初めまして、ネットイヤーグループ株式会社ウェブデザイナー/アートディレクターの金 成奎と申します。
本連載ではウェブやデジタルにおけるビジュアルデザインの品質について、様々な角度から私なりの解釈を交えてお伝えできればと思います。
皆様にとってウェブデザインをより深く広く「思考」し、理解を深めていただくきっかけになっていただければ幸いです。

シンプルであること。それは現代のデザインに求められた大きな命題の一つです。より多く獲得し、所有し、積み重ねることが正義であった人類の歴史において、「Less, but better」 というシンプルさの理念は、大げさにいうとある種の歴史的な価値観の逆転とも言えるでしょう。我々は有史以来、初めて持たざることに価値と美を見出すフェーズに突入しています。

歴史的な観点から考察すると決して当たり前のことではないこのシンプルという概念ですが、だからこそビジュアルデザインにおいても、時にその実態が曖昧になり、デザイントーンの決定において混乱を招くことが少なくありません。ここではあらためてウェブデザインにおけるシンプルの定義を試みたいと思います。

背景への擬態

いわゆるフラットなデザインと評されるデザインのトーン・表現技法です。エレメントやコンポーネントの形状はデフォルメされ、施された意匠はあくまでさりげなく、のっぺりと平面的な印象になり背景に溶け込んでいます。デザイン上のメリハリは乏しく、利用するにあたってのシグニファイア (手がかり) が希薄であり、画面上の余白が目立ち情報が乏しい印象を与えかねない、という問題が生じる場合もあります。

このような平坦なデザイントーンは、iOS7の登場以降、おおよそ標準的なデザインマナーとなったと言えるでしょう。例えばこれらのデザイン、いずれもその印象はポップであったりスタイリッシュであったりと様々ですが、それぞれの意匠はフラットであり、装飾性という観点でいえば全てシンプルであるという共通した特徴が窺えます。

(左)出典:#このラジオがヤバい | NHK・民放連共同ラジオキャンペーン
(右)出典:クロッカンシュー ザクザク [CROQUANTCHOU ZAKUZAKU]

一方、シンプルさとはこれらのビジュアルデザインにおける特徴の共通点の一つに過ぎず、カラフルであることやコントラストが激しいこと、あるいは形が奇抜であることなどは、そもそもシンプルさとは別のデザイントーンの文脈として語られ検証される必要があるでしょう。

情報の省略・整理

出典:Google

すでに「在る」ものに対する意匠ではなく、そもそも「在る」ものを減らす・なくす・省略する作業が「情報の省略・整理」です。
単純に見た目の意匠だけに留まらず、文言や要素の数も可能な限り削ってまとめるストイックさや、必要最低限の要素だけを画面上に残すクリーンさ。このような作業・姿勢もシンプルなトーンにおいて有効です。

このようにシンプルという言葉について、それがフラットであることを指しているのか、情報量の少なさを指しているのか、それとも両方なのか、まずはプロジェクト内で合意形成しておく必要があります。その上でデザイントーンの決定において、装飾性以外の方向性については別途検討・設定がなされるべきでしょう。

現代のビジュアルデザインにおいて多用されがちなシンプルというキーワードですが、重要な概念であるからこそ一度その中身を掘り下げると同時に、必ずしもデザインにおける課題を盲目的に全て解決できる万能薬ではないことは改めて留意しておきましょう。

筆者の書籍紹介

『ウェブデザインの思考法』
本書はデザイナー、ディレクター、デベロッパー、クライアントなどなど、ウェブ制作に関わるステークホルダー間でウェブデザインに関わる「共通言語」を持ち、より成果物の質を高めるためのガイドブックです。
具体的にはウェブデザインを機能性と情緒性という2つの軸を中心に分析し、体系化することを試みています。
デザイナーの方には、デザインの方針策定や成果物の言語化のためのツールとして、企業のディレクターやウェブ担当者の方には、ウェブデザインを正しくディレクションし評価する上での「手引き」として、ぜひご活用ください。
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