初投稿作でデビューを果たした熨斗目ナオ。
マンガ家への道の始まりは大きな挫折だった。チャンスをつかんでからもそのとき受けたダメージは続いた。
「もし今度見限られたら本当に立ち直れない、あんな思いはもうしたくないと、石橋を叩いて叩いて渡る感じでした」
ゆっくり進む中で培ったのは、保身の術とわずかな自信、なによりマンガへの情熱だった。

 

■ バイブルは『鋼の錬金術師』

初めて投稿したマンガ「中村くんと林さん」が佳作をいただき、それが『月刊少年マガジンプラス』7号(2013年10月19日発売号)に掲載され、デビューさせていただきました。自分でも驚きの急展開で、本当にラッキーだと思っています。
小学校4年生のときに初めて買ったマンガが、いまも大好きな『鋼の錬金術師』です。カッコいいアクションシーン満載で、登場人物も個性的だし、ストーリーも深いし、元気の出る言葉や名言もたくさん出てくる。何回も読み直してしまう、私にとってバイブルのような作品です。子供の頃から絵を描くのは好きだったんですけど、そこからキャラクターの模写をはじめ、小学校6年のときにはマンガグラブで、ずっと『鋼の錬金術師』のキャラを描いていました。高校では美術部に入り、歴史の時間に歴史上の登場人物を描いて、「わあ、めっちゃイケメン!」とかって友だちと盛り上がったり、小中高とずっと楽しく描いてきた感じです。
マンガもたくさん読んでいました。『BLEACH』の突拍子もなく大きな世界観にあこがれましたし、『NARUTO -ナルト-』はとにかく絵がきれいで、忍者の素早い動きが本当にカッコよくて。その影響で忍者がすごく好きになって、もともと歴史好きというのもあり、いつか時代物のマンガを描いてみたい、描けるといいなと思っています。
実は『鋼の錬金術師』と出会う前から、好きだったハムスターのキャラに吹き出しを付けストーリー仕立てで描いてはいたんです。だからマンガに対する素養があったというか、それが『鋼の錬金術師』によって一気にマンガの世界に引き込まれた感じでした。でもマンガ家になりたいと本気で思ったのは、日本工学院専門学校に入ってからでした。

イメージ
©熨斗目ナオ/講談社
「中村くんと林さん」

クールで超強面だが、実はメチャクチャ純で女子力が高い中村くん。
ある日、秘かに片思い中のクラスメイトの林さんから「頼みたいことがある」と
声をかけられる。優等生だけど恋愛志向ゼロの林さんと中村くんの恋模様は如何に!
『月刊少年マガジンプラス』7号に掲載されたデビュー作。

 

■ 全部壊されました

高校卒業後は絵が好きだということで美大を目指そうかと思いオープンキャンパスにも行ったんですが、美大の勉強とマンガとは違うんですよね。悩んで母に相談したら、「そういえば専門学校のチラシが来てたよ」ってことで、初めて日本工学院という選択肢が出てきました。母も行ってみたいということで一緒にオープンキャンパスに参加し、何度か通う中で、もっとマンガを描いてみたいという欲が出てきました。大学進学が当たり前の高校だったので先生には反対されましたが、母は「好きなことをすればいい。ただし学費を自分でも負担する覚悟があるんだったら行きなさい」と言ってくれました。それで奨学金をもらって日本工学院専門学校マンガ・アニメーション科(現クリエイターズカレッジ マンガ・アニメーション科)に進むことに決めました。
なにがしか絵心のある人たちの中でレベルを付けられ、やる気も刺激されましたけど、悔しい思いもしました。1年生のときにコミティアという同人誌即売会で、ある少年雑誌の編集部に初めて描いたマンガを見てもらい酷評されたんです。あこがれていた雑誌だっただけにものすっごいダメージで。自分のレベルがどのくらいなのか知りたかったというのもあったんですけど、少し自信もあったので、プライドからなにから全部バーンって壊されて、完全に沈んでしまいました。
家族とも離れているし、寮だったんですけど相談できる友だちもいなくて、ストレスでお腹を壊したり。当時の頼りは『鋼の錬金術師』だけでした。上京のとき『鋼の錬金術師』の中でも一番好きな6巻だけ持ってきてたんです。主人公の子供時代のシーンで、師匠に励まされ主人公が前向きになるんですけど、その場面に私も何度も励まされました。

 

■ どんなアドバイスも逃したくない

それから約1年後、2年生の8月末に『月刊少年マガジン』の新人賞に応募した「中村くんと林さん」が佳作を受賞し、デビューへとつながりました。少年マガジン編集部さんとの出会いは、初めての作品を否定されズタボロ中だった1年生の冬でした。「せっかくここまで原稿できたんだから見てもらいましょう」と先生にグイグイ押され、え~って感じで、出張編集部で学校に来られていた少年マガジン編集部さんに16ページのマンガを見ていただいたんです。そしたら、そのとき対応していただいた編集さんから、続きを描いて持ってきてくだされば見ますよと名刺をいただきました。もう先生も大喜びで(笑)。認めてもらえる場所もあるんだ!と、そこからやる気がガーッと上がりました。その16ページの作品を36ページに広げたものがデビュー作の「中村くんと林さん」です。
「中村くんと林さん」の話は、小説を書くのが好きな中学時代からの友人のショートストーリーが原案となっています。原案を提供してくれた友人と意見交換しながらキャラクターを固めストーリーを構築していったんですが、その作業がすごく楽しくて、ダメージを引きずりながらも描き通せたような気がします。
私が心がけてきたことは、先生や講師の方などいろんな人に意見を聞くことです。どんなアドバイスも「なるほど」と心に留めておく。もし自分でどうしても納得いかないときは、一旦聞いておいて、ほかの方にも意見を聞いて、私の考えでも大丈夫だという感触を得たら自分の意見を通す。あと、文句でなくアドバイスをくれる方、絶賛してくれる方もうれしんですが、できるだけ具体的に意見や感想を言ってくれる方を選んで話を聞いたり、上手にアドバイスと折り合いをつける方法を学んでいきました。こうだったら面白いよねみたいなポンと出た意見もすかさずメモしたり、否定されるのは本当に恐いけど、でもどんな意見でも聞くチャンスを逃したくはないんです。いろんな意見をすべて注ぎ込んで作品をよくしたい、それぐらいの強さは身についてきたように思います。
現在は「中村くんと林さん」の新たなエピソードを制作中です。これまで自分の実力をじっと見極めていたところもあるんですが、そろそろライバルを押しのけるぐらいの勢いでダッシュしなきゃと思っているんですけど、空回りしちゃって(笑)。でも以前は、楽しく描ければいいやって思ってましたけど、ここまできたら、どこまでいけるか、それこそ“鋼の心”で食らいついていきたいと思ってます。

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