「自分には何ができる?」と聞かれると、意外と答えにくい

仕事を続けていると、少しずつ任されることは増えていきます。

一方で、「自分にはどんなスキルがありますか」「これからどんな仕事をしたいですか」と聞かれると、急に答えにくくなることがあります。

まだ一人では判断できないことがある。提案するときにも自信がない。仕事を覚えるために周囲と話さなければいけないけれど、どこまで聞いてよいのかも分からない。

仕事そのものが嫌なわけではないのに、「このままでいいのかな」と考えることもあるかもしれません。こうした迷いは、特に働き始めて間もない20代前半など、まだ仕事上の経験や選択肢が十分に増えていない時期に起こりやすいものです。そんなとき、すぐに「自分に向いている仕事」や「将来の正解」を決める必要はありません。

まずは、今できること、まだ経験していないこと、そして次にどんな経験を増やしたいのかを整理してみましょう。

キャリアは、一度決めたら完成するものではない

キャリアについて考えるとき、「自分に合った仕事を見つけて、その道を進んでいく」というイメージを持つことがあります。

しかし、実際のキャリアはそれほど一直線ではありません。

キャリア研究者のドナルド・E・スーパーは、キャリアを一度の職業選択で決まるものではなく、経験や環境の変化に応じて、生涯を通じて発達していくものとして捉えました。

働き始めたときに思い描いていた仕事と、数年後に興味を持つ仕事が違っていても不思議ではありません。

実際に仕事をしてみて初めて、


「制作そのものより、企画を考える方が面白いかもしれない」
「一人で完結する仕事より、チームで進める仕事の方が好きかもしれない」
「専門性を高めるだけでなく、人に教える仕事にも興味がある」

と気づくこともあります。

転職や異動、独立、復職などをきっかけに、もう一度新しい仕事を探索することもあります。

つまり、キャリアは最初に正解を見つけて完成させるものではありません。

経験する、気づく、選ぶ。そして環境が変われば、また考え直す。

そうやって何度もつくり直していくものです。

だから、まだ経験が少ないときや、新しい環境に入ったときに「自分には何ができるのか分からない」と感じても、今の時点で答えを完成させる必要はありません。

まずは、これから選べるようになるための材料を増やしていきましょう。

1.まず「できること」を、小さく棚卸しする

「スキル」と聞くと、専門ソフトを使える、資格を持っている、といった分かりやすいものだけを想像しがちです。

でも、仕事を通じて身についているものはそれだけではありません。

たとえば、

  • 一人で対応できるようになった作業
  • 以前より短時間でできるようになったこと
  • 周囲から任されるようになったこと
  • よく質問されたり、頼られたりすること
  • 失敗したあと、自分で改善できるようになったこと

も、これまでの経験によって身につけてきた力です。

「自分にはまだ何もない」と感じるときは、仕事を始めた頃や、その仕事を担当し始めた頃と比べてみてください。

以前は確認しながら進めていた仕事を、一人でできるようになっているかもしれません。

自分では当たり前だと思っていることを、周囲から頼まれるようになっているかもしれません。

ここで大切なのは、棚卸しをして「自分の専門性はこれだ」と決めることではありません。

今どこまでできていて、次にどんな経験を増やせそうかを知るための現在地確認だと考えてみてください。

2.「できない」を、能力不足だけで片づけない

仕事でうまくできないことがあると、「自分には能力がない」「この仕事に向いていない」と考えてしまうことがあります。

でも、「できない」にはいくつか種類があります。

  • まだ経験していない:そもそも担当したことがない
  • 判断基準を知らない:どこまで自分で進めてよいのか分からない
  • ルールを知らない:会社や業界の前提をまだ理解していない
  • 練習が必要:経験はあるが、まだ一人では安定してできない
  • 相談の仕方が分からない:誰に、いつ、どう聞けばよいか迷っている

この違いを分けて考えるだけでも、「できない=向いていない」とすぐに結論づけずに済みます。

たとえば、「どこまで自分で判断してよいのか分からない」という悩みは、判断力が足りないのではなく、仕事の基準をまだ共有されていないだけかもしれません。

「ここまでは自分で進めてよいですか」

「どの段階で確認した方がいいですか」

と上司や先輩に聞くことで、次から一人でできる範囲が広がることもあります。

できないことを見つけたら、「自分には向いていない」と判断する前に、何が足りないからできないのかを一度分けて考えてみましょう。

3.「やりたいこと」より、次に増やしたい経験を考える

「5年後、どうなっていたいですか」

そう聞かれても、答えが浮かばないことがあります。

特に、まだ経験した仕事や役割が少ない段階では、そもそも比較できる選択肢が十分にありません。

知らない仕事について、「自分に向いているか」「やりたいか」を判断するのは難しいものです。

そこで、将来像を無理に決める代わりに考えてみたいのが、

「次にどんな経験ができたら、自分についてもう少し分かりそうか」

という問いです。

たとえば、

  • 企画段階から仕事に関わってみたい
  • クライアントへの提案を経験してみたい
  • 別のツールや技術を使ってみたい
  • 小さな案件を最初から最後まで担当してみたい
  • 自分とは違う職種の人と仕事をしてみたい
  • 後輩や新しく入った人に教えてみたい

実際に経験してみると、
「思っていたより面白かった」
「これはあまり得意ではなさそう」
「もっとやってみたい」
といった新しい情報が増えていきます。

この情報が増えるほど、次に選択肢が現れたときに「自分はどちらを選びたいか」を考えやすくなります。

4.予定していなかった経験も、キャリアの材料になる

キャリアは、自分で計画したことだけでつくられるわけではありません。

たまたま声をかけられて参加した仕事。
人手が足りず、偶然任された業務。
同僚に誘われて参加した勉強会。
興味本位で触ってみた新しいツール。

そのときは「将来のキャリアにつながる」と思っていなかった経験が、後から方向性を変えるきっかけになることもあります。

キャリア研究者のジョン・D・クランボルツらが提唱した「プランド・ハプンスタンス」という考え方でも、キャリアに影響する偶然の出来事に目を向け、それを機会につなげることの重要性が示されています。

もちろん、ただ偶然を待っていればよいという意味ではありません。

大切なのは、新しい経験や人との接点が生まれる可能性を、自分から少し増やしておくことです。

たとえば、

  • 少し興味のある仕事があれば手を挙げてみる
  • 他部署や別職種の人の話を聞いてみる
  • 興味のある分野の記事やイベントを見てみる
  • 新しいツールを一度触ってみる
  • 「やったことはないけれど興味があります」と伝えてみる

といった小さな行動でも構いません。

その経験が将来何につながるかは、その時点では分からないかもしれません。

それでも、新しい経験が一つ増えれば、自分が次に選べる選択肢も一つ増える可能性があります。

5.仕事を覚えることと、コミュニケーションは切り離しにくい

特に働き始めて間もない時期には、「仕事そのもの」だけでなく、上司や先輩との関わり方、質問のタイミング、同僚との距離感などに戸惑うこともあります。

会社や業界のルールには、明文化されていないものも少なくありません。

分からないまま一人で正解を探し続けるより、

  • この作業はどこまで自分で判断してよいですか
  • 途中で確認した方がよいポイントはどこですか
  • 初めてなので、最初に注意点を教えてもらえますか
  • 前回の対応で改善した方がよいところはありますか

といった形で、判断基準そのものを確認するのも仕事を覚える方法の一つです。

コミュニケーションが得意でなくても、無理に雑談を増やす必要はありません。

「人間関係をうまくやるため」ではなく、「仕事を進めるために必要な情報を集める」と考えると、少し取り組みやすくなるかもしれません。

また、人と関わることは、自分が知らなかった仕事や考え方を知る機会にもなります。

誰かとの会話から興味のある仕事を知ったり、思いがけず仕事を任されたりすることもあります。

コミュニケーションも、自分の選択肢を増やすきっかけの一つと考えてみましょう。

3分でできる「現在地」の整理

ここまで読んだら、次の3つを一つずつ書き出してみてください。

整理すること 自分への問い
今できること 仕事を始めた頃より、一人でできるようになったことは? 修正対応なら一人で進められるようになった
まだ分からないこと 「できない」のは、経験・知識・判断基準のどれが足りない? 提案内容より「どの段階で上司に確認するか」が分からない
次に増やしたい経験 何を経験できたら、自分についてもう少し分かりそう? 次は企画段階の打ち合わせにも参加してみたい

「まだ分からないこと」が見えたら、次にできることは、その理由によって変わります。

  • 経験が足りない→ まずは一度経験させてもらえないか、上司や先輩に相談してみる
  • 判断基準が分からない→「ここまでは自分で進めてよいか」を確認してみる
  • ルールを知らない→ 明文化されていない前提を、先に教えてもらう
  • 練習が必要→ 同じ作業を、確認してもらいながらもう一度行ってみる
  • 相談の仕方が分からない→ 質問してよいタイミングを先に聞いておく

詳しくは、記事内の「2.「できない」を、能力不足だけで片づけない」で紹介した分類も参考にしてみてください。

そして最後に、次の1か月で「経験を一つ増やす」としたら何をするかを決めてみましょう。

たとえば、

  • 上司に「今後経験してみたい仕事」を一つ伝える
  • 自分の得意・苦手について先輩からフィードバックをもらう
  • 興味のある職種や仕事内容を一つ調べてみる
  • 今の仕事で、まだ経験していない工程を一つ挙げる
  • 少し気になっているイベントや勉強会に参加してみる

といった小さな行動で構いません。

ここで決めた行動が、そのまま将来の仕事につながる必要もありません。

まずは、自分について知るための材料を一つ増やすことが目的です。

将来を決めるより、「選べる材料」を増やしていく

「自分に向いている仕事」や「5年後にやりたいこと」が、まだはっきりしないことがあります。

それは、考えが足りないからとは限りません。

まだ選択肢を比べられるだけの経験が揃っていないだけかもしれません。

特に働き始めて間もない時期には、経験できる仕事の種類も、関わる人も限られています。

だからこそ、早い段階で「自分はこの仕事に向いている」「この道しかない」と決めてしまうより、少しずつ経験の範囲を広げていくことが、自分のキャリアを知ることにつながります。

そしてこれは、若手だけに必要なことではありません。

転職したとき、異動したとき、新しい役割を任されたときなど、キャリアの中で「自分の現在地が分からない」と感じたら、同じように探索し直すことができます。

キャリアは、一度決めたものをそのまま守り続けるものではなく、新しい経験や環境の変化に合わせて、何度もつくり直していくものです。

  • 今できることを知る。
  • 分からないことを具体化する。
  • そして、自分の世界が少し広がりそうな経験を一つ増やしてみる。

経験が増えれば、選択肢も増えていきます。

そして選択肢が増えて初めて、

「自分はどちらを選びたいのか」

を考えられるようになります。

現在地が見えてくると、変わることがあります。

上司や先輩に相談するときも、「何が、どこまで分からないのか」を具体的に伝えられるようになり、必要なアドバイスをもらいやすくなります。

任せてもらえる仕事の範囲や、声をかけてもらえる機会も、少しずつ広がっていくはずです。

半年後、一年後に振り返ったとき、「あのときより、できることが増えた」と感じられるようになる。それが、現在地を整理する一番のメリットです。

キャリアの現在地が見えないときは、将来を急いで決めることよりも、これから選べるようになるための材料を増やすことから始めてみてください。

一人で整理しにくいときは、誰かと一緒に考えてみる

ここまで整理してみても、

「自分のできることが、まだよく分からない」
「次にどんな経験を増やせばいいのか迷う」
「今の仕事を続けるべきか、別の仕事も見てみるべきか分からない」

ということもあるかもしれません。

そんなときは、一人で答えを出そうとせず、これまでの経験や今感じていることを誰かに話してみるのも一つの方法です。

キャリア相談では、今できることやこれまでの経験を整理しながら、これからどんな経験を増やしていくと選択肢が広がりそうかを一緒に考えることができます。

まだ「転職する」と決めていなくても構いません。

まずは、自分の現在地と次の一歩を整理するところから始めてみませんか。

また、「今とは違う仕事にはどんなものがあるのか知りたい」という場合は、求人を見てみることも、自分の選択肢を増やす方法の一つです。

気になる仕事内容や、「こんな経験をしてみたい」と思える仕事があるか、まずは眺めてみるところから始めてみましょう。