「6秒商店」「New Game TV」などの動画コンテンツが話題のコンテンツスタジオCHOCOLATE Inc.が、2019年7月4日都内でイベントを開催。
『広告とコンテンツの関係について考え続けたチョコレイトの答え』と題し、チョコレイトのプランナー、元バズマシーン栗林和明さんがスピーカーとして登壇しました。
栗林さんは、バズと言われるありとあらゆる動画コンテンツを隅々まで見て研究。
セミナーではキラーコンテンツと言われるネコ動画や世界的人気アイドルの動画が一瞬にしてバズる中、“人を動かすコンテンツ”を追求するために行ったという数々の実験と、そこから見えてきた成功の法則の数々は、参加者間でも活発なディスカッションの誘因となり、開催中にTwitter上で話題となり3位にトレンド入りしたほどです。
また、セミナー終了後のアンケートでは、満足度が98.8%にものぼりました(※)。
コンテンツメイカーとして最前線で活躍する、チョコレイトが出したこのお題に対する解とは?気になる内容をピックアップしてお届けします。
※参加数約800名のうち回答数533件

【登壇者/スピーカー】
株式会社チョコレイト プランナー 栗林 和明さん
1987年生まれ。2011年博報堂入社。2017年CHOCOLATE Inc.へ。総再生回数 “3億突破”。話題の量・質・精度を高める。
-2016年JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー最年少メダリスト受賞
-2017年米誌 AdAge「40 under 40(世界で活躍する40歳以下の40人)」に選抜
-カンヌGOLD、ACCグランプリをはじめ、60 を超える海外賞を受賞

ソーシャルメディアにおける広告とコンテンツの実情とは

「今回なんでこんなに皆さん参加してくれたんだろうと思って」。冒頭でこう語り始めた栗林さん。
当初は数十名程度の規模で勉強会のような形式でやろうと考えて募集を募ったところ、1000人を超える応募が殺到。急遽、規模を拡大しての開催となりました。
これは“広告”“コンテンツ”、これらのワードに何かしら課題意識を持つ人々がたくさんいるという現状を表しているとも言えます。
広告としても、コンテンツとしても中途半端で機能しきっていないものが世の中に溢れている、と指摘する栗林さん。
有料アプリランキングでは2017年以降連続で広告をブロックするアプリが1位を獲得しており、“広告は邪魔なもの”という認識がすっかり定着しているといいます。

動画メディアでは、もはやキラーコンテンツとして不動の地位を確立しているネコ動画や世界的人気アイドルの動画。これらはアップすると同時に数十万、数百万ものエンゲージメントを一瞬にして叩き出してしまいます。
「そんな数字に到達するのに数ヶ月もかけて再生回数を増やしていく僕らのコンテンツ、その制作期間って一体何なんだと。この時代に“人の心を動かすコンテンツ”って何だろうと悩んで。でも今この問題の答えはきっと誰にもわからないのではないか。だったら実験するしかないなと思って、自分たちでやることにしました」。

チョコレイトの実験と導き出した答えは「人格」

栗林さんはまず実験結果から得た「結論」を説明しました。
色々な実験をやってみて僕たちが出した答えは“人格”です」。
人格には、人間味、その人らしさ、作家性、ブランドなどが含まれます。
音楽や漫画、映画になぜ私たちはお金を払うのか、を考えた時に、それは“心を揺さぶられたい”という人々の気持ちなのだと栗林さんは言います。

好きな音楽のアーティスト、漫画の登場人物など、彼らが発する歌詞やストーリーに感動したり勇気づけられるなどして共感する、そこにはそれぞれが有する「人格」が影響すると栗林さんは考えます。
そこで、実験です。

Twitter “個人”から発する方が強い

テッテレーという誰かは特定できないアカウントを作り、そこでチョコレイトのメンバーが毎日必ず一つキャラクターを作ってTwitterにアップしようという試み。フォロワー数は400人くらい。


面白そうなものをあげているつもりだけれど、リツイート数が伸びない。
次に個人のアカウントで同じことをやって試してみたところ、リツイート数が数万〜数十万と圧倒的に増加した。それだけでなく、商品化に関する引き合いもあった。
個人発だとやはり「人格」が出せるのだなということが明確に判明した事例。

結論:テッテレーという誰かを特定できないアカウントによって「人格」が薄まっているのではないか

Twitter 人が見えないと固定ファンがつきにくい

チョコレイトがやっている6秒商店。開店当初はフォロワーが数百人だったところから半年後くらいに一気に8万人に増加した。
しかしその後の経過を見ると、商品によってエンゲージメント数にばらつきがある。数百くらいにとどまるものから数万以上を超えるものまで幅がある。
好きな商品とそうでないものの反響が極端。


結論:6秒商店の商品は何でも好き!というような「愛着」をファンに定着させきれていない。

また、ドライビングレコーダーだけでドラマを撮影する「ドラレコドラマ」という企画を実施したところ、10万ほどの再生数には達したものの、フォロワーがほとんど増えなかったという結果に栗林さんは、これもまた愛着をちゃんと持ってもらえなかったと振り返りました。

今度はYouTubeでの実験です。
人気のユーチューバーチャンネルは日々、ファンとの接触機会を持つことにより、その人の過去・現在・未来の出来事、人となりの文脈まで理解して好きになってもらうことで、もっとコンテンツを見たくなるという動機形成につながっている「人軸」のチャンネル。
そこでチョコレイトでは「企画軸」で人気ユーチューバーに匹敵する再生回数を誇るようなチャンネルが作れないかと実験をすることに。

YouTube 企画と人との関係性〜“人柄”がしっかり出せている企画は伸びる

チョコレイトのメンバー、森翔太さんが作った「流しそうめんとギター」というコンテンツ。非常に人気が高く、視聴した後にファン登録をしてくれる割合もとても高い。
タイトルにあるように、やっていることがユニーク。高度な編集テクニックも相乗効果となって独特の世界観が構築されている。

結論:「森翔太さん」という人柄が出ているからこそファンに愛着を作ることが出来ている作品。

栗林さんは他にもいくつか実験をしてみて得た結果について解説しました。「“おやすみ先生”という、登場する人の得意なことを話してもらい、それを聞いているうちにウトウトと心地よい眠りに誘われるというチャンネルを作った。しかし内容によって再生数に幅ができてしまい、企画ではなく人にファンがついてしまって、狙い通りにはいきませんでした」
「ボードゲームのチャンネルも作ったが、そもそもYouTubeでボードゲームのカテゴリ視聴者のボリュームが少なかった。つまり視聴者の接点が少ないため、いくら面白い企画を作ってもメディアに親和性がなければそもそも見られないという課題点が見えました」。

Twitter 企画と人との関係性〜人と企画の親和性がないと伝わりにくい

「浮遊女子高生」というコンテンツを作った。これは何かを浮かせれば絶対バズるという自分の中での成功セオリーだったが、思ったよりも拡散せずに失敗に終わった。
これは登場する女子高生の個性に企画が合わなかったのが敗因。
その女子高生はSNSで可愛い自撮り写真をアップすることで人気が高い。
そんな彼女の延長線上には“ない”感があって、これを見たファンはどう反応したら良いのか困惑するという状況になったと考えられる。

結論:企画が面白くても人と親和性がないと難しいケースだった。

チョコレイトが提案する“新しいコンテンツの作り方”

チョコレイトの場合

これらの実験から、コンテンツには“人格”が大事で、そこに制作した人の作家性がきちんと載せられていれば、受け手に伝わり共感されやすい、と栗林さんは説明しました。

従来の作り方、これからの作り方「チョコレイトが実践する場合」

栗林さんは従来の企業の広告の制作体制を説明した後に、これまでに説明してきた「人格を出す」ための制作体制を提案しました。

従来のやり方だと人格、人間味といったものは必要とされないため、これを繰り返していくと作家性が薄まっていくと栗林さんは言います。
そこで、これからの制作体制としてチョコレイトが考えたのはまず最初に個人で作り切ってみるという手法です。
打ち合わせから始めずに、まず手を動かす。そして出来上がったものに対して受けそうだという兆しを感じたらそれに対してみんなでアイデアを加えていく。
実際に栗林さんもこの制作体制を取り入れてみて、良い感触を得ているとのこと。

企業の場合

個人がソーシャルメディアを通じて発信力を高めている今、企業はそれにどう立ち向かっているのでしょうか。
一例をあげると、「○○の中の人」と称して企業のSNSアカウントを運営しているケースがあります。
チョコレイトが提唱する“人格”を出せて、ファンが付きやすく増やしやすい手法です。

しかしその手法は、現場レベルでやるには時間がかかるし、何より一人で運営していくことへの勇気がいると栗林さんは言い、それで成功すれば良いが、そうでないケースもあるとのことで、リスクの高さを主張しました。

では他に、企業らしさを出すにはどうしたら良いのか?その問いに栗林さんは企業の“らしさ”と個人の“らしさ”がシンクロしてさらに大きくなることが一番いい、と言います。

そこで手がけたのが、飲料メーカーのMVプロジェクトです。
「業務契約を交わして発注するよりも、“機会提供して応援する”というコンセプトを掲げて作りました。こういう形を取ることで、従来の広告のように一定期間が過ぎると視聴できなくなることはなく、作品が“資産”としてずっと残っていくことも重視しています」

実際の効果は、MV5本を制作し、合わせて計2000万超の再生数、公式平均より4.5倍の視聴完了率、エンゲージメント率6倍を達成しました。

「これはアーティストのファンを含め見てくれた人に受け入れられたと見ています。アーティストとファン双方の満足度が高く、機会提供という価値がものすごく上がった事例です」。

アーティストをインフルエンサーとして見てしまってはいけないと栗林さんは警鐘を鳴らします。
「あくまでもその人の“良さ”に目を向けて、表現する機会を与えるということが大事。つまりその人と同じ方向を向いてその人を尊重するということもマーケターとして大切なことだと思います」。

ファンだけでなく視聴した人全般の反応が良かったというこのコンテンツは、メーカーにも好意を持ってくれて、商品を箱買いする人もいたということで、メーカーと登場人物双方のブランドが拡張されたという好事例となりました。

コンテンツに人格を持たせるためのさまざまな手法を1時間半にもわたり熱く語ってくださった栗林さん。
この実験を通して実はもう一つ、コンテンツの拡散性について気づいたことがあると言い、「それはまた次回お話します!」と締めくくりました。

CREATIVE VILLAGE編集部