ゲーム業界では、慢性的な人手不足により、経験者人材の奪い合いが激化。それによって中途採用のハードルが上がっており、どの企業もこうした課題をなかなか克服できずにいるという現状があります。

企業は有能な経験者が欲しい…一方、新人や若手はきちんと教育を受ける場が少なく、クリエイターとしてキャリアアップできる機会を見出しにくい……。

そんな負のスパイラルを打破する糸口は、一体どこにあるのでしょうか?

首都圏約20社のゲーム会社の採用担当者とともに採用課題に向き合ってきたクリーク·アンド·リバー社のエージェント須﨑久美子が、「人材採用」というキーワードで今もっとも気になる人をゲストに迎えてゲーム業界のクリエイターの未来を語り合います。

今回のゲストは、株式会社CONTORNO代表の宮﨑弘喜さん。

会社の代表であると同時に、講師としての豊富な経験をもつ宮﨑さんと、これからのゲーム業界の人材育成の在り方について考えます。

株式会社CONTORNO 代表取締役 宮﨑 弘喜(みやざき・ひろき)
2000年よりフリーランスクリエイターとして広告制作会社や大手CGプロダクションにて3DCGを制作。同時に、デジタルハリウッド東京本校で講師を勤める。
2003年からは大手ゲーム会社に勤務し、2018年1月株式会社CONTORNO(コントルノ)を設立。
2018年5月熊本県にアニメ制作専門の熊本スタジオを新設する。

人材不足が叫ばれるなか、新たに人を雇うのではなく「既存の社員を育成する」という考え方

須﨑 私は日頃からエージェントいう立場でさまざまなゲーム企業の採用担当者様とお話するなかで、採用に関するお悩みを「人材を紹介すること」以外で解決できる方法がないか、ずっと考えていました。そこで着目したのが“教育”です。
新たに人を採用するという“外に目を向ける”ことから、社内のリソース(人材)に注目して、きちんと活用していく、そんなアプローチによる課題解決を目指すようになりました。

そこで、ゲーム業界でクリエイターの育成に携わっていらっしゃる宮崎さんの存在を知り、お声がけさせていただいたんです。

宮﨑 ゲーム業界に限らず、今はどの業界も人材不足という深刻な問題を抱えていますよね。現状を受け止めたうえで企業として成長するためには、今働いている人材を育て、スキルアップさせる必要があります。
しかし、クリエイターの視点で考えると、企業からスキルアップを求められていることは薄々感じつつも仕事に追われて新しいことを外で学ぶ余裕がないんです。そうした状況の中で、須崎さんからお話を聞き、現場のクリエイターに合わせて教育を提供するという「クリエイター研修サービス」は、リアルなニーズに寄り添ったサービスだなと非常に興味をもちました。

須﨑 宮崎さんは今でも第一線でゲーム制作の実務をしながら、並行して講師業もされてますよね。そういう方ってなかなかいないと思います。きっと人材教育に対する思いがお強いのだなと、ぜひ一緒にこの課題に取り組んでいけたらいいなと期待が高まっています。

例えば、とある特殊なソフトを扱える人材が欲しいと考えている企業様にその技術をもった人を紹介するのではなく、すでに社内にいるスタッフにソフトの使い方を教えるという関わり方。企業はメンバー一人ひとりの特性をわかっているので、誰に教えるのが適切かもわかり、ミスマッチも起こりにくいはず、と考えています。

こうした考え方を企業に浸透させていき、採用一辺倒に陥らない人材活用手法を開拓していき、クリエイターのスキルアップ、キャリアアップといった教育という側面から支援していきたいです。

宮﨑 社内にない能力を外に求めるだけでは、もはや頭打ち感が否めませんね。

クリエイター一人ひとりの「存在価値」を高めていく

須﨑 宮﨑さんも講師としてさまざまな企業の人材の状況を目の当たりにする中で、肌で感じている課題とはどんなものでしょうか?

宮﨑 テクノロジーの進化に伴って一昔前まで現場で使っていた主流のPCやソフトウェアの機能の一部がレガシー扱いされるのと同じように、人材にも同じことが起こる、と予想されます。
例えばディレクションをやる立場になったベテランクラスのクリエイターが新しい技術を学ぶことをやめてしまうと、いつしかハイテクノロジーな制作現場のディレクションができなくなり、プロジェクトにアサインされなくなってしまう…というクリエイターの存在価値に関わる不幸なことも起こりえるわけです。これはどれだけ企業が新しい人材を雇っても永遠に向き合わなければいけない課題です。

須﨑 なるほど。それからクリエイターが大規模なゲーム開発に長期間携わるような場合、分業で行なっていると局所的なスキルしか学ぶことができず、キャリアアップの弊害になってしまうということもある気がします。

宮﨑さんは会社の代表として人材を見守る立場でもあると思いますが、こうしたクリエイターの存在価値について社員に「もっとこうあって欲しいな」という理想像ってありますか?

宮﨑 そうですね。独学だけでやってきた人の場合、自分が良かれと信じてやっていることが実は非効率なやり方だったりするんですよね。
わかりやすいところで言うと、アニメーターであっても初歩的なスクリプトが書けるといいですね。少なくとも、一からは書けないけど一部編集くらいはできると自身の作業効率も上げることができてよいかと思います。もちろん、それに時間をかけ過ぎては本末転倒ですので、そこは社内のエンジニアの方に相談ですね(笑)。そういうちょっとしたスキルの必要性も講師という立場の人から言葉で聞くことで腹落ちすると思います。

ピンポイントで教え、カスタマイズできる授業。「クリエイター研修サービス」で講師自身の価値も高めたい

須﨑 今回「クリエイター研修サービス」の講師としてお声がけさせていただいたわけですが、具体的に当サービスのどんなところに賛同していただけましたか?

宮﨑 すでに現場でキャリアを積んでいる人は、前提を理解した上で“プラスアルファ”の部分をピンポイントで習得したいと考えています。そういう方達にとって、教科書に沿って展開される一般的なカリキュラムは無駄な情報がとても多いんです。「クリエイター研修サービス」は不要な情報を割愛して本当にクリエイターが学びたい・必要としているポイントだけを教えることができます。
また、このサービスに関わることで、講師という職業そのもののブランド価値を高めたいという意図もあります。

須﨑 なるほど。「講師のブランド価値を高める」という点……すごくよくわかります。宮崎さんもそうかもしれませんが、人に教えるということを「業界全体の発展のため」と捉え、ボランティア感覚でやっている人も多いと思うんです。その姿勢には感銘を受けますが、このサービスを浸透させることで、例えば40代・50代になったクリエイターにとって「講師になる」という新たなキャリアプランの選択肢を作れたらいいなと思っています。

宮﨑 それに、このサービスにより地方で埋もれている人材が次のステップで活躍する機会にもなるのではと思っています。
私の会社は今、神奈川県の川崎市と、私が生まれ育った熊本県の熊本市の2拠点を持っていますが、地方には昔業界をかじったけどブランクがある人とか、少し学べば問題なく仕事ができる人って結構いるんですよね。地方は物価が安いのでコストパフォーマンスがいいという会社にとってのメリットもありますし。地域の人材にスポットライトを当てて教育することが、根本的な人材不足で悩む業界を活性化させるための有力な手段なのかもしれません。

須﨑 宮﨑さん、素晴らしいお話をありがとうございました。とても勉強になりました。地方はもちろんのこと、ゆくゆくは日本国内だけでなく海外にも目を向けて業界を盛り上げていきたいですね!

撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

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