「仕事が嫌いなわけじゃないんです。むしろ、映像制作は天職だと思っていました」
そう語るのは、30代前半の佐藤真理子さん(仮名)。テレビやCMなどの映像コンテンツ制作に携わる制作会社で、ディレクターとして約8年間、第一線で働いてきた。

佐藤さんの一日は、夜明け前に終わることもしばしば。編集作業が深夜に及ぶのは日常で、クライアントの無理な修正依頼やタイトな納期に追われる日々だった。
「“泊まり込み前提”のスケジュールが、当たり前になっていました。終電で帰れる日は“今日は早いね”なんて笑い合っていましたが、心ではずっと限界を感じていました。」

月の残業は80〜100時間に及び、休日出勤も常態化。プライベートの時間はほぼゼロで、身体は常に重く、気力もすり減っていった。
そんな中、受けた健康診断で医師から「このままでは本当に危険」と警告を受けた。
「仕事が好きでも、命を削るのは違う。やっとそう思えるようになったんです。」

“働き方”を軸にした、初めての転職活動

これまで“好きなことを仕事にする”を信じて突き進んできた佐藤さんにとって、「働き方」を軸に転職先を選ぶことは大きな転換だった。
彼女がエージェントに最初に伝えた条件はシンプルだった。

  • 残業月20時間以内
  • 完全週休2日制
  • 柔軟な働き方ができる環境(在宅勤務・フレックスタイムなど)

紹介されたのは、IT系の自社プロダクトを持つ企業。マーケティング部門で、プロモーション映像やSNS向け動画を企画・制作するインハウス動画クリエイターのポジションだった。

「クライアントワークではないので、制作スケジュールに自分の裁量があるんです。それだけでこんなにも気持ちが楽になるのかと驚きました。」

生活は一変──“人間らしい生活”を取り戻す

転職後は、18時半には業務を終えて退勤。週に2〜3日は在宅勤務も可能で、身体にも心にも余裕が生まれた。
「夜ご飯を家でゆっくり食べられる。土日に友人と予定を合わせられる。そんな小さなことが、涙が出るほど嬉しかったです。」

健康状態も改善し、不眠や肌荒れといった不調も減少。何より、これまで後回しにしていた「自分の人生」にようやく目を向けられるようになった。
「最近、パートナーと将来の話をする機会が増えました。以前の生活では考えられなかったことです。」

担当したエージェントによれば、佐藤さんのケースは「クリエイティブ職であっても、働き方を見直すことで生産性も幸福度も向上できる」好例だという。
「職種を変えずに、環境を変えることで持続可能な働き方を手に入れる。これは、多くのクリエイターにとって現実的なキャリア選択肢です。」

「“好き”と“生活”、どちらも手に入れていい」
佐藤さんが最後に語った言葉が印象的だった。

「“好きな仕事だから大変でも仕方ない”と、自分を犠牲にし続けていました。でも、今は“好きな仕事だからこそ、長く続けられる働き方を選ぶべき”だと思っています。」

働き方は、我慢し続けるものではなく、選び直すもの。
あなたも、佐藤さんのように「好き」と「生活」を両立する道を見つけられるかもしれません。