映画美学校監督コース修了後、平田オリザ主宰の劇団青年団に演出部として入団。2006年発表の中編『ざくろ屋敷』にてパリ第3回KINOTAYO映画祭ソレイユドール新人賞を受賞後も、様々なタイプの作品で国際的にも高評価を得てきた深田晃司さん。最新作は、劇作家・平田オリザさんとロボット研究の第一人者・石黒浩さんが共同で進めてきた世界が注目するアンドロイド演劇の映画化。これが世界初となる、本物のアンドロイドと人間の共演にも注目が集まる中、本作のことやインディペンデント映画についてなど、お話を伺いました。

■ 映画美学校から劇団青年団の演出部へ

IMG_2987中学生くらいの頃から、映画好きの父親の影響で多くの映画に触れていました。VHSビデオやレーザーディスクも家にたくさんありましたし、CATVの映画専門チャンネルでもよく映画を観ていました。当時から小説や絵、音楽など何らかのものづくりに携わりたいという希望はあったのですが、映画だけは観る専門と思っていました。と言うのも、僕が好んで観ていたのが国内外の古典映画ばかりで、矢口史靖さんや園子温さんなど、ぴあフィルムフェスティバルから注目された自主映画の監督たちも全然知らなかったんです。だから映画が自分で作れるものとは思っていなくて。コミュニケーション能力にも自信がなかったので(笑)とても皆で作るなんて無理で、そもそも世界が違うと思っていましたが、たまたま大学2年生の時に映画を観に行ったユーロスペースで映画美学校のチラシを見つけました。そのチラシを見て「映画を作る側に回れるんだ」と思って、短期の1週間夏期講習に参加したのが、映画作りに携わることになったきっかけです。結局、その期間では自分が作りたいものが作れなかったので、もう少し続けたいと思って入学を決意しました。

実際に自主映画を作り始めたのは、映画美学校の最後の年、21歳くらいの頃でした。初の作品が長編映画という時点で結構な無茶をしていましたが(笑)ビデオカメラを借りて友人に声をかけてスタッフをやってもらい、知り合いの俳優さんに片っ端から声をかけて作って、それはアップリンクで1週間上映されました。そして自主映画を3本くらい作ってから劇団青年団のことを知り、演出部に入りました。
それまでは演劇をあまり観たことがなかったのですが、最初の自主映画に出ていた井上三奈子さんという俳優さんから、今度、青年団に入ったから見に来て、と誘われて行ったら今まで知らなかった演劇の面白さを発見して。それで演劇を作りたいと言うよりは、映画に活かせるなと思って青年団に入りました。映画から演劇へ留学の気分でしたね(笑)

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■ インディペンデント・フィルムメーカーと周辺環境をサポートする「独立映画鍋」に込めた想い

IMG_3000インディペンデントの映画作りを続けていると、日本の映画制作システムの歪み、ひずみのために、やりづらいと感じることも増えてきました。日本の映画界では、例えば是枝裕和さんや河瀬直美さんのような、アメリカかヨーロッパかと言えば後者にあたる、ハリウッドのような火薬の量で派手に見せるものではないものが多く作られ海外でも高く評価されています。
でも、日本の場合ビジネスモデルがアメリカ型で、劇場収入やDVDの売上で制作費と宣伝費の大半を回収しなければいけません。そのためにはシンプルに売れる映画を作らなくてはならず、ハリウッドのような大きなマーケットを持たない日本映画では、それは大変ハードルの高いことです。一方のヨーロッパでは、アメリカ型ビジネスモデルばかりに依存して映画の多様性を狭めないように、助成金を充実させたり制度を作ったりして、映画制作の経済的なリスクを抑えています。日本ではそれが不十分なので作家性の強いインディペンデントの映画は苦労することになってしまう…そのあたりの問題意識がインディペンデント・フィルムメーカーと周辺環境をサポートする「独立映画鍋」の設立にも繋がりました。

例えばヨーロッパのような多様な映画が生まれる環境は、多様な作り方に支えられています。映画の資金を集める方法をざっくり分けると、普通のビジネスとして映画制作会社から出資を受ける方法、或いは助成金を獲得する方法、または寄付を受けるという選択肢があって、それらのパッチワークによって多くの映画が作られています。日本ではひとつめの出資を集める方法に偏り過ぎていて、助成金と寄付については制度の構築が不十分です。ただ、認定NPOへの寄付が税制優遇される法律(寄付をすると約半分は税額控除で税金が戻ってくる仕組み)が2011年の震災をきっかけに成立しました。これは画期的で、数字だけで言えばアメリカ並みの税制優遇システムと言えます。それを映画に活かすためにはどうしたらいいか。作家や制作会社がいちいちNPOを作るのは難しいので、ひとつの大きな窓口を作ろう。それが2012年に設立した「独立映画鍋」です。認定NPOになるには3~4年の実績が必要なので、今は、それに向けて活動しているところです。

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■ 3つの意図がある“光の使い方”

映画『さようなら』は、劇団青年団を主宰する劇作家・平田オリザさんとロボット研究の第一人者である石黒浩さんが共同で進める、人間とアンドロイドが舞台上で共演する演劇プロジェクトの映画化です。石黒浩さんはバラエティー番組「マツコとマツコ」で“マツコロイド”を手掛けたことでも知られています。
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さらに、アンドロイド演劇の公演は2009年にスタートしてから、世界各国で行われて実績が積み重なっています。そのため、既にシステムは出来上がっていて、プログラミングも、アンドロイド専属の技術者の方が担当しています。ただ、芝居は最初から組み込まれているわけではないので、脚本のシーンに合わせて、どういう動きをするのが最適なのかを、技術者の方と作っていく共同作業でした。
僕の最初の自主映画にも出演していた井上三奈子さんが、本作でアンドロイド“ジェミノイドF”の声を担当していますが、このシーンでこういう動きをすると、よりリアルなんじゃないかというのは井上三奈子さんにも演じてもらい、それをベースにプログラムを作ったりもしていきましたね。

(C)2015 「さようなら」製作委員会
(C)2015 「さようなら」製作委員会

その他にも、制作にあたって意識していたのは、光の使い方です。本作では、3つの意図がありました。1つは単純に美学的に美しくしたい。そのために陰影の濃い光にしたかったんです。日本で一般的な全体照明の光は陰影がつきにくくフラットですが、ヨーロッパは間接照明なので陰影が濃くつきます。今回は日本が舞台ですが、原発事故で電気が使えなくなっている設定なので、それが無理なくできると思いました。
2つめは、主人公ターニャが死に向かっていく物語なので、その時間が流れを実感として出すこと。動きの少ない静かな空間の中でも時間は流れていることを感じさせるために光はすごく有効だと思っていて。画は動いていないようでも、光は動いているという、止まっているようで動いている時間を作りたくて、撮影監督の芦澤さんと照明の永田さんに相談して、光の揺らぎを作りました。僕は2006年の静止画を使ったアニメーション『ざくろ屋敷』でそれを試みていたので、今回、それを実写の光でやりたくて『ざくろ屋敷』を事前に観てもらって作っていきました。
3つめは放射能を描くにあたって、見えない放射能を実感させるためには、画の中に大気を感じさせる必要があったこと。その中で光の変化や風に揺れるカーテンもそうですし、大気を感じさせるために光は重要だと思いましたね。

 

■ なぜ自分は映画を作るのか、自分は世界とどう向き合っていくのか

IMG_3016最近では、携帯でも映像を撮れる時代になったからこそ、なぜ自分は映画を作るのか、自分は世界とどう向き合っていくのかということが、ますます重要になってきます。これから映像制作に携わりたいという方には、そこを意識して欲しいですね。誰かが自分の監督としての道筋を作ってくれるなんてことは期待しないで、自分自身をプロデュースするような気持ちで自立した作家になれる人の方が国際的に活躍できると思います。もちろん、ジャンル映画を何でもこなせる職業監督になるという選択肢もありますが、少なくとも自分で企画から携わって、シンプルに作りたいものを作るという作家的な映画監督はそうすべきだと思います。

僕の映画作りのモチベーションは、たまたま思い付いたアイディアを、思い付いたからには映像化しないと気持ち悪い、という想いで、いつも制作に向かっています。今も、映画化したい企画が2つ3つあるので、インディペンデントの制作環境を考える「独立映画鍋」の活動とも並行しながら、映画化に向けて進めていきたいと思っています。


■作品情報

『さようなら』
11月21日(土)新宿武蔵野館他、全国ロードショー

(C)2015 「さようなら」製作委員会
(C)2015 「さようなら」製作委員会

ブライアリー・ロング 新井浩文 ジェミノイドF
村田牧子 村上虹郎 木引優子
ジェローム・キルシャー(特別出演) イレーヌ・ジャコブ(特別出演)

脚本・監督:深田晃司(『歓待』『ほとりの朔子』)
原作:平田オリザ
アンドロイドアドバイザー:石黒浩

配給:ファントム・フィルム

■オフィシャルサイト

http://sayonara-movie.com/