「プログラマー」や「Webデザイナー」と聞いて、あなたは何をイメージしますか?

デスクで一人PCの画面と向き合い、黙々と制作を続ける……

そんな作業風景を思い浮かべる人も少なくないかもしれません。しかしながら、彼らの中にはそうしたイメージに反して他者とのコミュニケーションやつながりを求めている人もいるのです。例えば、苦労の末に編み出した独自のテクニックや効率的な方法など、「自分の技術を誰かに教えたい!」というその思いは、きっと誰かの力になるはず。

首都圏約20社のゲーム会社の採用担当者とともに採用課題に向き合うクリーク・アンド・リバー社のエージェント須﨑久美子が、「人材育成」「人材採用」というキーワードで今もっとも気になる人をゲストに迎えてクリエイターの未来を語り合うこの企画。

今回のゲストは、株式会社クスール代表の松村慎さんです。

15年にわたってクスールでクリエイターやエンジニア向けの講座を開催してきた松村さんとともに、クリエイターのキャリアについて考えます。

株式会社クスール代表取締役 松村慎(まつむら・しん)
2002年カナダバンクーバーから帰国したのち、株式会社バスキュールにFlashデベロッパーとして勤務。2004年にFlashのActionScriptを中心にものづくりを教える教室クスールを開設。2006年春から京都精華大学デザイン学部非常勤講師としても勤務している。

「教えたい」という気持ちが高じて内輪で始めた講習会が会社設立へと発展

須﨑 松村さんがWebデザイナーやエンジニア向けにものづくりを教える教室としてクスールを開設されたのは2004年ですよね。それ以前の経歴を教えていただけますか?

松村 僕は2002年までカナダでWebのプログラマーとして働いていました。ワーキングホリデーでカナダのWeb制作の専門学校に通い、そのまま現地で就職したという流れですね。帰国してからバスキュールへ入社して2年間プログラマーを経験し、それから自分の会社、クスールを立ち上げました。

須﨑 カナダでWebのキャリアをスタートし、その後クリエイティブ業界大手のバスキュールに転職とは……。エンジニアとして華々しいキャリアを積み重ねる中、「教える」という切り口を主軸にしたクスールを立ち上げたのはなぜでしょうか?

松村 以前から「教える」ことは僕にとってすごく“普通”の感覚でした。カナダの会社は残業が全くなく、仕事が終わった後暇だったので、自分が通っていた専門学校に行って生徒さんに実務で使っているプログラミングの技術を教えていたり、バスキュール時代も週末に知り合いを集めてFlashの技術を教えたり。その頃は教えることでお金を稼ぎたいという気持ちは全くなかったんですけど、独立を考えた時、事業にしてもいいのかなと思い、教育と制作を行う会社、クスールを立ち上げました。

須﨑 なるほど。「教育」という領域に確かな需要が存在することを実感できたからこそ、事業化したということですよね。そもそもなぜ「教えよう」と思ったのでしょうか?

松村 プログラマーやデザイナーなど、Webの専門分野で働いている人ってかなり幅広い知識を持っているものです。それを自分の中だけにとどめておくのではなく、「誰かと共有したい」という気持ちを持っている人も割といるのかなと。僕はその気持ちが強かったからバスキュール時代の超多忙な時期でも教えることを続けていられたんだと思います。

“教える”というスキルも身に付けることで広がるキャリアの幅

須﨑 そんな状況下で制作と教育の両立を続けていたとは……松村さんは本当にタフですね!
お話を聞いていて「クリエイターの教育とはこうあるべき」みたいな“重さ”を感じないのが不思議です。いつもの仕事の延長線上に教育があるような。勉強する側も気負いなく、現場にかなり近いスキルが身に付けられそう。

松村 「先生」とか言われるとむしろ照れ臭いですね(笑)。当初から「教える側」と「教えらえる側」の境界線をあえてはっきりつくっていませんでした。講座も、教壇の上から教えるような雰囲気ではなく、ワークショップをしているような感覚に近いかも。僕は基本的には「仲間を増やしたい」という想いが強いんです。

須﨑 「仲間を増やす」という発想は今までになかった気がします。

松村 実際にこの事業を長年続けた結果、クスールで技術を身につけた生徒さんが、数年後には外注先として一緒に仕事をするパートナーになったり、クライアントの立場になって仕事を発注してくれたり、講師としてクスールに戻ってきたり。仲間が増え、コミュニティが広がっています。

須﨑 素晴らしいです。「教える」ことで得た仲間は何物にも変えられない財産ですね。松村さんのように、クリエイターは制作だけでなく教える側にまわることで新たな道が開けるのかもしれません。また、教える立場に求められるのも、教育者然とした人よりもそんな松村さんのようなスタンスの人なのでしょうか。松村さんが考える理想の講師像とは?

松村 意見を求めたり実際にプログラムを書いてもらったりと、コミュニケーションを楽しみながら受講者と一緒に講座を作り上げていける講師が理想。「講師をやりたい」という人の中には「誰かに自分の技術を授けたい」みたいな、ある種“上から目線”な人もいます。そういったモチベーションだと教えることそのものが目的になってしまいがち。相手に伝わったかどうかまで確認せず、自分の中だけで満足してしまうんです。「仲間を増やしたい」という姿勢でいると相手のことを本気で考えるようになるので、生徒さんに対する態度も全然違うものになると思います。

須﨑 「教えること」よりも「共感を得ること」が大切ということですね。実践的で、現場に寄り添っている感じがします。

松村 講師側もあまり気張りすぎなくてもいいんじゃないかなと思うんですよね。教育に特別な才能とかカリスマ性は必要ありません。普段仕事をしていて、後輩に教えることが好きとか、教えた時に「教え方がうまい」と褒められるとか、そういう自分に気付いている人はぜひ一歩踏み出してほしいです。

学ぶ→創る→教える。目指すのは「教育」を起点にしたクリエイティブ業界の活性化

須﨑 現状クリエイティブ業界では講師を志す人は少なく、講師の人手が不足しています。例えば40代・50代になって今後のキャリアに不安を抱えているクリエイターは「人に教える」という視点を持つことで新しい道が開けるかもしれませんよね。今後は講師としてのポテンシャルをもつクリエイターを探しつつ、講師を養成するためのカリキュラムも考えていきたいと思っているところです。

松村 先ほどからお話していることですが、まずクリエイターの方には、教えることで仲間が増え、制作の話にもつながり、収入も安定するというさまざまなメリットがあることを知ってもらいたいですね。

須﨑 イメージとしては、クリーク·アンド·リバー社をハブとして、クリエイターが講師に成長し、その講師の研修から新たなクリエイターが生まれ、そのクリエイターが企業で活躍する……そんなふうにクリエイティブ業界の人材が循環していく。これが私が「クリエイター研修サービス」で目指す理想像です。
松村さんにはぜひこのサービスに参画いただき、クリエイターのキャリア育成に共に力を合わせて取り組んでいくことができたらと思い、お声がけさせていただいた次第です。

松村 クリークさんは企業との繋がりがすごくありますよね。僕らは教えることの専門家ですが、逆にそこは弱いので。お互い補完しあってクリエイティブ業界を盛り上げるお手伝いができるんじゃないかと思います。究極は学校と制作会社が併設しているような、「学び」と「制作」の拠点があると素晴らしいですよね。須﨑さんが思い描く「クリエイター研修サービス」の構想は、その“一歩手前”という感じでしょうか。一緒に頑張りましょう。

須﨑 私たちも松村さんから学びたいことがたくさんあります。これからもどうぞ、よろしくお願いします。

テキスト:下條 信吾/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

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「プロフェッショナルの生涯価値の向上」をミッションに掲げるクリーク・アンド・リバー社(C&R社)は、クリエイターのキャリアアップ支援の一環として、「クリエイター研修サービス」を実施。クライアント企業に所属するクリエイターの方々へスキル研修を行います。
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担当/株式会社クリーク・アンド・リバー社 須﨑
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