「9年間やらせていただいたおもちゃ会社のイベントの司会に選ばれた理由を、『だれよりもオーラがあったから』と言われたことがあって、すごくうれしかったことを覚えています。オーラの出し方って難しいですけど、とにかく堂々としていることです。できなくても自信がなくても、やりますって強い気持ちで、胸を張っていることが大事だと思います」
木部ショータの勝負は、キャリアを支えていたその大切な仕事を失ったときだった。
追いつめられた末に見えてきた道を開くカギ ―“周りや他人(ひと)を活かして生きる”

 

■ 求められる力とは?

もともと声優志望だったんですが、現在はナレーターやイベントの司会を中心に活動しています。同じ声の仕事でも、声優とナレーションでは求められるものが違うと思います。
声優の仕事で一番大切なのはチームワークだと僕は考えています。チームワークを崩さないためにはどんな状況にも対応できるよう、腹式呼吸や滑舌の訓練、台本を読む力といった自己鍛錬がとても大切になってくるだろうし、重要なのはどれだけ周りに合わせられるか、周りを輝かすことによって自分が輝くという方向性で臨めるかどうかだと思います。「今回の作品はよかったね。その中でもあの子は、みんなを盛り上げようとしていたよね」って言ってもらえるような仕事ができれば、必ず次につながっていくと思います。
ナレーションは、チームワークというより個人に責任がかかってくるものだと思います。ナレーターはニュース番組のアンカーマンのような役割だと思っています。収録した素材を編集し、音楽をつけて、最後にナレーションをのせるんですけど、その最後の仕上げの部分がダメだったら、番組自体が崩れてしまうことになる。ナレーターというのは番組の幹の部分を担っていて、そこがしっかりしてないと番組全体をつぶしてしまう、それに対する責任とプレッシャーはすごくありますね。

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ファイト!川崎フロンターレ
(番組MCは沖樹莉亜さん! テレビ神奈川にて毎週金曜日22:30から大好評放送中)

「Jリーグ川崎フロンターレの応援番組『ファイト!川崎フロンターレ』のナレーションを担当させていただいてもう7年目です。番組を軸に、川崎フロンターレ関連のイベントや所属選手のトークショーのMCなどもやらせていただいています。プロデューサーに、『ナレーターが変わると番組が変わってしまう。川崎フロンターレは地域に根ざしたチームだし、番組も地域密着を目指しているから、カッコいいというより親しまれるようなものにしたいって考えたときに、やっぱり君がいいんだよね』って言われたことがあって、とても光栄でした」

 

■ 原動力は「目立ちたい!」

僕は昔からラジオが好きで、最初は、声優というよりラジオの仕事がしたいと思っていました。高校時代はサッカー部で、実家から5分のところに海があって子供の頃から夏は毎日海で遊んでいましたし、体力だけは自信あるってタイプです(笑)。高校時代は生徒会長で、小中学生のときも学級委員長をやったり、放送委員会でも積極的に活動していたので、人前で話したり何かを表現することに、楽しさや魅力を感じていたんだと思います。
高校卒業後の進路を決める時期になり、ラジオの仕事を学びたくて、声優の学校に行けば声に関することが勉強できるだろうと考え、日本工学院専門学校の体験入学に参加しました。体験入学で、声優の神谷明さんのお話を会場の一番前のど真ん中に座ってかじりついて聞きながら、すごいオーラだなって感動しました。僕もこうなりたいと思いましたね。もう直感的にここだ!って感じて、日本工学院専門学校演劇俳優科(現クリエイターズカレッジ声優・俳優科)に入学しました。
1年目は舞台での動きや、モダンダンスなどひと通りやりました。僕はラジオの仕事がしたくて声優コースを志望しているのに、なんで舞台や俳優の勉強をしないといけないんだよって思っていたんですが、そこで演じることの楽しさに目覚め、表現者として、特に声優としてやっていきたいと思うようになりました。文化祭では他学科のステージのMCをやったり、オーディションを受けてドラマに出たり、積極的に活動していました。
日本工学院の卒業間際にオーディションに受かり、俳優と声優のマネジメントをしている事務所に所属し活動してく中で、おもちゃ会社のイベントの司会という大きな仕事をいただき、だんだん声優へのこだわりがなくなり、いろんなものに挑戦したいという思いのほうが強くなってきました。

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■ プロとして本当に必要なもの

声優や俳優になりたい理由として、人に笑顔を与えたいとか、キャラクターに命を吹き込みたいという話をよく聞きます。僕はいま、声優やナレーターを志す方が集まるボイストレーニングを中心としたスクールで講師もやっているんですが、「この業界厳しいよ。だから一生懸命やりましよう。じゃあ基礎から」なんて上辺の話をしても説得力なんてなくて、プロになりたいなら、お客さんの満足を得ていかにお金を稼ぐかという一番根底の部分をしっかり意識できてないとダメだと教えています。お客さんというのは、視聴者の方はもちろんですが、スポンサー、番組スタッフに事務所スタッフ、恩師や友人もふくめ、自分取り巻くすべての人たちのことです。そしてお金というのは、自分のためでなく、支えてくれる周りのために稼ぐものだと思うんです。事務所は声優や俳優に対して先行投資をしているわけです。その人が売れてお金を稼ぐことで、周りがもっとその人のために動き、結果また仕事が来るといういい循環ができる。かつて僕もそうだったんですが、ダメな人は周りに対してきちんとアプローチができていないんです。僕はフリーになって全責任を自分で負って初めて、周囲に対して真摯的な気持ちを持つことを強く意識するようになりました。その結果、仕事も年収も増えました。
また、人とのコミュニケーションの取り方を知ることも大切です。一番鍛えなければいけないのは役者としての商品である「芝居」。だけど、芝居の勉強だけをやっていれば声優や俳優になれるなんて、絶対にそんなことはない。自己アピールするための勉強や努力も声優や俳優に求められる重要な仕事です。僕はどんな話題でも5分間はその人と話せるようにといろんな知識を得る努力をしてきました。同時に、絶対にこれだけは負けないぞってことをひとつでいいから持とうと思いました。例えば、僕はボールジャグリングができるんですけど、パフォーマーのバイトで覚えたその特技で、おもちゃ会社のイベントの司会を取ることができたんです。「ファイト!川崎フロンターレ」のナレーションの仕事も、高校時代にサッカーをやっていたことがきっかけでした。特技って注目されているんですよ。だから、散歩が好きだとか、読書が好きとかじゃなくて、何の大会に出たとか、どれだけその作家が好きだとか、できるだけ特技に個性を持たせることも大事だと思います。
実は去年、僕のキャリアを支えていたおもちゃ会社のイベントの司会が終わったんです。これまでで精神的に一番きつかった時期でした。このままじゃダメだと事務所を辞めてフリーになり、人に真摯に向かうという姿勢を大事に積極的に動いた結果、すべてがいい方向に向かっていった。これまでいろいろな経験をしてきたおかげで、僕は自分をマネジメントしていくすべと大切さを知ることができました。その恩恵を、もっと周りの人に還元していきたいと思っています。そうすることで、僕自身この先もずっとこの世界でやっていけるという手応えを感じているんです。

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ファイト!川崎フロンターレ
(テレビ神奈川にて毎週金曜日22:30から大好評放送中)

「担当させていただいたモノを好きになる」ということを意識的にやっています。ただ、サッカーは高校時代からやっていたし、もともと大好きだから、本当に楽しみながら一生懸命やらせていただいています。実は番組のミックス作業をやっている方も日本工学院の卒業生の方なんです。仕事の現場で同窓生と会うことってけっこう多くて、一気に親しみがわくし、うれしいですよね。

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