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コトバを信じて、そのパワーを届けていくこと。―コピーライター坂本美慧さんの「心に届く」キャッチコピー創作の極意

2017年度の結婚情報誌ゼクシィのTVCMで話題となったキャッチコピー「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」。
この作品でTCC最高新人賞を受賞したコピーライターの坂本美慧さんは、新人時代に受けた師匠達からの学びや反響の大きかった作品から、人々の心に刺さるようなコトバをどう届けるのかを追求してきました。
今回は、ゼクシィのコピー制作秘話から坂本さんのコトバに対する向き合い方まで、コピーライターとしての仕事に対する熱い想いを伺いました。

株式会社博報堂 コピーライター 坂本 美慧(さかもと みさと)
1988年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業、2011年株式会社博報堂入社。EBU局、iD局を経て、2014年より第1クリエイティブ局所属。
現在の主な仕事にリクルート『ゼクシィ』、サントリー『サントリー烏龍茶/菊池ボトル』、森永乳業『MOW』、三井住友海上『企業』、NHK Eテレ『オトッペ』など。2017年度リクルート「ゼクシィ」広告でTCC最高新人賞受賞。

「結婚しなくても幸せになれる時代」と言い切る表現の大胆さに込めた想い

――2017年度のゼクシィのTVCMのコピーは多くの人の共感を集め話題となりました。このコピーの制作意図は、どのようなところからだったのでしょうか。

今の時代って “結婚”ということに対する社会的な意識が薄れてきていますよね。その中で、結婚を意識している人にはもちろん意識してない人にも「やっぱり結婚っていいよね」と思ってもらえるようなコミュニケーションをしよう、というところからスタートしました。

昨今、離婚率の上昇や、未婚の人が増えていることなどが話題になることが多いですが、結婚に自由が増しているからこそ、結婚じゃない話も出てくるだけだと思っているんですね。一昔前のように結婚は親同士が決めるもの、という時代でもない。結婚しなくてもいいけど、それでも結婚したいと思う人に出会えたから結婚する、っていうのは今の時代だからこそ感じられる幸せだなと。

――「結婚しなくても幸せになれる今の時代」と言い切ってしまったところがとても斬新で、これまでのゼクシィのイメージの殻を破った、チャレンジングな作品だと思います。
実際、そういう反響もありましたよね?

ありがたいことに、多くの反響をもらい、とても好意的なご意見を多くいただきました。
クライアントと方向性を話し合う中で、ゼクシィは世の中の女性たち皆に結婚しようと主張しているわけではなくて、結婚を決めたカップルをサポートしたいという気持ちが一番なんだということがわかって。

結婚って、焦ってするものでもないし、しないことが悪いことでもないし、それでも結婚をするのが素晴らしいことに変わりはない。今の時代だからこそ結婚することが素晴らしいわけではなく、結婚の素晴らしさ自体はずっと変わってないよねっていうメッセージを届けたいと思ったんです。じゃあどうしたらきちんと届けられるのかな、ということを、ただただ突き詰めていきましたね。

結果、ゼクシィ編集部の方々の想いを届けられたのはよかったなと思います。

3師匠の3つの学び、一つの真実

――どんなに派手な演出やテクノロジーで実装したとしても、伝えるべきメッセージがきちんとないと、本末転倒ですよね。
「どうしたら人々に届くのか」―これが今の自分にとってのキーワードですね。

入社してから、デジタル、コピー、CMプランニングという3つの職種をそれぞれ極める師匠について学びました。
一番最初はデジタルでどうやって体験をつくっていくか、体験にエンゲージメントすることをミッションとする部署で、現在はSIXにいらっしゃる大八木翼さんの下で学びました。大八木さんからは、デジタル領域だとどれだけ良いものを作っても無人島になりがちだったりもするので、「(消費者に)無視されるな」ということをよく言われていました。SIXの立ち上げまでその部署にいて、その後、木村透さんというザ・コピーライターの方を師匠に、いわゆるコピー100本ノックみたいなことをやり始めました。木村さんからは「狙いのないコトバを書くな」と言われ、次に3人目の師匠であるクリエイティブディレクターの塩崎秀彦さんに企画を出したときは「悪くもないけど(消費者に)響くかな」と悩まれてしまい…。

その頃の自分は、キャッチコピー然とした、ひたすらコトバを書き綴る、ということに意識が向いてしまっていたんですが、塩崎さんと会話を交わしていく中で、大事なことはたった一つ、“そのコトバは、ちゃんと届いているのかどうか”ということなんだ、ということをはっきりと、自覚しました。

そして、これまでに学んだ3人のクリエイターの方々が常に考えている根本はそこなんだ、と気づき、3師匠の教えが自分の中で一つの真実として結びついたんです。
それまでは、領域の異なる師匠のもとで学んできたという貴重な経験が、自分の中で蓄積されていないんじゃないかと、実感を持てなかったんですが、ようやく腑に落ちて。領域を超えてなにを信じればいいのかを自分で決められました。

――その気づきが、アウトプットに変化をもたらしたんでしょうか?

そうですね。特に、東急電鉄さんの交通マナー広告を手がけてからは、より“人の心にきちんと届ける”ことの責任についても強く意識するようになりました。
マナー広告って「こういう行為は周りの迷惑なのでやめましょう」というシンプルな訴求。私も日常的にマナー広告をよく見かけますが、見てもあまり心に刺さらないんですよね。
一方的に「こういうことはやめましょう」「ダメです」というコミュニケーションはなかなか伝わりにくいのではないかな…と思いました。

そうした想いから、クライアントと話し合い、電鉄からのお願い広告ではなく、自分が迷惑行為を受けることもあれば、気づかないうちに迷惑行為をしてしまっていることもある、誰もがなりうる電車利用者を主人公にした、迷惑行為の啓発キャンペーン広告を手掛けたんです。
その後、この広告で取り上げたマナーについて、そもそもそれは迷惑行為なのか、
という疑問の声が一部からあがり、数多くのメディアに賛否両論と取り上げられました。

それに対してクライアントは「私たちには伝えたいことがあったし、伝えたいメッセージはちゃんと届いたと思っています」と、この広告の正当性を認めてくださった。その体験から、私の中では届くべき人に届けるということもそうだし、このご時世だからこそクライアントと共に覚悟を決めて進むということの大切さを学ばせていただきました。

コトバがどの役割を担うべきか、あらゆる視点から検証する

――実際に制作に入るとき、「届ける」ためのコトバ選びはどういうところからスタートするんですか?

「どこで・誰に・どれくらいの規模によって」発せられるアウトプットなのかによってコトバがどういう役割を担えばいいのかをまず考えます。
ゼクシィのコピーを例にすると、結婚情報誌No.1のゼクシィだからこそあのメッセージが届けられたと思っています。
もしほかの競合誌だったり、プロモーションの場所が違っていたら、同じ結婚を語るとしても全く違うメッセージになっていたかもしれません。
なのでコトバのポジションにあわせて「メッセージ性が必要か」「音としての役割のほうが大事なのか」「目に入るコトバとして大事なのか」などから考えはじめます。

あらゆる角度から検証しないと偏った方向に行ってしまうときがあるので、一定の時間を置いて毎回ゼロから見直すと、いろんな視点が出てくるんです。日によってはそもそもオリエン自体これでいいんだっけと課題設定から疑うときもあれば、このコトバでいいんだけどもうちょっと言い回しを変えたほうがいいかもしれないと思うときもある。そのときの視点を最初のクライアントとの打ち合わせに向けて積み重ねていきます。

――クライアントに提案するまでに、トコトン視点を積み重ねて残ったものを出すと。

「私の出した答えはコレです」と自信を持って出せるコトバをただ探します。これでダメならもう知らない!っていうぐらいじゃないと、一緒にお仕事してる方たちに対しても失礼だと思いますし。そのくらいの想いをもったコトバで議論した結果、やはり違うと自分で捨てられると、いいコトバにたどり着ける気がしています。

――坂本さんにとって“コトバ”とはどんな存在なんでしょうか。

コピーライターという職種の定義は人によって異なると思いますが、私は“コトバを考える”というよりは、“コトバで考えられる”人になりたいんですよね。
広告のフィールドがどんどん幅広くなっていく中で、どの領域だったとしても、その案件で意味のあるコトバはコレだ!と自信を持って言えるようにコトバを味方にしていきたいです。

――コトバに対して常にひたむきな坂本さんだからこそ、ストレートなコピーが多くの人の共感を集めるんですね。本日はありがとうございました。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:SYN.product/編集:CREATIVE VILLAGE編集部