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株式会社DOG EAR RECORDS代表 作曲家 植松 伸夫さん

ファミコン時代から和製RPGのツートップといわれた「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー」。その、ファイナルファンタジー・シリーズのみならず、当時のスクウェア(現スクウェア・エニックス)がリリースするゲーム音楽を担当していた植松伸夫氏。2004年にスクウェア・エニックスを円満退社、現在は自主レーベル「DOG EAR RECORDS」を起ち上げ、音楽活動を行っている植松氏に話を伺いました。

 

■ コードを引いたら、それらしく聞こえる。音楽って簡単じゃないか!

最初に音楽に興味を持ったのは、姉の付き合で連れていかれたウィーン少年合唱団のコンサートでした。そのころ、小学4年生だったのですが、子ども心に「なんと美しい音楽だ」と感動したんですね。そこから、ラジオでとにかく、音楽を聴きまくりました。歌謡曲からロック、クラシックまでジャンルは問わない。とにかく、音楽を聴く毎日なんですが、自分で演奏しようとは思っていなかったんです。それが小学6年生の時、祖父の家でガットギターを見付けた。なんとなく「欲しいな」と言ったら、簡単にくれたんです。当時、平凡や明星という歌謡曲の雑誌というかアイドル雑誌というか、そういった雑誌があって、その附録に「歌本」というのがありました。ヒット曲の楽譜、コード進行が書いてあるんですが、ガットギター片手に歌本をみながら音を鳴らしてみると、それっぽく聞こえるわけです。加えて、家には姉が弾くピアノがありましたから、ピアノでも同じようにコードを弾いてみたら、結構、いける。「音楽って簡単じゃないか!」と思ってしまったんです。今思えば、大間違いなんですが「音楽なんて、習わなくてもできる」と、ものすごくイージーに音楽の世界に首を突っこんだんです。きっと、ピアノの先生なんかに習っていたら、今、音楽をやっていないと思います。僕の場合は、ものすごく簡単に音楽の世界に入ったことがよかったんだと思います。

 

■ 全てのバイトを辞めて、音楽を作ることだけに集中した

音楽は大好きなんですが、音楽の仕事となるとさすがに簡単には考えませんでした。音楽系の大学への進学は親も許してくれませんでしたし。でも、大学時代は音楽ばかりやっていました。4年間で音楽業界にコネを作ってなんとかしようと。大学時代のうちに岩崎工(いわさき たくみ)さんというシンセサイザー奏者のスクールに通っていたら、「そろそろ植松君は人に教えられるんじゃない?」といわれ、しばらくその教室でアルバイト的に音楽を教えていたこともありました。それでも、4年間では音楽業界で働くコネはできなかった。結局、卒業してアルバイトを始めるんです。バイトしながら苦労して音楽活動を続けるという形ですが、これがダメでした。ある日シロアリ駆除のバイトで他人の家の軒下にもぐりこんでいたとき、「俺は、一体、何をしているんだ。音楽がやりたかったんじゃないのか」と、痛切に感じたんです。

そう感じてからはすぐに全部のバイトを辞めました。バイトをする時間があったら、音楽を作ろうと思った。曲を作ってデモテープを送るんですが、聴いてもらえるかどうかなんて、わからない。そもそも、音楽プロダクションなんかだと、それこそ山のようにデモテープが送られてくるでしょう。それじゃ聴いてもらえないだろうと、アルバイト情報誌を見て、CM制作会社や音楽系の会社を探しました。そして何らかの返事が来るまでデモテープを送り続けることにしたんです。しかも、毎日送り続けました。最初は何の反応もありませんでしたが、一月半ほどで「面倒だから会ってやる」と連絡が来ました。その結果、ラジオCMの仕事をやらせてもらえました。ふり返ると、この「バイトを全部辞めて、音楽だけに染まった時期」というのはブレイクスルーでしたね。苦しかったけれど、楽しかった。

今、「なんとかゲーム業界で働きたい」というなら、デバッグのバイトでもなんでも、とにかく手段を選ばずにもぐりこめばいい。そこでまず社員と仲良くなってから「実は僕、音楽も作るんです」なんて告白するのも手段のひとつだと思う。裏技ですけどね。

 

■ 夢を追う人は自然と集まる。その中に「ゲームをやりたい」人がいた

大学を出た当時、横浜市の日吉に住んでいたんですが、音楽をやりたいとかそういった人のまわりには、何かしら夢を持った人が集まってくるんです。映画をやりたい、絵を描いていきたいといった風に。その映画をやりたい人に声をかけてもらって、日活ロマンポルノの曲を書いたこともあります。ある日、そのグループの中に「ゲームを作ってる」という人が仲間に加わったんです。女の子だったんですが、スクウェアで働いていて、そこから坂口博信さんを紹介されたんですよ。「いま作っているゲームの音楽を作ってくれる人がいないから、手伝って欲しい」って。それが「クルーズチェイサー ブラスティー」というゲームでした。当時は、「曲を作って、お金がもらえて、すごいな。なんて幸せなんだ」と思いました。

それから、何本か、坂口さんに声をかけてもらって、ゲーム音楽を作るんですが、2年ほど経ったら、日吉の街で偶然、坂口さんにばったり会ったんです。すると「今度、スクウェアをちゃんとした会社にするから、こない?」と言われて、「はい」と即答しました。履歴書なんて書いてないですね。シンプルに、曲を書いて飯を食っていけるぞと思ったんです。

 

■ ハードの制約があるからこそ、仕事が面白かった

スクウェアの社員として音楽を担当するようになっても、ただただ毎日、音楽を作り続ける日々でした。あまり、周囲の評価は気にしていませんでした。曲を作ることそのものが楽しかった。ゲームがヒットして、周囲は段々、すごいことになっていったみたいですけれど、僕自身はシンプルに曲を作り続けていたんです。

そのころ考えていたのは、「ファミコンやスーパーファミコンで、どうすれば表情豊かな音楽を作り出せるのか」ということなのです。ファミコンなんて3音しか音が出せない。じゃ、どうするんだという話なんですが、まともに3音で音楽をやってもダメだ。そこで音楽は2音でやって残った1音はエコーパートにした。それがうまくいったんです。「ファイナルファンタジー」でもⅡでいろいろと試して、Ⅲで「よし、できたかな」と思っていました。

Ⅳ以降はスーパーファミコンですが、今度はどれだけいい音に聞かせるか、なんとかしてゲームに歌声を乗せられないかを考えていました。当時CD-ROMのハードもあって、ゲーム中で歌が流れることはあったんですが、「ゲーム中にデータの読み込みでユーザーのプレイを中断させてまで歌を流したくはない」と思っていました。その一つの結論がⅥのオペラのシーンでしたね。

よく当時のハードは制約が多くて大変だったでしょうと言われるんですが、制約というかルールがあったほうが楽なんですよ。ファミコンでは3音しか出ませんと言われると、すごく面白いと感じてしまう。ゲームだって、ルールの中で遊ぶじゃないですか。それと同じで「このゲームの音楽を作れ。ただし、音は3音だけだ」というわけです。仕事なんですけれど、ゲームみたいなんですね。

 

■ 「音楽以外のことは一つもしたくない」というレベルの覚悟はあるか

今、音楽で飯を食べていきたいという人にとっては、「聞いてもらうだけならすぐにでも実現する」時代ですよね。DTMで曲を作って、ネットにアップすればいい。昔は、それこそ、駅前で歌うとかデモテープを送るしかなかった。それをクリアして初めて他人に自分の音楽を聴いてもらえた。今はただ聴いて欲しいだけなら、すぐに実現できるんですよ。それでもプロになりたい、音楽で飯を食べたいとなると、それこそ「音楽以外のことは一つもしたくない」「音楽で食べていくんだ」というくらいの覚悟が必要なんだと思います。

更に長く音楽を続けていくとなると、「音楽で何をしたいのか」が大事になってくるんです。今どきは、5万円のパソコンがあれば音楽を作ることはできる。「カッコいい音楽を作りたい」だけなら、それでできてしまうけれど、例えば僕は「音楽で和を求めたい」と思っている。音楽を聴くと嬉しい、悲しい、楽しいといった感情はすぐに共有できる。音楽なら、言葉が通じない人同士でも感情を共有できる。音楽なら、世界中にある壁を取りはらえる。そう、本気で思っているんです。小学4年生が言葉もわからないウィーン少年合唱団の歌声で感動したんですから。

 

■ 改めて初心に帰る。やりたいという気持ちがある限り、音楽は続けていく

今、長く御世話になったスクウェア・エニックスを離れて、音楽と向きあっています。長い間、ゲーム音楽をやりつづけてきて、仕事としては成功したかもしれない。でも、改めて、「音楽で飯を食いたい」と思った頃の気持ちに戻ってみたいと感じたんです。全力で、楽しく、面白く仕事をしてきました。そこには不満もなにもないんです。でも「今やっていることは本当にやりたいことなのか? 仕事だからやっているのか?」と聞かれたら、自分でわからなかった。だから、ゼロからやり直せないかなと。今やりたいことは、シンセ一台だけでソロライブとか。今その準備は進んでいますし、もしかしたら、youtubeで新曲をアップしているかもしれません。まだ「やってみたい」という気持ちがある限り、音楽を作り続けるでしょうね。


 

■株式会社DOG EAR RECORDS
株式会社ドッグイヤー・レコーズは、2006年10月、国内は元より全世界で高い評価を受ける作曲家植松伸夫を中心に設立されました。音楽をはじめサウンドを通じて世界中の人々と「笑顔を分かち合うこと」を目的として、以下の事業を展開しています。

レーベル機能
植松伸夫の作品をはじめ、ドッグイヤー・レコーズが制作・プロデュースした様々な作品をCDやデジタル配信を通じて全世界に向けて発信します。

サウンド制作
植松伸夫が四半世紀以上第一線で制作し続ける「ゲーム音楽」をはじめ、「アニメ」、「映画」、「TV」などあらゆる音楽の企画・制作業務を行っています。また音楽に限らずサウンド・エフェクト(SE)の制作、ダイアログ(セリフ)収録・編集などサウンドに関連する全ての業務に対応しています。

アーティストマネージメント
「犬耳家の一族」に所属する作曲家、編曲家、アーティスト、ミュージシャン、サウンドクリエーターなど様々なクリエーターのマネージメント業務を行っています。また、植松伸夫の公式ファンクラブ「中位のおっさん」の企画・運営も行っています。

音楽出版業務
関連会社「有限会社SMILE PLEASE」にて、音楽著作権管理、運営などの音楽出版社業務にも対応しています。

コンサート・イベント
オーケストラ、ロック、ポップスなど様々なジャンルのコンサートの主催・企画・制作・運営を行っています。

株式会社DOG EAR RECORDS
http://www.dogearrecords.com/

植松伸夫公式ファンクラブ『中位のおっさん』
http://www.uematsufc.com/

植松 伸夫(うえまつ・のぶお)

1959年、高知県高知市生まれ。


作曲家。「ファイナルファンタジー・シリーズ」のほとんどの作曲を手掛ける。2004年、ゲーム音楽に限定せず、幅広く音楽活動を行うため、スクウェア・エニックスを退社、2006年に自主レーベル「DOG EAR RECORDS」を設立。

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