インターネットによるグローバルな制作・創作環境は、依然として国境を越えた協業を可能にしています。しかし、2025年以降の米国の関税政策や各国のデジタルサービス税(DST)をめぐる動きによって、「国境のないクリエイティブ」という理想は新たなリスクに直面しています。2026年現在、多国籍なクリエイティブ・サプライチェーンを構築する際には、単なるコストやスキルだけでなく、貿易政策や税制の影響を考慮する必要が高まっています。
関税政策の現状と「デジタル課税」の議論
アメリカのトランプ政権は2025年初頭、国家安全保障や不法薬物・移民問題を理由に、カナダ・メキシコからの輸入品に追加関税を課す大統領令に署名しました。カナダ・メキシコ向けには品目ごとに25%程度、また中国からの輸入品に追加関税を課す措置が発動されています。これらの措置は関税率や対象、適用・猶予措置が議論の対象となっており、米国・カナダ・メキシコ間の特恵関税(USMCA)の適用範囲に関しても交渉が続いています。
一方、関税とは別に、デジタルサービス税(Digital Services Tax, DST)と呼ばれる税制が欧米やアジアを中心に導入されています。これはデジタルプラットフォームやオンラインサービス企業の売上高に対して課されるもので、従来の法人税制度が必ずしも適用しづらかった領域への課税を目的としています(例:オンライン広告、データ取引、マーケットプレイスサービス)。
このDSTに対し、米国は「自国企業に不利な差別的税制」として批判し、交渉や報復措置を示唆してきました。カナダは当初DSTを導入しましたが、米国との貿易協議を進める中でこの税制を撤回しています。
| 政策の背景 | 米国の追加関税政策と各国が検討・導入するデジタルサービス税を巡る対立 |
|---|---|
| 対象のリスク | 物理的な輸入品だけでなく、サービス収益やクラウド取引・デジタルプラットフォームにも影響が出る可能性 |
| USMCAと交渉 | 米・加・墨協定の特恵関税との関係が交渉課題に(対象品目や例外規定などで調整が必要) |
| 実務への影響 | 制作拠点選択やコスト試算に、関税・税制・貿易協定の影響を反映する必要 |
世界のクリエイティブ・サプライチェーンとリスク
アニメやゲーム制作の国際分業は、企画・監督・脚本などの機能が日本や米国で行われ、作画や3DCG、エフェクトなどがベトナムや中国、その他の国・地域で担われる例が一般的です。こうしたプロダクションパイプラインは、貿易コストの低さやネットワークインフラの発達を前提として成立しています。
しかし、関税負担や税制の変更がサプライチェーン全体のコスト構造を変化させる可能性があります。物理的なハードウェアの輸入コストが上昇すれば、制作拠点の運営コストが高騰するリスクも考えられます。
特に海外制作拠点の活用や複雑な国際取引においては、単なる人件費だけでなく、貿易政策やデジタル課税の影響を見積もる必要があります。
制作戦略の転換と地域戦略
関税や税制の変動を踏まえ、多くの企業・スタジオでは制作体制や外注戦略の見直しが進んでいます。例として以下のような対応が検討されています。
- 自身の主要市場内や貿易協定圏内(例:USMCA対象内)への制作拠点の再配置検討
- ASEAN等関税・税制リスクが比較的低い地域への制作リソースの分散
- データ転送・デジタル成果物の扱いに関する契約見直しや、物理メディアでの輸送検討(輸送コストとリスクを比較)
経済的地政学の視点と契約管理
これからのクリエイター、プロデューサー、スタジオ経営者には、創作力と同様に、国際経済政策や税制の動向を理解する力が求められています。特に外注契約や権利処理契約の際には、以下のような観点が重要になります。
- 契約形態の明確化:関税や税制変動による追加コストの負担先・分担方法を契約書で明記する。
- 制作パイプラインの多様化:特定地域への依存を避け、政策変更時のリスク分散を図る。
- 国内資源の活用:長期的視点で国内の人材育成・活用を進め、外部依存のリスクを軽減する。
創造の自由と国際ルールの変化
インターネットとグローバルなネットワークは、クリエイティブな協業を加速させてきました。しかし、2026年の国際環境では、物理的な関税だけでなく、税制や国際交渉もクリエイティブ業務に影響を与える可能性が高まっています。制作者やプロデューサーは、技術面に加えて国際経済・税制のダイナミクスを理解し、柔軟かつ持続可能なビジネスモデルを設計する必要があります。



