注目企業の中の人によるコラム
デザイナーのキャリアの一つとして、インハウスデザイナーがあります。その業務領域や働き方は所属企業によって様々ですが、今回はマーケティング・リサーチのリーディングカンパニーである株式会社マクロミルの事例を、実際にインハウスで働く方々に寄稿していただきます。第3回目はWebマスター・松本さんによるコラムです。

事業会社のインハウスデザイナーの組織課題とその改善策について以下のような方に向けてお伝えします。

  • 事業会社のインハウスデザイナーの組織課題(デザインチームの意見が尊重されづらい)を感じている
  • デザインチームが事業会社に貢献できる方法を知りたい

はじめに

事業会社のインハウスデザイナーは、社内での立場が弱くなりがちです。私も前職の事業会社ではデザイナーより営業の意見を優先せざるを得ないケースがよくありました。デザインチームの意見が尊重されにくいため、ポテンシャルが十分に発揮できておらず、メンバーの不満も溜まっていました。しかし、このような状況から様々な努力を経て、数年後には社内で受賞を果たし、さらには経営陣から意見を求められるようなポジションに変化しました。

インハウスデザイナーが抱える組織課題の解決方法とは?

売上目標が課されている部署から切り離す

広報、セールスプロモーション、プロダクト開発など、所属する部署と求められている役割にもよりますが、売上に直接関係する営業部などの部署からはなるべくデザインチームを切り離すことをおすすめします。デザインチームと営業部の立場に上下関係が自然とできてしまうことで業務の妨げになるからです。

私が前職へ入社した頃は、営業部の中の一組織としてデザインチームが存在していました。従って、所属している部署には達成すべきノルマが存在していて、その達成率で各部署の成績が決まりました。よって、直接売上を創出することの出来ないデザイナーは、営業部のお荷物としてとらえられ、自然と上下関係が出来てしまっていたのです。

結果、その関係性からデザイナーが受動的になってしまったことで業務がうまく進まないことがありました。前職では、そのような問題が段々顕著になっていったため、デザインチームは営業部と切り離され、管理部門の部署へ異動しました。

事例 営業部の中の一組織としてデザインチームが存在。所属している部署には達成すべきノルマが存在していて、その達成率で各部署の成績が決まっていた。
課題 直接売上を創出することの出来ないデザイナーは、営業部のお荷物としてとらえられ、上下関係が生まれた。/デザイナーが受動的になってしまった。
解決策 営業部から管理部門の部署へ異動

そのお陰でどの部署に対しても平等な立場で意見を交わすことができ、デザインチームから積極的な提案が出来る立場になりました。よって、デザイナーがよりストレスなく質の高い業務を行なっていくために、売上目標が課されている部署からは切り離す方が良いと思います。

他部署が煩わしく感じている定常業務を引き受ける

他部署が作成している資料を見て「デザインをもっとこうすればいいのに…」と思ったことはありませんか。そう思うような他部署の業務でデザイナーがサポートできる案件は率先して引き受けてみてください。定常業務である理由は、その方が周りに与えるインパクトが大きいからです。

実際に私が前職で年に数回行われていた社員総会で経験したことをお話しします。当時の社員総会のプロデュースは人事が担当し、デザインチームはサポートで照明と音響のみ担当していました。そこからきっかけが重なり、デザインチームがプロデュース担当を務め、照明・音響だけでなく映像・進行・企画を担当するようになりました。

結果、映像や演出の劇的な変化を目の当たりにした多くの社員からデザイナーチームのポテンシャルを見出してもらえる良いきっかけになりました。

このような他部署の業務を引き受ける取り組みを積み重ねることで、社内にデザインチームのポテンシャルを感じてもらえる機会がさらに生まれました。この結果、社内にてチームで受賞を果たすことになりました。このように、社内業務を率先して引き受け、デザインの力でより良いものを生み出すことが出来れば、デザインに関心のない部署もデザイナーのポテンシャルに気づいてくれるはずです。

周囲の課題をヒアリングする

先ほどの話は他部署が抱える「顕在的な課題」に対してのアプローチでしたが「潜在的な課題」にアプローチしていくことで、デザイナーチームの格はぐんと上がります。私はあるプロジェクトがきっかけで社内の課題をヒアリングしたことがありました。
そこでは、各々が今まで言えなかった要望や、デザイナーが解決できそうな課題があることに気づきました。この時の気づきをもとに、オウンドメディアや新規事業の企画提案の機会を得ることが出来ました。

結果、経営陣が気づいていなかった課題を明らかにしたことで「会社の課題を理解している」人として、意見を求められる場面が段々と増えていきました。これはデザイナー業務の範疇からは少し逸脱したケースだと思いますが、会社の課題を把握し、デザインの力でチームが会社に貢献する取り組みはデザインチームの地位向上に効果があると思います。

社員全員の顔と名前を覚える

私は業務上の関係で、社員1人1人の顔と名前を自然に覚えていったのですが、その情報が様々な場面で役に立ちました。例えば、社員を撮影したい場合に的確な人をアサインできたり、役員同士の会話に話についていけたり。また、「権力」の要素として、能力や、実績、地位、人的ネットワーク、人格、情報などが挙げられますが、最後の情報が一番取得しやすいものであり、その中でも社員の全員の顔と名前を覚えることは簡単だが意識しないと出来ないことです。

つまり、どんな実績や地位を持つ人でも意識しないと手に入らない情報力を持つことで、周りから重宝されやすくなるのです。会社の規模によっては難しいことですが、社員一人一人の情報を把握することが会社のブランドパーソナリティを知る良い機会になります。

タスクの可視化

最後に、チーム内で私が取り組んだことを紹介します。それはタスクを可視化し共有することです。

以前は、マネージャーがエクセルで全てのプロジェクトを管理し、週1で個々へ進捗を確認するスタイルでした。しかしこの場合、単発で急ぎの案件をカバーすることができず、結果個々でタスク管理をしている状態で、マネジメント側が全てのタスクを把握しきれず、各メンバーが“今”何をしていてどのような状態なのかが見えず、マネージャーがメンバーに対して誤解をし、一方メンバーがマネージャーを信頼できなくなることがありました。そこで、カードタイプのタスク管理ツールを導入し、全員が全員のタスクを閲覧でき、“今”何をしていてどのような状態なのかをリアルタイムで確認できるようにしました。

事例 マネージャーがエクセルで全てのプロジェクトを管理し、週1で個々へ進捗を確認
課題 急ぎの案件をカバーできない/タスクが可視化できず組織内の信頼度が下がる
解決策 タスクの可視化のためにカードタイプの管理ツールを導入

そうすることで、何が遅れていて、誰が手いっぱいなのかすぐわかるようになったため自然と協力体制が出来、誰に何の進捗を聞かれてもチーム全員が同じ回答をこたえられるようになったことで、他部署からの信用をも獲得することが出来ました。

▲クリエイティブデザイングループでも取り入れた、カードタイプのタスク管理ツール。
個人的にはUIの使いやすさからTrelloがおすすめです。

マネージャーはもちろん、メンバー全員が業務を開示することで無駄な情報の格差をなくすことで、チーム内外ともに信頼を得る鍵となります。

まとめ

ネットなどの記事を読むと、インハウスデザイナーは制作会社のデザイナーと比べ成長が遅くレベルが低い、と書かれていることにコンプレックスを感じ、勝手にインハウスデザイナーの限界を感じていた頃がありました。

しかし最近では、個人事業でデザイン業を請け負う側として機会をいただくことが増えてきたことにより、客観的にインハウスデザイナーの価値に気づくことがありました。それは、インハウスデザイナーを雇っていないお客様で、自社に合う外注のデザイン会社やフリーランスを見つけるのに苦労されていたり、外注デザイナーとのコミュニケーションがうまくいかずに困っている話を聞いた時です。

原因はたいてい相互のコミュニケーション不足による認識の不一致にありますが、そのような話を聞くたびに、「インハウスデザイナーがいれば、そのようなトラブルがなくうまくいくのになぁ」といつも思います。会社としても、インハウスデザイナーを雇えば、結果的に経費削減になり得、社内のリテラシー向上に貢献し、外注をする際にも適切な会社やデザイナーをアサインできるためどんなプロジェクトもトラブルなく進めることが可能になるのです。

私が現在所属しているマクロミルのクリエイティブデザイングループでも、デザイン組織の在り方からチームで議論し、「それぞれの案件を点ではなく、線として広い視野で捉える」「作りっぱなしで終わらない」などの社内プレゼンスを上げる取り組みを行なっています。

サイトリニューアル時には、運用後の管理方法も考慮したヒアリングを行い、案件を点ではなく線として捉えながらプロジェクトを推進しています。

インハウスデザイナーの魅力は、会社の課題を幅広くサポートできることです。「その仕事はうちの業務ではないから」「この業務はデザイナーがやることではないから」と担当業務を分けてしまうのではなく、目の前の困っている社員に対して、インハウスデザイナーができることを突き詰めて行けば、自ずと社内での立場は変化していくと思います。



マクロミルは、マーケティング・リサーチのリーディング・カンパニーとして世界19カ国に40以上の拠点を展開しています。グループ全体の従業員数は2,463名(2019年6月時点)。

企業サイト:
https://www.macromill.com/