アニメーション映画『Another World(世外)』が、台湾・金馬国際映画祭で最優秀長編アニメ映画賞を受賞した。台湾・金馬獎は1962年に創設された華語映画界で最も権威ある映画賞の一つであり、今回の受賞は日本の教育機関が関わる国際共同制作として大きな注目を集めている。
本作は西條奈加の小説『千年鬼』(徳間文庫)を原作とし、香港のアニメーションスタジオ「POINT FIVE CREATIONS LIMITED」が中心となって製作された。監督はトミー・カイ・チュン・ン、プロデューサーはポリー・ユンが務め、2025年春に完成した。制作の発端はデジタルハリウッド大学大学院の教授・吉村毅が主導した「日本IPグローバルチャレンジ・プログラム」であり、日本の優れた原作を海外で映像化する取り組みの一環として誕生した。
物語の舞台は、死後の魂が輪廻転生を待つ幻想世界「世外」。精霊グドが少女ユリを導く過程で、人間の感情の深淵に触れていくファンタジー作品である。日本の幻想文学の世界観を基礎にしつつ、香港の最新アニメーション技術で映像化されたことが国際的評価を高めた要因とみられる。
『Another World(世外)』は、2025年6月にフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭「ミッドナイトスペシャル」部門、同年10月にはスペイン・シッチェス・カタルーニャ国際ファンタスティック映画祭「ニュー・ビジョンズ」部門でも上映された。香港での公開初週には興行収入ランキングで1位を記録し、商業的にも成功を収めている。
吉村氏が立ち上げた「日本IPグローバルチャレンジ・プロジェクト」は、国内の優れた原作を世界市場へ送り出すことを目的に2016年に発足。学生と留学生が共同で日本の作品を翻訳・紹介し、国際映画市場で展開する活動を行ってきた。その成果が今回の受賞につながった形だ。
デジタルハリウッド大学大学院は、日本初の株式会社立専門職大学院として2004年に開学。科学・工学・芸術・デザインの融合を理念に掲げ、デジタル時代のリーダーを育成している。同大学院から誕生したプロジェクトが国際的快挙を果たしたことは、日本発の創作教育の可能性を広げる象徴的な出来事といえる。



