UXについて学ぶうえで役立つ知識や情報、キャリアに関するヒントを1DAYに詰め込んだ大型カンファレンス“UX BOOST!! Vol.1” のイベントレポート第1弾!
今回はUXデザインを学ぶすべての方がバイブルとして読まれている『UXデザインの教科書の著者である安藤昌也先生にお越し頂き、UXデザイナーとしての第一歩から、先生が考えるこれからのUXデザイナーとしての次の一歩まで。UXデザイナーとしての極意をお話しいただきました。

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  • UXデザインを始める際に知るべきことや注意するべきことが分かる
  • 実際にUXデザインを行う際に必要なことが何か理解できる
  • UXデザインが今後どのように変化していくのかを知ることができる

1.「UXデザイン」次の一歩 講演概要

安藤昌也先生が長年培ってきた経験をもとに、0からUXデザインを始める方が知っておいた方がいいことや、実際にUXデザインを行う際に必要なことなどを詳しく解説。最後にはこれからの時代を歩むUXデザイナーとしての次の一歩を、安藤昌也先生の観点からお話しいただき、UXデザイナーが目指すべき道筋を示してくださいました。

2.登壇者紹介

千葉工業大学 先進工学部 知能メディア工学科 教授
安藤 昌也氏

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、大手システム開発会社、経営コンサルティング会社取締役などを経て、2011年より千葉工業大学工学部デザイン科学科准教授、後に教授を経て2016年より現職。総合研究大学院大学文化科学研究科メディア社会文化専攻博士後期課程修了。博士(学術)。人間中心設計推進機構認定人間中心設計専門家、専門社会調査士。ユーザーエクスペリエンス及びUXデザイン、人間中心設計の教育・研究に従事するとともに、企業とのUXデザインに関するプロジェクトを多数手がける。主著である『UXデザインの教科書』は、多くの企業・大学等で採用され2016年の発刊以来、教科書分野では異例のロングセラーとなっている。現在は、心理学・社会学の理論を応用した学際的な研究アプローチにより、UXの評価手法の研究・開発に注力するとともに、人工知能の普及する新時代の人間中心設計のあり方を模索する新しい研究分野の立ち上げにも力を入れている。ヒューマンインタフェース学会論文賞,研究会賞,関東工学教育協会業績賞、日本人間工学会標準化貢献賞など受賞多数。
安藤氏

3.UXデザインを始める際に知っておくべきこと

昨今はUXという言葉が適切に使用されることが多くなってきたため問題はないのですが、0から始める方にぜひ知っておいて欲しいUXの意味や、間違いやすいものなどをお伝えしたいと思います。

UXとUXデザインの違い

まず、UXデザインを始める際に知っておいて欲しいことは、UXとUXデザインでは、意味するものが異なるという点です。UXとは、「ユーザーの体験そのもの」で、基本的に使い手側の話になります。一方で、UXデザインは作り手側の話をしているので、分けて考えることがとても大切です。

「ユーザー体験」をもう少し細かく説明すると、まず、ユーザーが製品やサービスを使う時には、利用文脈というものが存在します。利用状況とも言いますが、ユーザーがある製品やサービスを使うときの意図や物理的な環境、時間的な文脈、ユーザーが持っている目標など、製品やサービスを使う前から使った後までにユーザーの側に生じるものを、ユーザー体験と言います。

そして、UXデザインとは、ユーザーが嬉しいと感じる体験となるように、製品やサービスを企画の段階から、理想のユーザー体験を目標として、デザインしていく。または、取り組み方や、その方法論のことを指しています。

よく似ているユーザビリティとの違い

ユーザー体験と言うと、よく似た概念で「ユーザビリティとは違うの?」と疑問を持たれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
UXとユーザビリティの違いはとてもややこしいのですが、ユーザビリティは、利用品質と呼び換えることができます。品質というように、品物(プロダクト)の質を指す言葉です。「どれくらい使いやすいのか。実際使えるのかどうか。効率が良いか。」など、ユーザーがその品物を使用した時の、満足度の度合いのことを指しています。

図:ユーザー体験とは?

4.実際にUXデザインをする際に必要なこと

では、実際にUXデザインを行う際は、どのようなことを行なっていくのでしょう。ここでは、UXデザインの研究の中でも大きなブレイクスルーになった、「ユーザーモデリング」をお伝えしたいと思います。

モデリングには沢山の方法や考え方がありますが、その内の一つで、「UX白書の翻訳と概要」でも紹介されている”期間のモデル”をお伝えしたいと思います。
この期間のモデルには、大きく分けて4つのフェーズがあり、フェーズ毎にユーザーがどのような体験をするかを計画していきます。

図:UXの期間モデル

まず1つ目は、予期的UX。これは、ユーザーがその製品やサービスを使う前の体験のことを指します。例えば、商品を買う際に、事前に口コミや価格.comを調べたり、広告や店舗で見たり、SNSをチェックしたりなどが挙げられます。

次に、瞬間的UX。実際にその商品やサービスなどを使用した時の使い心地や感じたことなどを指します。3つ目は、エピソード的UXと言って、ユーザーが何か目的を持って製品やサービスを使う際に、その目的毎にユーザーが得る体験のことを指します。これは、ユーザーの利用状況によって大きく左右されがちで、「この目的で使っている最中はいいけれど、目的が変わると上手く使いにくい」など、ユーザーの体験を細かく区切って考えることが大事になってきます。

そして、最後が、累計的UXです。これは、その製品やサービスを使っている時間だけに限らず、それらに少しでも関わりのある時間全体を振り返ってみた時に、ユーザーがどのようにその体験を評価するか、又は感じるかを指しています。
最近は特に、サブスクリプションなどが増えて、長い時間をかけてサービスを使い続けていく形が発達しています。そのため、これまで以上に、企業あるいはサービスや製品とユーザーの関係というのは長い関係になってくるため、この累計的UXが大切になってきます。

5.結局UXデザインって何が一番大事なの?

ここまで様々な重要な要素を挙げてきましたが、「初めから全部は意識できない!」という方のために、最初に大事にすべきことは何かをお伝えします。

結論から言うと、UXデザインで一番重要なのは利用状況です。例えば、同じ製品があっても使うシチュエーションが違ったら使い方や感じ方が全く変わってきてしまう。つまり、実は利用状況にユーザー側が影響を受けているのです。
UXデザインは一種のパターンのようなものを使っていくため、ユーザー側の、この状況だったらこの行動をするという、状況依存性を応用してモデリングをしていきます。そのため、「そのユーザーが、ある状況だと同じ行動をするなら、その状況のパターンを調べて、その状況に合わせたものづくりをする」ということが可能になります。
なので、状況をしっかり調べて、状況のモデルを作っていくことが大事になってきます。

図:ユーザーモデリングのイメージ

そして、このモデリングした典型のものを、ペルソナと呼びます。UXデザインの場合は、人物ではなく利用状況や利用文脈に基づいたパターンのモデルを指します。

6.UXデザイナーのこれからの歩み

これまでのUXデザインは、ユーザーに対して企業が製品を作り込んでユーザーに機能を提供するという関係性で、課題が解決したか、機能が実現できたか、何ができるようになったか、といった機能こそが重要でした。

しかし現在は、製品やサービスを使ってユーザー自身が製品やサービスと関係を結んでいく、ユーザーの世界観を企業がサポートしていくなど、”体験価値の発想”をそれぞれの関係へと変化させていくことを、UXデザインが後押しする形になっています。

そして今後は、さらにこのユーザー自身が意味を見出して、ユーザー自身が変身していく方向性へ変化しつつあります。体験こそ商品。これが、UXの時代の大きな理解でしたが、今や顧客こそ商品という時代に突入しています。

図:今後のUXが目指すべき方向性

つまり、「こういう風に変身するよ」ということを示していくこと、それが商品になりつつあるのです。
そういう時代において、UXが担う役割はさらにもう1段階上がり、単に体験そのものを提供することだけではなく、体験を通して顧客自身が変質していくところをもサポートしていくことと捉え直していくことができます。UXデザイナーは顧客の変身や変革を、心から願える作り手になっていくことが大切だと思います。
製品やサービスが単に提供側の押し付けではなく、ユーザー自身が意義を生み出していくきっかけを作れているか。そこが次の時代、まさに今、起こりつつあるUXの先の時代を捉える非常に大事な着眼点です。是非、一緒に良いものを生み出していきましょう。

7.質疑応答

Q. これまでは、プロダクトアウトなものが市場を席巻していましたが、次第にマーケットインなものに変わっていき、UXデザインの考え方が発展するにつれ、よりニーズの先を読むようになったと思います。今後、UXデザインの考え方は何を追求していく形になると思いますか。

A.UXが主流の経済体制は、変革経済へと発展していきます。例えば、AIによって色んな職種の役割がガラッと変わってきているため、その体験がどうあるかを、考えていくことが重要です。
例えば、これまで以上にユーザーとの長期間の関係づくりが主な目標になるため、これまで以上に考えなきゃいけないことが増えます。その中でも、こちら側が用意した利用体験から期せずして外れてしまった方のために、理想体験に出来る限り近づけるための、サポート計画や体制づくりである、サービスリカバリーデザイン。ここに作り手の誠実さが問われていくと思います。

Q.UXデザイナーになりたい人にまず何から学べばいいと思いますか。

A.ぜひ「UXデザインの教科書」をおすすめしたいですが、日常で初歩的に行えることをお伝えさせていただきます。
訓練的に試していただきたいのが、自分の体験を分解して言語化するということです。自分が何かを行う際、出来事があった際、例えばボタンを押すこと一つとっても、以下の3つを考えてみてください。

  1. ユーザー(他人)の視点で、どのように考えたかを説明できるようにする。
  2. 利用状況がどのような状況だったかを理解する。
  3. 使用した製品やサービスはこういう意図で作られていて、そこからどう外れていたか、どのようになったかなどを説明して、同じような状況と他の状況との類似条件がないかを考えてみる。あるいは、この状況がこのままだと未来がどうなっていくか、改善するとしたらどうなるかを考える。

このようなことが日常の中でできる訓練ですので、ぜひやっていただきたいなと思います。

8.まとめ

一口に「UXデザイン」と言っても、曖昧にしがちなUXとUXデザインの違いから、実際UXデザインを行う際に大切なこと、さらにこれからのUXデザイナーとしてどう在るべきかなど、とても贅沢なお話しをいただきました。
UXデザイナーとして0から始める方から、すでにご活躍されている方まで、今後の時代に歩みを進める際に、ぜひ活用してみてください。

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