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~飛躍するクリエイター~ 第69回 新井香澄 照明

照明の現場で活躍する新井香澄は、淡々と照明への熱い想いを語る。
ままならない他人同士が集まり、ままならない光で、ひとつの世界観をつくり上げていく。
「自分のイメージ通りにできたことなんてほとんどない。100%だったことは一度も、1曲もありません。そんなの一生無理なんじゃないの?ってぐらい反省ばかりです」
それでも時々よぎる達成感や今度こそはという闘志。そして何より、これまでに見たことのない新しいものをつくり出したいという希望。新井はいま一生の仕事と格闘している。

修行の毎日です

 「洋子の演歌一直線」には、(株)テレビ東京アートに入社した2008年から参加しています。約3年前からは、現場照明監督であるLD(ライティングディレクター)と照明プランナーを担当しています。LDになりたての頃は何をやってもダメ出しの連続で、良くしようにも何が良くて何がダメなのかもわからない。ただただひたすらやり続けたといった感じです。いまは少しは慣れてきましたし、見たことないような照明や、やったことないプランに挑戦しようと努力しています。でも、すごくいいアイデアが浮かんで先輩に興奮して話しても、「そんなの百年前にやってんだよ!」って。まだまだ修行が足りないと日々感じています。
 「洋子の演歌一直線」の課題のひとつは、いかに照明にバリエーションをつけられるかといったことだと思います。例えば今回は海の歌がテーマとなると、番組1本で5曲流れるので、海をテーマにした異なったイメージの照明を5つ用意しないといけない。それだけに前後の色が被らないようにとか、同じ模様を続けて出さないようにとか、演歌は自然や四季折々が表現されているジャンルだけに、そういった苦労は常にあります。でも仕事は楽しいです。自分のプランがカチッと歌の世界観にはまったときの達成感は何物にも代え難いですし、番組のジャンルによって照明に求められる役割はいろいろですが、音楽番組の演出における照明の力は大きいと思っているので、やりがいもあります。
 「洋子の演歌一直線」には長く関わらせていただいていますが、番組に参加するまで演歌は聞いたことがありませんでした。ただ私はもともと高校で演劇部に入っていて、照明を担当したりもしていたので、馴染みのあるJ-POPより物語性のある演歌のほうが、実は演劇部でやっていた照明で舞台の世界観を表現するという行為に近いような気がしました。



「洋子の演歌一直線」
毎週日曜日5:30~6:00にテレビ東京で絶賛放送中♪
© TV TOKYO Music, Inc. All rights reserved.

司会は演歌歌手の長山洋子。日本を代表する歌手から新人歌手まで幅広く招き、最新の演歌と歌謡曲を紹介する。
「会社に言われて、これまでの中で自分が一番自信のある回を提出しました。それが新人賞を受賞することになって。周りからはすごいって言われるけれど、自分自身はそこまで浮かれてはいません。だけど親戚から「あの番組見てるよ」って言われたりすると、やっぱり嬉しいし、やりがいは感じます。

演劇部で照明に出会う

 舞台には小学生のときにテレビで見た「演劇集団キャラメルボックス」がきっかけで興味を持つようになりました。中学生のときはバスケ部でしたが膝を壊してしまい、それで高校生になって、ずっと好きでテレビで見ていた舞台の世界に関わってみたくて、演劇部なるものに入りました。興味があったのは、舞台に出る演者さんのほうではなく裏方のスタッフでした。初めは演出志望でしたが、先輩のお手伝いで照明をやっているうちにすごく面白くなってきました。とにかく演劇部が楽しくて、毎日夜の11時ぐらいまで週7で活動していました。家族といるより演劇部のメンバーといた時間のほうが長かったぐらいです。
 高校卒業後は演劇部の先輩が通っていた日本工学院専門学校クリエイターズカレッジ放送映画科(現放送芸術科)に進みました。もちろん最初から照明志望でした。だけど入学して初めて、舞台じゃなくテレビや映像業界仕事を学ぶ学科だと知り、一瞬戸惑いましたが、入ったからにはやるしかないと(笑)。授業での番組制作実習は、バラエティー班と音楽班とドラマ班に分かれていたんですが、当時から照明的には音楽番組が一番面白そうだなと思っていました。修了制作でも音楽番組をつくり、私はLDとプランナーを担当しました。いまと同じですね。私は「やりたい!」とけっこう自分から手を挙げるタイプで、そこのところも実はいまも同じです。本当に就きたい番組があれば「やりたい!」と猛烈にアピールします。基本的には闘志や野心は秘かに持つタイプではありますが。
 2年生の10月頃に(株)テレビ東京アートに就職が決まりました。テレビ局が第一志望だったので希望どおりでした。でも新人の頃は、「辞めたい」というか、「辞めてやる!」といつも思っていました。だけどいま辞めても「どうぞ」って言われそうで、そんなのは悔しい。どうせ辞めるなら、「えっ、そんなことされたら困るよ」ってぐらいにならないと、と思い踏ん張りました。一番大変だったのは人間関係だと思います。いまは少しは楽になりましたが、もちろん「クソーッ」はありますし、「辞めてやる!」ってことも多々あります。人と人とでつくり上げていく現場の大変さはやっぱり変わりません。同期がひとりいるんですが、よくふたりで愚痴を言い合っていました。同期の存在には本当に助けられました。

挨拶と返事を頑張る

 尊敬できる先輩の存在にも救われてきました。すごい先輩というのは、センスはもちろんですが、この人のために頑張ろうって思える、スタッフみんなの気持ちを盛り上げる力、人をやる気にさせる人柄や人間性を持っていて、本当に感心させられます。とても厳しく叱られるんですけど、「これと、これと、これも全然ダメだ。でもここは良かった」と、ひと言言ってくれる。フォローが絶妙なんだと思います。
 私にはそんな先輩の真似はできないですけど、これから業界を目指す人にお願いがあるとすれば、とにかく元気で、そして辞めないでほしいということでしょうか。仕事ができるできないなんて関係なくて、現場でしっかり返事ができる、きちんと挨拶ができる、そういう基本的なことがこの仕事には大事だと思います。照明ってチームの仕事ですから、チームプレーができないと厳しい。新人のうちは、声がかけやすい、話しやすい、頼みやすい、それで十分なんです。センスなんてやっていればそれなりに身につきますし、仕事も続けていればある程度はできるようになるんです。だから、自分のセンス云々を心配する前に、まず挨拶と返事をしっかり頑張ることだと思います。
 これまで続けてこられたのは、どうしてもやりたいときは猛烈にアピールしますが、それ以外は、与えられた仕事をしっかりとこなすという姿勢でやってきたからでしょうか。向上心がないんですよ、私。だから理想と現実のギャップに打ちのめされることもない。ただ仕事のことはずっと考えています。自分が担当した番組のオンエアは毎回チェックして、毎回反省。でも絶対に守りには入りたくないので、毎回アイデアを練って自分なりのチャレンジをひとつでもふたつでも入れたいと思っています。ただそれがなかなかドンピシャとはならないから、また反省。それでも何か新しい事やれないかなって・・・・・・。確かにずっと考えていますね(笑)。この仕事、好きじゃなきゃやれませんね。

新井 香澄(あらい・かすみ)

照明
1989年東京生まれ。2008年日本工学院専門学校クリエイターズカレッジ放送・映画科(現・放送芸術科)に入学。卒業後、(株)テレビ東京アート照明部に入社。第36回 平成28年度 日本照明家協会賞新人賞を受賞。主な参加番組に、テレビ東京「洋子の演歌一直線」「開運!なんでも鑑定団」など。