「負けず嫌いですね。できないのか?って言われたらできます! 知らないのか?って聞かれたら、知ってますとは言えないですけど、勉強しときますって言います(笑)」
テレビ業界で育ってきた根岸朋之は、いま、ライティングプランナーとして舞台に挑んでいる。門外漢であることのやりづらさも、大舞台へのプレッシャーも、あとがないギリギリの状態も一身に背負い笑顔で言う。「すごく厳しい。でもだからこそ楽しい!」

 

■ はじまりは人生の挫折からだった

僕は高校生のときに1回人生終わったんですよ。小1からずっとサッカーをやっていて、プロサッカー選手を目指していたのに、高校3年の春にケガをしてサッカーを続けられなくなったんです。入院していた病院で泣きながら、なんとかこれからのことを考えなきゃいけないって悩んでいたときに、テレビのエンドロール見て、「これかも!」って漠然と思ったんです。僕は名前の残ることをしたかった。テレビの仕事なら、「これ、俺がつくったんだぞ」って言えるんじゃないかって。それでテレビ業界に興味を持つようになりました。
高校にあった資料で日本工学院専門学校を知り、夏に体験入学に参加しました。それまで照明なんて仕事知らなかったし、テレビを見ていても気にしたこともなかったのに、体験入学で希望を聞かれたときに、照明って答えたんですよね。カメラならどんなことやるのか見当がつくけれど、照明ってなんだろう?って。たまたまそのときの体験入学の現場がライブで、薄暗い空間が、照明がついたとたんに雰囲気がパッと変わった。きれいだなーって、感動したんですよね。それで照明やろうって決めました。単純です、いいなって思ったら一直線なんです(笑)。
日本工学院でよかったことは、まず仲間ができたこと。4、5人のグループなんですけど、この業界けっこう辞めてしまう人が多いのに、僕の仲間だけはみんな続いてます。お互い大変さをわかっているから相談もできるし、気心知れた仲だから愚痴だって言い合える。仲間の頑張っている姿を見れば、俺も負けられない、やらなきゃなって思える。仲間と遊んでいても、結局話しているのは仕事のことばかりです。みんな本当に自分の仕事が好きなんですよね。

イメージ ニンゲン観察バラエティ モニタリング
TBS系にて毎週木曜20時から放送中!

「第一にMCとゲストをきれいに見せることを考えてます。ゴールデン帯の番組なので明るく、かつ落ち着いた雰囲気の出せるアンバートーン(オレンジ系)を使ったライティングにしています。バラエティ番組の照明には、明るさと違和感なく見てもらえることが大事なんですが、“気にならない、さり気ない照明”、いわゆる普通の光を演出するってすごく難しくて、そのためにさまざまな工夫とつくり込みをしています」

 

■ 険しくも素晴らしい道が開かれた

僕らのグループはみんなよくテレビのバイトをやってました。お金もらって、現場が体験できるなんていい話ですけど、それに誘ってくれたのも仲間だったんです。それでムービングライトが使えると有利だって知って、日本工学院にムービングライトがあったから、自分で勉強してすごい自習練を積んだんです。ムービングライトって高価なのに、それが学校にあったっていうのも僕にとってはラッキーでした。
学生のときから意識して、特に音楽番組はよく見ていました。いつ見てもいいなと思っていたのは、CDTVとミュージックステーション。最初は「スゴいな」って感心してるんですけど、だんだん「どうやってるんだろう?」って考えるようになるんですよね。なにかと講師の先生に質問したり、いつも授業は一番前で受けてました。発言はしないので黙々とですが(笑)。そのおかげか、就職も講師の先生に誘っていただいて、ティ・エル・シーに決まりました。一度はサッカーで大きく挫折したけれど、いまはサッカーに感謝しています。毎日朝から晩までサッカーをやっていたので体力には自信がありましたし、サッカーは団体競技ってとこもよかったですね。テレビの現場もみんなでつくっていくものなので、そこもすごく役に立ってます。
入社後は主にムービング班として、希望の歌番組につくことができました。ティ・エル・シーはあこがれだったCDTVをやっていたので、いつかLD(ライティングディレクター)としてCDTVを手がけたいと思っていました。6年目ぐらいからLDになり、2011年からはライブB♪で、LDとして念願の歌番組をもつことができました。バラエティやドラマも経験させていただく中で、あるテレビ番組で、ももいろクローバーZとご一緒させていただいて、PV「Z伝説~終わりなき革命~」(11)の照明を手がけるチャンスをいただきました。

イメージ

ライブB♪

TBS系にて毎月最終火曜深夜放送

「ライブ形式なので一発本番です。僕はライブの“生きてる感”が好きなんですよね。ずっと同じ鉄骨の組み合わせのセットなので、いわば照明ショーだから、やりがいありますね。一番気をつけているのは自分のあかりにすること、絶対に見飽きたなってあかりにはしたくない。そのためにもいろんなものを見て研究しています。音楽番組にDVD、ライブにも行きますし、最近は劇場にミュージカルも見に行ってます。ブロードウエーにも行ってみたいですね。自分がライティングプランを考えるようになってから、とにかくいろんなものを見たいという欲求が強くなってきて、どんどん貪欲になってます」

 

■ 厳しいからこそ面白い

PVでの僕の照明を、ももクロの演出の方が気に入ってくれて、僕が「いつかはライブの照明もやってみたい」と言っていたら、なんと本当にやらせていただけることになって、日本武道館にさいたまスーパーアリーナ、西武ドーム公演にもライティングプランナーとして参加させていただきました。テレビ畑の僕がPVや舞台での照明をやれるなんて、本来ありえないことなんですけど、演出家さんとの出会いですごい夢が実現しました。
ライブの1カ月以上前からライティングプランを考えて、ライブ当日も40人ぐらいの照明チームをまとめなきゃいけない。ほとんど年上で、舞台専門でやっている人たちが、全員僕のプランのために働いてくれる。毎日胃痛で、神経すり減らして10キロ痩せました。だけど、終わったあとの、あのすごい開放感と充実感は何ものにも代え難いです。
悔しいことなんてこれまでにもたくさんありました。その悔しさをバネに、このやろうって思いながらやってきました。舞台の仕事もようやく会社にも理解してもらえるようになってきたし、周囲に応援してくれる人も出てきました。ライブの仕事は演出家の方から指名でもらっているから、光栄な反面、舞台の照明の世界には名だたる先輩方もいるので、下手したらすぐ切られてしまう。毎回が本気、正念場です。それでも、もっとやれたのにって思うことばかりで、毎晩のようにライブの映像を見直して書き出しているんです。あ、ここダメ、ここもダメ、もうダメがいっぱいです。「次はないかもしれない」――その緊張感がいま一番の刺激だし、チャラチャラしてられないって、テレビの仕事にも改めて気合いを入れて向き合えてます。照明の仕事を始めて、いまが一番面白いです!
イメージ

ももクロ春の一大事2013 西武ドーム大会~星を継ぐもも vol.1/vol.2 Peach for the Stars~
DVD/Blu-ray BOX(初回限定版)
2013年9月25日に発売!

「あっという間にすごい人気グループに成長されて、僕も負けないように力をつけないとって必死です。チャンスをくれた演出家さんにはいい仕事でお返ししたいし、すごく大事にやらせていただいています」

この記事に関するお問合せは、こちらまで
pec_info@hq.cri.co.jp

こちらもおすすめ