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相米慎二監督、平山秀幸監督らの作品の助監督を経て、04年『油断大敵』で監督デビュー。11年公開の『八日目の蟬』では第35回日本アカデミー賞をはじめその年の主要映画賞を独占し、注目を集めた成島出監督。最新作『ソロモンの偽証 前篇・事件』『ソロモンの偽証 後篇・裁判』(原作:宮部みゆき)の公開に際し、お話を伺いました。

 

■ 自主映画での経験の全てが”今”に繋がる

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映像制作に興味を持ったきっかけは、大学入学後に多くの映画に触れたことです。高校生まではそんなに映画を観ていなかったのですが、上京して名画座に足を運んでみると、500円くらいで3本立て上映を観ることができて、数多くの面白い作品に出会いました。

それから、自分たちで8mm映画を撮り始め、ぴあフィルムフェスティバルにも出品しました。ぴあフィルムフェスティバルに入選した時は、僕の作品を大島渚監督と長谷川和彦監督が推してくれて、とても嬉しかったですね。

ぴあフィルムフェスティバル後の飲み会で、大島監督に「お前は映画監督になれるよ」と言われたことで、助監督の道に進む決心をしました。

助監督から監督デビューまでは、割と長い時間が掛かりましたが、長谷川和彦監督の弟子として様々な経験を積んだこと、自主映画の現場で仕事を覚えていったことは、全て今に繋がっていると思います。

自分でお金を集めて、フィルムを編集してダビングまで手掛けるという一連の自主映画制作の流れは、今の仕事の仕方と全く一緒です。

今、映画業界では自主映画出身者ばかりが生き残っていますね。それは自分でお金集めから実制作まで全てに関わるからこそ、だと思います。とにかく僕は監督になるまでに全てを経験したいと思っていました。監督になった時に絶対負けたくないという強い想いがあったので。長谷川和彦監督が『太陽を盗んだ男』以来映画を2年、3年撮らないので(笑)そこで脚本の手伝いをして、脚本の書き方も覚えていきました。

そして、役所広司さん、阿部寛さん出演のVシネマ『大阪極道戦争 しのいだれ』制作時に、予算の関係で脚本家を頼めなくて自分で書いたものが、助監督をしながらの脚本家デビューになりました。結果、役所さん、阿部さん共に今でも繋がっているので、改めて不思議な縁を感じていますね。

 

■ 宮部みゆきさんの集大成とも言える大長編、映画化への道

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© 2015 「ソロモンの偽証」製作委員会

今回の『ソロモンの偽証』については、最初は映画化できるとは思っていませんでした。と言うのも、宮部みゆきさんの原作は、総計2000ページ以上に及ぶ大作だったので、その時点で映画化は難しいだろうと思っていたからです。

映画化を念頭に置いていたわけではなくて、ただ宮部さんの作品が好きで読んでいたら、やはりとても面白くて。そんな中、今回の『ソロモンの偽証』制作チームで別のシナリオ作りに取り掛かっていました。

そのシナリオは結局、作品化にまでは至らなかったのですが、その過程でいろいろ上手くいかないこともありまして。宮部さんの描く『ソロモンの偽証』の登場人物たちの精神から学んで取り組もうと、プロデューサーチームに参考資料として原作を渡しました。

すると松竹のプロデューサーチームが映画化を提案してきて。それに対して僕は、「インターミッション(上映時間が長い作品の途中に休憩時間を挟むこと)では無理だから、前後篇に分けて公開するしかないよ」と伝えたら、松竹サイドがそれを決断してくれたので、宮部さんサイドに原作権のお願いをして、映画化が決定しました。

前後篇で制作するという松竹サイドの英断があったからこそ、できるという確信が持てた映画化でしたね。原作を読んでいる時点から、裁判シーンは成功に導ける確信がありました。その裁判シーンまで、どうやってあの大長編を処理するのかという点は脚本作りでは苦労しましたが、裁判まで行き着けば必ず面白い映画になると信じて進めていきました。

 

■ 10,000人の候補者の中から選出した、日本映画史上最大級オーディション

『ソロモンの偽証』の撮影は2014年6月中旬から始まりました。

そのためのオーディションを開始したのは2013年10月。プロダクション所属者に限らず、全国から一般公募を行った結果、約10,000人の応募者が集まりました。

演技力を探る合同ワークショップの開催などを通して、台本にあるキャラクターを想定して、何か月にもわたって”素材を見る”作業を続け、「この子なら役にはまっていくかな」と1クラス33人を選出していきました。

演出に際しては、とにかく役になりきることを心がけてもらいました。演技経験のないキャストも多い中、役が決まって2か月くらい毎日リハーサルをしましたが、本名で呼び合うのは止めて、役名で呼び合うようにして、家庭でもそうしてもらうように伝えて、時間をかけて役作りをしていきましたね。

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© 2015 「ソロモンの偽証」製作委員会

時間をかけた役作りに加えて、こだわったのは雪のシーンです。撮影は2014年の夏ですから、前の冬から、雪が降る日を待っていて2014年2月の雪を実景として撮っていました。劇中、冒頭で藤野涼子(藤野涼子)と野田健一(前田航基)が歩いているシーンは、実際の雪の中を合成で歩いている作りです。夏のシーンに雪の合成を行うので、冷凍庫でマイナス20℃の中で同じ芝居をして、息だけ撮って、それを重ねたりなど、物語の冒頭”クリスマスの雪の朝”というのが大きなポイントだったので、丁寧に撮影していきましたね。

 

■ “ハッピーエンドの入口で終わる”映画

『ソロモンの偽証 前篇・事件』では、様々な出来事に向き合いながら、登場人物がそれぞれ裁判に向かっていき、『ソロモンの偽証 後篇・裁判』では、いよいよ中学生たちによる”学校内裁判”の本番を迎えます。

原作でも、裁判の場面が本当に素晴らしくて、映画でもそのシーンを大切に描きたいと思っていました。宮部さんの原作が素晴らしいのは、一つ一つの謎が解けていくと同時に、それぞれの人間が救われていくところです。ただ謎が解明されるだけではなくて、人が生きていくことに決着がついていく様が圧巻です。

その長い裁判シーンは、普通だと「アクションもなくて持つのか?」という感じなのですが(笑)キャスト陣の頑張りと、4,000人近いエキストラの力を集結して、迫力のあるシーンになっていると思います。傍聴席に座る生徒や保護者たちの細かなリアクションも捕えて完璧を目指したので、緊張感と臨場感あふれるシーンになっています。

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© 2015 「ソロモンの偽証」製作委員会

謎が解けていくと同時に、それぞれの人間が浄化されていくような感覚…そのような映画を自分でも見たいし、作りたいと思っています。ハッピーエンドではないけれど、ハッピーエンドの入口で終わる映画が好きなんです。ハッピーエンドを押し付けるのではなくて、その入口で、気持ちよく観終わってもらえる映画…それは、今まで手掛けてきた全作品に共通していると思います。

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■ “シナリオ”が全ての基本

自分の周りを見ても、今、監督として活躍している人の共通点は”シナリオが書ける”ことです。テレビドラマは携わったことがないので分からないのですが、映画監督になりたいという人にはシナリオを勉強することを勧めますね。

シナリオが書けないとシナリオが判断できないし、シナリオが判断できないと現場が混乱を起こすし、演出もできないですから。黒澤明監督にしても小津安二郎監督にしてもシナリオを書くので、”書く人が生き残る”というのは昔も今も変わらないと思います。

僕らの世界ではよく「シナリオが読める、読めない」という言い方をします。シナリオ自体は文字なので、小学生でも読むことはできますが、行間なども含めて読み取れないと「シナリオが読めない」という言い方をしますね。楽譜も、誰でもちょっと勉強すれば読めますが、音の行間や叙情性も譜面で読み取れないと良い演奏者になれないとうのと同じで、シナリオが書けるというのは良い監督の要素だと思います。


 

■作品情報

『ソロモンの偽証 前篇・事件』『ソロモンの偽証 後篇・裁判』

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© 2015 「ソロモンの偽証」製作委員会

原作:宮部みゆき(新潮文庫刊)
監督:成島出
脚本:真辺克彦
音楽:安川午朗
出演:藤野涼子 板垣瑞生 石井杏奈 清水尋也 富田望生 前田航基 望月歩
佐々木蔵之介 夏川結衣 永作博美 小日向文世 黒木華 尾野真千子

■オフィシャルサイト

http://solomon-movie.jp/

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成島 出(なるしま・いずる)

61年生まれ、山梨県出身。相米慎二監督、平山秀幸監督らの作品の助監督を経て、04年『油断大敵』で監督デビューし、第23回藤本賞新人賞、第26回ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞。その後『フライ,ダディ,フライ』(05)、『ミッドナイトイーグル』(07)、『ラブファイト』(08)、『孤高のメス』(10)、『聯合艦隊司令長官 山本五十六』(11)『草原の椅子』(13)などを監督。11年公開の『八日目の蟬』では第35回日本アカデミー賞をはじめその年の主要映画賞を独占、高い評価を受ける。最近作は、第38回モントリオール世界映画祭で審査員特別賞グランプリを受賞した『ふしぎな岬の物語』(14)。


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