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切れ味鋭い「池上無双」で選挙をおもしろくしてきたテレビ東京の選挙特番チーム。『池上彰の選挙ライブ』プロデューサー鈴木亨知さんに聞く

ジャーナリストの池上彰さんをメインキャスターに迎えたテレビ東京の選挙特番『池上彰の選挙ライブ』。インターネット上では池上さんが政治家に容赦ない質問や指摘を浴びせる様子を指して「池上無双」と表現され、この番組でテレビ東京は「下剋上」を起こしたとまで言われました。2014年12月『池上彰の総選挙ライブ』は視聴率11.6%で在京民放1位、21時台はNHKを抜き在京テレビ局トップを記録したのです。角川新書より出版されている『池上無双 テレビ東京報道の「下剋上」』(福田裕昭+テレビ東京選挙特番チーム)によると、同番組は制作陣が「これまで見たことがない選挙特番」を目指してつくったものと言います。ユニークな当選者プロフィールや、政治家への鋭い突っ込みなど、気になるその番組作りについて、選挙特番チームでプロデューサーを務める鈴木亨知さんに伺いました。

 

■ 政治記者、営業…全ての経験が糧に

中2の時に起きた日航機の墜落事故が、テレビ報道への興味が芽生えたきっかけでした。その後もグリコ・森永事件の報道などを通して、テレビで社会的に関心の高いことを伝えることへの興味が膨らんでいきました。そして大学3年生の時には、自民党政権が倒れて細川連立内閣ができるという大きな節目を目撃します。激動の政治状況の中で、当時の政治報道に接したことで、自分もそのように伝える仕事がしたいと思い、テレビの仕事を選びました。

テレビ東京に入社してからは、希望の報道に配属され、入社3年目で政治記者になり、現場を学びました。その後、営業でも5年間の経験を積みました。営業での経験は、報道とは違う民間放送ならではの仕事ですが、テレビ番組がどうやって出来上がって、どうやって支えられて成り立っているのかをまた違う角度から見ることができました。その後、『ワールドビジネスサテライト(WBS)』のディレクターや他の経済報道番組に携わって、生きた経済の現場を深く知ることになります。

それを経て携わった『ルビコンの決断』『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』では、得た情報をどう視聴者に分かりやすく伝えるかに取り組んできたので、これまでの全てが糧になっていると思います。

 

■ 候補者が伝えたいプロフィールと、有権者や視聴者が知りたいプロフィールは違う

池上さんが政治家に容赦ない質問や指摘を浴びせる様子を指して「池上無双」とも表現される『池上彰の選挙ライブ』について、スタート当時、僕自身は他の番組に携わりながらも、画期的なことだと感じていました。

どの選挙区で誰が勝ったと言う伝え方とは違う切り口なので、こんなやり方があるんだ、と驚きの思いでした。自身の政治記者経験から見ても、考えられない伝え方でしたし、選挙報道で当選確実になった候補者の万歳やインタビューとは違う伝え方をするというのは、一歩踏み出せない領域ですよね。

例えば当選者のプロフィール情報について、池上さんと話しているのは、候補者が出しているプロフィールは、候補者が伝えたいプロフィールなので、それは有権者や視聴者が知りたいプロフィールとは少し違うはずだ、と。そこで、『池上彰の選挙ライブ』では、余計なおせっかいとでも言いましょうか(笑)なかなか当人が気恥ずかしくて出さないようなプロフィールを掘り出すことで、政治家の実像や人となりを伝えたいと情報収集しているんです。

その結果、例えばある政治家の紹介では「特技:猫の爪切り」というような内容が入っていて、インターネットを中心に話題になったこともありました。過去のトラブルや不祥事と呼ばれるような情報を取り入れることもありますが、それも敢えて触れるという意識もなくて、この政治家がどんな人かより良く知ってもらうための材料として出している、という意識です。その内容が今の政治活動に繋がっている、行動に影響を与えているという観点から、あくまでも視聴者にその人となりを伝える助けになれば、というところですね。

 

■ 「攻めている」番組作りというのは“結果”

生中継が繋がった政治家に対する鋭い質問や、取材したい候補者がいたらいつでも直撃する姿勢などから、攻めの番組作り、と言われることも多いのですが、「攻めている」というのは、あくまでも“結果”なのだと思います。

もちろん、生中継をするにあたっては、しっかりと事前情報を得て、何を聞きたいかは池上さんと話をします。ただ、こちらの質問にきちんと答えてもらえないことや、想定外の流れになることもあるので、池上さんに自由にやってもらっているところが大きいんです。
こちらが全ての質問を想定して、敢えてセンセーショナルなことを聞こうというよりは、「聞きたいことを聞こう」というスタンスです。それがこれまでの政治報道では見過ごされていたポイントに触れていたので、タブーを破ったというような表現もされましたが、そこを意識していたわけではなくて、聞きたいことを聞いたら、それがたまたまこれまでの選挙報道で触れられていなかった、ということで。池上さんとしては、当選して国民の税金を使う立場になった政治家に対して、仕事をきちんとしてもらえるかという資質をえぐり出したいという思いはあるかと思いますが、あくまで自然なスタイルで聞きたいことを聞いてきた結果だと思います。

2016年7月で池上さんをメインキャスターに迎えた選挙特番は5回目になります。政治家に聞きたいことを聞くというスタイルのインタビューは、徐々に政治家の間でも知られるようになってきて、予定していた方に出てきてもらえないとか、そういうことも増えているように思います。

前回2014年12月の選挙報道から顕著に感じるのは、候補者のプロフィールを他局も取り入れてきたり、より企画性のある内容が増えてきたので、『池上彰の選挙ライブ』が意識されているのかなと感じる部分もありますが、そうは言ってもやれることはまだまだあるし、やりたいこともあります。他と違うことができるのがテレビ東京の強みで、機動力を発揮できる部分だと思っています。こちらとしても他局での報道は意識しますが、新しいことをするチャレンジャーの気持ちは変わりませんね。

 

■ 様々な人の意見に触れる

2016年7月の参院選にあたっては、3週間前特番『池上彰の今、知りたいニッポンの大問題』も放送しました。この3週間前特番では、池上さんがスタジオに招いた100人の観客とやり取りしながら進めるという、今までなかった試みを取り入れました。そして、単にスタジオに100人を招くということではなく、その比率が重要で。18歳から70代までの方を招いた、その人数の比率は1億人いる日本の有権者を100人に例えた比率にしました。それで観客の姿を見れば、日本の現状が一目瞭然なので、そこをリアルに伝えられたのは良かったと思っています。

同特番内では、スタジオに集まった100人に対して「政治家を信用していますか?」などの質問を投げかけて、「○」「×」の答えを出してもらいながら、詳しく考えを聞いていくような場面があったのですが、その質問に対して「○」を掲げた方が、「基本的に人を信用したいから」と話されるような一幕もありました。

そこで池上さんも口にしていましたが、「政治家は普通に政治家の仕事をしていてもニュースにならない」と。メディア側として、何がニュースかというと、求められていることと違うことをやってしまった場合だったりもします。そういうことがあると同じような切り口で集中的に報道されることが増えるので、我々もそこを振り返っての自問自答は必要だと思います。政治報道だけではなくて、何をどう伝えるかという難しさには、謙虚に向き合っていかなければいけないと、制作側としても改めて感じましたね。

同特番のように様々な人の意見に触れる、というのは、これから報道の仕事や映像制作の仕事に携わりたい、という方に対しても言えることだと思います。いろいろな意見に触れて、いろいろな人に会って、いろいろな番組を見て本を読んで、いろいろな考え方があるということを常に意識して情報収集して欲しいですね。自分が知りたい情報だけを得るというよりは、常にそうではない見方もあることを意識して、視野を広く持って欲しいです。それは、自分自身がいろいろな部署、仕事を経験する中で、より強く抱いていった思いでもあります。


■書籍情報

『池上無双 テレビ東京報道の「下剋上」』

cover
著者:福田 裕昭+テレビ東京選挙特番チーム
角川新書

選挙報道で大反響を呼んだテレビ東京『池上彰の選挙ライブ』。タブーなき政治報道を貫くスタイルは「池上無双」と呼ばれる。番組を通して、選挙とは? 政治家とは? 政治報道のあるべき姿を語る。解説は池上彰氏。
http://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g321601000758/

鈴木亨知(すずき・ゆきちか)

『池上彰の選挙ライブ』プロデューサー
1971年、愛知県生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。1995年、テレビ東京入社。
政治記者、『ワールドビジネス・サテライト』ディレクターなどを経て、『ルビコンの決断』『カンブリア宮殿』のプロデューサーを務める。現在、『ガイアの夜明け』を担当している。

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