より深く、より広く伝達する表現を模索し、見た人や触れた人の心に残る新しいユーザー体験を提供し続ける『ホムンクルス』。
少数精鋭メンバーで、企画立案からインタラクションの実装、バックエンドの開発まで、デジタルコンテンツ制作全般を手掛けるホムンクルスの代表取締役社長であり、またデザイナーでもある木村靖裕さんに、Webメディアの可能性やクリエイターに求められることなど、お話を伺いました。

 

■ 一人でコンテンツを作ってみたい

幼い頃は画を描くことが好きで、学校内に展示されるポスターを描いたり、母親の薦めもあって絵画教室に通っていました。高校卒業後は上京して、デザイン系の専門学校へ進学した後、主に雑誌のページを制作する紙媒体のグラフィックデザイナーとして働いていました。

私が20代後半の頃に新型のMacintoshが続々と発表されて、インターネットが普及し始めた90年代後半に発表された中村勇吾さんの個人サイト『MONO*crafts』を閲覧した時に、「Webでこんな表現ができるんだ!」と感動してしまいまして。
それまではWebのことを全く知らなかったので、このサイトが何で作られているかも分からず同僚に見せたら、Flashというソフトで制作されていると聞いて、これを境にWebに対し一気に興味が沸いたんです。

当時は個人で制作されたWebサイトが流行っていて、かたや印刷業界は一人だと完結しない業種なので、個人で完結する作品が話題になるといった風潮に、とても魅力を感じました。
「一人でコンテンツを作ってみたい」と思い、まずは、おもしろい動きをするサイトを作るため、HTMLをすっ飛ばしてFlashを独学で習得しましたが、最初はActionScriptを覚えるのに苦労しました。

今で言うFWAやAwwwardsといったショーケースサイトのようなものが、当時のマクロメディア内にあったのですが、そこで私個人が制作したサイトが選ばれたことをきっかけに、「これは仕事にしてもいけるんじゃないか」と思い立ち、印刷会社を退職してWebの制作会社へ転職しました。

 

■ Web業界にいる限りはプレイヤー側でいたい

IMG_0572Webの制作会社で、主にフラッシャーとしてデザインも担当していた頃に、自身が携わった作品で広告賞をいただいたんですね。これを機に、「他の会社でも活躍できるかもしれない」という自信がついたと同時に、もっとWebの世界を幅広く見るためにも別の会社へ転職しようと決意して、ソニックジャムに入社しました。ここで様々な企業のFlashサイトを制作できた経験は大きかったです。

コンテンツ制作に加えてマネージメントの役割が増えてきた頃、制作だけに没頭できない環境に、段々と危機感が募っていきました。企業に在籍している身としては人材育成も大切ですが、この業界にいる限りは、常にプレイヤー側で居続けたいという思いが強まり、今後のことを考えるようになりました。

自分は経営に向いていないタイプだし、会社を設立するつもりは全く無かったんです。だから、フリーランスで仕事をすることも考えたのですが、請け負いだと制約もあって、プロジェクトの最初から最後までしっかりと携われないことを危惧した結果、仲間2人と一緒にホムンクルスを立ち上げることになりました。

 

■ Web業界が大きく変わる新技術「WebGL」

これまでは主にFlashを用いて、動きのあるサイトを制作してきましたが、会社を設立した3年前は、ちょうどWeb業界からFlashコンテンツがどんどん姿を消していった頃だったんです。
ですから、しばらくはHTMLやJavaScriptを使ったサイトを制作していましたが、昨年から今年にかけて、多くのブラウザーがWebGLという仕様に対応するようになり、Web業界が大きく変わった気がします。

WebGLは、プラグインのインストールが必要なく、ブラウザ上で3次元の表現が可能になる画期的な技術で、これを機に自社サイトもWebGLを使ってリニューアルをしたところ、仕事の依頼も増えました。
スマートフォンにも対応しているので、お客さんから直々に「WebGLでサイトを制作してほしい」とお願いされるケースが増えてきました。


「FACT :Smartphone Music Video」
webGLで作られたスマホ専用の「動くMusic Video」


「日本のおいしい米。」
大量のオブジェクトをスムーズに動かすためにwebGLを使用。
2Dでの表現に特化した「Pixi.js」で実装している。


マルチプレイゲーム デモ
スマホ対応のブラウザゲーム。
Node.jsを使用してリアルタイムで対戦可能。


 

■ 常に新しいことを打ち出していく

IMG_0548紙媒体の仕事に始まり、Flashの全盛期を体感し、WebGLという次のフェーズに移り変わろうとしている昨今で思うことは、見せ方のフォルムは変わっても、コンテンツの軸や中身というものは、あまり変わっていないと思うんですよ。
例えば、これまではマウスやキーボードを使って文字入力をしていたことが、タッチパネルが搭載されたことにより、指での入力も可能になった。他に手段が増えただけで、やろうとしていることに変わりはありません。

もちろん、方法論についての知識や経験というのは重要になってきますが、どんな最新技術であれ、これまでとまったく違う“文脈”でできている訳ではありません。これまでの文脈を今度はどういった方法で表現して、世の中にリリースしていけるのか。だからこそ、文脈となるものが大事になってきます。

プレイヤーで居続けるためには、常に新しいことを打ち出していかなければなりません。新しい技術へと移り変わっても、グラフィックデザインの経験は活かされているし、Flashの経験も今にしっかりと繋がっています。今ならどんな変化球がきても、打ち返せるんじゃないかと自負しています。

 

■ おもしろいと思える事を、他人にも伝える事ができるか

クリエイティブな仕事をする上で意識していることは、「いかにギリギリまで詰める事ができるか」ということです。そのためには、工数から算出される時間とお金の関係を無視して進めることも時には必要です。場合によっては、寝る時間も削って最後まで時間をあてることができるかどうか。
次の仕事がこなかったら困るという思いもありますが、次もいい仕事を得るためには今、どうしたらいいのか。そういった考えの先にある、さじ加減がボーダーラインになってくると思います。

あとは、クリエイティブといったものをあまり強く意識しない方がいいかもしれません。洗練されたものを打ち出そうとか余計な事は考えず、まずは作品をつくることに専念した方がいいし、それがすべてだと思っています。
現時点で、自分は何が得意で何がつくれるのか。「過去にこんなことをやっていました」だけだと厳しいので、作法はいったん無視してでも、手を動かして何かを形にしてほしいですね。

また、自分自身の中で今おもしろいと思っていることが明確にあるかどうか。琴線に触れることは、皆さんそれぞれあると思うのですが、その感覚こそが大切です。そして、その人がすごくおもしろいと思える事を、他人にすごく分かり易く伝える事ができるかどうかに尽きると思います。


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■株式会社ホムンクルス
案件の規模に関わらず、企画立案からインタラクションの実装、バックエンドの開発まで、デジタルコンテンツ制作全般を手掛けています。
より深く、より広く伝達する表現を模索し、見た人、触れた人の心に残るような、新しいユーザー体験を提供できるよう、日々取り組んでいます。

homunculus Inc.
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