注目企業の中の人によるコラム
今回は全6回シリーズで、株式会社サイバーエージェントさまに“サイバーエージェント流!新サービスの生み出し方”と題して、ウェブサービスやアプリの開発秘話などを解説いただきます。
第3回目は、Ameba Owndの新規立ち上げに携わり現在は同サービス内でiOSとAndroidのUIデザインを担当されている白鳥友里恵さんのコラムです。

はじめまして。Ameba Ownd デザイナーの白鳥です。
Ameba Owndは2015年3月にリリースされたホームページ、ブログ、メディアなど様々な利用シーンに適したウェブサイトが簡単に作成できてつながれるプラットフォームです。

今回はAmeba Owndが大切にしている“簡単”が生み出す、サービス/ユーザーへのメリットについてお話ししたいと思います。

 

「簡単」はプロダクトにとって何よりも武器になる

Easy
「画期的な新サービスを作ろう」
「既視感のないかっこいいデザインにしよう」
「最新の技術を駆使したサービスを提案しよう」

こんなことをサービスを作る上で考える人はたくさんいますが、最初に簡単なサービスを作ろうと考える人は中々いないのではないでしょうか?
「簡単」というとユーザーにとって特に難しくなければ良い、という程度で片付けられてしまい、なかなか主役に躍り出ることは少ない要素の一つです。しかしそれとは裏腹に、サービスが簡単であるということは、なかなか難しいという現実があります。

機能も画面もアクションもできるだけ少なく、とにかくシンプルに。引き算でサービスを作るのが近年の傾向ですが、現実はなかなかそうは上手くいきません。ときには「数字」のためだったり、様々な不安要素を払拭するための「あったらいいな」で埋め尽くされ、結果あらゆる要素が膨れ上がり「ユーザーも何をして良いのかわからない」なんてことはサービス開発をしたことのある方であれば、一度は経験したことがあると思います。

「簡単」は研ぎ澄ませば強固なサービスの武器になり、そうそう競合には真似のできない価値となります。 今回はAmeba Owndが目指した簡単さについてお話ししようと思います。

 

デザインで魅せる、簡単なイメージの大切さ

「お、これなら自分にもできそう」
「うわ、こんなの自分には無理だな」

何かを見たとき、出会った時にこう感じたことはないでしょうか?サービスに限らず、本の表紙や機械の操作部分、ホームページのデザインなどでも私たちはいつも“イメージ”によって、常にそれが自分に扱えるものなのかを判断しています。

わたしたちがが最初に感じる”イメージ”、つまり第一印象というのは想像以上に強いものです。
人同士の印象はおおよそ3~5秒で決まり、またその情報のほとんどを「視覚情報」から得ていると言われています。このデータは人間同士のものですが、同じことがサービスにも当てはまります。

Ameba Owndでは白を基調としたデザインに、明るいグリーンが印象的なデザイントーンを採用しています。穏やかな色合いでまとめることにより第一印象は「柔らかさ」だったり「親しみが持てる」感覚を促し、ちょっと試しに触ってみようかなという気持ちになるようなデザインを心がけています。

しかしこれをちょっと変えるだけで、印象は全く異なってしまいます。

もしデザインがこのように黒を基調としていたら、どんな印象を持つでしょうか?先ほどの白を基調としたデザインから要素や文字のサイズなど色以外のものは何も変えていません。
構成は全く一緒なのに、ぱっと見たときの印象は先ほどと異なり「難しそう」「技術的な知識やテクニックが必要そう」という印象を持ったのではないではないでしょうか?

色1つでもユーザーの最初の印象やサービスイメージに対するハードルはぐっと上がってしまい、たとえ本当は簡単なものなのにも関わらず、最初に「自分には無理だ」という思い込みをしてしまいます。こう思われてしまってはそもそもユーザーに使ってもらうことすら難しくなり、画面を閉じられてしまうでしょう。それくらいサービスと印象は、切っても切れない関係にあります。

他にもAmeba Owndのデザインではアイコンやボタンの角を丸くして「親しみやすさ」や「簡単さ」をポイントで視覚的に見せたり、テキストやボタンなどの要素同士のホワイトスペース(空白)をかなり多めにとることによって一度に入ってくる情報量を抑え、「簡単さ」を視覚的に演出しています。

 

機能と簡単のジレンマ

さて、先ほどのように見た目で簡単に見えるようにしたとしても、実際に操作してみて「簡単だ」と思えなければそれはハリボテの価値であり、ユーザーの期待を裏切ることになります。「簡単にする」と口でいうのはまさに簡単ですが、これをサービスで体現することは本当に難しく、それはAmeba Owndでも例外ではありませんでした。

そのひとつが、ウェブサイトビルダーを作る上で大きな特徴となる、提供する「機能」や「概念」の多さでした。
受動的な役割やアクションの多い一般的なウェブサービスと比べると、ユーザーがサイトオーナーとして主体的に動き、自己表現するものとして成り立つために必要な機能は通常の何倍といっても大げさではありません。しかも「こんなサイトを作りたい!」と明確な目的を持って入ってきたユーザーにとって単に機能を減らすことは決してメリットではなく、むしろ純粋な機能落ちとして扱われてしまいがっかりさせてしまいます。
競合サービスにおいても「簡単だが、機能が乏しく仕上がりがイマイチで使いにくい」「すごく凝っていておしゃれなものが作れるが、専門的で難しい」ものばかり。
その中でOwndが「簡単だけど思い通りに」を目指すために、多機能とのジレンマに真正面から立ち向かうこととなりました。

Ameba Owndで機能精査、つまりユーザーにどこまでの自由を提供するかを決めるにあたって徹底的に「アウトプット」から逆算して必要なものをそぎ落としていきました。

ホームページと一口に言っても何十万何百万とお金をかけて作る一流企業のブランディングサイトから地域の店舗、個人のポートフォリオまであまりに多種多様です。それをすべて作れるようにとなれば、機能数は途方もなく増えるばかりか複雑さを孕んだ誰のためにもならないものとなってしまいます。その中でもAmeba Owndでは何十万もお金をかけれないスタートアップや個人店、ブログでは満足できない一般の方などにフォーカスし、”誰でも簡単にパーソナライズされたWEB上の拠点が持てる”世界にしたいという目標を掲げました。

その上で実際に競合で提供されている機能、新しく提供したい機能を最大限リストアップしたあとに、実際の利用ケースを想定したデザインをできるだけ大量に生産しました。機能と実際の利用ケースを照合し、「店舗のアクセスマップは載せたい」「簡単にギャラリーを作りたい」「告知のお知らせをしたい」など当事者の気持ちになって必要機能の検証を行い、最も利用シーンの多いものを絞り込みました。常に「この機能は捨てるか」「他のものと代用はできないか」「パターンを減らせないか」と、どこまでもミニマムに、でも満足感のあるアウトプットをユーザーが作れるか?という境界線をチームみんなで考え抜いた結果がいまのサービスの主軸機能となっています。

 

おわりに

ここまで簡単さについて色々とお話しさせていただきましたが、もちろんわたしたちチームもまだまだ簡単さをより実現していく上で改善をしなければならないことが数多くあります。多様な変化を続ける中でもチームの中の合言葉として「それは誰にとっても簡単なのか?」という共通認識があるからこそ、ユーザーにとってもサービスにとっても正しいものを選択し、有益な価値を提供する大きな足がかりとなります。

どうして、なぜそれが必要なのか。
それは本当になくなったら困るものなのか。

常にそれと向き合い続けることは、サービスをシンプルに、簡単に、ユーザーにとって快適なものにするための基本であり、これからもずっと突き詰めていかなければいけないものでしょう。これからもユーザーに意義ある簡単さと価値を提供するため、Ameba Owndの一層の改善と進化を続けていきたいと思います。