「未経験歓迎」と書かれたクリエイティブ職の求人に惹かれて応募してみたものの、実際には経験者ばかりが採用されていた──そんな経験をした人は少なくありません。
デザイナー、動画クリエイター、ライターなど、ものづくりの現場に憧れを抱く人は多く、他業種からの転職を目指す人も年々増えています。
しかし、クリエイティブ業界では“即戦力”を求める傾向が強く、「未経験OK」の文言と実際のハードルの高さにギャップを感じるのが現状です。
では、本当に未経験からクリエイティブ職に転職することは可能なのでしょうか?
本コラムでは、業界のリアルな背景と未経験者がぶつかる壁、そして実際に転職を成功させるための現実的な方法とステップについて詳しく解説していきます。
1. なぜクリエイティブ職は「魅力的」に見えるのか?

未経験からでも挑戦したいと感じる職種のひとつが、デザイン・映像制作・Web制作・ライティングなどのクリエイティブ職です。
SNSやYouTubeでは、「好きを仕事に」「在宅で自由に働ける」「フリーランスで自分らしく生きる」といった華やかな働き方が数多く発信されており、そうした発信を見て憧れを抱く人は少なくありません。
他業種からの転職希望者が年々増えている背景には、こうした自由で創造的な仕事というイメージがあります。自分の手で何かを生み出すことができる、目に見える成果物が残る、将来的には副業や独立も視野に入れられるといった点が、人々を惹きつける理由です。
しかし実際に転職活動を始めると、「想像以上に狭き門」である現実に直面するケースが多くあります。
たとえば、未経験者歓迎と書かれた求人に応募しても、実際に採用されるのは何らかの経験を積んだ人だったという事例は少なくありません。
また、SNSで活躍しているクリエイターも、表には見せない長年の下積みや努力を経て今に至っているケースがほとんどです。
こうしたギャップが、未経験者が最初に感じる「理想と現実の壁」と言えるでしょう。
2. 「未経験歓迎」の裏側:クリエイティブ業界の転職市場の実情

求人票の中には「未経験歓迎」の文字が並ぶものもあります。しかし、それを真に受けて応募してみると、以下のような現実が待ち構えています。
実際には「即戦力」が求められている
求人票の中には「未経験歓迎」と記載されたクリエイティブ職の募集が見られます。
こうした言葉に希望を感じて応募する人も多いですが、実際に選考が進むと、現場のニーズは想像以上にシビアであることに気づかされます。
クリエイティブ職は、納期やクオリティが厳しく求められる仕事であり、制作会社や制作チームの現場では「即戦力」であることが最重要視される傾向があります。
そのため、未経験者に一から丁寧に教える時間や体制を取れる企業はごく一部に限られており、多くの企業では“ある程度できる人”を前提に採用活動が行われています。
たとえば、Webデザイン会社の求人では「未経験歓迎」と書かれていたにもかかわらず、選考時にはポートフォリオ提出を求められ、実質的には独学やスクールでスキルを身につけた人しか通過できなかったという例があります。
また、広告制作会社ではアシスタント職として採用されたものの、入社初日からクライアント案件にアサインされ、戸惑ったという声もあります。
このように、表面的には門戸が開かれているように見えても、実際には“実務に近いスキル”を持っているかどうかが採否を分ける基準になっているのが現実なのです。
3. 未経験からクリエイティブ職へ転職するには?

では、未経験者がクリエイティブ職に就くためには、どんな準備や戦略が必要なのでしょうか?
A. ポートフォリオが全てといっても過言ではない
クリエイティブ職への転職において、未経験者が最も重視すべきなのは「ポートフォリオ」です。
実務経験がなくても、自分で制作した作品を通じてスキルやセンス、取り組む姿勢を伝えることができるため、ポートフォリオの有無が選考の通過率に大きく影響します。実際、採用担当者の多くが「応募書類よりもポートフォリオを最初に見る」と話しており、
それが作品を通じて評価される職種ならではの特徴です。
ポートフォリオに含める作品は、必ずしもクライアントワークである必要はありません。
自主制作のWebサイトやバナー、動画、あるいは課題形式で取り組んだフィクションの案件でも構いません。
重要なのは、単なる作品の数ではなく、「何のためにそのデザインや構成にしたのか」という目的意識と、完成度の高さです。また、これらの作品を継続的に制作・更新していること自体が、熱意や成長意欲を伝える材料になります。
最近では、ポートフォリオ専用のWebサイトを制作して公開している応募者も増えており、URLを送るだけで手軽に作品を見てもらえる点で効果的です。実際、企業の採用担当者からも「紙のポートフォリオよりも、URLでまとめられている方が見やすく印象に残る」といった声が聞かれます。未経験であることを補う最大の武器は、まさに“見せられる実績”なのです。
B. クラウドソーシングで実務に近い経験を積む
未経験からクリエイティブ職への転職を目指す際、実務経験がないというハードルを少しでも下げるために有効なのが、クラウドソーシングや副業プラットフォームの活用です。たとえば「ランサーズ」「クラウドワークス」「ココナラ」などでは、スキルレベルに応じた案件が数多く掲載されており、初心者でも挑戦できるバナー制作や簡単な記事作成などの仕事が豊富に存在します。
こうした小さな案件でも、実際にクライアントとやり取りしながら納期を守って納品するという一連のプロセスを経験することで、「仕事としてやりきる力」が自然と身についていきます。たとえば、ある未経験のデザイナー志望者は、クラウドワークスで月に3〜5件のバナー制作を1年間続けた結果、その実績をポートフォリオにまとめ、Web制作会社への転職に成功したという例もあります。
さらに、これらの活動で得られた成果物や納品物は、れっきとした“実務経験”としてアピール可能です。単に自主制作した作品よりも、実際にお金をもらって納品した事例として説得力が増すため、選考時の評価にもつながりやすくなります。未経験からの第一歩として、現場感覚を養いながらスキルと実績を積めるクラウドソーシングは、非常に有効な選択肢といえるでしょう。
C. 現職に「クリエイティブ要素」を持ち込む
未経験からクリエイティブ職を目指す上で、必ずしもすぐに転職に踏み切る必要はありません。
むしろ、今いる職場の中でクリエイティブな経験を積むことが、現実的かつ効果的なステップとなります。たとえば、社内広報用のチラシやバナーを自作してみたり、プレゼン資料を動画形式で作成して発表したりすることで、「創る力」を実践的に養うことができます。
また、企業や部署のSNSアカウント運用を提案し、自ら担当することで、企画・運用・分析といった一連のスキルも磨くことが可能です。
このような取り組みは、たとえ本業が営業や事務であっても「職種をまたいで価値を出せる人材」としての評価につながります。
実際、ある営業職の方が社内報のデザインと配信業務を自ら担当し、それをポートフォリオとしてまとめた結果、未経験から制作会社のアシスタントディレクター職へ転職した例もあります。現職での成果は、単なる自主制作とは異なり、業務としての再現性やビジネス視点を持っている点が評価されやすく、採用担当者にとっても信頼材料となります。
転職活動に入る前から、日常業務の中で「創る」機会を探し、自ら手を挙げて取り組む姿勢は、結果として実務経験に近い価値を持つアピール材料となるのです。
D. 年齢やキャリアに応じた戦略を取る
30代以降でクリエイティブ職への転職を目指す場合、20代と同じように「未経験から挑戦します」という姿勢だけでは通用しにくくなります。年齢とともに求められるのは、純粋な制作スキル以上に「これまでのキャリアで何を積み上げてきたか」「その経験をどう活かせるか」という視点です。たとえば、プロジェクトの進行管理やチームのマネジメント経験、クライアントとの折衝や課題のヒアリング力など、ビジネススキルとの掛け合わせが重要になってきます。
特に強みとなるのは、既存の職種経験とクリエイティブスキルの“ハイブリッド型”です。たとえば営業職出身の人が、提案書に使うデザイン資料や動画を自作できるようになれば、「営業×デザイン」という新しい価値を提供できる人材になります。また、企画職出身であれば、ユーザー視点を取り入れたコンテンツ制作やキャンペーン動画の構成にそのスキルが活きるでしょう。
実際、30代で動画編集職へ転職した事例では、「元営業としてのヒアリング力と提案力」を武器に、ディレクション業務までこなせる編集者として評価されました。このように、単に「未経験の応募者」としてアピールするのではなく、「前職の経験を活かし、課題解決に貢献できるクリエイター」であることを示すことが、成功へのカギとなります。年齢を重ねたからこそ持てる強みを、戦略的にクリエイティブ職に結びつけていくことが重要です。
4. クリエイティブ職への転職は中長期戦で考える
多くの人が「今の仕事を辞めてすぐに転職したい」と考えますが、未経験の場合は焦らず長期的にキャリアを育てる視点が重要です。
スキル習得(1〜3ヶ月)
まずは基礎力を固める期間です。PhotoshopやIllustrator、Premiere Proなどの定番ツールの使い方や、デザイン・編集・ライティングの基本的な理論をオンラインスクールやYouTube、書籍などで学習します。短期集中で取り組むことで、自主制作にスムーズに移行できます。基礎が曖昧なまま作品制作に入ると、自己流で非効率になりがちなので、まずはツールを「使える状態」にすることが重要です。
作品制作・SNS発信(3〜6ヶ月)
基本を習得したら、自主的に作品を作る段階へ進みます。架空案件や課題をベースに、Webサイト、バナー、動画、記事などを制作し、ポートフォリオとして蓄積していきましょう。同時にSNS(XやInstagram)で発信すれば、モチベーションの維持やフィードバックの獲得にもつながります。継続的な制作は、スキル向上と「本気度」を伝える材料にもなります。
副業・受注(6ヶ月以降)
ある程度作品が揃ったら、クラウドソーシングや知人経由で小規模な案件に挑戦します。実案件では、納期厳守や修正対応など「仕事として完遂する力」が求められます。最初は報酬が低くても構いません。重要なのは、ポートフォリオに載せられる「実績」と、クライアントとのやりとりに慣れること。こうした経験が、書類選考や面接で大きな説得力を持つようになります。
転職活動スタート(1年目以降)
十分な作品と実績が蓄積されたら、いよいよ本格的な転職活動のフェーズです。
ポートフォリオは単に作品を並べるのではなく、「目的・意図・成果」を明確に伝える構成にしましょう。
また、応募先企業の方向性に合わせて内容をカスタマイズすることも重要です。職務経歴書では前職での経験とクリエイティブスキルの“掛け算”を意識して整理し、「この人だから採りたい」と思わせる戦略的な自己PRを行いましょう。
未経験でも「実力」と「姿勢」があれば道はある
「未経験歓迎」という言葉に期待してクリエイティブ職に挑戦しても、実際は即戦力が求められる現場に直面し、ギャップに苦しむケースも少なくありません。
しかしこの業界では、“経験年数”ではなく、“成果=見せられるもの”で評価される特徴があります。
大切なのは、自分で作り、発信し、反応を得ること。さらに現職や副業の中で実務に近い経験を積み、年齢やこれまでのキャリアを活かした独自の強みを築くことが、転職成功への鍵となります。
「クリエイティブ職に転職したい」という想いは、着実に行動すれば現実になる選択肢です。ご希望があれば、ポートフォリオ作成法や職種別の学習プランもご提案可能です。




