クリエイティブ業界の注目情報や求人情報などを発信する、クリエイターのための総合情報サイトです。

専門家に学ぶ!クリエイターのための著作権講座 第7回「音楽の著作権―知識編」

2017/11/30 コラム著作権

様々なアートワークの中でも大きな割合を占める「音楽」。この著作権について2回に分けて取り上げます。今回お届けするのは「知識編」。
今や音楽は日常生活に不可欠で、誰もが接するとても身近なアートであると同時に、著作権という面では非常にビジネス色が強く、その権利関係はかなり複雑なものになることが多いです。その音楽著作権について、音楽を作る側、使う側双方の立場から考えてみましょう。
(以下、別段の記載のない限り「法」とは著作権法を意味します。)

音楽に関する著作権―1曲に対して複数の権利が絡む複雑な構造

日本の著作権法では大きく分けて財産権としての著作権著作者人格権著作隣接権、そして実演家人格権の4つが定義されています。
通常、一般的な著作物であれば財産権としての著作権と著作者人格権が権利の中心となりますが、音楽の場合は他の2つも含めてすべての権利が関係してくることが多いです。

音楽の権利は楽曲に関わった当事者ごとに発生する権利がある

作詞や作曲をした者(作家)には著作権著作者人格権が発生しますし、作家が作った楽曲を歌唱・演奏することでその行為者には実演家としての著作隣接権実演家人格権が発生し、さらに演奏を録音してマスターテープを作成した場合にはその録音物(原盤)を製作した者にレコード製作者としての著作隣接権が発生します。
このように、曲を作って録音し、それを量産するという一般的な音楽制作プロセスにおいて、それぞれの工程に関係する者に対して様々な権利が発生し、それらが相互に関連しあっているのが音楽の著作物であると言えます。

業界ならでは!?独特の用語には注意

音楽著作権で特徴的なのが、業界独自の用語が使われる点です。
原盤を製作した者にレコード製作者としての著作隣接権が発生するのは先述の通りで、この権利は通常「原盤権」と呼ばれていますが、これには実演家の権利(後述)とレコード製作者の二次使用料請求権(CD等が放送・有線放送で使用された場合に放送局から使用料を受け取る権利)や貸与報酬請求権(レンタルされた場合にその事業者から報酬を受け取る権利)など、著作隣接権には含まれない権利も含んでいるものと解釈されています。

実演家の権利とは?

実演家の著作隣接権はレコード製作者に譲渡されていることが一般的であるため、原盤権には実演家の権利も含まれている場合が普通です。なお、実演家には譲渡の対価としてアーティスト印税を支払う契約が多く、また実演家の二次使用料請求権などは原盤権には含まれない場合が多いようです。この請求権は芸団協(公益社団法人日本芸能実演家団体協議会)内のCPRA(クプラ/実演家著作隣接権センター)を通じてのみ行使でき、徴収した使用料などはCPRAに権利を委任した団体(一般社団法人日本音楽事業者協会や一般社団法人日本音楽制作者連盟など)を通して実演家に分配されます。

他にも、財産権としての著作権は「出版権」と呼ばれることも多く、書籍や楽譜を出版する権利である出版権(法79条)とは全く別のものです。
このように、音楽業界では法律には定義のない「原盤権」、法律に定義されているものとは意味が異なる「出版権」という言葉が普通に使われていますので要注意です。

著作権を集中管理する団体、JASRAC

さて、音楽の著作権と言えば、避けて通れないのがJASRAC(ジャスラック)です。
正式には「一般社団法人音楽著作権協会」という名称の団体で、英語表記「Japanese Society for Rights of Authors, Composers and Publishers」を略してJASRACと呼ばれています。

ある事件がきっかけで誕生したJASRAC

JASRACは1939年に仲介業務法(現在は廃止)により設立された「社団法人大日本音楽著作権協会」が前身となりますが、そもそもこの法律が制定されたのは、現在の東京大学でドイツ語教師をしていたドイツ人ウィルヘルム・プラーゲがヨーロッパの著作権管理団体の代理人となり1931年から始めた、NHKなど放送局や演奏者などに対する使用料請求が発端となります。

この行為自体は正当な権利行使でしたが、高額であったことや著作権に対する当時の日本の意識の低さなどにより大きな混乱となり、著作権管理団体を許可制とするべく仲介業務法を制定し、音楽分野は大日本音楽著作権協会のみを許可し、プラーゲが設立した団体は不許可としたことで収束しました。
これは「プラーゲ旋風」と呼ばれており、日本の著作権意識向上に大きく貢献することになった事件ですが、同時にJASRAC誕生のきっかけとなったものです。

JASRACの役割は大きく2つある

・権利の集中管理
現在は著作権等管理事業法の元、著作権管理事業者として事業を行っているJASRACは、その基本的な役割は著作権の集中管理なのですが、これは作家側にも利用者側にも大きなメリットがあります。
法には複製権(法21条。JASRACの規定では「録音権」に含まれます)や演奏権(法22条)が規定されているため、音楽を複製したり演奏したりCDなどの録音物を再生することができるのは権利者のみとなるのが基本であり、他の者がこれらの行為を行いたい場合には権利者の許諾が必要となります。

しかし、利用する度に権利者を探して、連絡して許諾の可否を伺い、もし許諾が得られるのであれば提示された対価の支払いを行う、となると、利用者側にとっては手続きが非常に煩雑であり、また作家側にとっても全国(あるいは全世界)から許諾を求める連絡を受けてそれに対応する労力を確保することは大きな負担となります。

その点、JASRACに管理委託されている楽曲であれば、JASRACが提供する作品検索データベース「J-WID」から管理楽曲かどうかを容易に検索できるため、権利者を探す労力は最小限で済みます。そして、著作権等管理事業法16条により正当な理由がない限り利用を拒むことができないことから、申請をすれば原則的には利用が許諾されます。

また利用における対価の支払いについても、作家側の“言い値”ではなく文化庁長官に届け出された使用料規定に従いますので(※)、楽曲による差や法外な料金が請求されるということもありません。
特に複数の楽曲の利用を希望する場合はこの恩恵に預かることができます。
※ただし、ゲームソフトへの録音、CM用の録音や広告目的の利用などは、作家側(音楽出版社を含む)が権利を管理し、使用可否や使用料の額を決めることができます

つまり、作家(権利者)側でも利用者側でも権利処理の負担が下がることで音楽利用の促進に繋がり、これが音楽文化の発展に十分寄与するものだと言えます。

・JASRACは代理人ではなく権利者
よく誤解されやすい点ですが、JASRACは作家の代理で権利行使しているのではなく、作家から著作権を譲り受け(信託譲渡)、権利者自身としての立場で行使しています。
JASRACと直接契約している作家は、信託期間中、自身が有するすべての著作権に加え将来取得するすべての著作権をJASRACに移転すること(著作権信託契約約款3条)とされています。(※)

また、JASRACとは契約していない作家であっても、流通させる時点で音楽出版社が関係してくることが多く、通常はこの音楽出版社に対して著作権譲渡する契約を締結します。この場合、一般社団法人日本音楽出版社協会(MPA)が発行している契約書が使われることが多いです。
この音楽出版社は通常JASRACと信託契約を締結していますので、作家の著作権は音楽出版社を通じてJASRACに譲渡される形となります。

つまり、JASRAC管理楽曲の作詞者や作曲者は著作者ではありますが、著作権者ではない、ということが一般的です。このような複雑な権利関係を悪用し、自身が権利者ではないにも関わらず投資家に譲渡を持ちかけた著名プロデューサーによる巨額詐欺事件も記憶に新しい所です。
※ただし、契約時に委託範囲から特定の支分権を除くことができますので(同4条)、JASRACがすべての著作権を管理しているとは限りません

原曲をアレンジして使いたいときは管轄が別

なお、JASRACが管理する著作権には、編曲する権利(法27条)は含まれていませんので、編曲したり替歌にして利用したい場合は、JASRACではなく音楽出版社(MPAの契約書では4条において上記27条の権利も音楽出版社に譲渡することになっているため)または作家個人から許諾を得る必要があります。
この点が問題となった事例では、合唱曲をジャズアレンジして収録したCDに対して、合唱曲の作曲家が編曲権および同一性保持権の侵害を理由にCDの販売停止などを求めた「大地讃頌事件」が有名です。

日本と仕組みが違う外国曲の著作権管理

日本以外の多くの国においても著作権の集中管理が行われており、ASCAP(アメリカ)、BMI(アメリカ)、PRS(イギリス)、SACEM(フランス)、CASH(香港)などの団体がJASRAC同様に使用料の徴収などを行っています。
日本では演奏権と録音権をJASRACが一括管理していますが、外国では別々の管理団体が管理することが多く、しかも欧米では録音権については管理団体に委託せず音楽出版社や作家自身が管理することが普通です。先述の管理団体も、CASH以外は演奏権のみを管理しています。

なお、演奏権については各国の管理団体が管理していますが、外国曲の多くは原曲の音楽出版社(オリジナル・パブリッシャー。OP)と契約している日本の音楽出版社(サブ・パブリッシャー。SP)が作品届をJASRACに提出しているため、日本国内での利用についてはJASRACが管理しています。
SPが存在しない楽曲の場合でも、JASRACは世界の多くの著作権管理団体と相互管理契約を結んでいるため、JASRACを通じて利用許諾を受けることができます。
そのため、演奏権に関しては日本の楽曲と同様にJASRACに申請することになります。

しかし、録音権に関しては集中管理されておらず、特に映画やCM、ゲームなどの映像に合わせて(同期させて)音楽を利用する権利「シンクロ権(シンクロナイゼーション・ライツ)」についてはSPとの交渉で個別に許諾を得る必要があるのが原則です。
この場合、使用料金は一部の例外を除きSPの指値となり、JASRACに支払うことになります。

利用の際には権利関係の確認を

音楽の著作権は基本的にはJASRACが管理していますが、すべての権利を管理しているわけでは無いため、個別に対応が必要となる場合もあります。
特に、原盤権、シンクロ権、編曲権は基本的に管理対象外であることには注意が必要です。
音楽の利用の際には、その楽曲の管理状況をJ-WIDで確認して、JASRACや音楽出版社、レコード会社などから適切な許諾を得るようにしてください。

※次回は音楽に関する著作権「実践編」としてご紹介します

【過去記事一覧】
第1回「今日から向き合う、自分のための著作権」
第2回「権利侵害への対処と留意点」
第3回「引用・転載の条件と注意点」
第4回「Webメディア制作に関連する著作権」
第5回「オープンソースソフトウェアライセンスの基本と注意点」
第6回「クリエイティブ・コモンズとパブリック・ライセンス」

遠藤 正樹(えんどう・まさき)

音楽専門学校を卒業後、マニピュレーターや作編曲家として、あるいはウェブデザイナーとしてコンテンツの創作と利用に関する仕事に従事。その中で著作権法の重要性を感じ、行政書士資格を取得。2014年9月に東京・錦糸町にて行政書士事務所を開設し、著作権に関するものを筆頭に、各種契約書の作成やその相談など法人・個人を問わず様々な書類作成をサポートしている。
◆ビーンズ行政書士事務所 http://beans-g.jp/
◆著作権のネタ帳 http://copyright-topics.jp/