6月17日(日)、渋谷プライムプラザ4Fにて、株式会社クリーク・アンド・リバー社主催、「ガルパ×シナリオ塾 ~【ガルパ】ゲームと一緒に成長するキャラクターについて~」が開催されました。

5回目となる今回の「シナリオ塾」では、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』のシナリオを手掛けるCraft Eggシナリオチームの2人が登壇。彼らから直接話を聞けるとあって、シナリオライター・ゲームプランナーを中心に多くの方にご参加いただきました。

『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』とは

“はじめよう、私たちのバンド活動!”
2017年3月にリリースされたリズム&アドベンチャーゲーム。
簡単操作のリズムゲームとハイクオリティなLive2D搭載のストーリーシーンが楽しめます。
各バンドのオリジナル楽曲の他、アニメソング等のバンドカバーも収録していることで話題を集め、2018年6月15日にユーザー数650万人突破を発表しました。

ガルパ流「ものづくり」

登壇者:沢村 英祐(さわむら・えいすけ)
『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』シナリオチームリーダー
コンテンツプロデュース室 リーダー2009年、株式会社サイバーエージェント入社。当初は広告営業に携わっていたが、「ゲームの開発がやりたい」という思いから、同社子会社で複数タイトルのソーシャルゲームの立ち上げ・運用を経験。2017年からCraft Eggへ異動し、『ガルパ』担当として、ゲーム・アニメ等のプロモーションに関わる。

最初にご登壇いただいたのは、シナリオチームのリーダー・沢村さん。「私たちが大事にしていることは、“みんなでつくる”ということです」と話し始めると、『ガルパ』ならではの制作フローを説明してくださいました。

Craft Eggには、「イラスト」や「開発」など担当領域ごとにセクションがあり、各セクションでつくられたものはリリース前に必ずチャットツールで全体に共有されます。例えばイラストが投稿されると、「演出の都合で少し変えたい」といった要望はもちろん、「かわいい!」「いいね!」などの感想や「もっとこうしたい!」といった前向きな改善提案も多数寄せられるのだそうです。
「全員が『ガルパ』の一番のファンであり、ユーザーファーストで考えているからこそ、ユーザーに近い視点で意見が出せます」と沢村さんは語ります。セクションの垣根を越えて発言できる環境、これこそ、“みんなでつくる”ということなのです。

続けて沢村さんの口から語られたのは、『ガルパ』のキャラクターについて。
5バンド・25人の女の子たちのことを一人の人間として考えるCraft Eggでは本来、彼女たちのことを「キャラクター」ではなく「メンバー」と呼ぶといいます。これは社内でのやりとりだけでなく、ゲーム内でもほとんどこの言葉を見かけないほどの徹底ぶり。だからなのか、「本日は、わかりやすさ重視でキャラクターと言いますが…」と説明する沢村さんの姿は、筆者には少し悲しげに見えました。

そんな彼女たちの未来を考え、チームメンバーのキャラクターへの理解を深めるために、シナリオチームでは半年に一度、合宿を行っています。「あの子はこんなことを将来の目標にしているのでは?」「この子はこんな性格だからこんな風に考えるのでは?」と、バンドを越えた関係性や未来を考えて、“ファンに届けたい/届けるべきシナリオ”を模索しているのだそうです。シナリオ制作のフローでも“みんなでつくる”を大切にしているのがわかります。

「誰が会話をしていても同じ話になる、ということは『ガルパ』にはなくて、この二人だからこんな話になる、という関係性からくる必然性を大切にしています」(沢村さん)との言葉に納得した様子の参加者たち。Craft Eggのこだわりはファンの方にも確かに伝わっているようです。

「一人でやることには限界があります。みんなで本気で考えているからこそ、『ガルパ』は皆さんに好評いただいていると思っています」と沢村さんは締めくくります。プロデューサーなど、一人の意見を軸に制作するトップダウン型の制作フローにはない、多角的な視点とユーザーファーストの考えの両方を取り入れることができるのがCraft Eggの制作フロー。確度の高い制作をし続けていることが、『ガルパ』成功につながっているのかもしれませんね。

「キャラクターの成長」を描く物語の作り方

登壇者:西野 裕子(にしの・ゆうこ)
『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』シナリオライター
品質管理担当2016年3月、『ガルパ』立ち上げメンバーとしてCraft Eggに入社。
各種シナリオのライティング、オリジナル楽曲のイメージ出し、カードイラストイメージ出しなど、『ガルパ』の世界観にまつわるあらゆる部分を担当している。

次にご登壇いただいたのは、『ガルパ』のシナリオライターだけでなく、世界観に関わる品質管理も受け持つ西野さん。キャラクターの成長を描くためには、そのキャラクターが積んできた経験からどのような考えをするようになったのかをリストアップすることが必要だと言います。シナリオ塾では、ガルパに登場する氷川姉妹を例に、キャラクターの成長についてお話いただきました。

最初に語られたのは、バンドストーリー1章~メインストーリーまでの氷川姉妹について。
何でもすぐにできてしまう妹にコンプレックスを抱く紗夜(さよ)と、紗夜のことが大好きで仲良くしたいと思っているものの、何でもできてしまうためできない人の気持ちが理解できない妹・日菜(ひな)。バンドストーリー1章での紗夜は、日菜と関わり合いたくないばかりに、こんな言葉をぶつけます。

紗夜「お姉ちゃんお姉ちゃんってなんなのよ!…憧れられる方がどれだけ負担に感じているか……わかってないくせに!」

二人の関係に小さな変化をもたらしたのが、2017年5月に行われたイベントストーリー「あゆみ続けた道、彩られる未来」。紗夜は、互いの存在が刺激になっていることを日菜に伝え、『勝手にギターをやめない』と約束を交わします。

そしてその2ヵ月後、2017年7月のイベントストーリー「星に願う短冊」で、姉妹は久しぶりに穏やかな時間を一緒に過ごすことができます。日菜はこれをきっかけに紗夜ともっと仲良くなれるかもと期待しますが、一方の紗夜は日菜との関係がうまくいかないのは自分のせいだと自覚して、「日菜とまっすぐ話せますように」と短冊に願いを込めます。

紗夜「こんな風に、日菜とたわいのない話をしたのはいつぶりかしら。……うまく話せないのはきっと……私の問題……なんだわ……」

ここで、これまでのイベントにおける姉妹の課題と現状をリストアップすると、二人の成長が感じられると西野さんは話します。

【二人の課題と現状】

紗夜の場合
  • 日菜とまっすぐ話せるようになりたい
  • コンプレックスに打ち勝ちたい
日菜の場合
  • 紗夜と仲良くなりたい
  • 自分とは違う人がいることを知った

「いびつですが、お互いの感情が向いていることがわかります。もしここで、二人が思っていることを素直にぶつけることができれば、双方の問題を解決できるかもしれません」(西野さん)という言葉の通り、次のストーリーで姉妹はその糸口を手にします。

2017年10月のイベントストーリー、「秋時雨に傘を」。自分の演奏には魅力がないと感じた紗夜は、日菜に洗いざらいの感情をぶつけてギターをやめたいと打ち明けます。そんな姉の言葉に、「おねーちゃんの嘘つき!!!」と怒りを露わにする日菜。彼女は紗夜が思っていた以上に、『勝手にギターをやめたりしない』という約束を大切にしていたのです。日菜の思いに感情を動かされた紗夜は、日菜と並んで歩けるようになると決意し、自分自身の音色を見つけることを誓います。

紗夜「私は、あなたが常に先を行くような現状を受け入れられるほどできた人間ではない。でも……いつか……あなたと並んで一緒に歩いていくことができるように……私は『つまらない音』でギターを弾き続けようと思う」

「コンプレックスの原因である日菜が紗夜の背中を押したことで、これまで以上に良い関係をつくることができました。ここで重要なのは、この段階ではまだ日菜へのコンプレックスが断ち切れたわけではないということ。断ち切るための一つの方法を見つけただけにすぎません。ですが、その道筋が見えただけでも、紗夜の成長につながると思います」と西野さんは話します。こんな話を聞いてしまうと、氷川姉妹の今後にも期待してしまいますね。

最後に西野さんが語ったのは、『成長』と『キャラブレ』の違い。
「私たちが、時間をかけてゆっくり成長していくように、彼女たちもさまざまな過程を積み重ねて徐々に成長していきます。氷川姉妹だって、長い時間をかけて成長したのです。これがもし、2ヵ月ほどで起きた変化だとしたらキャラブレに感じるでしょうし、「紗夜、どうした!?」となるでしょう?」と参加者に語り掛けると、会場から大きな笑い声が上がりました。

『ガルパ』のように成長を描く物語では、キャラクター一人ひとりがどのような出来事を経験してきたのか、何がきっかけで考え方が変化したのかなど、ライター全員が共通の認識をもってシナリオを書かなければいけません。解釈の違いを防ぐために、Craft Eggではキャラクターごとにイベントをリストアップした年表のような資料を用意しているそうです。この資料を比較すると、キャラクターの関係性や今後の物語に必要なものが見えてくるのだとか。一体どんなことが書かれているのかが気になります。

「ゲームに出てくるキャラクターではなくて、一人の人間として何かを感じて成長させていきたいと思っています」と西野さんが締めくくると、会場からは盛大な拍手が起こりました。

トークセッション/質疑応答

講義後は休憩を挟んで、沢村さん・西野さんに直接質問ができる時間が設けられました。ここでは、その一部をご紹介します。

Q:意見が分かれた時にどうやってまとめますか?
A:(沢村さん)多数決とかはせず、とことん話し合います。時間がかかってしまうこともありますが、必要な時間だと思います。
(西野さん)人物像の軸となる設定は資料にまとめているので、ものすごく大きく方向性がぶれることはないですね。それでも悩んだ時はシナリオチーム全員で時間をかけて話し合います。

Q:リリース前にどんな準備をしたのですか?
A:(西野さん)社内のメンバーで毎日合宿をしました。一日1バンドずつ、理解を深めるための。

Q:本作のプレイヤーの位置づけはどうやって決めたのですか?
A:(沢村さん)ガルパで大事としているのは彼女たちという「人間」を書くこと。周りのキャラクターとの関係性のなかでそれをリアルに描くため、プレイヤーの存在は重要視しないで書く方針に決めました。

Q:キャラクター同士の関係性は最初から決まっていましたか?書いているうちにできたものですか?
A:(西野さん)どちらもあります。氷川姉妹の関係性は最初からでしたが、書いているうちに「この二人、会話させたら面白そう」と感じて生まれた関係性もあります。

Q:限定ボイスやTwitterの4コマ漫画も、キャラクターの成長にあわせてつくられているのですか?
A:(西野さん)最新の彼女たちを意識してつくっています。

Q:登場人物の人数に過不足を感じていますか?
A:(西野さん)十分かなと感じています。まだまだ書き足りない、もっともっと深堀していきたいと思っているところもあるので。

懇親会

その後は登壇者を含めた懇親会を開催。参加者同士で新しいコミュニティをつくるなど、活発な情報交換が行われました。参加者にインタビューしてみると、「キャラクターの内面はシナリオ制作の要。今日の話はこれからの仕事に活かせそう」(シナリオライター、女性)、「Craft Eggさんのようなつくり方をする開発会社は珍しい。こんなゲームのつくり方があることを若いクリエイター達にも教えてあげたい」(シナリオライター・講師、男性)など、今後の活動に目を向けた意見が目立ちました。

懇親会終了後、登壇いただいたお二人にもお話を伺いました。「こういった場に登壇すること自体初めてで非常に緊張しました。懇親会では、シナリオの書き方を熱心に聞いてくださる方が多くて楽しかったです。」(西野さん)、「なかなか鋭い質問をしてくださる方もいて、非常に良い機会をいただくことができました。」(沢村さん)と、登壇したお二人にとってもよい刺激になったようです。

シナリオ塾とは

現役で活躍するプロから、シナリオ制作現場の話やシナリオ制作のコツ、業界の最新事情に関する話が聞ける、株式会社クリーク・アンド・リバー社主催のセミナーです。
イベント終了後には、登壇者と参加者同士の交流の場を設けています。
また、希望者には、採用に直結するカジュアル面談も開催し、今後のキャリアに関する相談にもお答えします。
デザインを中心とした話が聞ける「デザイン塾」も随時開催。

お問い合わせ

株式会社クリーク・アンド・リバー社
シナリオ塾担当
Email:shinajuku@hq.cri.co.jp
TEL:03-4570-7087