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広告宣伝EXPO2017 特別講演「やっちゃえ日産キャンペーンの裏側」~日産のブランディング戦略 レポート

2015年、日産の社員は、自信を失っていた―「日産車を買う気がしない」。アンケート調査からは、想定外の厳しい顧客の声がいくつも挙げられていた…。
そこで立ち上がった、日本マーケティング本部のメンバーたち。そして生まれた「やっちゃえ日産」と、そこから成功までの紆余曲折のストーリーを、2017年7月に開催された『広告宣伝EXPO2017 夏』で開催された特別講演より、日産自動車株式会社 日本マーケティング本部副本部長の森島幸彦氏のお話をレポートしてお届けします。

「日産にはイメージが無い」―世間から突き付けられた厳しい現実

2015年、日産のブランドイメージをアンケート調査したところ、競合に勝てるイメージが何一つないという散々な結果となってしまったという森島氏。
「内容をみて愕然としてしまいました。「昔流行ったメーカー」「企業として何を目指しているのかわからない」「日産車を買っているのはしょせん社員でしょ」というような内容で、日産はここまで地に堕ちてしまったのかと」。

「確かに、それまで日産には“これ”というイメージはありませんでした。なぜ日産としてのイメージを打ち出してこられなかったのか、その原因の一つに「大義」を実現する枠組みが今の日産にはない、と気づいたのです」と森島氏は振り返りました。
日産の大義とは、地球と人の未来を守る“ゼロ・エミッション、ゼロ・フェイタリティ”。これを、日産の卓越した技術で実現していこうと決めました。

日産には世界にも誇れる制御技術があります。この制御技術があるからこそ、電気自動車を生産することができる。この技術をもって電気自動車で自動車の電動化を目指し、自動運転の知能化で“日産インテリジェントモビリティ”としてゼロ・エミッション、ゼロ・フェイタリティを実現していこうと考えたと森島氏は語りました。

日産の“プライド”を賭けたブランディング大改革―「やっちゃえ日産」

日産をしっかりとブランディングしていく。そのために日産ではカスタマーを大切にしていこうという考え方があり、すべてのマーケティング活動を社内で定めたカスタマーターゲットに向けて行い、彼らの判断によって活動していくことに決めたと森島氏は言います。

自分に自信があって、何にでも好奇心旺盛にチャレンジしていく。そんな人生に積極的な人が各世代にそれぞれ30%いるという調査結果から、その人たちを「キラリスト」と名付け、日産のカスタマーターゲットに据えました。
森島氏は、「他社からは“こんなに何度もよくカスタマー調査ができますね”と驚かれるほど、実施しています。お客様は何を求めているのかなと常に気にしてその声に耳を傾けることを、私たちは何よりも大切にしたいのです」と言いました。
こうすることで、プロジェクトの途中でさまざまな壁にぶつかり、軸がブレそうになっても、軌道修正を図りながら推進することが出来たと言います。

日産が世界に誇る“技術力”。ここから、「技術の日産が人生を面白くする」というテーマが決まりました。しかし、いざブランディングコピーを作ろうとなると、それまでの日産は広告的なブランドイメージが全くないため、いろいろと苦労したと森島氏は語りました。
そして、新たなブランディングをスタートさせる2015年は“土壌をつくる”フェーズに据え、日産の大義を実現するための電動化、知能化を目指していくのだという決意を込めて「やっちゃえ日産」というキャッチコピーが生まれたと言います。
そして広告には歌手の矢沢永吉さんを起用しました。圧倒的なオーラを放つ存在感でファンを魅了する矢沢さんですが、実は大変な努力家でもあります。そんな人柄が、日産が打ち出すブランディングイメージと重なり、適任であると考え、オファーしたと森島氏は語りました。

こうして、「やっちゃえ日産」キャンペーンの幕がいよいよ切って落とされようとしていました。

思わぬ社内からの反発、SNS炎上―困難も伴った新キャンペーン

チーム一同がキャンペーンのスタートを控え、胸を躍らせていたある日のことでした。
ある女性社員がメンバーにこんな一言を放ったのです。
「私、“やっちゃえ”って言葉、好きじゃないんですけど」。
それはメンバーにとって青天の霹靂。森島氏も愕然としてしまったと言います。
そこで急きょ、社内調査を開始。すると「私もそう思ってた」という女性社員の意見だけでなく、男性からも同調する意見が出てきて、実に全体の55%がネガティブな印象を受けていることがわかったのです。
この言葉には、性的暴力や殺人などといったイメージが想起されるということで、チーム一同頭を抱えてしまいました。

「これでいこう!」と一度は盛り上がったこのキャッチコピーをどうするのか。
その後さらに何度も調査を重ねてヒントを探りに行ったと森島氏は言いました。そうして新たに定めたルール。それは、“やっちゃえ”だけを切り離さないこと、必ず矢沢さんに言ってもらうこと、プリントメディア等に言葉を文字化して載せないなどとしたのです。

こうしていよいよ、矢沢永吉さんが登場する「やっちゃえ日産」キャンペーンがスタートしました。
日産リーフの運転席に座る矢沢さん。しかしその手はハンドルを握っていません。
自動運転で“技術の日産”を訴求したテレビCM。
これが物議を醸しました。
「ハンドルを握らないなんて危ないだろう」「手放しなんかして大丈夫なのか」
ツイッター上で大炎上したと言います。
ほかにも、各車種の高い性能を訴求するために、過去の日産のスポーツカーと比較走行も行いましたが、これもまた、「過去の車種をないがしろにするのか」と炎上。

このように、スタートからいきなり出鼻をくじかれるような数々の困難な出来事に遭遇してきたプロジェクトメンバーたち。しかし、一同は「やめずに続けよう!」とブレずに突き進みました。
そんな時、皆の心の支えとなったのは、矢沢さんからのビデオレター。
初めて日産の自動運転を体験して驚いたこと、そしてこの素晴らしい技術を一緒に広めていきましょう、そんな励ましのコメントを語る矢沢さんに、涙をこらえきれなかったと森島氏は語りました。

次第につかんだ“手応え”

しばらくすると、広告に対する好意的な意見が見られるようになってきました。
「やっちゃえ日産ってがんばっているよね」と、好評価を得るようになってきたのです。
この頃、日産ではさまざまな施策を打っていきました。

たとえば、「技術の日産」を強く訴求するべく、同社にとって“伝家の宝刀”であるクーペGT-Rを取り上げた広告を作りました。GT-Rはその中枢であるエンジンを組み立てるために専門の職人が5人おり、“匠”と呼ぶ彼らにしか許されていないということを訴求した広告を展開。
そのため、年間生産数は150台と限られますが、販売予約受付を開始するとわずか10分で350台も売れてしまったというのです。

また、ミニバン『セレナ』には、同一車線自動運転化機能を備えており、購入者の約半数はこの機能付きを選ぶと言います。この広告では、ターゲットがファミリーのため、矢沢さんを起用せず、今どきの家族の姿を表現。運転で疲れることなく、子供と一緒に親もレジャーを楽しめる、そんなメリットを訴求したところ、購入されたお客様からは、「家族でディズニーランドに行った時にお父さんがアトラクションの列に一緒に並んでくれた、と子供が喜んでくれた」という声をもらいました。

その後実施したカスタマー調査では、自動化運転と言えばどのメーカーか?という質問で日産がトップを獲得。日産から受けるイメージでは「わくわくさ」「先進的」といった点が他社を上回るようになってきたと、目に見えて日産に対する古いイメージが払しょくされていくのを実感していったと森島氏は言います。

「やっちゃえ日産」から得た学び、そしてこれから

まずは“堆肥”づくりが肝心である、そう森島氏は説明しました。
そして、何度でも、カスタマー調査を実施して、顧客の意見に耳を傾けながら、マーケティングにおけるすべての活動を進めていく、そして日産の大義である“技術”をブレずに訴求していく、そう決めて進めていくことで、日産のブランドイメージが浸透していったと語りました。

ある社員は知り合いから「今度、日産車を買おうかと思って」と言われて、すごく嬉しかった、と話してくれたそうです。
こうした積み重ねで日産の認知度が上がり、ポジティブなイメージが広がっていく。それが社員のモチベーションにつながっていきます。
社内を見渡すと、社員皆が自信に満ち溢れた表情でイキイキとして見えた、と森島氏は言いました。
そして最後に、「日産はスタートラインに立ったばかり。これからは電動化・知能化をさらに推し進めていきたい」と抱負を語られました。8月からはブランディング広告第3弾がスタートするという日産。今後、日産がどう進化していくのか、講演終了後の拍手の大きさから、その期待値が感じられた講演でした。

CREATIVE VILLAGE編集部