美大生や芸大生は、学ぶ内容から、卒業後はクリエイティブな職業に就くと考えている人も多いかもしれません。しかし、実際には営業や経理などの一般的な職に就職することも珍しくありません。内定後も自身にあった働き口を求めて就活を継続する学生も多く、職探しに人並み以上のこだわりを持っている方も多いようです。

美大生や芸大生が就活を行う際は、クリエイティブ職だけに絞るのではなく、幅広い視野を持つことが求められるでしょう。これから就職活動に入る美大生や芸大生に向けて、就職事情、狙い目の業種などについて解説します。

美大生は内定後も就活を継続する割合は50%以上

美大生の就職_就活の継続について
出典:クリエイターワークス研究所『就職活動状況アンケート』

クリエイターワークス研究所(CWL)が、2023年卒業の美大生・芸大生119名を対象に実施した「就職活動状況アンケート」では、内定後も就活を継続する割合が5割以上という結果が出ています。「より志望度の高い企業の選考を受けるため」に就活を続ける美大生は多い傾向にあり、職探しへのこだわりや自身のキャリアプランをしっかり持っている学生が多い点が1つの特徴です。

美大生の就職_就活を継続する理由
出典:クリエイターワークス研究所『就職活動状況アンケート』

また、就職活動を継続する理由としては「より志望度の高い企業の選考を受けるため」が66.7%、「内定取得先の企業でいいのか不安が残る」が50.0%にのぼります。このことから、多くの美大生が職探しへのこだわりを持っており、自分自身のキャリアプランをしっかり見据えている学生が多いことが分かります。

また、コロナ禍のため説明会や選考、面談などがオンラインで実施されている企業も増加傾向にあります。学生側が「社風や勤務環境が良く分からない」という懸念があることも示唆でき、就職先を慎重に吟味したいという意向も頷けるでしょう。美大生は就職における納得感のプライオリティが高いと言えるでしょう。

就職活動終了の目安としては、「9月末まで」が40.3%、「年内までを想定している」は23.5%となり、約6割の学生が年内までに就職活動を終えたい傾向にあるようです。

美大生・芸大生が就職できないは本当?最適な職種とは

美大生の就職_最適な職種とは
美大生・芸大生ら芸術系の学生は就職しづらく、就職してもあまり活躍できないと言われがちな傾向があります。しかし、実態はそうでもないことが多いようです。そうした社会一般の認識とのギャップが生じている理由や、実際に目指すことをおすすめする職種は何なのでしょうか。それぞれの進路における仕事内容とスキルを検証したうえで、芸術系学生の就職の是非について考察しました。

ファッション・アパレル系の仕事内容とスキル

美大生の就職_ファッション系の仕事
ファッションやアパレル系デザイナーの仕事内容は、市場の調査から始まり、商品完成後の販売戦略までと幅広い仕事領域が特徴です。まずは市場でのニーズやトレンドを調査し、需要のある商品コンセプトを企画します。その後、コンセプトを元にデザイン画を作成し、パターン(型紙)の作成と生地の選定を行ったら、実際に商品化するために、生産工場への仕様書を作成してサンプル制作の依頼をするのが一連の流れです。

そして、できあがったサンプルを確認し、作り直すか本生産するかを判断します。商品完成後は、どうしたら売れるかの戦略を立て、販売価格の設定や素材の調整なども必要に応じて行います。商品をデザインするセンスだけでなく、流行をいち早く読み取る力や商品を売るためのマーケティングのスキルも重要になるでしょう。

企業の業績は、所属しているデザイナーの力量によっても左右されるので、ファッションやアパレル業界はデザイナーの採用に慎重です。難易度が高く、就職も簡単ではありませんが、パリコレなどの有名なファッションショーに関われるチャンスが得られることもあります。採用にあたっては、カラーコーディネーターやファッションビジネス能力検定などの資格を取得しておくと、デザイン能力判断の指標になるため、就職に有利になるでしょう。

日ごろから目にしたものに意味を見出したり、違和感を持ったり、自分ならこういうデザイン・形にするといったことを無意識に考えられたりする人は、ファッション・アパレル系デザイナーに向いているでしょう。

メディア系の仕事内容とスキル

美大生の就職_メディア系の仕事
一口にメディアと言っても、その働き口はさまざまです。中でも美大生の就職先として親和性も高い「映像系」「ゲーム系」「広告系」に絞って、それぞれの就職先での仕事内容と求められるスキルについて紹介します。

映像系

アニメーションやテレビ番組、CM、映画などの映像加工・編集を行う仕事です。映像業界には、機材のデジタル化やソフトウェアの進化によって、初心者でも簡単に加工・編集ができる時代が到来しています。そのため、プロの映像クリエイターには、より高いクオリティや技術が求められるのが現状です。また、「After Effects」や「Premiere Pro」などの編集ソフトを問題なく操作できるスキルも必須になるでしょう。

また、編集スキルだけでなく、芸術センス・音楽センスなども磨くことをおすすめします。その人の生き様が映像コンテンツの糧になるので、普段からさまざまな映像作品をよく見ることが大切です。映像クリエイターとして経験を積めば、将来的にアートディレクターやプロジェクトマネージャーといったポジションも望めるでしょう。

ゲーム系

ゲームデザイナーの仕事は、主ににゲームのキャラクターや背景、アイテムなどの図柄の設計です。ゲームの世界観や物語などの構築を任されることもあります。作品によっては非現実的なデザインや世界観をつくる必要があるため、ゲームやアニメが好きな方には向いている業種でしょう。Illustrator・Photoshopを使いこなす技術や、場合によってはCG制作のスキルを求められることもあります。

広告系

パンフレットや広告のデザインを行います。CMのような規模の大きなプロジェクトを担当することもあり、その場合はフォトグラファーやコピーライターなどと連携したトータルでのクリエイティブにも関わるため、コミュニケーション力も求められます。紙媒体だけでなく、Webサイトに掲載する広告の作成も行うため、IllustratorやPhotoshopの技術も必須です。コミュニケーションが得意な方や、相手の問題を解決するのが好きな方におすすめの職業になります。

インテリア・建築系の仕事内容とスキル

美大生の就職_インテリア・建築系の仕事
インテリアデザイナーは、家具や内装のデザインや企画・設計を行います。仕事内容はファッション・アパレル系と似ていますが、依頼を受けてから仕事開始になる点が違いです。

内装の仕事を例にすると、インテリアデザイナーは取引先の企業や施工主から依頼を受けます。依頼主と打ち合わせを行い、コンセプトや設計図などの希望を聞いてイメージ画を作成。作成したイメージ画を依頼主や建築士に確認してもらい、OKが出るまで聞き込みとイメージ画の作成を繰り返します。

OKが出たら必要な資材などの手配を行い、外装工事終了と同時に内装工事に着手する流れです。そのため、外装工事が終わるまでにすべての準備を終わらせなければなりません。内装工事がはじまったら、職人への指示や状況に応じて設置個所の見直しなども行います。打ち合わせや職人への指示なども行うため、デザインに関するスキルに加え、考えを正確に伝えるスキルが求められます。

また、依頼主が満足するためには、依頼主がイメージしている完成形と実際の内装工事後の状態に乖離がないようにすることが重要です。難易度は高いと言えますが、デザイナーにとってのやりがいでもあります。インテリアデザイナーは依頼主の求める形を実現させるため、細かいことにもこだわりのある人が向いています。また、一日中現場にいることもあるため、体力に自信のある方も向いていると言えるでしょう。

公務員・教員系の仕事内容とスキル

美大生の就職_公務員・教員系の仕事
公務員や教員系の仕事は、美術館・博物館の学芸員になるか、高校・専門学校での美術教員になるかで仕事内容が異なります。求められるスキルの水準や知識レベルをあらかじめ確認しておきましょう。

美術館・博物館などの学芸員

美術館や博物館では、学芸員として業務をこなします。学芸員になるには、大学で美術館や博物館に関する科目の単位を取得し、学芸員の資格取得が不可欠です。日本の学芸員は人数が少ないため、仕事の幅が広いうえに作業量が多い職業と言えます。

資料収集や整理・保管、展示などを担当するだけでなく、分析や研究、教育普及活動なども行います。専門的な知識が求められるため、大学院で知識を深める必要もあるでしょう。新しい知識を学ぶことが好きな方や美術館・博物館が好きな方に向いていると言えます。

高校などの美術教員

学校の教員であるため、就職するためには教員免許も必要です。美術教員は、生徒に絵画や彫刻・陶芸などの美術作品を制作する技術指導を行います。また、授業以外の行事も担当し、写生会や美術館・博物館の見学会などの引率も行います。

最近では、紙媒体での美術作品だけでなく、パソコンを使った電子的なデザイン技術を指導するほか、就職先で必要になるIllustratorやPhotoshopの使い方を教える場合もあるようです。美術教員になるには、デザインに使用するソフトウェアの知識が必要のほか、生徒に技術を伝えるためのスキルも求められるため、自分の知識を人に教えることが好きな方が向いている職業でしょう。

世間の常識にとらわれない将来設計が重要

美大生の就職_将来設計の重要性
アートを学ぶ美大生はビジネス感覚に乏しく、「就職がしづらい」という既成概念を持たれがちです。しかし、それはあくまでそれは世間一般のイメージにすぎません。きちんと目的と意志を持てば、就職することも、社会で活躍することも不可能ではないでしょう。一般論にとらわれない自分なりの将来設計をすることが大切です。美大生の主な就職先の例としては以下が挙げられます。

【美大生の主な就職先】

  • 広告代理店
  • デザイン業界
  • デザイン事務所
  • ハウスメーカー
  • インテリア業界
  • 出版社
  • アパレルメーカー
  • 家具メーカー

上記のように美大生の就職先は多岐にわたります。大学で学んだことをそのまま活かせるクリエイティブ系の業種もあれば、学んだことを武器にする総合職などを選ぶ人もいます。もちろん、大学で学んだこととは直接的に関係ない営業職に就く人もいるでしょう。大切なのは、「美大・芸大だから」と一般論に捉われず、自分だけの将来設計をすることです。それはご自身の可能性を狭めることにつながりかねません。

大学院で学ぶ道もある

人気が高い美術系・芸術系の学校ほど、卒業後に就職する率が低い傾向にあるとされています。これは、卒業後に大学院で学ぶケースが多いためです。大学院へ進学する理由には、「より深く制作について考えたい」「研究内容を深めたい」などが挙げられています。ただし、大学院で学ぶと、大学で卒業した人に比べて社会に出るタイミングが遅くなります。そのため、明確な目標と意思を持つことが大切です。大学院の修士課程は一般的に2年間のため、1年目の内に卒業後の進路や足がかりを作っておくことが重要になります。

美大生は社会においても大きな可能性を秘めている

美大生の就職_まとめ

【美大生 就職先 内定状況のまとめ】

  • 美大生は就職における納得感を大事にする傾向
  • 目的や意志があれば美大生でも一般企業でも働ける
  • 「美大生だから」という決めつけをしない将来設計を

美大生や芸大生でも、クリエイティブ職とは異なる職業についている人も珍しくありません。また、美大生・芸大生だからと言って、営業職などのこれまでとは異なる分野での才能がないかと言えば、決してそうとは言い切れません。つい「美大生・芸大生だから」という目線で考えてしまいがちですが、より広い視野を持って「自分がやりたいこと」「得意なこと」を活かせる将来設計をフラットな視点で考えることが大切です。