トヨタのランドクルーザーが長年にわたって高い人気を維持している背景には、企業発信ではなく人と人とのつながりを基盤とする新しい発想のマーケティング戦略がある。仕掛け人であるクリエイティブディレクターの香田信氏(KiiRO1010代表)は、その鍵を「企業もファンの一人として輪の中に立つ姿勢」にあると語る。
現代は情報があふれ、広告の発信力が低下している時代だ。そんな中でランドクルーザーは、オーナー同士が語り合い、仲間を誘い合う自然なコミュニケーションによって熱狂的な支持を得ている。香田氏はこの構造を「友達コミュニケーション」と呼び、企業が主語ではなく、ファンと同じ目線で「好き」を共有することがブランドの強さにつながると説く。
この手法の本質は、企業とファンの関係を上下ではなく並列にすることにある。友人同士の紹介のように自然に広がるため、広告に頼らなくてもブランドは自走する。香田氏によれば、こうした関係の中で「仲間が仲間を連れてくる」連鎖が起こり、ファンの熱量が高まるという。
友達コミュニケーションは概念にとどまらず、広告制作にも直接反映されている。テレビCMでは企業の主張を抑え、共有したくなる余白を残す。ウェブ動画は情報を並べるより、ファンと語り合う物語を重視する。グラフィック広告も機能説明ではなく、仲間に伝えたくなる一言を中心に据える。SNSでは企業投稿とファン投稿が同じトーンで並ぶ表現を目指している。これにより、一つの広告が単なる発信物から会話のきっかけへと変化していく。
KiiRO1010はこの考え方を基に、テレビCMやウェブ動画、グラフィック、SNSなどあらゆる制作物で「ファンと共にブランドを育てる設計」を実践してきた。ランドクルーザーで培った経験を通じ、現在は自動車以外にも化粧品、スポーツ、地域活性、D2Cなど多様な分野へ展開を進めている。
香田氏は「どのブランドにも“好き”があり、どのコミュニティにも語り合う輪がある。そこに企業が同じ立場で参加することが、愛され続ける力になる」と語る。企業が“ファンの一人”として関係を築く時代、友達コミュニケーションは新たなブランド作りの道を示している。



