TVドラマのタイトルシーケンス、ミュージックビデオ、ナショナルブランドのプロモーション映像、映画作品と幅広い分野で映像ディレクターとして活躍するネイキッドの森田さんにお話を伺いました。

 

■ 映画「セブン」の衝撃。

家の周りを田んぼに囲まれた、山形県ののどかな地域で育ちました。田舎ながらに深夜のテレビ番組では洋楽のミュージックビデオが流れているような環境で、物心がついたときには、洋画や海外のミュージックビデオに惹かれていました。

中でも原体験として記憶に残っているのは、中学三年生のときに出会ったデビット・フィンチャー監督の映画「セブン」です。映画そのもののストーリーやダークな世界観も魅力的でしたが、同時にタイトルシーケンスがとても衝撃的でした。それまで映画のタイトルムービーを意識して見たことはなかったのですが、これをきっかけに興味を抱くことになりました。

あわせて読みたい

他にも、デビット・リンチ監督「ロスト・ハイウェイ」の、今までの映画のフォーマットを壊したような構成や、エイフェックスツイン「カム・トゥ・ダディ」のおじさんの顔をした子どもという奇抜なアイデア、ナイン・インチ・ネイルズ「ザ・パーフェクト・ドラッグ」の絵画的な画面構成など、海外の映画やMVには、たくさん影響を受けたことをおぼえています。当時は、監督名はおろかアーティストの名前すらもよく知らなかったのですが、その世界観に惹かれるがままに、自分もかっこいいもの、衝撃的なものを作りたいと思っていました。

大学は、地元の芸術大学に進学しメディアアートを専攻。いわゆる実験映像やインスタレーションを主体とした学科で、無音で1時間フィルムが流れる実験的な映像や、パーソナルなドキュメンタリーなど、映像の中の芸術表現を探っていました。それはそれで刺激的だったのですが、やはり僕が好きな表現は、思春期に影響を受けた作品のようにポップなものだと思い、ダークな世界観のミュージックビデオやストーリーのあるショートフィルムを個人的に制作していました。

 

■ 「もうちょっとわかりやすくならない?」

img01それでも僕は実験的な志向が強かったらしく、会社に入ってから矯正するのに時間がかかりました。かっこいいと思って作ったものに「もうちょっとわかりやすくならない?」とダメ出しをされたり、自分の意見が通らないとうまく作れなくなってしまったり。映像作品といっても、僕たちが作るのはコマーシャルなものですし、お客さんが必ずいます。そこを踏まえた上で、自分の表現をどうやって加えるかが、この仕事の醍醐味なんですね。でも働きはじめたころは、そういうことが全くわかっていませんでした。

仕事が面白くなってきたのは、ADからディレクターになった2年目のこと。転機となったのは、レクサスのブランド映像の仕事でした。この仕事で求められたのは、レクサスの世界観やプロダクトポリシーという抽象的な概念を、アーティスティックな表現に落とし込むこと。規模も大きく、関わる人も多い。5日間眠れないこともあったぐらい、非常にハードな仕事でした。けれど、この大きなプロジェクトに対して、代理店やクライアントを含めた一つのチームとしてトライを重ね、みんなが納得する形で成功を収めたのは大きな経験でした。

あわせて読みたい

また同時期に、テレビのタイトルバックの仕事を多く担当したのも大きかったように思います。タイトルバックは、ドラマの世界を読み取って7秒~15秒の短いアニメーションに凝縮する仕事。エンターテイメントなのでわかりやすさが必要ですが、そこにどういったアプローチで応えるかは、わりと任されて発注されることが多いんです。小林という先輩ADに教わりながら、2人3脚で「アネゴ」や「マイボスマイヒーロー」などのタイトルバックを作り、仕事の面白さを知った時期でした。

世間知らずの生意気な僕が、プロとしてどうやったら認められるのか。試行錯誤の数年間を経て気づいたことは、見る人が求めていることに応えても、自分の表現は消えない、ということでした。だから今は、いかにして周りを満足させつつ、新しい驚きを作れるかということに面白さを感じています。

 

■ 息をするように何かを見て、何かを撮っている。

アイデアを考えるときには、映像作品や映画からヒントをもらうこともありますが、それだけだとどうしても発想が狭くなってしまいます。たとえば「マイボスマイヒーロー」のタイトルバックはアメコミ、「アンドリュー・バード」のMVはペーパークラフトや飛び出す絵本に影響を受けていますが、それだけでなく、歌詞やドラマの世界観と、自分が持っているいくつものアイデアを組み合わせて作り上げています。通勤電車のつり革のよれ具合に何かヒントがあるかもしれないし、すれ違う人のメガネの反射が光の使い方のヒントになるかもしれない。そういった生活の中で目にするもの一つ一つを、作り手の目線で見ることは、非常に重要だと思っています。

ディレクターは、何を見て、何を考えるかの「視点」が大事な職業。どう生きていくのかが表現に関わりますし、リーダーとして周りを引っ張っていくためには、人としての資質が大事になってきます。音楽は何を聞いているか。何のニュースに引っかかっているか。どんなものを食べてきたか。人間的なところを疎かにしていては、表現者として上手くいかないことは、僕も体感していますし、先輩からも教わっています。そして、そういった人間的な部分は、師弟的な関係がないと育ちにくいと思っています。

ネイキッドは、一般的な会社とは少し違う会社です。会社という体裁をとっていますが、もともとは映像ディレクターやグラフィックデザイナーが集まって、みんなで面白いクリエイティブを作ってくために発足した場所。だから、「みんなで会社を作っていく」というコミュニティとしての側面がすごく強いんです。派閥もなく、先輩後輩関わらず関係はすごくオープンです。教育体制がシステムとして整っているわけではありませんが、仕事のやり方や精神を、後輩に丁寧に伝えていこうという意識は皆が持っています。ですから、ある種の師弟関係がある職場と言えるのかもしれません。

 

■ 日本とアメリカ。違うところ、同じところ。

img03 Andrew Bird『Eyeoneye』PVアンドリュー・バードのMVは、アメリカのロサンゼルス支局にいたときに制作しました。海外に出て思ったのは、日本はとても誠実な国だということ。僕が感じたアメリカのグローバルスタンダードは、意外と約束を守らない(笑)。ビジネスが適当かつおおらかなんですね。だから、僕ら日本人の持つ丁寧さは、ビジネスとしてのアドバンテージになると思います。

支社はロサンゼルスでしたが、このMVをはじめ多くの仕事は、東海岸のアーティストとの仕事でした。東のインディペンデントの土壌はすごくオープンで、作家性を大事にしてくれる気質があります。日本から来たというだけで面白いねと言われたり、反応がいいんです。それから、まず最初にこちらの意見を求めてくれる。結局、「僕らは曲の世界観に合わせて作るから、まずは曲とコンセプトが必要だ」と言って作りましたが。そういう課程は日本でやっているやり方と変わらないですね。

日本でのMVの仕事は多くがメジャーシーンの仕事なので、マーケットを意識したアイデアで作っています。たとえばギャル系の支持層があるアーティストでは、ギャル系のマーケットを意識した表現になる。こういうネタを入れてほしい、という前提で話が来たりもします。日本と海外の違いなのか、メジャーとインディーの違いなのかはわかりませんが、僕が担当した仕事においては、日本では企画を重視して、アメリカではビジュアルを重視して作る傾向があるように思います。もちろんアメリカでも、求められればマーケットに合わせた表現をやりますが、文化やウィットの質が違うので、必然的に違う表現になってくるでしょうね。

 

■ 色々やってきましたが、これからも、色々やりたい。

img02

今後手がけていきたい仕事としては、オリジナルの映画企画をやりたいと考えています。ちょうど今、代表の村松ともう一人のスタッフと、3人で一緒に脚本を書いているんです。これまでもオリジナルで何本か映画を制作してきましたが、ここまで脚本を本格的に書いたのははじめて。すごく思い入れのある作品になっているので、この企画はぜひ実現したいと思っています。

それから、もうひとつ。TV、MV、CM、映画、そしてプロジェクションマッピングと、これまで色々なことをやってきたんですけれど、これからも、色々なことをやりたいと思っています。テレビのタイトルの仕事も面白いですし、ミュージックビデオは、媒体のあり方が今後どうなっていくのかも含めて興味深い。また、TOKYO HIKARI VISIONのような、従来のフレームから外れた大型の映像を体感するものは非常に面白いと思っています。アウトプットの形としては映像から離れたインスタレーションになっていくのかもしれませんが。ライブ感のある「感じる作品」を、今後制作していきたいですね。

 

■ クリエイターを目指す若い人にアドバイスを。

ボーイズビーアンビシャスじゃないですけど、「野望を持って、企ては常に。」でしょうか。それと「諦めるな」ですね。きつい仕事なので、僕もこれまで100回以上辞めようと思ったことがあります。けれど、結局何も成し遂げていなかったですし、結局、やり遂げた後の面白さを信じてやるしかないと思うので。まずは諦めるなということを伝えたいです。

あとは、企てを持ってやっていかないと、仕事一つ一つがつまらないし、面白い仕事はやってきません。なので、常に何かしらの企てを持って取り組むことは大切だと思います。とはいえ僕らはサービス業なので、満たさなければいけない条件は満たしつつ、いかに新しいものを加えていくか、という話です。

世の中には、天才って人がいるじゃないですか。そういう人は僕らとは全く違う次元のところで世の中とリンクしていると思うんです。息を吸うように、ものすごい速度で社会とリンクしている。結局、人の心を動かすのは、その人の心とリンクしたものなんですね。それはポップなフィールドに限ったことではなく、芸術と呼ばれるエッジーなものを作るにしても同じこと。だから、天才じゃないならば、人や社会とリンクするために努力をしていくしかないと思います。