2012年8月25日(土)より公開の映画『放課後ミッドナイターズ』の監督である竹清 仁さんに、これまでの生い立ちやクリエイターへのアドバイスなど、お話しを伺いました。

今すぐお金を貸してくれ!

小さい頃から絵を描いたり、ものをつくることが大好きだったので将来の夢は大工さんになることでした。中学生の時に『スター・ウォーズ』の日本語版が公開されたので観に行ったのですが、あまりのショックに席から立ち上がれなくなってしまうくらいに感動して、それから映画に興味を持ちはじめました。

02高校生の頃は“物理部”という何をやってもいい部活に入っていたのですが、そこで先輩が8mmカメラで映画を撮っていたんですよ。その姿を見て何となく「いいなぁ」と思っていたある日、学校の帰り道にあったスーパーが閉店セールを開催していて、「何かあるかもしれない」と思い、立ち寄ってみたら何と・・・当時は20万円以上した8mmカメラがたった一台だけ、3万円という今でも考えられないような破格で売られていたんです。

その運命的な出会いにもうビックリして舞いあがってしまい、速攻自転車をブッ飛ばして家に帰って父親に「お願いだから!後でバイトで返すから、今すぐお金を貸してくれ!」と頼み込んだんです。

カメラ代とフィルム代を稼ぐためにアルバイトをしながら、念願の8mmカメラで友達をモデルに20分くらいの短編映画を撮りました。 それを文化祭で上映したらすごい拍手をもらったんです。観てる人に喜んでもらえたことを実感したときに、「この道を目指そう!」と心に決めました。

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その後デザイン学校に行ってアニメやCG、実写など幅広く学び、企画に合わせて演出スタイルを変えるというやり方で映像制作をしてきました。 まんべんなく対応できることは自分の強みであり、今回の映画はこれまでの経験を全て盛り込んだものに仕上がっています。

限りなくベストに近いベターしかない

イメージ海外のコメディ映画が大好きで、本作は日本のアニメーションっぽい作品にしたくありませんでした。 さらに自分にしかできないものを作りたくて、役作りにはかなりの時間をかけましたね。モーションキャプチャーを用いて実際にダンサーや大勢の人に振り付けをして、まずは役にしっかりなりきってもらい、撮影現場に入った後はノリを大事にしてアドリブもありで演じてもらったので、いい感じで“人間くささ”が滲み出ていると思います。

僕自身が物事には必ずいい面と悪い面があって、どちらかが良いというのはなく、またベストというものもなく、限りなくベストに近いベターしかないという考え方を持っているので、キャスト全員にちょっとした二面性がある、そういう世界になっていると思います。

本作が初監督の映画であり、作品としては十分な予算をいただきましたが、技術などCGアニメーションとしては全く足りなかったんです。全部を求めていたら作品ができあがらないので、“何か”を捨てなければならなかったんです。

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では何に力を集中させるか考えたところ、まず『ライティング』と『テクスチャー(質感)』の2つを捨てて、その代わりに『色』と『芝居』は妥協せずにやろうと思ったんです。特に『芝居』がよくないと作品としては失敗すると思っていました。

人類 VS 科学の最終決戦が始まる!

夜な夜な動き出す理科室の人体模型キュンストレーキ(声・山寺宏一)と、その相棒の骨格標本ゴス(声・田口浩正)を主人公に、真夜中の学校で巻き起こる一夜の大騒動を描く映画『放課後ミッドナイターズ』。

イメージ名門・聖クレア小学校の学校見学会。立ち入り禁止区域に迷い込んだ大人顔負けのスーパー幼稚園児マコ、ミーコ、ムツコ(通称マ・ミ・ム)は、取り壊し寸前の理科室でガラスケースに陳列された人体模型(キュンストレーキ)を発見し、「気持ち悪いはだかんぼさんをかわいくしてあげよう」と、あらん限りのテクニックで飾り立てる。

日中は身動きが取れないキュンストレーキの怒りは真夜中に爆発。相棒の骨格標本ゴスと共に、夜な夜な動き出すその 名も“放課後ミッドナイトパーティ”何も知らずに閉館後の校舎に舞い戻るマ・ミ・ム。
ついに始まるミッドナイターズとマ・ミ・ムの大激突。はたしてこの結末はいかにー。

普通なら人体模型なんて嫌われますからね(笑)

使用したソフトはMayaとAfter EffectsぐらいでCGの観点から言うと、デザインや色みで高級感は出すようにはしましたが、いくらリアル面を追求したところでピクサーの作品には敵うわけもないので、その土俵にはあがらず、いかに自分の土俵に持ち込むかという“作戦”をとりました。

イメージカメラアングルを自由自在にコントロールできるのがCGの一番のアドバンテージだと思っているのですが、この手法はやりすぎると失敗するため、スタッフのみんなには、カメラマンが実際にカメラを担いでると思って、重さがちゃんと伝わるようなカメラワークを心がけるように伝えました。

だから綺麗な画になり過ぎないように、わざとカメラのパンを遅れさせたりぶれていたりするんです。そういった手法は実写の経験が生きているのかもしれません。

また本作での一番の課題は、主演のキュン様を好きになってもらうことでした。普通なら人体模型なんて嫌われますからね(笑)ヘタレな感じがよかったのかもしれません。あと裏設定だとキュン様は『バック・トゥ・ザ・フューチャー 』が好きなんです。だからタイムマシンをつくるし、時計塔に雷が落ちるんですよ。 他にも所々にいろんなネタを仕込んでいたりします。

技術的に苦労したのは前半のミュージカルシーンで、ここは最後にできあがりました。個人的に気に入っているシーンは、最後に3人が帰っていた後の校門を見ながらキュン様がちょっと苦笑いするところですね。

くだらない面白さが実は本当の世界

80年代のハリウッド映画というのは、テーマは置いておいて”娯楽”とし03て楽しめる映画が多くて好きですね。本作は『ゴーストバスターズ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー 』『グーニーズ』など、そのあたりの作品を意識しています。そこには“おおらか”さがあって、日本でいうところのドリフの『8時だよ!全員集合』みたいな、くだらない面白さが実は本当の世界といった感じを演出したかったんです。
でもここ最近はそういった映画が観たいのにあまりないので思いきって自分で作ってみました。

その中でも『スター・ウォーズ』は何がすごいかといったら、当時は成功する保証も何一つない中、ILMという特撮工房をつくるところから始め、今までにないことを成し遂げたところに感銘を受けました。またピクサー・アニメーション・スタジオも同じく、まだCG映画なんて無理だと言われていた頃から始め、やってのけた。そういったことに心をうたれ、「自分も博多で海を越える映画を作りたい」と思いました。当初周りからは無理だと言われながらも5年かけてやっと完成し、5ヶ国同時公開も実現した今は感無量です。

やってみせるしかないんです。

実写は即興性が命で、その現場で最大のポテンシャルを引き出すことが一番大事とされていて、アニメーションの場合はもう少し落ち着いて積み重ねていくことができるんです。

01実写のいい所はアニメーションよりも時間が限られている分、現場の緊張感が一体化し思わぬ集中力でミラクルが起こることがよくあるんです。100%を狙っていると、それが150%になったり。

ただアニメーションのほうがアートディレクションがじっくりできるので好きですね。絵コンテはちょっと抜いて描くほうです。僕の場合、スタッフに委ねたほうがいい結果が出ることが多いので(笑)

クリエイターの方へのアドバイスは3つあります。
「まずやれ!」「とにかくやれ!」「とことんやれ!」
本当にこればかりはやるしかないんですよ。やりたいっていっている人は世界中にたくさんいるから、やってみせるしかないんです。これは僕が先輩に言われたことで、今でもしっかり心に留めています。


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8/25(土)より、新宿バルト9ほか
香港、シンガポール、台湾、韓国など
アジア一斉公開
■企画・監督:竹清仁
■脚本:小森陽一
音楽:北里玲ニ
■音響効果:笠松広司
■CGプロデューサー:田中賢一郎
■エグゼクティブプロデューサー:紀伊宗之
■プロデューサー:伊藤耕一郎/平田武志
■製作:「放課後ミッドナイターズ」製作委員会
■配給:株式会社ティ・ジョイ
■主題歌:ねごと 「Re:myend!」
■声の出演/山寺宏一、田口浩正、戸松遥
雨蘭咲木子、寿美菜子、小杉十郎太
谷育子、家中宏、茶風林
松本大、郷田ほづみ、屋良有作
大塚芳忠、黒田勇樹(アルバイト)
伊瀬茉莉也、下崎紘史、飯塚昭三

●オフィシャルサイト
http://afterschool-midnighters.com/
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