映像ディレクター高橋洋人は、ヒットメーカー堤幸彦(映画「BECK」「20世紀少年」シリーズ、ドラマ「SPEC」「トリック」「池袋ウエストゲートパーク」ほか)や大根仁(ドラマ・映画「モテキ」)、 そして平川雄一朗(ドラマ「JIN-仁-」「ROOKIES」ほか)らが所属するオフィスクレッシェンドに入社し、並みいる演出家たちのもとで経験を積んできた。
「バラエティやメイキングや予告編など、さまざま仕事をやらせてもらっています。中途半端に見えるかもしれないけど、いろんな現場をやった経験が必ず自分の持ち味になると思っているんです」
テレビ業界を目指すと決めた18歳の頃から、自身の道を達観していた。いくら願っても、そんなに簡単にはかなわない。だけど望むことを忘れなければ、必ずチャンスは巡ってくる。
日本工学院専門学校で高橋を導いた恩師は言う。
「厳しい現場だと思いますよ。あれだけヒット作品を手がけているプロダクションですからね。でも彼なら続くと思った。根性がありましたから」
ドラマをつくりたいという夢を抱きオフィスクレッシェンドに入社してから12年が過ぎた。いま高橋は、映画「はやぶさ/HAYABUSA」の現場に立っている。

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■ 在学中から現場に入る

現在僕は、映画「はやぶさ/HAYABUSA」に監督アシスタントとして参加しています。ドラマや映画はメイキングや番宣といったかたちでやらせていただいていたんですが、本編にしっかりかかわったのは、「はやぶさ/HAYABUSA」が初めてです。2000年にオフィスクレッシェンドに入社して10年強。ようやく念願のドラマ制作、それも映画に参加することができました。
小学生の頃からトレンディードラマが好きで、「抱きしめたい! WANNA HOLD YOUR HAND 」(フジテレビ)とか「愛しあってるかい!」(フジテレビ)とか、「楽しいなー」って思いながら見ていましたね(笑)。中学生になってからもずっとドラマは見ていて、「若者のすべて」(フジテレビ)とか「未成年」(TBS)といった作品も印象深いです。ドラマ以外にも、ドリフターズさんも好きでしたし、ダウンタウンさんの「夢で逢えたら」(フジテレビ)も見ていましたし、とにかくテレビは好きでした。
一方で僕はずっとサッカーをやっていて、本当はサッカー選手になりたかったんです。勉強は好きじゃないけれど体育だけはいつも“5”みたいな子供だったんで。でもだんだん現実が見えてきて、サッカー選手になるという夢に挫折するという経験をして、それで改めて自分は何が好きなのか、将来何をやりたいのかと考えたときに、テレビの仕事だと思ったんです。
高校卒業後は日本工学院専門学校 放送メディア科(現クリエイターズカレッジ 放送・映画科)に進みました。実家から近く、テレビの仕事の勉強ができるところということで探して、日本工学院に決めました。最初からディレクター志望でした。テレビ業界に詳しかったわけじゃないんですけど、やるならカメラマンとか編集といった技術パートではなく、制作をやりたいと考えていました。
日本工学院での2年間はあっという間でした。一番学んだことは、人とのつながりや付き合い方です。特に講師の方たちとの関係づくりを大事にしていました。講師の方というのは、現役でテレビの制作現場で活躍している人たちだから、いわば現場に入れば上司や先輩となる方と付き合うことで、業界の雰囲気やノリみたいなものをつかみたいと思いました。AD(アシスタントディレクター)はキツいという話は聞いていたので、絶対にテレビの仕事をしたいと思っていた僕としては、少しでもその世界に慣れておきたかったんです。
就職は意外にもすぐに決まりました。僕はずっとドラマがやりたいと言っていたんです。それならオフィスクレッシェンドがいいんじゃないかということで、当時担任だった国重雅彦先生が紹介してくれて、僕と記録を目指していた女の子とふたりがオフィスクレッシェンドのプロデューサーに面接してもらえることになりました。それで訪れたのが、僕がのちにお世話になる「クイズ!!赤恥青恥」(テレビ東京)という番組のスタジオ収録の現場でした。収録の合間にあいさつさせていただいて、「明日からPVの撮影があるからどうですか?」とプロデューサーに言われ、ちょうど夏休み期間だったんで、お手伝いさせてもらうことにしたんです。そこからもうエンドレスです(笑)。いまでも覚えています、8月19日でした。あの日から、僕のオフィスクレッシェンド人生が始まったんです。

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「はやぶさ/HAYABUSA」
© 2011『はやぶさ/HAYABUSA』フィルムパートナーズ
2011年10月1日(土)より全国ロードショー

 

■ 半年やそこらじゃ、何もわからないですよ

現場では理不尽なこともたくさんありましたけど、そんなの当たり前だろうってぐらいに思っていました。僕は社会のことをまったく知らなかったから、自分で勝手に「現場は厳しいもんだ」ってイメージしていて、「キツいけど、こういうものだろう」って最初から思っていたんです。サッカーをやっていたのもよかったのかもしれません。コーチがとても厳しい人だったから。
辞めたいと思ったことはないです。休めない、帰れない、もちろんそれはありますけど、そういったことは僕にとって問題じゃないんです。ただ一度だけ、一番最初に入った深夜のバラエティ番組の収録で、上の人にけられたんです。僕は一番下っ端のADだったんですが、初めての現場、初めての収録でなんにもわからなくて全然ダメで。終わってからADが並ばされてひとりずつ怒られて、けられました。それをやられたときは心底くやしかった。絶対いつか見返してやろうと思いました。それが、いまこの業界に残っている理由です。
むしろ僕が思うのは、「なんでみんなそんな簡単に辞めちゃうんだろう?」ってことです。健康上の問題や家庭の事情で辞めるってことはあるでしょうけど、辛いから辞めるっていうのは、僕にはまったく理解できない。逆にそんなに早く見切りがつけられてすごいなと思います。半年で辞めちゃうとかって、半年じゃ僕はなんにもわからなかったですからね。ひとつの番組が終わって、次の番組をやりながら、ようやく前の番組でやっていたことや怒られた理由、どうすべきだったのかってことなんかもなんとなくわかってきて・・・・・・ってことがずっと続いてきた感じですから。
ドラマ制作がやりたくてオフィスクレッシェンドに入ったんですが、最初に配属されたのは「クイズ!!赤恥青恥」(テレビ東京)でした。約3年間担当させてもらい、最終的にはチーフADまでやらせてもらいました。編集にもずっとつかせてもらったし、僕はここで番組づくりの基礎を学びました。
そのあと「演技者。(のちの「劇団演技者。」)」(フジテレビ)の現場に入れることになりました。ついに念願のドラマがやれると思ったんですが、僕が担当したのは、本編ではなく特別編でした。「演技者。」は基本的に全4話で、最後にメイキングと本編のダイジェストで構成された特別編というのがあるんですけど、そのディレクターを任されたんです。本編制作にかかわったわけではないけど、ドラマ制作の現場でメイキングのためにカメラを回して取材をしながら、ドラマのつくり方を見ることができました。

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■ まさにチャンスをつかみにいこうと狙っている最中です

2010年に放送されたドラマ「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」(TBS)で、初めて堤(幸彦)さんと仕事としてしっかりやらせていただきました。急遽途中から「SPEC」の予告編を僕がつくることになり、それでできたものを堤さんにチェックしてもらうといった感じで関係が始まりました。メイキングとは違って予告編というのは本編の最後につくものだし、僕はこれまで堤組でやってきたわけでもなかったので、最初は緊張しました。
「SPEC」では、堤さんがニューヨークで発見して好きになったというインディーズバンドTHE RICECOOKERSの音楽が主題歌に使われていて、同じ曲だけど1話1話アレンジを変えていたりして、「SPEC」は映像と音楽の融合で独特の世界観を出している作品だと思いました。だから予告編も、内容を見せることと同じくらい、いかに音楽に映像のテンポを乗せるかということを意識してつくりました。
僕としては、堤さんと仕事をさせてもらえることでチャンスを狙っているわけです。だからなんとかして認めてもらえるものをつくりたかった。出来上がった予告編を堤さんに見せたら、「いいじゃん」って言ってくれました。修正はありましたけどね。やっぱりそれは自信になりました。そしたら次に、映画「はやぶさ/HAYABUSA」をやらないかと会社から言われ、僕は映画をやったことがなかったので、またまたびっくりでしたけど、うれしかったです。
やっぱり堤さんの存在は大きいです。同じ会社にいながら堤さんとの出会いは遅いほうでしたけど、今回実際に「はやぶさ/HAYABUSA」」で一緒にやらせていただいて、改めて堤さんのすごさを実感しています。撮影現場での周りに対する洞察力だったり、その場のその場で最善の策で対応する、その速さがすごいんです。猛烈なテンポで膨大なカット数を撮影し、そのすべてに堤さんのこだわりが入っている。その臨機応変に対応しながらもブレない姿というのは勉強になります。絶対に堤さんにしか出せない世界ってあるし、そこはさすがですよね。でもそれに染まってはいけないとも思うんです。だってそれはあくまでも堤さんの世界ですから。堤さんはすごい人だけど、いつまでも下にいちゃいけないと思うし、僕としては堤さんとの仕事を活かして、次の自分につなげるんだという気持ちで臨んでいます。
いつかドラマや映画を撮れるような演出家になりたいですね。というか、撮りますよ。32歳で遅いよって言われるかもしれませんが、これからは自分で企画を積極的に出して、どんどん挑戦していかないと本当にダメだと思っています。次もドラマの番宣の話をもらっているんですが、メイキングや番宣はもういいかなと思った時期もあったんです。だけど凄腕の演出家ぞろいのオフィスクレッシェンドの中で、彼らを押しのけてチャンスをつかむためには、どんなことでも受けて立っていかないと。そろそろ本気でチャンスをつかまないといけない、いままさにつかみにいこうと狙っている最中です。

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「はやぶさ/HAYABUSA」
© 2011『はやぶさ/HAYABUSA』フィルムパートナーズ
2011年10月1日(土)より全国ロードショー

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