近年、Webサイトやアプリを制作するWebデザイナーの中でも、近年ではUXデザイナーの需要が高まっています。Webサイトやスマホアプリ、SaaSサービスなど、UXデザイナーの活躍する場は多岐に渡ります。

UXデザイナーを志望する方の中には、キャリアプランのイメージが掴めない方や「未経験からの挑戦はハードルが高いのでは」と考えている方もいるでしょう。本セッションでは、特に20代・30代を中心とした「UXデザインをやりたい」方々に焦点をあて、UXデザイナーとして具体的なキャリアを拓く道を解説します。

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【この記事で得られる学び】

  • UXデザイン分野で既知となった知識体系を素早く取り入れる4つの方法
  • UXデザインに欠かせない”ユーザーインタビュー”を自前で行うときの参考資料
  • 企業でUXデザインを実現するには、”組織の力学”を味方につけることも重要

1.UXデザイナーになりたい僕らのサバイバル生存戦略 講演概要

「UXデザイナーになりたい!」「UXデザインをするにはどうしたらよいのだろう」と考えているあなたの目前には、先人たちが切り拓いてきた「知の高速道路」がすでに広がっています。先人たちが10年かけて蓄積したノウハウを短時間で吸収し、その先の未来で活躍するチャンスがあるということです。
一方で、いまだUXデザインに理解のない組織との軋轢に苦しんだり、漠然とした憧れを具体的なアクションにできないケースもあるでしょう。

本セッションでは、とくに20代・30代の若手の「UXデザインをやりたい」方々に焦点をあて、葛藤を乗り越えて、具体的な未来につなげる道を模索します。

2.登壇者紹介

羽山 祥樹(はやま よしき)氏
日本ウェブデザイン株式会社 代表取締役CEO。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。使いやすいプロダクトを作る専門家。担当したウェブサイトが、雑誌のユーザビリティランキングで国内トップクラスの評価を受ける。2016年よりAIシステムのUXデザインを担当。専門はユーザーエクスペリエンス、情報アーキテクチャ、アクセシビリティ。ライター。NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)理事。またIBMの社外アンバサダーであるIBM Championの認定を受ける。
翻訳書に『メンタルモデル──ユーザーへの共感から生まれるUX デザイン戦略』『モバイルフロンティア──よりよいモバイルUXを生み出すためのデザインガイド』(いずれも丸善出版)、著書に『現場で使える! Watson開発入門──Watson API、Watson StudioによるAI開発手法』(翔泳社)がある。
Twitter: @storywriter
ウェブサイト: http://storywriter.jp

羽山氏

3.第一線で働くUXデザイナーたちのキャリア例

ここ数年、「UXデザイナーになりたい」「UXデザイナーを仕事にするにはどうすれば良いですか」という声を熱量高くあちこちから聞くようになりました。ただ私の場合、「良いものを作りたい」という想いだけで25年間走り続けてきたので、特にUXデザイナーという職種にこだわりがあったわけではないんです。

業界に飛び込んだきっかけは、98年にWeb制作会社のアルバイトとして働き始めたことでした。ただ、当時のWeb制作には、ディレクターもエンジニアもなかったんですね。全員がWebデザイナーと呼ばれていました。ちなみにWebサイトは、“ホームページ”と呼ばれていました。

そんなところからユーザーエクスペリエンスの分野に特化して、まずは世の中の動きを振り返ってみましょうか。

キャリアの変遷をUXの発展と重ねて振り返る

直接的に今のUXデザインの源流を辿ると、1980年代、電器製品が技術主導でどんどん高機能化された結果、操作パネルのボタンがどんどん増えて、使い方がわからない状態になってしまいました。そんな時代のなかで、ゼロックスのパロアルト研究所の頭のいい人たちが「ユーザーに来てもらってその様子を観察しましょう」という方法で改善を図ったことが、直接的に今の源流に繋がります。

その流れを汲んで、90年代に入ると東芝やリコーといった日本の大手メーカーがユーザビリティテストをするようになります。例を一つ挙げるならThinkPadのデザイン。これは日本の山崎和彦先生という方が、今で言うUXリサーチ・UXデザインの手法を非常に本格的に使ってデザインされました。

少し時を経て、日本のWeb業界に初めて情報デザインという概念を持ち込むことになる本も出てきます。

97年に『Webデザイン・ビジネス』と言う本を株式会社ビジネスアーキテクツの林 亨さんが監修。99年にはHCD(人間中心設計)とか、 UCD(ユーザー中心設計)と呼ばれている分野で国際規格が制定されました。
そして2000年、Web系の雑誌に初めてユーザーエクスペリエンスという言葉が載ります。
株式会社キノトロープの生田昌弘さんがインタビューで「海外はもうエクスペリエンスっていう概念でやってるんだ」みたいなことをお話されていました。

さらに2003年には『Web情報アーキテクチャ 第2版 ― 最適なサイト構築のための論理的アプローチ』というIAのバイブルを、ソシオメディア株式会社の篠原 稔和さんが監訳します。この頃に、インフォメーションアーキテクトっていう肩書きの人たちが現れ始めました。今でいうUXデザイナーです。2005年には、佐藤信哉さん監訳の『Webデザイナーのための情報アーキテクチャ入門 成功するサイト構築術』という本が出てます。この時期に、Webコンサル会社のネットイヤーグループ株式会社がインフォメーションアーキテクチャって概念を広めていた。中心は、坂本貴史さん

同じ頃に、UXのインターフェースの5段階モデルを掲載したのが、ソシオメディア株式会社翻訳の『ウェブ戦略としての「ユーザーエクスペリエンス」―5つの段階で考えるユーザー中心デザイン』。この本は、最近改版されて手に入るようになりました。2006年に株式会社ビービット『ユーザー中心ウェブサイト戦略 仮説検証アプローチによるユーザビリティサイエンスの実践』という本を出され、さらに2008年には棚橋 弘季さん『ペルソナ作って、それからどうするの? ユーザー中心デザインで作るWebサイト 』が一世を風靡したこともありましたね。2009年には、日本を代表するインフォメーションアーキテクトの長谷川 敦士さんが、IAのテクニックを取りまとめた『IA100 —ユーザーエクスペリエンスデザインのための情報アーキテクチャ設計』を出した。

同じく2009年には、デザイン教育で知られる浅野 智先生がWeb企業向けにUX研修を始めたり、安藤 昌也先生が「人間中心デザイン」という社会人向けのUXデザインを体系的に学べる半年ぐらいのコースを開講されます。「人間中心デザイン」は約10年弱毎年開講され、これが日本のUXデザインの質を底上げした構造だと思っています。卒業生が300人ぐらいいるので、要はUXデザインの専門知識を体系的に学んだ人を300人ぐらい生み出したってことです。
日本のUXデザイン業界を、ここ10年、そしてこれから先の10年の中心になる人たちを作った講座でした。

キャリアの変遷をUXの発展と重ねて振り返る その2

2011年には『IAシンキング Web制作者・担当者のためのIA思考術』で、坂本 貴史さんがUXデザインの知識を体系的にまとめてくださったのですが、このあたりで「UXデザイナー」という肩書きの人が増えます。UXデザインという言葉がWeb業界にようやくしっかりと浸透してくるんですね。2016年〜2020年には安藤先生の『UXデザインの教科書』上野 学さん『オブジェクト指向UIデザイン──使いやすいソフトウェアの原理 』、それから『デザインリサーチの教科書』木浦 幹雄さんが出されます。この辺で新たに現れるのが「UXリサーチャー」という呼び方です。

つまり何を言いたいかというと、私のキャリアの呼び方は後からついてきたもので、ここまでただひたすら「ユーザーにとって良いもの」を追求してきただけ、ということ。私のキャリアに再現性があるのかも、正直よくわかりません。その代わりに、過去自分が他の有名デザイナーに聞いてきたキャリアもお伝えしますね。

R.Iさん「元々インフォメーションアーキテクト兼フロントエンドエンジニアでした」
M.Oさん「元々マークアップエンジニアでした。ユーザー調査の技術を磨いて、社内啓発を続けたら自らがリーダーになっているチームが発足しました」
A.Wさん「元々はWebでディレクター。ユーザーに良いものを作るために通っていたデザインの学校で知り合った仲間と起業しました」

ここまで読んでお気づきでしょうか。今紹介した人の中にも「UXデザイナーになろうと思ってなった人はいないんじゃない?」ということです。現在第一線で活躍されている方も、UXデザインという言葉がない頃から、ユーザーの役に立つことを一生懸命考えて業界を切り開いてきた人たちだからです。彼らはロールモデルとしては役に立たないかもしれない、と思いました。

「UXデザインの知の高速道路」という言葉をご存知でしょうか。2006年のベストセラーである梅田 望夫さんの著書『ウェブ進化論』のなかで将棋の羽生善治名人が語った学習論です。「知の高速道路」とは何かというと、ITとインターネットが整備されて学ぼうと思えば誰でも圧倒的なスピードで学習できるようになったという話。

知の高速道路とは

この本の中では将棋に関して、インターネットを通じていろいろな人と気軽に将棋ができるようになったことで、将棋を指す機会が増え、また上手い人の将棋の勝ち筋を学ぶことも非常に容易になったと書かれているわけです。まさに高速道路が引かれたように、若い人が一気に育っていけるようになりました、と。
逆に終点に到達したらその先はまた未開の地になるので、さらに新しい土地を開拓するスキルがまた必要になると書いてあったりもするのですが、それはまた別の機会に。

いずれにしても10年前、UXデザインは未開の土地でした。ところがあなたの立場は異なります。あなたの前には先人たちが切り開いてきた知の高速道路がすでに広がっています。10~13年ぐらいかけて先人たちが拓いてきたそのノウハウによって、終点までは一気に行けてしまうはずなんです。

ですからおそらく、あなたがUXデザイナーを目指すときのキャリアの組み方は、未開の土地をスーパーパワーで開拓してきた人たちとは異なるはずだと思っています。だからまずは、どうしたら高速道路の終点まで素早く行けるのかを考えてみましょう。

4.しっかりしたUXデザインを学ぶための4つの方法

そもそもUXデザインとは何でしょう。そう考えると、「正しいUXデザイン」というのはおそらく存在しません。ただし、明らかに違うUXデザインは存在します。

ユーザーに会ったことがないプロジェクトは、UXデザインとは言えません。例を挙げるなら、こうです。

Aさん:「Googleアナリティクスでユーザーのインサイトを分析し、それに基づいてペルソナとカスタマージャーニーマップを作りました!」

Bさん:「なるほど!ユーザーに直接話を聞いたり行動観察したりはしたんですか?」

Aさん:「え?」

ユーザーに会ったことがないUXデザインとは?

UXの第一線にいる人たちといろいろ話す機会が多いのですが、「アクセス解析だけで実際にユーザーに会ったことがないプロジェクトをUXデザインと言えるのか」っていう話をすると、10人が10人首を傾げるんですよ。

“ゴムのユーザー”という言葉をご存知ですか。議論の過程とかで、ユーザー像が提供者の都合のいいようにどんどん形が変わっていく現象のことを指します。

アクセス解析のデータだけをベースに、「ユーザーのインサイトはこれだ!」ってやっていこうとすると、容易にゴムのユーザーになります。解析のデータだけを元にして、UXデザインのプロジェクトをやってゴムのユーザーにならないようにプロジェクトを進めるのは、実際にユーザーインタビューをガンガンやるよりもさらに難易度は高いと思います。

ということで、やっぱりユーザーに会っていないプロジェクトをUXデザインとは言いません。UXデザインとは、ユーザーに直接触れることで豊かで確実な洞察を得る行為であるということです。

ちなみに「UXデザインのプロジェクトをしました」というときに、私がおすすめするのは「ユーザーインタビューをした」および「ユーザビリティテストをした」です。とりあえずユーザーに会って話を聞いて行動を観察すること、これが一番の基本です。

01.とりあえずユーザーインタビューをやってみる

10年前と大きく違うなと思うのは、多くの企業において上司がUXデザインに理解を示すようになったこと。過去にやりたいことを歯ぎしりしながら涙をのんでいた人たちが、今決裁権者の層になっていますからね。社内で「ユーザーインタビューやってみたい」と声を挙げれば、意外とできたりもします。あなたたちがやりたいことを叶えてくれるような環境に、変わり始めているんです。まずは、とりあえず上司の方と話をしてみましょう。

ユーザー調査を自分でやるときにオススメの書籍『ユーザビリティエンジニアリング(第2版)』

とはいえ、外部のパートナーさんにお金を払う予算がなかったりすることもあろうかと思います。そんなときには樽本 徹也さんの『ユーザビリティエンジニアリング(第2版)―ユーザエクスペリエンスのための調査、設計、評価手法―』 がオススメです。この10年間にUXデザインを見つけた人の多くはこの本を片手に一生懸命やり方を学んでいました。

あとは手前味噌ですが、このクリーク・アンド・リバー社さんで昨年私がやった4回の連続セミナーのスライドも参考にしてもらえればと思います。かなり具体的に手順を再現できるようことを意識してスライド書きました。それから、ユーザーインタビューの会話術も、実際のユーザーとの会話の実例や段取りも含めて、非常に丁寧に書いた資料もあるのでこのあたりを読んでいただくのもいいかなと思っています。

外部のUXデザイナーにメンタリングしてもらう

ただ自分でやり始めると、どうしても「細かいところが読んでもわからなかった」「実際に取り組むとこれでよかったのか不安になる」ということもあると思います。

解決策として、外部のUXデザイナーにメンタリングをしてもらうことをおすすめしています。ベテランで経験豊かな外部のUXデザイナーに、自分たちが自走できるまで伴走してもらう。定期的にメンタリングしてもらって、自分たちがやったことを軌道修正したりとか、分からなくて停滞してしまった部分を教えてもらったりとか。最近では副業で支援してくれる経験豊かなUXデザイナーが増えているので、そういった方にお願いするのも一つかなと思っています。

02.専門の教育期間で学ぶ

学生の場合、UXデザインを専門に教えている大学の研究室に入ってください。具体的には、例えば下記の学科です。

  • 千葉工業大学 安藤研究室
  • 芝浦工業大学 吉武研究室
  • 専修大学 上平研究室
  • 常葉大学 安武研究室
  • 武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科

社会人の場合、UXデザインのスクールはたくさんあるのですが、大事なのは講師。先程振り返ったUXデザインの歴史の中で名前を挙げた方々や、あるいはそのお弟子さんがいるところがおすすめです。そこを踏まえると、以下の2つが私としては今自信を持って良いと言えるところですね。

03.社外のコミュニティで学ぶ

実はUXデザイナーの業界団体も存在しているんですよ。

NPO法人人間中心設計機構(略称HCD-Net) 」では、1000名を超えるプロのUXデザイナーが在籍しています。スクールとしては比較的安く、初心者向けの講座を受けられることが魅力です。毎年初夏に開催されるUXデザインの連続セミナーは、専門機関以外で体系的にUXデザインを学べる数少ない場所なので、ぜひ参加してみてください。

04.UXデザインに積極的な会社に転職(副業)する

実務以上の学びはありません。UXデザインに積極的な会社に転職副業)するのは最も手っ取り早い手法ではあります。

ただ、ちゃんとしたUXデザインを学べる会社を見分けることが難しい。「UXデザインに積極的な会社」を見分ける方法は、一番には「信頼できるスキルのあるUXデザイナーが在籍しているかどうか」が手がかりになります。
前述のNPO法人人間中心設計機構が認定するプロのUXデザイナー(略称HCD-Net認定 人間中心設計専門家)であれば、UXデザインにしっかり取り組んでいる可能性が高いです。

いずれにしても師匠が大事です。「いい師匠」につけるかどうかが、あなたのUXデザイナーとしての成長スピードに影響するのではないかと私は思っています。いい師匠を見分けるポイントは4つあります。

  1. あなたを弟子として愛してくれるかどうか
  2. その道の真のプロフェッショナルかどうか
  3. ノウハウを惜しみなく伝授してくれるかどうか
  4. 失敗させてくれるかどうか

この4つをしっかりと見定めることで、良い師匠に出会える確率が上がるのではないでしょうか。

4.組織論を乗り越える

UXデザインという言葉は業界に広がりつつありますが、UXデザインに理解のない企業も未だにあります。UXデザインを組織の中に導入するときに上司とコンフリクトを起こしてるときは「組織の力学」が働いています。一旦上司の視点に立ってみて、なぜあなたの意見が受け入れられないのかをよく考えてみましょう。UXデザインができないのを組織のせいにするのではなく、組織の力学を身につけてください。

つまりは、ニーズと組織の力学の両方を満たす行動をしましょう。言いにくい内容ではありますが、組織の力学で一番強いのはぶっちゃけ地位です。組織の力学において、もし「正しいことを今の会社でやりたい」と信じるのであれば、偉くなりましょう。偉くなる以上に、正しいことをやるのに最短距離はないです。正しいことをやるために出世しましょう。

5.まとめ

「UXデザインをやりたい」方であれば、過去の先人たちのキャリアが気になると思います。しかし、今の第一線で活躍してきたデザイナーはあなたのロールモデルにはならないかもしれません。それでも、あなたの目の前には先人がすでに築き上げてきた「知の高速道路」が広がっています。

しっかりしたUXデザインを学ぶための4つの方法を押さえれば、未経験でもUXデザインを体系的に身につけることができるでしょう。残念なことに、UXデザインに理解のない企業も未だにありますが、そんな時は組織の力学を理解して、UXデザインを追求できる環境を整えていきましょう。

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