。番組をブレイクさせるために、僕らや宣伝の責任者、編成の責任者が集まって企画を仕上げていきます」と制作フローを説明しました。

メディアとしての未来

AbemaTVは現在、「マスメディアになる」という目標を掲げています。「インターネット動画市場は、発展途上です。新しいマスメディアになるための挑戦権を得たくらいの規模や状況にはなったかと思いますが、引き続き開拓者精神を持って市場を切り開いていくという気持ちでいます。」

とはいえAmazonやNetflixは競合にならないかとの声もあります。それに対して谷口さんは「市場が伸びている今は競合はいないと考えています」と明言します。「テレビやNetflixやAmazonなど、どれか一つしか見ないということはありませんし、実際それぞれのサービスで当たるコンテンツも違う。競合は何かと言い始めたら、 “恋人とのLINE”だってそう。自分の空き時間、スマホを使っている時間に手癖のようにAbemaTVをつい立ち上げてしまうという状態を目指しているので、空き時間に充てることができるサービスすべてが競合であり、その点で特定の競合はいないですね。」

最後に、これから就活する君たちに言いたい

「優秀な映像クリエイターになりたい人は、ぜひインターネットにも目を向けてほしい」と言う谷口さん。これから就活するセミナー参加者に向け、「仕事は面白い」「成長産業でチャレンジしてほしい」ということを熱く訴えます。

「仕事を始めたら大半の時間を仕事に使うので、できるだけ仕事に熱狂できる職種や企業、環境を見つけてほしいです。高い目標を決めて、難易度を乗り越えて達成できることが増えていくことはやりがいにつながります。ハードルを乗り越えた人にしか見ることができない景色があるので、その憂鬱さも含めて仕事の楽しさにつながります。ぜひ仕事に熱狂してください。また、成長産業は今後どうなるかわからないというおもしろさがあり、自分の介在価値も大きく刺激的です。ぜひ成長産業でチャレンジしてみてほしいです。“不可能がスタートライン”。チャレンジする時や難易度の高い仕事に挑む時、僕はいつも自分にそう言い聞かせています。」

最後に、これから求められる3つの資質を教えてくれました。

1:変化対応力

「今後求められるのは“変化対応力”。世の中の変化に敏感になりスピード感をもって対応していけることは強みになります。僕もこれまでの経験で得たものだけで今後の仕事を突破しようとしたら使い物にならない。今ある状況を自分でも疑いながら、新しい状況に絶えず対応していかなきゃいけないというのは、すごく重要な考え方だと思っています。」

 2:プラスαのアレンジ力

「例えば、ホッチキス止めした資料を何部も用意するような、一見誰がやっても変わらなさそうな仕事は多くあります。けれどもそこに、どうすれば見やすくなるかなどの自分なりの工夫をプラスαして、自分をプロデュースしていくとチャンスが来ます。どんな仕事も自分なりにこだわりを持ってやっていくと、すぐ他の大きな仕事を任されるようになります」

3:想像力

「たとえば恋する相手には「このLINEでいいのかな」「文字数多くないかな」「こんなことしたら嫌われないかな」と考えると思いますが、仕事相手においても似たようなウェットな要素があります。人に対する想像力を磨けば磨くほど繊細で大胆な仕事ができるようになる。できるだけ想像力を育めるように、心が強く動くようなことに時間を割くことがいいと思います。」

ここ20〜30年でずいぶん成長したネット産業ですが、まだリスクより期待値の方が大きい成長産業。だからこそ、ぜひ優秀な若者に目指して欲しい業界だと言います。そうやって強くお勧めできるのは、谷口さんが心からその成長を楽しんでいるからなのでしょう。現場で“熱狂”している谷口さんだからこその、熱いお話を伺うことができました。

テキスト:河野 桃子/撮影:CREATIVE VILLAGE編集部