クリエイティブ業界で急成長を続けるアバター制作。注目の分野だけに志望者も多いが、即戦力として高いスキルが求められるため、定着率20%ともいわれる厳しい世界だ。
高松彩乃はイラストやキャラクターの仕事に就きたい一心でアバター業界に飛び込んだ。
「高松さんならなんとかしてくれる」――初の現場に戸惑い焦る高松だったが、その努力と抜群のバランス感覚で、周囲から絶大な信頼を寄せられる、頼れる存在に成長した。

 

■ 絵を描く仕事がしたい

大手SNSサイトやソーシャルゲームを中心にアバターを制作しています。髪の毛や衣装、背景といったパーツをメインで手がけていて、作業はすべてIllustratorで行っています。最近のアバターは、非現実的なコスプレやファンタジー系より、実際にファッション雑誌に載っているようなリアルファッションが人気です。ゲームやサイト中でどんなアバターが求められているのかはもちろんですが、いまの流行を知ることもアバター制作には必要だと思います。だから雑誌を見たり、友だちから情報を得たりして世の中のはやりを知るようにしています。私はそんなにオシャレにこだわるほうではないのですが、これとこれを合わせれば可愛いとか、組み合わせを考えるのは好きなんです。いまの現場はアバター担当が7人いて全員20代の女性なんですが、ユーザーも女の子が多いし、女子の感性が活かせる仕事だと思います。
昔から絵を描くのが好きでした。母もイラストを少しやっていたようで、小さい頃にはいろいろな絵を描いてくれました。小学生のときには将来はイラストレーターのような絵を描く仕事がしたいと思っていました。ゲームやマンガにアニメも、好きな絵やこんな絵が描けるようになりたいと思ったものはなんでも真似して描いていました。
高校卒業後は日本工学院クリエイターズカレッジ マンガ・アニメーション科に進みました。大学進学は早い段階から考えてなかったです。親には絵が好きなのはいいけど仕事にするのは大変だよと言われました。でも気持ちは変わりませんでした。いろんな専門学校の体験入学に参加し、一番広くてきれいで、パソコンの設備も整っている日本工学院に決めました。家族兼用のパソコンで、高校生のときからお試し版のPhotoshopで絵を描いていたりしたので、パソコンで絵を描く勉強がしたかったんです。

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■ 卒業制作で知ったつくる楽しさと醍醐味

日本工学院で一番勉強になったのは、他人に絵を見てもらえたことでした。どれだけ描いていても、自分ではどこが悪いのかわからないので。あと卒業制作も私にとっては大きな経験でした。ほかのクラスの人たちも交えて5人でチームをつくり、カードゲームを制作したんです。自分たちでルールを考え、キャラクターをつくり、イラストの上手な人たちを集めて一緒に描いてもらったり、卒業制作を通して人との交流が広がりました。自分たちのアイデアを形にして発表し、いろんな人に見てもらえたこともうれしかったし、みんなで頑張ってやってきたことが作品として残せたことに感動しました。
卒業後は絵を描く仕事を希望して、いろいろなところにポートフォリオを送り、面接までは進むんですけどうまくいきませんでした。ゲーム会社も受験したんですが、自分のやりたいことをうまく伝えることができず、卒業してからもずっと就職活動を続けていました。あるとき日本工学院の先生から、アバター制作の現場でインターンから始めてみないかと誘われました。それまでアバターなんてつくったこともなかったし、Illustratorにも全然自信はなかったんですが、とにかくやってみようと思いました。
レイヤーの引き方から、データのつくり方、何かベストなのか、正しい形なのか、最初は本当に何もわからず大変でした。私は人に聞くのがあまり得意じゃないので、自分で試行錯誤しながら、先輩にも指示をもらい、どうにか作業を続けているといった感じでしたが、4月の半ばにインターンで入り、7月に正式採用されました。

 

■ アバター制作に求められる力

アバターのオーダーはどんどん来ていますし、私が始めた3年前に比べたら、チームのメンバーも増えています。でもこの仕事はけっこう向き不向きがあって続く人が少なく、作業が間に合わなくて厳しい時期もありました。アバターはサイズが小さいので、図形としてのバランスや、明るい色できれいにまとめるなど色合いが大事だし、難しいんです。制約も多いので、描きたい絵が描けなくて、ストレスを感じる人もいると思います。でも吸収しようという気持ちさえあれば、得られるものはたくさんあります。私自身、仕事以外で作品をつくっているときに、色使いなどで、自分の成長を感じられることも多いです。
私が気をつけていることは、とにかく締め切りに間に合わせるということです。アバターはクライアントとの擦り合わせが大事なので、修正が入ることを予想し、ある程度の余地を残し提出し、クライアントの意見を反映して仕上げる。すべてを全力でやっていたのでは回らなくなるし、完璧だと思って出したものに修正が入ると気がめいるし、それでいちいち気落ちしていては仕事になりません。最終的にいいものにすることが一番大切なことですから、そのためには力の調節やバランス感覚も必要だと思います。
辞めようと思ったことはないですが、定期的に悩むことはあります。ずっと描いていると何がいいのかわからなくなるんです。そんなときはちょっと手を止めて、少し引いて改めて考えてみるようにしています。最近はアバター志望者も多いんですが、厳しいところもあるので、とにかくやってみて、向いてなければ違う道に進めばいいんです。自分の作風にこだわりがある人はそれを貫けばいいし、この世界を好きで希望したからには、どんな形でもいいから一度現場に入って挑戦してほしいと思います。「可愛い」とか、「きれい」とか、ユーザーからの反応があるとやっぱりうれしいですし、これまで自分がつくったいろんなアバターがサイトにいくとあるんです。それを見ていると楽しいんですよね。自分の仕事が形になって見える、形に残すことができるというのは本当に幸せなことですから。

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