黒澤明監督の傑作『七人の侍』を原作として、GONZOによりリメイクされたTV アニメ『SAMURAI7』のミュージカル化にあたり、主演を務める別所哲也さん。これまで多くの作品に俳優として参加する一方、ショートショートフィルムフェスティバルの代表を務めるなど、プロデューサーとしての活躍も目立ちます。その別所さんに、ものづくりに携わる際の想いや、クリエイターへのアドバイスなど、お話を伺いました。

ハリウッドデビューを通して感じた、日米の制作システムの違い

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演じることに興味を持ったきっかけは、大学で入ったESSという英語劇のサークルでした。もともとは英語の勉強がしたくて入ったのですが、実際に演劇を始めたら、演じること、みんなで物語を作ること、それを観たお客様の心が動いて、泣いたり笑ったりすることを、改めてすごいと思いましたね。そして、それを作り上げる照明や音楽、演出などの様々なスタッフのチームワークが面白いと感じるようになりました。

その後1990年に、日米合作映画『クライシス2050』でハリウッドデビューをして、そのスケールの大きさに圧倒されました。例えば衣装合わせでも、時代、場所の設定に合わせた大量の衣装が倉庫に備えられていましたし、ヘアメイクアップアーティストも時代考証に合わせたスペシャリストが多数いました。

そして何より一番圧倒されたのは、映画の制作現場で、自分たちが撮りたい映像のために機材をも作ってしまうところです。”こういう映像を撮りたいから、そのためのレンズを作ろう”とか、”レンズが作れないなら編集の時に何とかできないか、コンピューターや編集技師とテクノロジーで考えよう”とか。その発想のダイナミズムがアメリカ的だなぁと思いました。

それに対して日本の場合は、限られた予算、時間内で、どういう知恵を絞ったかが評価されるところがあります。与えられた条件の中で、最大限にどういう組み立てができたか、新しい知恵が出たかが、問われる世界だと思いましたね。

その違いは、興業の方法にも現れていて、アメリカのブロードウェイの舞台が典型的です。アメリカではヒットしたら際限なくロングランしますが、”限られた時間、限られた形”を採っている日本では、ヒットしても一度は区切って終演し、後に再演というシステムになるので、そこも日米の違いかもしれません。

ロサンゼルス滞在中の、ショートフィルムとの出会い

ハリウッドデビューをきっかけに、その後もアメリカに行く機会が多くある中で、ロサンゼルスに3ヶ月の中期滞在をしたこともありました。その期間に、スクリーニングという上映会に誘われたのが、ショートフィルムとの出会いでした。

上映会に誘われた時には、ショートフィルムに対して先入観がありました(笑)きっと実験的で面白くなくて、学生さんが作るようなものだと思っていたのですが、実際に観てみると非常に面白かったです。エンターテインメント性が高くて、クオリティも高くて、おもしろい技術が使われていたり、新しい発想の物語だったりで、とてもワクワクしましたね。

その時の感動が、ショートショートフィルムフェスティバルの立ち上げなどに繋がっていきます。2006年のショートショートフィルムフェスティバルでも上映した『Dupe』という作品は今でもよく覚えています。「人間が、自分のコピーを作れたら?」という発想から始まる物語で、掃除をしたくない男が自分をコピーして、そのコピーに掃除をさせようとしたものの、自分のコピーだから怠け者なんですよ(笑)だから、コピーした人間もまた自分のコピーを作って掃除をさせようとしたりとか。

それで、どんどんコピーが増えていって、最終的には自分の彼女を取られるという…で、彼女もどんどんコピーができていって、本当の自分がどの自分か分からなくなって、本当の自分だと思われる人が家出してそこから離れていくという、ちょっとシュールな作品でした。そのような作品に触れて、ブラックユーモア的な作品から、科学的な風刺が入った作品まで、ショートフィルムの多彩さを実感しましたね。

スタッフへの想いと、自身が演じること

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ショートショートフィルムフェスティバルで運営の立場に携わることで、スタッフへの想いにも変化が生まれました。

スタッフがどういう過程で準備をして撮影に臨んでいるのか、撮影後はどういう工程を経て完成に向かうのかを実感として知ったことで、作品の奥行きが増した気がします。役者に専念して、その部分だけに参加する感覚とは少し違う、作品の前後が分かるようになったことは、大きな変化だと思います。とは言っても、俳優として参加する時は、与えられた中で何ができるかということを大切に考えています。

今は、黒澤明監督の『七人の侍』をリメイクしたTV アニメ『SAMURAI7』のミュージカル化にあたって、準備をしているところです。カンベエ役でのオファーを受けた時点から、ミュージカル化で、どんな風に作品の世界が広がるのか、ワクワクした気持ちでいっぱいでしたね。

演劇は跳躍力というか…奇想天外な、ファンタジックだったり、カラフルに変化するところに意味があると思っているので、もともとしっかりした歴史ある作品がこの21世紀にミュージカル版『SAMURAI 7』になるというのが、とても楽しみです。同時にこの作品の内容が近未来的な要素が盛り込まれていたりするので、黒澤監督が生きていたらどんな風にこの作品を見るんだろう、という想いもありますね。戦国の世でも、近未来の時代でも、人間が分かり合うための闘いに身を投じることや、本当の勝ち負けって何だろうと向き合うことは、人間の本質に迫る、変わらない部分だと思うので、そういうものを描いているところは共感を呼ぶと思います。

ワクワク、ドキドキしたい気持ちをどう共有、共感できるか

今回演じるカンベエというキャラクターは、登場する7人の中でも兄貴分的な、リーダーの存在だと捕えています。慕ってくる弟分や仲間たちと、闘う意味や時代について俯瞰で、クールな目線で見ているキャラクターだと思っています。泰平の世にいると、人の生き死にを賭けて闘うことはないですが、命を代償にして生きるというのはどういうことなのかとか、秘められた想いを、あまり重苦しくなく、ミュージカルの世界で伝えていけたらと思います。

そして、映画ともアニメとも似て非なる新たな世界を作り出したいです。そう考えていると、演じることにも制作することにも、気持ちとして同じ部分があって。それは、感動を分かち合う…ワクワク、ドキドキしたい気持ちをどう共有、共感できるかということだと思います。

今回のミュージカル『SAMURAI 7』もそうで、制作する人たちはアジアに向けて発信したいとか、新しいミュージカルや舞台演劇の形を作りたいとか、世界に繋げていきたいという想いを、強い情熱として持っていると思います。そういう情熱的な部分には、僕が始めたショートショートフィルムフェスティバルとも通じるところがあります。世界と繋がっていきたい、世界に出ていきたい、世界の人と一緒に国籍を越えてものづくりをしたい、というのは共通かもしれないですね。

情熱と使命感を持って”とにかく行動する”

今ショートショートフィルムフェスティバルのプロジェクトでは、Book Shortsなどの新たな試みをしています。Book Shortsは、映画や映像と、文学的な原点となる本の物語性を組み合わせたもので、短編小説を公募して物語を集め、ショートフィルム化、ラジオ番組化などで再構築するプロジェクトです。

21世紀は組み合わせの時代とも言われていますし、今まであったいろいろなものが組み合わさって生まれる新たな価値は楽しみですね。ショートフィルムという映像を通じて、例えば食文化や観光など、既に始まっているものとの組み合わせを一つ一つ増やしていきたいと思っています。

映像制作など、自身で表現することに携わるクリエイターの方に対しても、とにかく行動して欲しいですね。パッション、ミッション、アクションと僕は心に留めているのですが、情熱を持って使命感を持って行動することが大切だと思います。今は、あれこれ考えて石橋を叩いているとなかなか前進できないと思うので、走りながら考える、作りながら考える、そしていろいろな試行錯誤をして、世界に向けて表現していって欲しいと思います。

作品情報

ミュージカル『SAMURAI 7』公演概要

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© 2004 黒澤明/橋本忍/小国英雄/NEP・GONZO

公演期間:2015年1月17日(土)~25日(日)
劇場名:天王洲 銀河劇場
原作:黒澤 明 監督作品「七人の侍」より
演出・振付:上島雪夫
音楽:佐橋俊彦
出演:別所哲也/矢崎 広/

古川雄大 野島直人 永山たかし 黒須洋壬 大澄賢也/

入来茉里/根本正勝 市瀬秀和 杉崎真宏
西海健二郎 下道純一 香月彩里 浅川文也 石橋大将 石丸隆義

長部 努 鹿糠友和 岸本康太 北村 毅 仲井真徹 西田直樹

林田航平 東 慶介 弓田速未 大野朱美 大泰司桃子 山崎里紗

主催:ネルケプランニング/銀河劇場

問い合わせ:ネルケプランニング 03-3715-5706(平日11:00~18:00)

■公式サイト

http://www.nelke.co.jp/stage/mu_samurai7/

■Book Shorts

http://bookshorts.jp/