Flashアニメ『秘密結社 鷹の爪』を始めとする作品で、監督・脚本・キャラクターデザイン・録音・編集・声の出演などを一人でこなす独自のスタイルで知られるFROGMANさん。生み出すキャラクターたちと、様々な企業とのコラボレーション展開でも注目を集めています。最新作『天才バカヴォン~蘇るフランダースの犬~』の公開に際し、FROGMANさんにお話を伺いました。

■ 自分が作ったものが映像になる衝撃

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小さい頃からもの作りが好きで、初めて映像を撮ったのは小学生の頃でした。『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』を見て衝撃を受けて、“スター・ウォーズを作りたい”と思ったんです。

そこで、紙粘土でR2-D2などの登場キャラクターを作って、接写で撮り始めました。カメラの仕組みも照明のことも全く理解せずに撮っていたので失敗作ですが(笑)それでも自分が作ったものが映像になるというのは、あまりにも衝撃的でした。

そのように最初は我流で全部を作っていましたが、高校生になると映画好きな仲間ができて、文化祭で映画を作ったり、情報交換をしたりして、どんどん興味が膨らんでいきましたね。

ちょうどその頃、レンタルビデオが普及して家でも気軽に映画を観られる環境が整ってきて、映画って面白いな、いつか映画監督になりたいな、と漠然と思い始めて、高校を出てすぐに映像の世界に入りました。

高校卒業後に関わったのは日本映画で、制作部のポジションです。企画の段階から最後の仕上げまで、ずっと作品に関わっていられるのが一番の魅力でしたね。
通常の会社で言うと、総務のようなポジションで、監督や照明さん、メイクさん、演出などの全ての人たちと関わりながら、その人たちの仕事をサポートしていきます。映画の企画から完成までの過程をつぶさに見ることができたので、ハードワークではありましたが(笑)制作の段取りなどはこの時代に身に付けられたと思います。

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■ インターネットでの情報発信が“必ず面白いことになる”と確信

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それから十数年にわたって、制作部のポジションで様々な作品に関わるうちに、島根出身の錦織良成監督に、島根を舞台にした作品の手伝いをお願いされて、加わることになりました。

その時、初めて島根に行って、地元の人との折衝ごとやロケ場所探しをするうちに、島根の面白さに魅了されて、撮影が終わってからも島根に住むようになりました。ちょうどインターネットも普及し始め、携帯の小さい画面でも動画が流せるようになってきた頃でした。

まだYouTubeはありませんでしたが、それでも、僕らみたいな映像に携わる人間にとって、映画の配給会社やテレビ局を通さずに映像を流せるのは、革命的なことでした。これはいつか、ビジネスとして大きくなるはずだと思っていて、例えば島根みたいな田舎から映像でエンタテインメントを発信できたら面白いことになるはずだと確信していました。

そこで、コンテンツを作り始めようとしたのですが、俳優さんやスタッフを多く揃えないといけない実写では、ビジネスモデルの面でなかなかうまくいかなくて。それなら、一人でも作れる映像って何かな?と思った時にアニメが思い浮かびました。アニメなら自分で絵を描いて、声をあてて、脚本も書けば成立すると思って、最初はアニメに興味はなかったのですが(笑)面白そうだと思って始めましたね。始めてみたものの、絵を描くことはあまり得意ではなかったので(笑)なるべく絵が主役にならない会話劇中心の作品スタイルになっていきました。

最初に注目された『菅井君と家族石』もFlashの練習のつもりで書いているうちに、いくつか絵が揃ったので、家族の設定で作ってみようかな、と軽い気持ちでスタートしたものでした。

ただ、その後の、地元の海苔屋さんを初めとする企業との展開は、狙って進めたことです。と言うのは、インターネット動画を使ってできることを提案しても、なかなか皆、手を出してくれないんですよ。当時はインターネットでインフォマーシャル的なものを展開する土壌がなくて、何ができるか分からない状況だったので、具体的なパッケージを示して「うちのキャラクターを使ってこういう展開をすると5~10万再生くらいされます」というのを事例として作りました。それを仲の良かった海苔屋さんの社長にショーケース的に提案したことで、他の企業からもいろいろな受注が入るきっかけになりました。

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■ 『秘密結社 鷹の爪』、スピード感のある展開の秘訣

今も『秘密結社 鷹の爪』などで多くの企業とのコラボレーションを行っていますが、そのスタイルは基本、ずっと変わりません。

『秘密結社 鷹の爪』で言うと、僕が所属しているDLEがキャラクターの権利を100%ホールドしていることも、スピード感を持って進めていける秘訣です。

例えば、最近のコンテンツでよく見受けられる製作委員会方式だと、参加している全社がOKしないと進みません。製作委員会では、1%でも出資している会社がNOと言ったらアウトです。そして、参加しているのは出版社、玩具メーカーなどの事業会社が多いので、その競合にあたる企業とのコラボレーションは実現しません。

その点『秘密結社 鷹の爪』の場合はDLEだけなので、極論を言うと、僕とDLEの社長がOKなら『鷹の爪』は何をしてもOKなんですよ。

CMの制作にしても、企業が商品を完成させてから発表までの期間は短くて、1~2ヶ月でCMを流さないといけないので、そのスピード感に対応できるキャラクターも限られてきます。

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© DLE

それに加えて、完成後でも修正に対応できるかは、とても大事だと思います。多くの場合、追加オーダーのような形で大掛かりな状況になってしまいますが、僕らの場合「できればここ直してください」と言われても「はい、はい」で直せちゃうんです。『鷹の爪』だと声優も僕がやっているので、セリフも5分で直せるんですよ(笑)そこが『鷹の爪』の強みの一つだと思います。

現在、NHK Eテレ「ビットワールド」(毎週金曜日18:20~)内で放送している『秘密結社 鷹の爪 DO(ドゥー)』でタイムリーな時事ネタを取り込もうとした時などに求められるのもスピード感です。僕らはカテゴリで言うとアニメですが、決定的な普通のアニメとの違いは、そのスピード感にあると思います。キャラクターを活かしたビジネス展開はDLEの持ち味ですし「いつでも、どこでも、すぐに」楽しめる「手軽なエンタテインメント」=ファスト・エンタテインメントだと思っているので、そこはずっと変わらず大事にしていますね。

 

■ FROGMANワールドへ、バカボンたちにゲストで来てもらったというスタンス

今回の『天才バカヴォン~蘇るフランダースの犬~』については、これを原作者の赤塚不二夫先生に見せたら何て言われるかな、というのは常に気にして作っていました。

制作にあたって、赤塚作品を改めて見直した時に気が付いたことは、通常のコメディとも全く別のスタイルなので、僕が今回作るものは、赤塚作品にはなり得ない、ということでした。

と言うのは、普通のコメディは、普通の人たちから見たおかしな人たちを客観的に見て笑う、というスタイルです。でも、赤塚さんの「天才バカボン」は、“バカが漫画を書いたらどうだろう”という視点だと僕は捕えています。だから赤塚さんは左手で書いてみたり、突然吹き出しをなくしてみたりして、バカボンたち本人というよりも、その世界観を面白く描いて、“赤塚不二夫という人がこんなバカなことをやっています”ということを見せる手法だと思ったんです。

(C)天才バカヴォン製作委員会
© 天才バカヴォン製作委員会

その決定的な違いを踏まえた上で、過去のテレビシリーズのアニメ「天才バカボン」で作画監督をされていた芝山努さんと違うコンセプトで作ろうとした時に、改めてアニメの「天才バカボン」も研究しました。芝山さんのアニメ版では、基本的に俯瞰で捕えた画が多いんです。舞台装置を作って、その中でバタバタ暴れるイメージで、動きが大きくデフォルメされています。実際の赤塚さんの作品はそこまでデフォルメされていませんが、芝山さんの作品では、バカボンのパパの顔もゴム毬のように、いろいろな変形をします。そのような手法で、バカボンのバタバタした世界観をテンポよく繋いでいるんです。それを今回のFlashアニメでやるのは少し違うと思ったので、やはりいつものようにカメラは若干煽り目で、バストショットで切って…という自分の基本スタイルに至りました。
いつものFROGMANワールドへ、バカボンたちにゲストで来てもらったスタンスで、赤塚さんの“言葉遊び好き”な部分を上手く抽出して反映させようというのが、今回こだわった部分ですね。

 

読書量がクリエイティブを左右する

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これから映像制作に携わりたい方は、とにかく本を読むようにして欲しいですね。僕は高校を出てすぐに映像業界に入って、佐々部清さんを始め、偉大な先輩たちと仕事をして、まず感じたのが、教養の深さでした。何せいろいろなものを見ているし、読んでいるし、圧倒されました。とにかく読書量がすごくて1日1冊当たり前に読む方たちばかりで。僕自身、高校の時に映画は見ていたし、雑学もあると思っていましたが、完全に打ちのめされたんですよ。思えば、教科書に載っていた夏目漱石や太宰治、ちゃんと読んでいなかったな、と。名作と言われるものには時代を超えるだけの理由があって、その名作を読んでいないのに知ったかぶりをしているのは恥ずかしいと気が付いて、それから本を読むようになりました。

特に日本や世界で文豪と言われるような人たちの作品…映画も1930年代から今でも残っているような白黒の作品から見て、目を養って、本当に自分が良いと思うものは何だろう、と考えて。その中で、本を読むということが映像に携わる上でいかに大事かというのを思い知らされました。文字の連なりでしかないものを、脳内で再生して映像化していく作業をするにあたり、文字を読むことは本当に大切です。シナリオを書く時も、人からいただいた台本を理解する時も、それまでの読書量がクリエイティブを左右すると思います。だからこそ、本はたくさん読んで欲しいし、何を読んだらいいか迷ったら、まずは名作を読んでみて欲しいですね。

 


 

■作品情報

『天才バカヴォン~蘇るフランダースの犬~』
5月23日(土)、全国ロードショー

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© 天才バカヴォン製作委員会

監督・脚本:FROGMAN (「秘密結社 鷹の爪」etc.)
出演:FROGMAN 瀧本美織 濱田岳 犬山イヌコ
岩田光央 金田朋子 上野アサ 澪乃せいら 桃(FROGMANの愛犬)
秋本帆華(チームしゃちほこ) 上島竜兵(ダチョウ倶楽部) 村井國夫
主題歌:クレイジーケンバンド「パパの子守唄」(ダブルジョイ インターナショナル / ユニバーサル シグマ)
オープニングテーマ:チームしゃちほこ「天才バカボン」(ワーナーミュージック・ジャパン)
音楽:manzo
制作:DLE
制作協力:フジオプロ/日本アニメーション
企画協力:ぴえろ
製作:天才バカヴォン製作委員会
配給:東映
宣伝:DLE/ティ・ジョイ

■オフィシャルサイト

http://bakavon.com/

(2015年5月19日更新)