2026年2月、ミラノ・コルティナ冬季オリンピックの開催により、スポーツメディアのあり方に新たな変化の兆しが見えています。長年、五輪ビジネスの主軸を担ってきたテレビ中継が、NBCUniversalによる広告枠の完売報道に象徴されるように依然として強固な価値を保つ一方で、SNSを通じた「個の視点」による発信が、大会の熱狂を補完する重要な役割を担い始めています。

本記事では、伝統的なメディアとクリエイターが共存し始めた2026年大会の動向から、これからの巨大イベントにおけるマーケティングの可能性を探ります。

「公式クリエイター」という新しい試み:メディア各社の戦略

今大会において注目されているのが、放送局やプラットフォーム側がインフルエンサーを「公式特派員」のような形で活用する「クリエイター・コレクティブ(Creator Collective)」的なアプローチです。

  • 信頼(Authenticity)の構築: 従来のテレビ中継とは異なる、クリエイター独自の感性による発信を認めることで、若年層などこれまで五輪に馴染みが薄かった層へのアプローチを模索しています。
  • リーチの多様化: マスメディアによる広域なリーチに対し、特定のコミュニティに強い影響力を持つクリエイターが加わることで、情報の届き方がより多層的になっていると考えられます。

アスリート自身による発信と「個」のストーリー性

近年のSNSガイドラインのアップデートに伴い、選手自身が自身の体験をリアルタイムでシェアする光景が一般化しています。

  1. 舞台裏の可視化: 支給品の紹介や選手村での日常など、公式放送のカメラが入り込まない領域のコンテンツが、視聴者に親近感を与えています。
  2. ブランド価値の新しい形: 完璧な競技成績だけでなく、一人の人間としての等身大な姿が発信されることで、スポンサー企業とファンの間に新たな共感の接点が生まれる可能性が期待されています。

短尺動画時代における「競技の切り取り方」の考察

タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する視聴者が増える中、コンテンツの消費形態も多様化しています。

消費の形態 ライブ中継を軸としつつ、SNSではハイライトや特定のドラマに焦点を当てた短尺動画が並行して消費される。
情報の拡散 IOCのガイドラインに沿った範囲内で、公式パートナーや関係者が提供する素材が、アルゴリズムを通じてより広い層へ届く仕組み。
認知拡大 検索行動に頼らず、レコメンド機能によって予期せぬ「競技との出会い」が生まれる機会が増加。

もしもあなたが「2026年五輪の公式クリエイター」だったら?

もし、あなたがこの歴史的な祭典を「クリエイター」として伝える立場にいたなら、どのような視点を提示できるでしょうか。専門性によって生まれる「もしも」の企画案を検討してみます。

職種 映像ディレクター / エディター
コンテンツ案 「雪と氷のASMR:ミラノ・コルティナの音像」
狙い 実況や歓声をあえて抑え、エッジが氷を削る音や雪を踏みしめる音だけで構成するシネマティックな短尺動画。現地の「質感」を音と映像で伝える手法です。
職種 ストーリーテラー / ライター
コンテンツ案 「結果の先にある、選手たちの日常」
狙い 競技直後の高揚感や、街のカフェで一息つく選手の姿など、一人の人間としてのドラマにフォーカスしたSNS連載。デジタル時代の読者が求める「人間味」をすくい取ります。

クリエイターが学ぶべき「巨大イベント」との向き合い方

今回の2026年大会の動向からは、大規模なイベントを「自分たちのコミュニティに適した文脈」で語り直すことの重要性が見て取れます。

  • コミュニティへの最適化: 全体的なニュースを追うのではなく、自身のフォロワーが何を求めているかを基準にした独自の切り口を優先する。
  • 役割に応じた使い分け: 深掘りするYouTube、瞬発力のTikTok/Reels、議論の場としてのXなど、プラットフォーム特性に合わせたコンテンツ配置。
  • ブランドとの調和: 広告的な演出を抑え、体験の一部として自然にプロダクトを溶け込ませるストーリーテリング。

共創の時代へ:クリエイティブの力が五輪の解釈を広げていく

2026年ミラノ・コルティナ大会は、放送メディアがその確固たる価値と信頼性を改めて証明する一方で、そこに無数の「個」の視点が加わることで、オリンピックの楽しみ方がかつてないほど多角化した大会と言えるかもしれません。

メディアが情報を独占する時代は過ぎ、これからは公式とクリエイターが互いの強みを活かし合いながら、一つのイベントを多層的に彩っていく時代です。この新しいバランスは、五輪のような巨大イベントに限らず、これからのあらゆるプロジェクトやブランド発信におけるコンテンツ制作の大きなヒントになるはずです。大切なのは、巨大な舞台に圧倒されるのではなく、自分というフィルターを通して何を見出し、誰に届けるか。そのクリエイティビティこそが、情報の洪水の中で人々の心を動かす鍵となります。

参考資料