人材総合サービス中心に事業を展開しているクリーク・アンド・リバー社が、2019年8月27日に「社員発信の社内施策から学ぶ〜従業員エンゲージメントを高める方法」と題し、トークイベントを開催。実際にこの取り組みを行なっている企業3社の担当者をゲストにお招きし、それぞれの事例をプレゼンテーションしていただきました。

「従業員エンゲージメント」とは、従業員が企業の掲げる理念や戦略、目標を理解し、自発的に貢献しようとする意欲を表す言葉です。
この「従業員エンゲージメント」を実践すると企業に一体どのようなメリットがあるのでしょうか?
その内容をレポートします。

登壇者
株式会社SmartHR マーケティング部 インハウスエディター たけべ ともこ 氏
ライフネット生命保険株式会社 人事総務部長 岩田佑介(いわた ゆうすけ)氏
株式会社LIFULL クリエイティブ本部 コミュニケーション1グループ グループ長 山岡 早穂(やまおか さほ)氏

株式会社SmartHR「とにかくオープン!な社風がエンゲージメントを高める秘訣!」

トップバッターは株式会社SmartHRのインハウスエディター、たけべともこさんのご登場です。たけべさんといえば、クラウドファンディングで「お見合い相手を募集するプロジェクト」を実施し注目を集めた人物。同社には2019年に入社しました。
SmartHRとは、人事・労務に関する手続き(紙ベース)を全てweb上で完結させるというクラウド型ソフトウェアです。実績は現時点で2万6000社の企業が導入、継続利用率は99.5%と高い割合で利用されているというサービスです。

そんな同社の取り組みとしてまずたけべさんは働く環境づくりについて紹介しました。
「福利厚生は、“スキルアップ”“育児サポート”“コミュニケーション活性化”などおよそ6つにジャンル分けしています。
特徴的なものでは、月5000円を支給する「タバコ吸わない手当」、お昼寝の推奨、18時半以降はフリーアルコールタイムを導入しています。」

続けて、社内施策について、2つの取り組みを紹介しました。
「一つは社内報です。社内報といっても、外部にオープンしていて、社外の方も読めるようになっています。当社はとにかくオープンで、昇給実績なんかも外部に公開しているほど。そんな当社らしい社内報ってなんだろうと考えた結果、「SmartHRオープン社内報〜誰でも読める社内報」というタイトルになりました。」

社内報にはKPIの指標も設けて運用しているというたけべさん。
「この社内報のKPIは、
・入社者から「オープン社内報見ました」と言われること。
・社員からの評判、好感度が高いこと。読まれていること。
・撤退基準は上記2つの逆。または、まず1年やってみる。

以上の3点で設定しています。」

もう一つは部活動について。現在部活動数はなんと52もあるとのこと!
「申請をして立ち上げるのですが、乱立はOKで、参加は強制ではありません。特徴的なルールとして、「2部署以上」かつ「4名以上」で集まると、1人あたり1,500円/月を支給します。」
たけべさんによると参加率は全体の8割とのことで、多くの社員の方が業務以外の活動にも積極的に取り組んでいるようです。

参加者から「社内報で気をつけるポイントは?」という質問が上がりました。
それに対してたけべさんは、「一番大事なのは、従業員目線で、知りたいと思うテーマを考えて見つけること」と述べました。
また、「従業員10人程度の小規模な事業会社の広報がやるべきこととは?」という質問に対しては、「その業界について把握することと創業期の写真は後々必要になるので、必ず撮っておいた方が良いですよ」というアドバイスがありました。

ライフネット生命保険株式会社「must、shouldからwillへ〜自主性を尊重する働き方」

2社目はライフネット生命保険の人事総務部長、岩田佑介さんです。岩田さんはなんとパラレルワーカー!同社の他に、ご自身で社労士事務所を開業されたり、立命館大学の客員教授も担われたりと、3足のわらじでご活躍中です。

それにしてもなぜ、岩田さんは複業しているのでしょう?単に同社が複業を認めているから、といえばそれまでですが、実は他にも理由があるのです、それは一体?

【複業を現場社員が主導で推進】

起業体験のワークショップが社内で開かれるなどをきっかけに、社内で複業の機運が高まってきたという岩田さん。
「しかし当初は“本当に複業しても大丈夫なの?”という戸惑いから、なかなか広まっていきませんでした。そこで、“じゃあ人事自ら複業すれば、他の社員も安心して複業できるのでは”ということになり、僕も複業することにしたんです。
また、ナレッジ化して社内で共有する目的で“パラキャリ部”も立ち上げました」
ここまで徹底することで、ようやく社内でも「複業してもいいんだ」という安心感が広まったのだとか。

この他の同社の社員発信型の施策の事例として以下2点を挙げました。

・新入社員は全社向け研修を自由にプランニングできる
・若手社員から“組織の文化づくりのために導入したい!”とHRTechツールを提案され、スピーディーに導入

同社には、新卒で入社した社員が、全社員向けの研修を自由にプログラムして良いというルールがあるとのこと。
岩田さん曰く「研修って、受ける立場で与えられるものという認識があるけれど、そういう受け身ではなく、自分たちで受けたいと思うものを自由にプランニングして、全社研修にしてください、という仕組みにしてみました。」

人事は一切口を出さない。そのスタンスを貫くと、新入社員が自主的に動き始め、組織のあり方を考え始め、会社の未来のビジョンを語り出したと言います。

「特に社員発信でピアボーナスのツールを導入してから、若手社員が“組織文化とはどうあるべきか”を考え、自分たちで作っていこうという風に意識が変わっていきましたね」

一方、従業員発信によって生まれた社外向けの取り組みも紹介いただきました。
「当社でがん保険を開発した際に、がんサバイバーの方にインタビューをしたところ、『がんと就労』というテーマが、日本における社会課題だということが分かってきました。たとえば、がんに罹った時に「自分ががんであること」を社内にカミングアウトできないという問題があったり、両立支援のための休暇制度等もまだまだ整備されていない状況が把握できました。
これは社会的に問題ではないかということで、まずは社内でも就業規則をきちんと整えようということになったのです。」
岩田さんは早速、問題提起をしてくれた部門と連携して、がんに罹患した社員に配慮した就業規則とはどんなものなのかを考え、作っていこうとプロジェクトを立ち上げました。

そして、自社の就業規則を整えるだけではなく、この取り組みをもっと社会に認知し広めていくべきとして現在、 “がん治療と就労の両立支援”として、がん罹患者の働く環境をもっと整えていこうという社外に向けた啓発活動に取り組んでいる真っ最中だと言います。
「このように、組織だけでなく、社会も自分の手で変えられる、そんな体験を多くの社員にして欲しいと思っています」と締めくくりました。

株式会社LIFULL「1000人超の従業員の一体感を高めるための徹底した社内施策」

最後に登壇いただいたのはLIFULL山岡さん。同社もカルチャーは全員で作るという意識を全社員が持ち、積極的に活動しておられます。その様子は「日本一働きたい会社のつくりかた」というタイトルで書籍化され、2017年にはベストモチベーションアワードで1位を獲得したほどです。

社員数は1400人強、国内各地に拠点も多数という同社なら、施策の規模もかなり大きそうです。
山岡さんはまず、企業のカルチャーを同社がどのように作り上げているのかについて、社内で掲げている考え方を2つあげました。

 ・内発的動機づけ
・圧倒的当事者意識

内発的動機づけについては、主に社員のキャリアプランの実現のために制度化していることを紹介しました。
「まずは内発的動機づけの明確化として、3年先、5年先のキャリアのビジョンをキャリアデザインシートに落とし込み、上司とすり合わせます。それに基づいた挑戦したいこととして、自分のやりたいことに基づいた然るべき部署に異動できるキャリア選択制度、新しいことを立ち上げて事業化したいという希望を提案できる新規事業提案制度、エンジニア等のクリエイターが年間約10%を自分の本業以外の研究開発に充てることができるクリエイターの日という制度を設けています。」

圧倒的当事者意識においては、全社対象で有志社員が業務時間外に活動しているという委員会/ワーキンググループという取り組みの中からも特徴だったものを紹介しました。

【ビジョンプロジェクト】
海外研修から戻ってきたメンバーがビジョンを社員全員が体現する会社にしていきたい、と有志で立ち上げたもの。
5つのチームで構成されており、最小単位組織まですべてのチームにビジョンをつくり、それが実行されているかを確認、役員にも役員が持つべき心得を体現できているかどうかを推進するチームを設けている。毎年50~60名が参加。

「このプロジェクトではビジョンツリーを策定しています。当社の経営理念から、各部署がそれに応じたビジョンを持ち、さらにグループのビジョンとして落とし込まれているもの。これを実行していきます」
これらは本社以外の拠点も含めた全社員がビジョンを共有しており、自分の行動が経営理念とどう結びついているかを日々感じながら業務にあたれると山岡さんは説明しました。

【もちもちWG(ワーキンググループ) 】子持ち、介護持ち、持病持ちなどの事情を抱えながら働く社員をサポートするグループ

「社内Webサイトに“もちもちポータル”という専用サイトを開設し、育児に関する情報や介護・病気に関する情報などカテゴリ別に情報発信しています。ここで掲載している情報のクオリティが非常に高く、なかには、「保活」をテーマに50ページにも及ぶリサーチ内容をまとめて掲載したという意欲的な社員もいます。」

山岡さんは最後に、これまでに紹介した施策について、社員の自主性を損ねないよう、ポジティブなカルチャーを根付かせていくための工夫も紹介しました。
「社員が挑戦することに対して、不安を抱えることがないように“心理的安全の担保”という考え方があります。“薩摩の教え・男の順序”を心構えとして採用し、全社会議等で伝えています。これは当社のカルチャー形成の重要なポイントとして位置付けているものです。」

従業員をエンパワーメントする“ボトムアップ型”が会社の基盤となりエンゲージメントを高めていく

ゲストのプレゼンテーション後、参加の方からの質問に答える形でトークセッションを行いました。その中からいくつかをご紹介します。

Q 社員が“やらされ感”を持たずに自主性を発揮させるにはどうしたらよい?

ライフネット生命保険岩田さん:「確かに悩ましい問題。その点では、月一で社員との面談を設け、色々と話をします。要は“~するべき”より“~したい”の純度を高めていく感じ。“やりたいことは何ですか?”と問い続けることが大切です。」

Q 有志の活動を業務時間外で行うためには業務を定時内に終わらせられるように環境を整えることも同時に策定・実行しないといけないのではないか?

SmartHRたけべさん:「業務は効率的にやろうと皆意識して仕事をしています。ひとりで無理をしないように、きつくなったら白旗をあげやすい空気作りというか、自発的にやりたいけど手が回らないといった時に周りに言いやすい環境づくりは意識していますね。」

ライフネット生命保険岩田さん:「業務削減は当然やっています。ただ、時間があったらやりたいなというのは実はそんなにやりたいことではないと思いますね。逆に、夢中になれるものがあるなら、一時的に自分の部署の仕事への時間的なコミットメントが下がっても、受け入れるべきだと思っています。それだけやりたいことがあるんだったら、絶対そっちをやったほうがパフォーマンス出ますし、やりきった後の経験は、長期で見たらきっと本業に返ってきます。」

LIFULL山岡さん:「本業が忙しい社員ほどワーキンググループ活動を頑張る傾向が高いです。残業にはなるが、社員のモチベーションを活かすのが会社方針なので、その点は上司の理解を会社側が求めています。マネージャー向けの研修でもメンバーが「やりたい」という“内発的動機”をきちんと活かして、本業だけでなく会社全体の施策にも関われるようにしようと会社から呼びかけています。」

いかがでしたか?
イベントを主催したクリーク・アンド・リバー社はプロフェッショナル・エージェンシーとして、ゲームやWeb、映像といったいわゆるクリエイティブ領域から、建築、ファッション、フード、法曹といった業界まで幅広く、その分野の専門性を活かして活躍しているプロフェッショナルを支援する事業を展開、主に転職支援や制作支援を行っています。

その中で、このイベントを企画した舞台芸術事業部は、舞台やイベントのプロデュースを手掛け、モデレーターを務めた部長の藤澤恵太は、自らも芸人として舞台に立ちながら、舞台に関わるクリエイターを支援する事業を推進しています。

今回このイベントを主催した背景にも自社での社内取り組みがあります。
昨年、当社がオフィスを移転し、今まで拠点を分けていた部門、グループ会社が現オフィスに一堂に会することになりました。しかし同じ会社、同じグループなのに、顔も名前も互いに知らない、という交流の薄さが顕わとなり、これからはよりグループ含む社員同士の方向性を一つにまとめていこうという社内プロジェクトが立ち上がりました。その中の一つの取り組みとして昨年、会社の社史を舞台化するという「企業史演劇」を実施。それをきっかけに従業員エンゲージメント向上のコンテンツとして、サービスのご提供もスタート。

日頃当社とお取引のあるクライアントのご担当者から「他社がどんな社内施策をやっているのか知りたい」というご意見を聞く機会が多く、それにお応えして開催した当イベントですが、当事業部では、こういったエンゲージメント向上や自社理解の向上を「企業史の演劇化」としてお応えしていくべく、取り組んでまいります。

(CREATIVE VILLAGE編集部)