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『おろち』『洗礼』『漂流教室』など独特の世界観を持つ作品で、海外からも高い評価を受ける漫画家・楳図かずおさん。1995年以降、腱鞘炎のため休筆を続けている漫画界の巨匠が、77歳にして映画監督デビューを飾ります。自ら脚本も手掛けた楳図作品創造の秘密を解き明かす自叙伝的ストーリー『マザー』の公開を前に、楳図さんにお話を伺いました。

 

■ 創作の原点は、小さい頃から触れていた絵と、土地に伝わる怖い話

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自分のクリエイティブの素になったものを振り返ると、小さい頃から触れていた絵だと思います。

今回の映画『マザー』にも出てくるのですが、僕が初めて鉛筆と紙を手にしたのは、生後7か月の頃だったようです。それは、母親の思いつきの実験なのですが(笑)、歩行器に座っている僕を見て、「この子に鉛筆と紙を持たせたら書くかなぁ」と思って「丸はこう書くんだよ」と教えたらそのように書いたので驚いたそうです。
それをきっかけに、「丸に丸を足していけば花になるよ」などと教えたらしいんですね。

そのうち、母親にも「あれ書いて、これ書いて」とお願いするようになって。母親は絵が得意でなかったので、絵本を読み聞かせて、そのうち僕が自分で読むようになれば書かなくてすむと思ったようです。それで買ってきた絵本が、家にはたくさんありました。

中でも記憶にあるのは、汽車や電車の絵本です。濃尾平野の田んぼの中を電車がコトコトと走っているような絵本や、キンダーブックはよく覚えています。山の中の生活が多かったので、絵本を読んだり、絵を書いたりというのが、遊びの中心でした。

あと、強く影響を受けたのは、父親から寝物語として聞いた話です。父親は『かちかち山』『さるかに合戦』『因幡の白兎』『ヤマタノオロチ』の岩見重太郎オロチ退治など、いろいろな昔話を聞かせてくれました。

その中で、一番記憶に残っているのは、『お亀ケ池のへび女』。それは土地に伝わる話なので、すごいリアリティがあるんです。昼間には僕を自転車に乗せながら、父親が土地に伝わる物語の舞台になった場所を教えてくれました。「あそこに見える岩は小太郎岩だよ」などと言って…小太郎岩というのは難病の小太郎という子を持つお母さんが、”これから、いいところに連れて行ってあげるよ”と言ってその岩の上に連れて行って後ろから突き落としたとか…そういう土地に伝わる怖い話です。舞台となった場所を見ることで、より本当らしく聞こえるものだから、恐怖感が増していきました。

そのことから、例えばお亀ケ池を参考にして怖いものを書こうと思った時に、創造性だけ膨らませても「本当かなぁ?」と受け取ってもらえる部分が貧弱だと、それは「ものを作っている」ということにならないなぁと気が付くきっかけにもなりましたね。クリエイティブに繋がるリアリティの大切さ…父親から話を聞いていた当時は、その意識はないですが、後に『へび少女』などの執筆に繋がった時に、そのことを強く実感しました。

 

■ “母親”という特別な存在をテーマに

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© 2014「マザー」製作委員会

長い間、創作活動を続ける中で、映像にも以前から興味はありました。チャンスがあれば撮りたいと思ってはいながらも、なかなかその機会に巡り会わなかったのですが、今回、周りからお話をいただいて映画監督をすることになりました。

そこでテーマにしたのが、自分にとって大きな存在の”母親”です。母親は、他に置き換えられない特別な存在ですね。もし、世の中に男性がいなくなって、女性だけになったら子孫が途絶えるかと言ったら、それでも突然変異で続いていきそうな、そこまでの大きなパワーを女性には感じますね。母親は、自分たちが分かっていないような世界の謎も抱えた存在だと思います。

その”母親”をテーマにストーリーを作って、映像作品に仕上げていくにあたって実感したことは、やはり、物事は自分一人ではできないなぁと。特に映画では、大勢の人が関わるので、”みなさんのお力をお借りして”ということだと思いますが、そこで監督という役柄は全体をうまくまとめて、一つの方向に持っていくお仕事だと思うので、その大切さを思いながら制作していました。

 

■ 楳図流”恐怖”の描き方

© 2014「マザー」製作委員会

今回の『マザー』の前にも、映像でホラーを作ろうとしたことがあったのですが、その時は関わる方のドキュメンタリーへの拘りが強くて、うまくまとまらなかった経験があります。

「こういう風に作りたい」と説明して、理解してくれようとはするのですが、やはり「ホラーの見せ方の部分がきつい」と言われてしまいました。具体的に比べると、ドキュメンタリーは事実の流れで綴られますよね。でもホラーは”やにわに”そこにバッと何かが現れる、というのがあって、論理はその時点では存在しません。
それに対して、ドキュメンタリーに携わっている方は、道筋があって論理がないとダメだという想いが強いんですね。でも、ホラーにそれを取り入れたら、先読みされてしまって「この流れだったら、こんなのが出てきそう」と分かってしまうので、ホラーの一番のポイントは、その”やにわに”というところだと思います。

見抜かれてしまうと怖さが半減してしまうので、もしドキュメンタリー的な流れで物事が起きる前の段階で伏線を張るなら、気付かれない伏線の張り方はあるんですよね。そういうことに通じていないと、ホラーの演出は難しいです。そのような恐怖の描き方は、これまで恐怖をたくさん描いてきただけあって、日本で一番分かっているかもしれないと思っています。

 

■職人とクリエイターの違い…”新しいことをやる”

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漫画の表現でも映像の表現でも、リズムが大切というのは同じだと思います。ストーリー全体のバランスにもよりますが、どのくらいが見ている人に違和感を抱かせない長さなのか、というのがリズムの問題です。

例えば映画で、動き方がいつも同じのっそりとしたパターンだと、見ている人は違和感を抱くので、ここはのっそり、でも別の所ではバッと勢いよく!とか、そういう変化も含めて見せるように意識しました。

漫画でも、動きはなくても場面転換の仕方にリズムがうまくはまることが重要です。リズムが良ければ、それだけで成り立つこともあると思います。一つの設定だけでリズムよく、手を変え、品を変えすると成り立ってしまうパターンもありますが、それに加えて作品に奥行きを出すためには、ちゃんとした骨子があって、新しいメッセージが毎回あるものを作っていきたいですね。
作ったことは皆、過去になるので、新しいところに向けて考えなければ、という想いがあります。

職人さんにとっては、同じことを繰り返して、その中で身についた見抜く力、というのがあります。寸分の狂いもなく、繰り返しながら極めていく技があると思うのですが、クリエイターは、やはり新しいことに目を向けなければいけないと思います。これから、ものづくりをしたい、という方に心がけて欲しいことも「新しいことをやる」という一言に尽きます。「新しいことをやる」と一言で言うと、粗雑に聞こえてしまうかもしれませんが、それが一番分かりやすいんです。例えば「何かを参考にしました」と言ったら、そのもののコピー、マネになる恐れがあるので、そこから抜け出すためにまた考えを巡らすことになりますから、最初から「新しいもの」と決めたら、その方が楽なんですよね。その方向で一生懸命考える、ということで、一言で言えば、それに尽きるのだと思います。


■ 作品情報

『マザー』
9月27日(土) 全国ロードショー

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© 2014「マザー」製作委員会

出演:片岡愛之助、舞羽美海、中川翔子(友情出演)/真行寺君枝
監督:楳図かずお
脚本:楳図かずお、継田淳
製作:「マザー」製作委員会
制作プロダクション:トラヴィス
配給:松竹メディア事業部

■オフィシャルサイト
http://mother-movie.jp/

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楳図 かずお(うめず・かずお)

1936年9月3日和歌山県生まれ、奈良県育ち。1955年、18歳で『森の兄妹』でプロデビュー。1966年には講談社『少女フレンド』に連載した『ねこ目の少女』『へび少女』で恐怖漫画の第一人者として知られるようになる。1967年『少年画報』にて連載した『猫目小僧』は1976年にTVアニメ化されている。1975年『漂流教室』ほか一連の作品で小学館漫画賞を受賞。一方で1976年から発表した『まことちゃん』でシュールなギャグが大ブレイクし、"グワシ"ポーズが社会現象となった。
その後も『おろち』『わたしは真悟』『14歳』など、時代を先取りした独創的な作品を次々に発表、その多くが映像化されている。創作活動と並行して活発に音楽活動も行っており、1975年にLP『闇のアルバム』、2011年セカンドアルバム『闇のアルバム2』をリリース。現在は腱鞘炎悪化のため休筆中だが、タレント、音楽家として稀有な独創性を発揮し続けている。


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