イラストや漫画の描き方が、どこでも無料で学べる―――そんなサービスを配信しているのが『Palmie(パルミー)』。日本を代表する文化のひとつであるMANGA(漫画)をうまく描きたい人のために、プロのイラストレーターが動画で細かく技を見せてくれます。漫画家の夢を手放してクリエイターを支援する立場になろうと起業した、その思いとこだわり、また未来のクリエイターの姿を、パルミー代表の伊藤さんにお伺いしました。

漫画家を諦め、DeNAへ

僕が育ったのは、福岡市から1時間くらい離れた山と川ばかりの田舎でした。小さな頃から、粘土とか工作が好きな子どもでした。それが小学3年の時に、友達から漫画『ONE PIECE』を借りて読んで、一気に惹かれたんです。世の中こうだったらいいなと思うようなことが、漫画の中でなら実現できる。だったら自分も描いてみようと思って、漫画家を目指すようになりました。それから週に1度、7ページくらいの漫画をクラスの学級新聞に連載していました。冒険ファンタジーでしたね。自分はもう漫画家だと思っていましたね(笑)

絵画教室などにも行ってみましたが、年配の方ばかりで漫画を学ぶという感じではありませんでした。本格的に絵を学ぼうと、大学は東京の美大に進学しました。でも期待が大きすぎたのか、自分で学べというスタンスが突き放されたように感じて、行かなくなってしまったんです。出版社に漫画の持ち込みをしてもうまくいかなくて、なにか表現したいという欲求が少しずつ薄らいでいきました。

しかも同時期、学外のイベントサークルなどで起業する学生たちと出会うことが多くなったのも、漫画から離れるきっかけになりました。「漫画の中に理想の世界を詰め込もうとしていたけど、リアルな世界でもできちゃうんだ」というのを目の当たりにしたんです。

彼らはWeb関連のビジネスで起業していたこともあり、Webって自分のアイデアを表現しやすい媒体だなと感じたんです。新しい業界だからルールも少ないし、できたものを評価してくれるフェアな感じが楽しそうだなとも思いました。自分でもHTMLやCSSで簡単なサイトを作ってみたり、なんとかWebサービスに関わろうと試みて、就職もWeb業界に絞りました。

実は、就職活動の面接では、「3年くらい働いたら起業したいんです」と言っていたんです。当然、学生が遊びに来たのか…と思われることもあったのですが、そのなかでDeNAさんは「そういうのもいいじゃん」と懐深く受け入れてくれました。
DeNAに入社してからは、モバゲーのアバターを制作しながら、企画や営業などいろいろやらせていただきました。自分から希望して、新卒の面接を担当させていただいたこともあります。いずれ起業したいと思っていたので、身につけたい技術や経験については、自分から「やらせてください」とお願いしていましたね。

2つの“クリエイター支援”

DeNAでクリエイター支援に携わりながら、同期3人でパルミーを立ち上げました。二足のわらじを履くことになったのは、どちらもクリエイターのサポートでありながら、それぞれできることや規模が違うと考えたからです。
DeNAのクリエイター支援では、美大生などにIT業界をもっと知ってもらうためのWebメディアを立ち上げたり、ゲームクリエイターさんの名前をクレジットに載せようという取組みをしたり、展覧会を開催してクリエイターさんが外に出ていく場をつくったりしていました。

自社のサービス「パルミー(Palmie)」は、Webを使ってクリエイターになるための勉強をしていただけます。僕自身の原体験として、田舎では週刊マンガ誌の発売が数日遅れていたり、絵を学ぶ学校が少なかったりと、クリエイターになる環境から遠かった。今は改善されているでしょうが、その時の悔しい思いがあるから、クリエイターを目指す方に学べる場を届けたかったのです。
DeNAではクリエイターさんの働く環境を良くする取り組みが主ですが、パルミーはクリエイターになりたい人を後押しするといった違いがありますね。どちらにしろ、自分がプロになれなかったこともあり、クリエイターさんのことをとても尊敬しているとともに、傍にいたいという気持ちが強いんです。

楽しんでもらえるUXを

しかし起業はしたものの、なかなか思い描いた通りには進みませんでした。はじめは、イラストを描くための講座動画を見ていただくiPhoneアプリをリリースしたんです。すると、Webで情報を探している方には届かない。結局、Webサイトで動画配信するという今のサービスに辿り着きました。動画は、手の描き方、帽子の描き方、前髪の描き方などのほか「この作家さんの絵の描き方」といった内容も公開しています。現在、無料動画だけで170本ほどありますよ。

ユーザーさんにはまず動画を見てもらって、どうすれば上手く描けるのかを目で理解していただいた後、実際にイラストを描いてみよう……という流れになっています。順番に見ていただければスムーズに学んでいただけるように、サイトのUXは改善を重ねていますね。また、学びのサイトとはいえ、まず描いて楽しんでもらって、知識は後でついてくればいいのかなと思っているので、あまり堅くないサイトを心がけています。
さらに、描いた絵をPalmieのサイトやSNSで公開することで交流が生まれて、絵かき仲間を見つける方も多いんですよ。絵を描くモチベーションに繋がるんでしょうね。とにかく楽しく絵を描いてもらえるサイクルを産み出して、技術を向上させていただければと考えています。

クリエイターに必要な2つのこと

社内の役割は3つに別れていて、サイトの開発と、掲載する動画の制作、その他広報などですね。実際に動画のなかで絵を教えてくださるクリエイターさんは外部の方で、60人ほどにお声をおかけしています。
クリエイターさんの選定基準は、シンプルに2点。絵が上手いことと、社会人として基本的なこと……納期を守るとか、コミュニケーションが取れることです。そのふたつができればお仕事ができますよ。

絵が上手い、というのは、つまり基礎がしっかりしているということです。デッサンがきちんとできたり、影や質感を表現できたりすることは、絵の基本です。塗りのテクニックがどれだけ卓越していても、形がおかしいとやっぱりおかしい。僕も漫画家を目指していた時、デッサンの基礎はもっとしっかりしていればよかったなと、今でも思います。実際、一緒にお仕事するクリエイターさんも「基礎をもっとやっておけば良かった」という方がとても多いんですよ。

どうやってクリエイターになったらいいかと悩む方がいるなら、とにかくよく見てたくさんスケッチをすること。さらにそれを人に見てもらって評価してもらうと、後ですごく役に立ちますよ。誰かに見てもらうというのは、実はすごく大事です。技術力があがることはもちろん、共有できる人がいないと寂しいじゃないですか。同じ境遇の人がいると、すごく楽しくて、続いていく。悩みを相談したり、励まし合ったり、そういう仲間を作ることは本当に大事だと思います。

クリエイターが世に出るために

今、ユーザーさんの半分近くが24歳くらいまでの若い人です。約80%が日本人で、残りの20%が台湾などの方々ですね。今後は海外のユーザーさんの比率をどんどん増やしたいです。アニメや漫画やイラストは日本の得意なジャンルだし、日本の表現は海外でも人気があるので、せっかく本場にいることを活かしたいな。

来年あたりには、英語はもちろん中国語でも対応したい。どこにいても絵が学べるという基本の軸はぶれずに、さらにそれを伸ばしていくことを考えています。クリエイターをサポートしたい……ここがすべてのスタートですから。
最後に、クリエイターを目指される方にひとつアドバイスをさせていただくとすれば、どんどん発信していくことだと思います。最近は個人で活躍できる方法も増えていますよね。例えばLINEのクリエイタースタンプや、Twitterやブログやnoteで作品を発表して書籍化に繋がったり。個人でも活躍できるメディアが増えているので、ここでさらにクリエイターさんとマネージャーさんが組んでユニットを作るともっともっと大きな事ができるのかな。

会社もそうですが、人数が増えると動ける規模が変わるし、取引先からの信用も得られます。ですから悩みを相談できる同じ境遇の仲間だけでなく、契約書を確認したり営業をしたりとビジネス面で動いてくれるビジネスパートナーを作ると、もっと活動のスピードが加速できるんじゃないかな。せっかく良い絵を描くクリエイターさんはたくさんいるので、もっとビジネスの世界に入るための橋渡しができる人がいるといいですね。最近はフリーのマネージャー業みたいな人達もいるので、難しいけれど、信頼できる人を探してみるのも世に出るひとつの手だと思いますよ。

Palmie(パルミー)

パルミ―

株式会社パルミーは、webサービス「Palmie(パルミー)」の開発と運営を目的に2014年に創業した会社です。
Palmieはイラストやマンガの描き方を動画で学ぶことができるサービスで、現在170本以上の無料動画と受講料を頂く「プレミアム講座」を公開しています。
アクセスの問題や経済的な理由で十分に絵を学べず、「クリエイターを目指すスタートラインにすら立てない」という課題を解決すべく、今後も事業を展開してまいります。

https://www.palmie.jp/