コロナ禍以前までの日本社会では、求人数が多い首都圏に人材が流入する傾向が顕著であり、そのため首都圏への人材流入が集中しる傾向にありました。しかし、コロナ禍によって密を避ける生活環境の浸透など社会の劇的な変化によって、リモートワークや在宅勤務の浸透が進みました。それは奇しくも、政府が推進する働き方改革の推進にもつながる形になりました。

その結果、就職先のエリアや立地に対する考え方も多様化しました。近年では就職や転職でU・I・Jターンを検討する人材は増加しており、その傾向が今後も続くことが予想されます。そのため、地方への移住を検討している方は、各自治体の移住支援の方針にも注目したいところです。さまざまな角度から、地方移住や地方での就職・転職状況を検証します。

そもそもU・I・Jターンとは?

Uターン・Iターン・Jターンというそれぞれの言葉は、首都圏への一極集中が緩和傾向にある転職活動・就職活動においてよく使われています。まずはそれぞれの意味や事例を簡単に説明します。

Uターン

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地方から都市に移住した人が、再び故郷に戻ることを指します。たとえば、「高知県の田舎に生まれ、進学を機に大阪府の中心地に移住。大阪で就職し経験を積んだ後、生まれ故郷に戻る」などのケースが当てはまります。都会で身につけた高いスキルは、地方でも十分に生かせるでしょう。そうした経験を歓迎する地方の企業も多いでしょう。

Iターン

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都市部から出身地とは違う地方に移住して働くことを指します。「東京都23区で生まれたが、島での生活に憧れ沖縄県の離島に移住する」などのケースが当てはまります。田舎特有の豊かな自然や穏やかな生活環境などに魅力を感じて、Iターンを決意する人も少なくありません。

Jターン

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生まれ育った故郷から進学や就職で都会に移住した後、故郷に近い地方都市に移住することを指します。「石川県の田舎で生まれ、就職を機に上京。結婚後、子育ての環境を考え石川県金沢市に移住する」などのケースが当てはまります。ある程度の利便性があり、自然も多い土地で仕事がしたい人には魅力的ではないでしょうか。

U・I・Jターン増加は首都圏一強状態の変化を示す

新卒者を含め首都圏で生活を送ってきた人が、地方に拠点を移すことが1つのトレンドになりつつあります。地方就職は首都圏での就職に比べて生活コストがかかりにくく、電車やバスの通勤ラッシュがほとんどありません。場所によっては自然豊かな地域で暮らせます。まだまだ首都圏での就職を軸に考える方も多いですが、U・I・Jターンの増加もあり、首都圏一強状態には風穴が空いてきました。今後も人々の働き方が大きく変わる可能性があり、場所にとらわれない働き方が浸透しつつあります。

地元(Uターン含む)就職を希望する学生は62.6%

株式会社マイナビが運用するマイナビキャリアリサーチLabが実施した「2023年卒大学生Uターン・地元主食に関する調査」によると、2023年3月卒業予定の全国の大学生、大学院生がUターンを含む地元就職を希望する割合は、62.6%でした。

地元(Uターン含む)就職希望者のグラフ

出典:マイナビキャリアリサーチLab「2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査」

この割合は2年連続で増加となっており、前年比で4.8ポイントの増加です。有効求人倍率の推移を比較したところ、コロナ禍前は求人倍率の上昇に合わせて地元就職希望が減少し、都市圏の大手企業などへの就職希望が高まっています。しかし、コロナ禍以降は求人倍率がやや低下したことや、経済状況が不透明なことなどから、地元就職の意向が高まったと想定されます。また、大学や大学院に進学した時と現在の地元企業への就職希望割合の差が8.3ポイントとなり、こちらは前年以上です。

地元就職を希望する理由のグラフ・表

出典:マイナビキャリアリサーチLab「2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査」

また、コロナ禍によりオンラインでのインターンシップや就職活動などが普及し、地元を離れていても情報収集や選考をすすめられることが、地元就職の意向を後押ししている可能性があります。こうした要因から地元就職を希望する理由として「両親の近くで生活したい」「実家から通えて経済的に楽だから」などが目立ちました。さまざまな側面から、首都圏よりも地方の就職を目指す学生の増加が顕著になっています。

U・I・Jターンで地方暮らしを望む人とは

Uターン・Iターン・Jターンのそれぞれ状況は違えど、首都圏ではなく地方を拠点に選ぶことには変わりありません。ではなぜこれまで都市が優勢だった日本の地域選びの状況に変化が生じたのでしょうか?地方暮らしを選択する人の心情を紹介します。

都会の暮らしがあわないと感じている人

都心

地方に住んでいた時に憧れた都会の生活が、いざ始めてみると「自分のライフスタイルに合わなかった」ということも珍しくありません。その最たるものが満員電車での通勤です。首都圏と地方での暮らしでもっとも異なるのが満員電車で、都内などは特にどこに行くにも朝のラッシュは避けられません。

通勤電車を毎日に利用することは健康上良くないというのは人によるかもしれませんが、「心理的な負荷が高まることで都会の生活を困難に感じてしまう人も多くいる」というのは事実でしょう。また、地方と比べ、希薄だと思われている人間関係や都内の騒音などに嫌気がさす人も都会での生活を諦める人が多いようです。

子育ての環境を求める人

子育て

さまざまなサービスの拡充により、都会での暮らしはとても便利に感じることでしょう。しかし、必ずしもそれが子育ての環境にとっていいかどうかは別の話です。人口増加に対処しきれない都市部では、保育園の待機児童で溢れ、外で遊ぶにも公園が少なく、危険な道端で遊ばなくてはならないなど子育てを行ううえで理想的な環境が失われています。

子どもには自然に触れてもらいたいと考える家庭もあるでしょう。このことから都市部よりは郊外に家を構える人も多くいますが、一部は自分が慣れ親しんだ実家の近くや同じ県内へ移住する人もいます。子育てを行ううえで、子どもの面倒を見てくれる親の存在はかけがえのない存在であるため、Uターンという形で地方へ移住する人は決して少なくありません。

親の介護が必要な人

高齢者

日本が抱える問題の1つに超高齢社会があります。20代のときは60歳前後だった親も、40代ともなれば健康に問題を抱えやすくなる80歳近くになります。中には二世帯住宅で親と都会で暮らすという人もいますが、高齢のため移動が難しいといったことや、親の希望で今の家や地域を離れたくないという理由で親の介護を目的にUターンで里帰りする人がいるようです。

広告大手の電通が行った「全国Uターン移住実態調査」では、全国の都市部に住む実際にUターン移住を経験した20~60代の男女約1,700人にアンケートを取ったところ、首都圏での生活にストレスを感じてUターン移住を決めた人(28.1%)に次いで、両親のことを念頭に移住した人が2番目に多い結果(24.5%)が出ています。

新天地を求めて地方に移住する人

藁葺屋根

日本では首都圏への人口流入が続いている中、地方では過疎化や限界集落化が進むなど社会問題に発展しています。特に若い世代が都市部へ移住することが多いため、地方に本社を置く企業では人材不足に悩まされるなど人口流入の一極化による弊害はさまざまな形で表れています。

そこで政府や自治体の主導で地方への移住者に仕事の斡旋や住居の提供、あるいは支援金を送るなどの対策がとられるようになりました。若年層や子育て世代が対象となっていますが、こうした国や自治体からの支援をもとに移住を検討する人がいます。

地方を選択する際に参考にしたい移住支援

給付金の案内

就職市場の首都圏一強時代に変化が生じていると言っても、依然として地方の人口減少は進んでいます。それだけに働く世代の流入を歓迎するため、移住に対する支援を手厚くしている地方自治体も少なくないのです。

たとえば、移住支援制度として100万円単位でサポートするケースや、住宅・子育て支援などの支援を行っている自治体があります。また都道府県が主体となって展開している「地方創生起業支援事業(起業支援金)」は、地方移住にともない起業する際に、最大200万円が支給されます。こうした国、県、市町村の支援制度を併用することで、移住までの負担が大幅に軽減されます。こうした支援制度は地方移住に向けての大きな追い風となっています。

U・I・Jターンのように今後も就職傾向は変化する

ビルの窓から眺める女性

【U・I・Jターン 移住支援のまとめ】
・コロナ禍で地方を選択肢に入れる人の割合が増加
・立地にとらわれない働き方が社会に浸透しつつある
・移住先の地方の選択は支援の手厚さも重要な決め手に

労働人口の減少が顕著になっている日本社会において、良い働き手の確保が企業の共通課題となっています。これまで首都圏をメインに就職活動をしていた学生は、コロナ禍をきっかけに地方就職を希望するようになりました。これまでの首都圏の独り勝ち状態から状況に変化が見られます。

今後はU・I・Jターン以外の傾向が出てくるかもしれません。働き方の多様化や変化を踏まえると、移住支援の多い地方の情報をキャッチアップすることが重要です。利用できる制度を入念に調べて、利用することを積極的に考えていきましょう。