現代思想を代表するフランスの哲学者ジル・ドゥルーズが、絵画について語った伝説の講義録がついに書籍化された。河出書房新社は11月19日、『ジル・ドゥルーズ講義録 絵画について』(ダヴィッド・ラプジャード編、宇野邦一訳)を発売した。
本書は、ドゥルーズが1981年3月から6月にかけてパリ第8大学(サン=ドニ)で行った全8回の講義をもとに構成されている。セザンヌ、ファン・ゴッホ、ミケランジェロ、クレー、ベーコンなど、多様な画家を横断的に論じながら「描く行為の本質」を哲学的に掘り下げている点が特徴だ。ドゥルーズは「ダイヤグラム」「変調」「カオス」といった独自の概念を用いて、絵画を思想の場として位置づける。
ドゥルーズの絵画論として広く知られる著作は『フランシス・ベーコン 感覚の論理学』(1981年)のみであり、講義録の刊行は極めて貴重である。ラプジャード氏による精緻な編集と詳細な注釈により、ドゥルーズの議論の流れが生きた言葉として再現された。訳者の宇野邦一氏は、当時実際に講義に出席していた思想研究者であり、原文の熱量をそのまま伝えている。
この講義録シリーズはフランスのMinuit社で進行中の企画の日本語版第1弾にあたる。第2弾として「スピノザについて」の刊行も準備中という。生誕100年・没後30年の節目となる今年、思想家ドゥルーズの肉声が再び現代に響く。
哲学や美術に関心をもつ読者だけでなく、創作に携わる人々にとっても刺激的な内容である。教室で講義を聴くような臨場感の中に、絵画と哲学の交差点が鮮やかに浮かび上がる一冊となっている。




