誰でも気軽に農業や飲食店の体験、副業ができる融合施設が川崎に誕生しました。それがリーフ野菜の室内水耕栽培を行う“農家”とダイニングバーの融合施設「FUN EAT MAKERS」。これまでの農業のイメージとは一線を画すその存在は、2023年1月の誕生以来注目の的となり、農業推進のみならず、新規ビジネスによる地域活性化に地元自治体からも期待がかけられています。運営する株式会社コネクトアラウンドはクリエイターの生涯価値向上をミッションとするC&R社グループの一員。この「FUN EAT MAKERS」をクリエイターの副業にも勧めていると言います。川崎市を中心とした首都圏に住むクリエイターにとって、生活の延長で取り組める、「FUN EAT MAKERS」での副業とは?実際に、どんなことができるのか?運営する同社の浅井司さんにお話を伺い、現地の様子も見せていただきました。


浅井司
株式会社コネクトアラウンド代表取締役社長
明治大学大学院農学研究科を卒業後、クリーク·アンド·リバー社に入社。研究者の人材・技術紹介事業など、様々な事業を手がけ、2022年4月より現職。2023年1月から「FUN EAT MAKERS」事業をスタート。来年創業予定の6次化農業施設を通じた復興と地方創生事業(福島県大熊町)にも尽力している。

駅チカ・室内快適空間でのスマート農業

——商店街の通りから、栽培中の野菜が見えて目を惹きますね。私たちが思い浮かべる農家とは全然違います。

浅井:そうでしょう! これでも間違いなく農家なんですよ。室内栽培で一定の温度と湿度を保っていますから、一年中快適に作業ができます。主力生産品である6種類のリーフをパッキングして近隣の飲食店に卸し、併設されたダイニングバーではこのリーフを使ったお料理も楽しめます。1次・2次・3次を合わせた6次産業化を実現した駅徒歩5分の“農家&ダイニングバー”です。

FUN EAT MAKERS外観
神奈川県川崎市、JR南武線の武蔵新城駅から徒歩5分。にぎやかな商店街の中にある「FUN EAT MAKERS」。

——とても新しい発想ですが、どのような経緯でこの「FUN EAT MAKERS」は生まれたのですか。

私たちコネクトアラウンドは、映像、ウェブ、サイエンスなど、多様な領域で事業展開するクリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)のグループ企業として「農業」分野を担っています。今日本の農業は、不安定な収入や重労働などにより担い手不足が深刻になり、危機に陥っています。その危機を救うひとつの手段が、空き店舗などのテナントを活用した室内水耕リーフ栽培技術です。リーフ栽培に適した環境に制御した室内栽培で、一年中安定した収量すなわち収入を見込めます。こうした農業を広めることで担い手を増やし、農業全体の活性化が可能だと考えています。

今の生活を変えずに農業の基本を身につけられる

——技術面の習得はどのようになるのでしょうか。

室内水耕栽培の特徴は、従来の農業技術を習得していない人でも、IoTの力で効率的な生産を可能にしていることです。水耕栽培であってもリーフ栽培には農業の基本がぎゅっと詰まっています。1か月ちょっとで収穫できますから、1年で約8〜10毛作。種まきから収穫まで、非常に速いサイクルで経験ができます。1週間で全体像を見通せて、1か月くらいで基本は習得できるでしょう。座学で食品衛生や植物の生態などもお教えします。週1〜2日でも、数ヶ月で力をつけられます。C&R社は、クリエイティブ領域で働きたい人に、経験がなくてもプロフェッショナルを目指せる道筋をつけて支援してきました。「FUN EAT MAKERS」は、その農業版として機能を果たせるのではないかと考えています。今住んでいるところから通って、数ヶ月で農業の技術や、収益化するノウハウを身につけられるわけです。

FUN EAT MAKERS内の水耕栽培施設
外からの菌やほこりなどが入らないように、密閉されている。20〜25度、湿度40〜50%に保たれた快適な空間で、専用の衛生服と衛生靴、手袋で作業し、直接植物に手で触れることはない。

FUN EAT MAKERS内水耕栽培施設で作ったリーフを持つ女性衛生空間が保たれているため、洗わずに食べられる安全な野菜ができる。水耕栽培に使う水には健康な野菜の育つ栄養が含まれて無農薬、LED照明が効率よく光合成を促進。植物にとっても無理のない環境。

FUN EAT MAKERS内水耕栽培施設で作ったリーフ
栽培の中心は味・見た目・栄養価から厳選した6種類のリーフ。これを袋から出してお皿に盛るだけで使える「オードブルサラダパック」として、焼肉、ハンバーガー、フレンチ、イタリアン、さまざまな飲食店に提供している。

FUN EAT MAKERS内水耕栽培施設の野菜で作った料理
オリーブオイルと塩・コショウというシンプルな味つけで食べても、野菜それ自体の味、香りがしっかり感じられ、リーフごとに「シャキシャキ」「パリパリ」いろいろな食感が楽しめる。

農業は副業に向いている仕事

——就農というとハードルが高く感じられますが、これなら都市に住む人もこれまでの生活の延長で取り組めそうです。だから、就農を目指す人に「まず副業から」と勧められるのですね。

はい。必ずしも本格的に農業をやりたい人だけではないですよ。本業の傍ら農業を行うことはいろいろなメリットがあります。「農業」はどんな人にとっても欠かせない「食」に関わる事業。そんな社会の根幹に、週1日でも携われることはとても楽しくやりがいのあることです。そもそも農業は、兼業農家も多く、雪国では夏場だけ農業、冬は別の仕事という就業スタイルもポピュラーなので、副業ととても親和性が高いのです。

——これだけ緑に囲まれていると、目にも優しそうですね。

そう思います。種をまいて、芽が出て大きくなっていく「生き物を育てている」感覚も精神の安定にとてもいいんです。収穫というひとつのゴールにたどりつけばとても嬉しく、それを食べればおいしいからまた嬉しい。「FUN EAT MAKERS」は収穫、出荷で終わりではなく、リーフを使ったお料理を併設のダイニングバーでお出ししますから、そこでお客様から感想を聞けてさらに嬉しさは募ります。ダイニングバーで接客をしていただく副業もお勧めしています。

FUN EAT MAKERS施設内の様子(入り口から全景)スタンディングスペースとテーブル席6席を設けたダイニングバー。店員とお客様の距離が近く、飲むこと食べることを楽しむのにちょうど良い空間。

1日店長・シェフとして飲食の副業や開業準備も

——クリエイターだからこそのお勧めポイントはありますか。

たとえば、「FUN EAT MAKERS」の通りからの見た目。これは建築士のアイディアで、「外から栽培の様子を見えるようにすることで、通りを歩く人が興味を持ってくれるだろう」というデザイン思考のあらわれです。リーフのパッケージは業務用で何も書いていませんが、これにデザインを施し、新しい価値を加えることも考えられます。接客では、プレゼンテーションやコミュニケーションのスキルが磨かれるでしょう。また、ダイニングバーでは、将来的に飲食業を営みたい人が、日替わり店長として自分のお料理を出す形での副業もあります。料理は一種のエンターテインメント。クリエイティブな仕事をしている人は、副業、あるいは将来の本業として考えている人も少なくないのではないでしょうか。

FUN EAT MAKERS施設内の様子(カウンター)電子レンジやIH調理器などが完備されたキッチン。

FUN EAT MAKERS施設内の様子(接客する女性)
ここで料理をふるまう人は、必要な機材や器があれば持ち込みOK。接客のみでも参加できる。

——本業のノウハウを活かせるほか、本業にもよい影響があるわけですね。

はい。さらに、幅広い業界の管理職の方にも特にお勧めしたいのです。ここでは障がいを持った方も働いていて、障がい者も健常者も一緒に働く多様化の実践の場ともなっています。栽培のルールやワークフローは具体的にわかりやすくするように努めています。たとえば、種をまくスポンジに水を含ませる作業では「しっかり水を吸わせる」では人それぞれ違ってしまいます。「50回押す」とすれば誰でもわかりやすいですね。こうしたワークフローの書き直しを通して、私自身、これまで私が出してきた指示がいかにあいまいだったか、よくわかり勉強になりました。多様な人たちと一緒に働くことで、相手の立場に立って的確に伝える力がつくと思います。

FUN EAT MAKERS内水耕栽培施設で作ったリーフを持つ女性野菜を育てる、出荷する、提供する、どの活動も魅力的。

「FUN EAT MAKERS」から、将来の道筋も開ける

——今後「FUN EAT MAKERS」はどのように発展していくのでしょうか。

世の中の人に「こういう農家もあるんだ」という認識を広められたらいいですね。そしてさらにグループ内のシナジーや、副業で参加される他分野のプロフェッショナルの方とのコラボで、農業の復活と発展に貢献できれば嬉しく思います。主に企業向けですが、「水耕栽培での野菜の生産と飲食店」というこの形でフランチャイズ展開することも計画しています。「FUN EAT MAKERS」で基本を体験した後、従来型農業の経験も積みたい人には、川崎市内をはじめとする農家を紹介することもできます。飲食についても、川崎市やC&R社グループの飲食部門と連携していますから、出店の希望があれば、関係機関につなぐことも可能です。

——これからの発展が楽しみです。ありがとうございました。

「FUN EAT MAKER」
川崎市中原区新城1-12-14
JR南武線・武蔵新城から徒歩5分、「あいもーる商店街」内。
FUN EAT MAKERS外観、看板

ここからは、よくある質問にお答えします!

Q,利用してみたいです。どうすればいいでしょうか?
A,興味を持っていただき、ありがとうございます!どのようなことに興味を持っていただいたのか、まずはお話をお聞かせください。コネクトアラウンドのHPから、受け付けております。

Q,利用にあたって、審査や条件はありますか?
A,【農業】まずは実習として体験していただきますが、アルバイト雇用の道もあります。履歴書のご提出と簡単な面談をお願いしています。面談では、生き物が好きかどうかなど人柄、ご希望の日程などを伺います。
【飲食】お仕事になりますので面談をした上で決定します! 運営ルールもありますので、詳しくはお問合せください。

Q,利用にあたって、お金はかかりますか?
A,【農業】衛生服と、衛生靴は実費で購入いただきます。(数日程度の体験であれば不要です)それ以外にお金はかかりません。
【飲食】お仕事として契約条件があります。詳しくはコネクトアラウンドのHPから、お問合せください。

Q,施設を見学してみたいです。可能ですか?
A,もちろん可能です。コネクトアラウンドのHPから、ご希望日を3日ほどお知らせください。

Q,どんな設備が使用可能ですか?
A,【農業】トイレ、ロッカールームが利用可能です。
【飲食】調理器具(IHクッキングヒーター、電子レンジ、オーブントースター、炊飯器、ブレンダー、電気ポット、冷蔵庫・冷凍庫)、お皿、グラス、カトラリーなどは自由に使えます。

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インタビュー・テキスト:あんどうちよ