『Fate/Grand Order』の概念礼装などで美麗イラストを制作している人気イラストレーター・riokaさん。東京・中央線を舞台としたオリジナル作品集『中央線沿線少女』も好評を博し、その人気は留まることを知りません。8月10日から3日間開催されるコミックマーケット94(通称、C94)では、自身初の壁サークルでの参加が決まり、オリジナル作品の総集編をはじめ、準備を着々と進めているといいます。そこで今回は、riokaさんがフリーランサーへ転向した経緯と、現在の仕事観についてお伺いしました。

rioka(りおか)
美術大学卒業後、ゲーム開発会社にデザイナーとして数年勤務。
現在はフリーランスのイラストレーターとして、グラフィック素材、デザイン、イラストなどを描く傍ら、個人サークル「サザンブルースカイ」としてコミックマーケット、コミティアなどの同人即売会にも積極的に参加している。
代表的なタイトルは、『Fate/Grand Order』(TYPE-MOON/FGO PROJECT)、『WIXOSS』(タカラトミー)、など。
C94では、8月12日(日)西1ホールれ60bに配置。

ゲーム会社勤務からフリーランスへ

――riokaさんがイラストを描くようになったきっかけは何だったのでしょうか。

物心ついた頃からすでにイラストを自然に描いていました。子供の時は人と交流するのがちょっと苦手で、いつも一人で黙々と絵を描いて過ごしていた記憶があります。ただ、最初からこうしてイラストレーターになろうと決めていたわけではなく、絵を描く仕事としては漫画家やゲームのキャラクターデザインをイメージしていました。

――子供の頃に触れたコンテンツで、特に印象に残っている作品を教えてください。

ゲームで一番心に残っているのは『FINAL FANTASY VII』ですね。漫画はCLAMP先生作品を夢中になって読んでいました。アニメも大好きで、いわゆる『エヴァンゲリオン』世代の末期に当たります。実は貞本義行先生が美大出身と知って、私も美大への進学を決めました。

――イラストレーターを本格的に目指そうと決めたのはいつ頃でしたか。

同人誌『彷徨える黒猫と白い虎』

学生の時は、作品を通じた自己主張よりも描くこと自体への欲求に傾いていて、大学の課題制作の傍ら、イラストを描いては投稿する毎日でした。ただ最近は、漫画に力を入れていきたいという気持ちが大きくなってきています。同人活動を通じて、伝えたいものがやっと見えてきたというか。

――なるほど。美大卒業後は企業へ就職されたのでしょうか。

はい、ゲーム会社に3年ほど勤務していました。その間も同人活動はずっと続けていて、コミティア(※1)はここ10年以上一回も休まずに出展しています。

(※1)コミティア:年4回、東京ビックサイトで開催されるオリジナル作品限定の同人誌即売会のこと

――コミティアはriokaさんにとってのライフワークとして位置付けられている、と。

そうですね。新刊を出せなかったこともありますが、出版業界、ゲーム業界の人たちへのアピールにも繋がりますし、遠方のファンの方にお会いできる機会でもあるので、毎回いつも大きな収穫があります。

――その後、フリーランスに転向されましたが、そのきっかけを教えてください。

ゲーム業界にも景気の浮き沈みがあって、上がり調子の時は色々な制作に関わるチャンスも多いのですが、数年前のコンシューマーゲームの苦戦が続いた時期はイラストレーターとして経験を積めるような仕事がなかなか回ってこなくて、キャリアの行き詰まりを感じるようになっていました。もちろん、仕事が全くなかったわけではなかったのですが、「本当にこのままで良いのだろうか」という焦りが生まれるようになっていました。

それで次第に転職を考えるようになり、まずは個人で仕事を請けつつ、のんびり転職先を探すつもりだったんです。ところが、退職してすぐ、ゲーム中のアイテムのイラストを描いてほしいと制作会社からご連絡をいただいて。

詳しく伺うと、折しもソーシャルゲーム市場が急拡大したことで、2D系のゲーム素材への需要が爆発的に高まっているということでした。特に、アイテムや武器のイラストは大量に必要で、サクサクと量産できるイラストレーターに任せたいというご希望がありました。

ゲーム素材はそれまで仕事でいくつも作ってきましたし、1ヶ月で100点制作したこともありましたから、フリーランスとしてやっていくのに不安を抱えつつも、次々とご依頼をいただけるようになりました。本当にタイミングが良かったのだと思います。

――制作のスピードは常に意識していらっしゃるのですか。

自分ではほとんどスピードを意識することはありませんが、おそらく悩んだり考えたりする時間が他の人よりやや短いかもしれません。キャラクターの設定や背景の説明を読んで、そこから1時間くらいでラフが完成します。

――それは早いですね! それだけアイディアの引き出しが多いということだと思いますが、着想はどのようなところから得ているのでしょう。

コミックマーケット87(2014年12月 )領布より

子供の頃から騎士風の少女や剣、杖、盾などゲームによく出てくる要素はとても馴染みがあり、加えて美術資料で実際の甲冑のデザインを学ぶようにもしていて、ファンタジックなデザインと実際のデザインのバランスを意識しています。

ただ、実物に忠実に描けば良いというものでもなくて、いわば、“スカートを履いてもおかしくない甲冑”がゲームには必要で、そこはキャラクターの魅力、可愛らしさを最優先にいつも考えています。

私が思うのは、アウトプットがインプットにもなるということです。制作の数をこなせばこなすほど、自分の中で「これだ!」と思えるパターンが増えていくものですし、独自のパターンが豊富にあれば、それがまた早さに繋がります。

――では、イラストの中でriokaさん“らしさ”が最も表れている要素はどこだとお考えですか。

学生の時に先生方から教わったのは「固有の色に囚われず、自由に色を考える」ということです。たとえば、夕焼けの空をただオレンジ一色に塗っても伝わらない。色を塗るという作業は、そのシーンの持つ意味やキャラクターの心情を読み取って、少しずつ色を足していくような感じです。

同人誌『中央線沿線少女』より 八王子の少女

以前から、色使いが特徴的、個性的だと言っていただけることが多くて、最初は自分でも気付いていなかったのですが、やはり私らしい色使いは大切にしていきたいですね。

色使いのノウハウも、描いていくうちに身につけていきました。当時はイラストの技法書も多くはありませんでしたし、デジタルツールにいたっては操作マニュアルみたいな本しかなくて、とにかく自分で試して学ぶしかありませんでした。

今では資料も揃っていますし、他の人のメイキング動画もすごく参考になると思います。私の場合は本当に手探りでしたが、結果的に自分らしい技法や色使いを編み出せたのかもしれません。

フリーランサーとして大切にしていること

――フリーランスのイラストレーターとして仕事を進めていく上で、いつも気をつけている点があれば教えてください。

同人誌『中央線沿線少女』より Tokyo Station Night

まず何よりも、締切を守ることです。とにかく納品日厳守で、これまで一度も締切を破ったことはありません。インフルエンザにかかって1週間ずっと40℃近い高熱に苦しんでいた時も、なんとか納品日当日にデータを送って間に合わせました。それが今までで最大のピンチでしたね(笑)。せっかくここまで締切厳守でやってきたんだし、「意地でも締切を守ってやるぞ」という気持ちでした。それ以来、体調管理にはすごく気をつけています。

――フリーランサーは体が資本ですからね。

心配しすぎなのかもしれませんが、やはり締切を守ってこそ信頼が生まれるものだと思うので。

――制作の依頼を受けた後、キャラクターはどのようにデザインしていらっしゃるのでしょうか。

具体的なオーダーが少ない案件であれば、私の裁量でデザインして細部まで描き込んでいきます。クライアントから何かしらの指定や方向性が示されている場合はもちろんそれに従ってデザインしますが、多少なりとも私の好みが反映されているところもありますね。

職業としてのイラストレーターであっても、やっぱり好きなものを描きたいですし、自分の思う可愛らしさを積極的に表現することで、むしろ高く評価していただけるようになったようにも思います。

――作業スケジュールはどのように管理されているのでしょう。

同人誌『中央線沿線少女』より 万世橋の赤煉瓦と少女ふたり

クライアントからラフの提出日をご指定いただくこともありますし、特に決まっていなくても、こちらから早めにラフをお送りしてチェックしてもらうようにしています。

私の場合、1日の作業時間は大体9時間が限界なので、それをベースに作業予定を立てるようにしていて、休む日は自分で決めているため必ずしもカレンダー通りではありません。場合によっては土日・祝日にクライアントの方へ対応することもあります。あとは、手の空いた時間がちょっとでもあれば、同人活動に当てるようにしています。

――現在の作業環境を教えてください。

PCはMac、液タブはワコムのCintiq 13HD、板タブ(※2)はBambooを使っています。でも、イラストのベースはアナログ画材で描いているんですよ。それをスキャンしてデジタル化しています。

(※2)液タブ、板タブ:液晶タブレット、ペンタブレットのこと

――では、最初の作業は手描きで?

そうですね。デジタルに慣れている人にとっては独特な進め方に見えるかもしれませんが、まずラフをデジタルで作って、それを出力して手描きの作業を進め、さらにスキャンしてPhotoshopや CLIP STUDIOで仕上げていく、そんな工程をたどっています。レイヤー分けもPhotoshopです。

――手描きするのは何かこだわりがあるのでしょうか。

色使い、塗り方に私の個性があると思うので。作品を決定づける重要なところはやはり手描きにしたいなと思います。

――なるほど。では、riokaさんのようにイラストレーターとして独立していくためには、どのような活動が重要になってくるのでしょう。スキルの向上は必須だとは思いますが。

これは私自身の考えですが、作品を見てもらう機会を増やすことが最初の一歩ではないでしょうか。仕事で制作したものであれ、同人作品であれ、少なからず企業へのアピールになりますし、フィードバックをいただくことも大切だと思います。

プロを目指すなら、自分の好きなようにがむしゃらに描くだけでなく、もっと多くの人に見てもらうにはどうすればいいか、という視点も求められます。

また、そういう活動を途中で諦めずにやり続けること。作品を見てもらうにはpixivのような作品投稿サービスが欠かせません。“継続は力なり”と言いますが、ここまで来くることができたのは本当に地道な活動があったからこそです。だから、諦めないで描き続けることがとても重要だと思います。

――C94が近いです。riokaさんへの注目が集まっていますが、意気込みはいかがですか。

同人誌『中央線沿線少女』より 夏の思い出

ファンになってくれた方は、次の作品に期待を寄せて足を運んでくださるので、前作よりショボいものを出してはダメだと思っています。それに、お金を出してもらう以上、私自身が「ほしい」と思える本を出さないと自分が許せないですね。

今度のC94では『中央線沿線少女』という創作本の総集編を出す予定なのですが、これまでの本をすべて購入してくださった方にも楽しんでもらえるよう、描き下ろしをガッツリ入れています。創作ジャンル以外でも新刊を用意していますので、当日は楽しみにしていてくださいね!

――では最後に、riokaさんの今後の展望をお聞かせください。

今以上の絵を描いて、もっとたくさんの方に作品を見てもらえるようになりたいです。それは仕事としての制作ももちろんですが、同人活動でも読んだ人の心を掴んで離さない、それくらいのものを作っていきたいと考えています。

これからも皆さんの期待を裏切らない価値のあるものを全力で描いていくつもりです。イラストレーターとして更なる高みを目指していきますので、応援よろしくお願いします!

――riokaさん、本当にありがとうございました!

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インタビュー:原 孝則(Pick UPs!)/テキスト:神谷美恵(Pick UPs!)/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

関連リンク

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▼「rioka」のプロフィール [pixiv]
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