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スタジオ・ゼロが切り開く“ゼロ”からの挑戦 アトラス・橋野桂さんが挑む王道ファンタジーに迫る

日本だけでなく、海外でも熱狂的なファンを持つアトラス。『真・女神転生』や『ペルソナ』など、長い歴史と人気を誇るシリーズを展開し、2016年発売のPlayStation 3/ PlayStation 4用ソフト『ペルソナ5』が全世界累計200万本のヒットを記録したことも記憶に新しいところです。

今回は、そんな『ペルソナ5』のディレクション&プロデュースを務め、現在は2016年に設立されたプロダクション「スタジオ・ゼロ」で完全新作RPGの開発に取り組んでいる橋野桂さんにインタビューを実施。アトラスに入社するまでの経緯からゲーム作りのこだわり、そして大きなニュースにもなったスタジオ・ゼロ設立の背景について伺いました。

橋野 桂(はしの・かつら)
株式会社アトラスに所属するゲームクリエイター。1994年発売の『真・女神転生if…』より開発に携わり、『真・女神転生III-NOCTURNE-』や『魔剣X』、『カドゥケウス』などの作品にも携わった。『ペルソナ3』以降から「ペルソナ」シリーズナンバリング作品のディレクター兼プロデューサーを務めていた。現在は社内で新たなプロダクション「スタジオ・ゼロ」を立ち上げ、「真なる幻想世界(=ファンタジー)への回帰」をテーマに掲げたプロジェクト「PROJECT Re FANTASY(プロジェクト リファンタジー)に取り組んでいる。

『真・女神転生』が持つパンチ力に惹かれた

――橋野さんがゲーム業界に携わるようになったきっかけを教えてください。
子供のころから工作とか、ものを作ることが好きで、それくらいでしか褒めてもらう機会がなかったんです。その当時から考えを形にすることを仕事にしたいとは漠然と思っていて、それと同じ時期にファミコンブームが起きたこともあり、自然と「ゲームを作りたい」と思うようになりましたね。僕は夜の7時にはあたりが真っ暗になるくらいの田舎に住んでいたんですけど、家に帰れば『ウィザードリィ』や『ドラゴンクエスト』が待っていて、とても楽しかったのを覚えています。

――橋野さんといえばRPGのイメージが強いですが、『ウィザードリィ』『ドラゴンクエスト』といった作品の影響も大きかったのでしょうか?
あると思います。アトラスに入った理由も『真・女神転生』の存在があったからですしね。ファミコンやスーパーファミコン時代のRPGは勧善懲悪のストーリーがほとんどだったところに、『真・女神転生』は一線を画した、カウンターのようなRPGでした。どちらかというと、RPGだからというのではなく『真・女神転生』のパンチ力に惹かれてアトラスに入りたいと思った、と言ったほうが正しいです。

――就職活動のときから、アトラスには強いこだわりを持っていたのですね。
ゲーム会社に限ってみると、アトラスしか受けませんでした。他はゲームとはまったく違う業種でしたね。その当時はパソコンすら持っていなくて、ゲーム開発に関する知識がなにもありませんでした。でもアトラスは「アイディアがあるやつは来い」というスタンスで、アイディアしかアピールする術のなかった僕でも応募できると思ったんです。実際、学生ながら具体的なゲームのアイディアも持っていました。今振り返れば、素人のアイディアでしたけど、アトラスにも10本以上の企画書を書いて、面接でも読んでもらいましたね。

頭の中の引き出しを開けるのではなく、絞り出す

――現在の話になりますが、企画を考えるときどういった切り口から入っていくのですか?
まったくのゼロから考えるだけというのは難しく、既存のゲームを参考にすることもあります。ヒット作や人気作をプレイするとき、なにもかもが期待通りというケースはめったにないですよね。どんな名作でも、必ずどこかに想像とは違う部分があるかと思います。想像と違うということは、「自分が考えているもののほうが面白いはず」とも言い換えることができます。それを手がかりに企画を立てることも多いですね。

スタジオ・ゼロでファンタジーゲームを作ろうとしたのも、似た思いがあったからです。ファンタジーゲームが好きなゲームファンはとても多いです。また社内のスタッフからも「ファンタジーのゲームが作りたい」という声が上がっていたんです。でも、僕が「なんでファンタジーが好きなの?」と聞くと、みんな言葉を濁してしまって。だからこそ、みんなが好きなファンタジーを掘り下げて、自分なりのファンタジーを作り上げれば、違う角度の世界が作れるんじゃないかと。ファンタジーの隙間を見つけられるんじゃないかと思って企画を立ち上げました。

――企画を作るために、日々の体験を大切にしているのですね。
より正確に言うと、日々感じてきたものしか作品に注ぎ込めないんですよ。新しいゲームを作るために、新しい知識や経験を得てから、今作っているものに盛り込むというのは難しくて。僕にできることは、これまでに考えてきたことを、今の目で解釈を変えながらゲームに入れていくだけです。頭の中にたくさんの引き出しがあるという感覚はあまりなくて、限られた知識や経験から、無理やり絞り出している感じですね。

スタジオ・ゼロで描くのは、既存の王道に対するカウンター

――橋野さんが新たに立ち上げたスタジオ・ゼロについても教えてください。なぜ設立することになったのでしょう?
前々からアトラスには『真・女神転生』と『ペルソナ』という2本の大きな柱がありますが、逆に言えばこれに続く第三の柱がないのも事実でした。シリーズを引き継ぐ後進も育っていましたし、アトラスにとって新たな柱を作りたいという長年の課題に向けて、チャレンジをするには今しかないと考え、スタジオ・ゼロの設立を決めました。

――スタジオ・ゼロのスタッフにはどんなことを求めていますか?
スタジオ・ゼロを立ち上げる際、最初のスタッフは社内から応募する形で集めたんです。それで集まったスタッフに話を聞いたら「『キャサリン』のころの感覚を思い出したい」という人がかなり多かったんですね。『キャサリン』はアトラスとしては珍しいオリジナルタイトルで、作っている僕たちにもどう転ぶか分からない緊張感がありました。この感覚は作品を作る上で、大事なことのひとつだと思っています。新作を作る以上、スタッフには、この緊張感の面白さを知ってもらいたいですね。だから座席も、僕は別室ではなく他のスタッフと同じ部屋にしています。たくさんのスタッフの声を聞きながら、いろいろ試したいですからね。

――橋野さん自身が現場で働きたい思いもあったのでしょうか。
僕の場合はゲームが面白くなれば、どういう位置でも構わないです。スタッフにはそれぞれ専門分野があるので介入しすぎるのもよくないですが、作品の目指すところから外れてしまわないように、出来るだけスタッフと話しています。どう転ぶかわからない動作テストをするときなどは尚更ですね。『キャサリン』のときも、あの時の若さで突っ走った感覚を今でもみんな覚えていると思います。自分自身としても原点に帰りたい気持ちはありまして、そんな気持ちもスタジオ・ゼロに繋がっていったんです。

――そんなスタジオ・ゼロで制作している新作ですが、公式サイトを見ていると“王道”という言葉がかなり印象的に使われています。橋野さんの考える王道とはどんなものですか?
多くの人が共感できるゲームのテンプレートがあり、それが既存の王道を描くための手法として存在します。僕たちはテンプレートをそのまま使うのではなく、むしろ王道の再定義をしたいと思っています。テンプレートのままなら、「昔のゲームをやれ」で終わってしまいますからね。僕にとっての王道は、既存の王道に対するカウンターなんです。
そういう意味では『真・女神転生』や『ペルソナ』に通じるところがあるかもしれませんね。アトラスが作ってきた作品も、かつては一風変わった作品として生まれて、いつの間にか多くの人に受け入れられる王道になっていきました。かつてのアトラス作品のようなアプローチでファンタジーを作ったらどうなるんだろうと、実験を繰り返しながら作っていきたいです。だからこのゲームがリリースされたとき、「これは王道なのか?」という意見が出るかもしれませんが、それでもいいと思っています。

――先程からお話の中に出てくる“カウンター”という言葉も印象的だと思いました。アトラスらしさを象徴するような言葉ですよね。
「これこそが良いものなんだ」といった決められた価値観に対して、「それだけじゃないよ」と、別の切り口を提案するやり方ですね。『キャサリン』みたいなゲームが作れたのも、アトラスだったからでしょう。ひょっとしたら「永遠の二番手」と言い換えることもできるかもしれませんね。新作のファンタジーRPGでもアトラスらしさは意識的に取り入れるつもりです。ファンの方に「アトラスはこんなこともするのか」と良い意味で唸っていただけるような作品を目指したいです。

――御社での求めている人物像についてもお聞かせください。フィットするのはどんな人ですか?
他の会社で働いて、たとえば良いイラストを描けたり、上手いコードを書けてはいるけど、そのゲームに思い入れを持てない人もいると思います。そんな人にこそアトラスに来てほしいと思っています。スタジオ・ゼロに限らず、どのチームでも、心から面白いと思えるゲームを作って、ユーザーさんをワクワクさせる当事者になれるチャンスがあるはずです。ゲームの開発に一歩踏み込む、参加ではなく参画したい人にはぜひ来てもらいたいですね。いつの時代もゲームファンは、妥協を超えたところにあるちょっとした気遣いやこだわりはしっかりと見てくれているものです。作り手自身も夢中になって創り上げた作品で、大勢のファンの皆さんに応えていきたいと思っています。

――ゲーム業界のクリエイターに向けて、一言メッセージをお願いします。
あくまでも僕の価値観ですが、最終的に勝負を決めるのはゲームを好きな気持ちだと思います。心のどこかで「他の業界でもいい」と思っていると、それが逃げ道になってしまいます。また苦しいときに支えてくれるのもゲームが好きという気持ちです。だから、自分が好きなゲームを作っている会社に入ることをおすすめしたいです。好きなゲームを作っているということは、自分と同じ価値観を持っている会社ということですからね。

インタビュー・テキスト:岸 由真/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

企業プロフィール

株式会社アトラスは約30年に渡り、常に新しい世界観をマーケットに提供し続けてきたゲームメーカーです。
「独創と共感」をポリシーに、「真・女神転生」「ペルソナ」「世界樹の迷宮」シリーズなどに
代表されるコンシューマゲーム作品を、国内から欧米アジアにむけ幅広く発信しています。

社名:株式会社アトラス
本店所在地:東京都品川区東品川一丁目39番9号
事業所所在地:東京都世田谷区三軒茶屋2-11-22サンタワーズセンタービル
設立年月日:2013年9月5日
代表者:代表取締役社長 野本 章
事業内容:家庭用ゲームソフトなどの企画・開発・製造・販売
URL:https://www.atlus.co.jp/