近年、幅広い業界で注目度が高まっている「デザイン思考」というキーワード。デザイン思考は、顧客視点でプロダクトの本質的な課題を発見できるため、ビジネスでの応用が期待されています。デザインというアプローチは、見た目をキレイに整え、印象を良くするものだと考えられる傾向があります。しかし、デザインは日本語では設計と表現されるなど、非常に建設的かつ論理的な考え方に基づいているのです。

果たしてデザインのプロセスがビジネスにどんな影響を与え、どんなイノベーションを生むのでしょうか。デザインと混同しやすいアートとの違いも含めて、デザイナーにとって不可欠と言えるデザイン思考について紹介します。

デザイン思考はビジネスに応用すべき考え方

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多くの方は、デザインというアプローチについて見た目をキレイに整え、印象を良くするものと捉える傾向にあります。つまり、意匠性におけるイメージです。しかし、そもそもデザインは日本語では「設計」と表現されるなど、非常に建設的かつ論理的な考え方に基づいています。

デザインの目的は、顧客のニーズに合う解決策を生み出すこと。Webサイトにおいては、顧客のイメージを視覚的に表現したうえで、お問い合わせなどのコンバージョンにつながる導線を設計するなど、ビジネスに大きく貢献しています。それゆえに、どんなに優れたデザイナーだとしても、製品やサービスを扱う顧客を想定しなければ良質なデザインを組むことは難しいと言えるでしょう。

ビジネスにおいてもデザインの活用が高まっている中で、近年特に注目されているのが「デザイン思考」という言葉です。デザイン思考とは、デザイナーが行うデザインプロセスのことを指します。デザイン思考を活用することで人の思考力の幅を広げ、内容を具現化して相手に届けることで行動を促すことにつなげます。デザインには人々のビジョンをカタチにし、たくさんの人に伝え、動かすことができる素敵な力があるだけに、ビジネスシーンでは顧客課題に的確にアプローチできると考えられているのです。

たとえば、デザイナーの仕事を具体的にイメージしてみましょう。Webデザイナーが「何でもいいからサイトのデザインを作って」と依頼された場合はどうなるでしょうか。きっと「制作の目的を教えてほしい」「取り扱う業界は?」「何をアピールポイントにしたいの?」「メインカラーは?」「写真やイラストなど割合はどうする?」など制作において質問攻めに合うでしょう。

一方で顧客から「人材の採用サイトに合うフレッシュなデザインを希望する」という依頼であれば、ある程度方向性は固まりやすいはずです。「ベースカラーをどうするのか」「コンテンツの配置をどうするのか」「応募への導線はどう配置するのか」などのデザインプロセスの視点は、顧客の考えを理解しなければ思いを巡らせることは困難なのです。

デザインのプロセスを突き詰めて整理していくには、言語化する能力が求められます。優れたデザイナーになるほど言語化する能力に長けており、デザインのプロセスのアウトプットも上手な傾向にあります。このようにデザイン思考が高くなればなるほど、ビジネスの考え方の幅が広がるでしょう。さらに、顧客への伝達力も向上して、行動喚起にもつながりやすくなります。デザイン思考で顧客の行動や視点を分析し、そのうえで価値を提供することが、これからの時代ではより求められるでしょう。

デザインとアートの決定的な違いは視点

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デザインと同様に見た目など意匠性においてアプローチできる手法が「アート」です。クリエイターの中でもデザインとアートの違いを明確に区別できない方もいるのではないでしょうか。両者はビジュアルに関するクリエイティブを担っている点や、クリエイターとして自身のアイデアの創出が求めされる点は同じだと言えます。しかし、決定的に異なるのが「視点」です。

アイデアを創出する際に、デザインを組むうえで土台になるのは「顧客ニーズ」です。デザインは顧客の課題を解決すること、つまり問題解決を目的としています。顧客成果達成のプロセスのサポートが本質だと言えます。そのため、デザインした製品やサービスの見た目、色使いにおいても顧客視点・消費者視点が求められます。さらにそうした視覚的なセンスは、問題解決に必要な仮説・検証においても役立つのです。

一方のアートは、アイデアを創出する際の土台が自らの発想力や想像力、表現力に起因します。いわば感性に基づいた作品作りに従事するため、通常では考えられない突飛なアイデアが出てくることもあるでしょう。アートはアーティスト本人の感情、日常体験を中心に表現します。表現した先に必ずしも顧客やオーディエンスがいるとは限りません。アート作品は世間に対する疑問を表現することも役割ですが、必ずしも大衆に理解される必要すらありません。そのため、工程やプロセス、ルールも存在しないことがほとんどです。

しかし、有名なアーティストは名だたる偉人がたくさんいます。ピカソと聞けばアート作品や美術にくわしくない方でも認知しているでしょう。他方、「ジョナサン・アイブ」というデザイナーを知っている方はどれだけいるでしょうか。ジョナサン・アイブはiPodやiPhoneのデザインを手がけた人物です。Apple製品は世界中で愛されているにもかかわらず、デザインした人物を知る人はごく少数だと言えます。

つまり、有名なアート作品やアーティストほど、社会に影響のある問題提起がなされたと認知されて知名度が上がり、優秀なデザイナーは製品やサービスと自分を切り離していると言えます。この違いはデザインが顧客視点であること、アートが主観的な視点であることが根本的な要因と言えるでしょう。

顧客のニーズとシーズの2つの理解が重要

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デザイン思考は顧客ニーズに基づきますが、顧客に価値を提供する方法は2通りのパターンがあります。「課題解決型」と「価値提案型」の2種類です。

課題解決型は、顕在化している課題を解決するためのアプローチとなります。「顕在化」であるため、すでに明らかになっている顧客の課題を解決する意味があります。つまり、顧客の「ニーズ(NEEDS)」を満たすことが課題解決型の価値の提供方法です。デザイナーとしては、顧客の課題解決につながる物やサービスの設計をすることが最終目標です。

課題解決型は、通常のデザインプロセスをもとに顧客へのヒアリングなどの調査から始めて、本質的な課題を洗い出します。課題に対する解決策を検討して、それが顧客にとって価値のあるものなのかを検証します。「自社の製品を活用することで作業効率が20%向上します!」など、訴求しやすい点も特徴です。しかし、課題解決型は競合を意識したうえでスピード感のある制作を行う必要があります。

一方の価値提案型は、「顕在化する前の課題=シーズ(SEEDS)を解決するアプローチとなります。顧客に、これまでにない新たな価値を提案して「欲しい」「買いたい」と思ってもらうことが最終目標です。価値提案型は難しい側面があり、顧客が顕在化していない課題を把握しても、顧客自身が課題として認識しないとそもそもの価値が伝わりません。そのため、課題解決型のアプローチと明確な線引きが必要です。

価値提案型でプロダクトを進める際は、提供する価値を分かりやすく言語化して顧客に伝えることがポイントと言えます。ビジョンに共感してもらえるような誘導、価値観の醸成を考える必要があります。その結果、顧客に提案した価値が認められると、新たな文化や価値観を生み出すことにもつながります。

顧客への価値提供では、ニーズとシーズのいずれかに偏るのではなく、両方の性質を理解したうえで顧客視点でより適した提案をすることが求められます。

デザイン思考で顧客ビジネスへの貢献を

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【「デザイン思考」についてのまとめ】

  • デザイン思考はデザインのプロセスを活かした思考であり、ビジネス全般に応用できる。
  • デザインは顧客視点、アートは主観的なアイデアの発想である。
  • デザイン思考は課題解決型と価値提案型がある。

近年、デザインのプロセスが顧客視点で課題を見つけ解決策を考えるうえで活用されており、それはビジネス全般に波及しつつあります。また、デザイン思考について理解を深めていくと、アートとの違いもより明確になるでしょう。

アートは主観的なアイデアの創出であり、アーティスト自身の感情や経験をもとに発想力や想像力で表現します。表現したアイデアの先に顧客やオーディエンスがいない場合もあるなど、より感性が重視されたクリエイティブである点が大きな特徴です。

一方のデザインは顧客ニーズが土台になっており、サービスや製品の使い勝手だけではなく、見た目などにおいても顧客視点が求められます。グラフィックの形や色といった見た目や意匠性の良さではなく、ユーザーの行動を設計してあげるのがデザインの本質です。webサイトにおいては、顧客ビジネスをデザイン(設計)によってスケールさせることがミッションと言えます。つまり、デザイン思考は顧客ビジネスへの貢献が前提となっている考え方なのです。